

所得控除をしっかり申告しても、国民健康保険料は1円も下がらないケースがあります。
国民健康保険料の「所得割」を計算する際、多くの自治体が「旧ただし書き所得」という基準を使っています。これは、総所得金額から基礎控除(43万円)だけを差し引いた金額のことです。
ポイントはここです。つまり、医療費控除や扶養控除などの所得控除は、この計算には一切反映されないのが原則です。
たとえば給与所得が300万円の人の場合、給与所得控除後の金額から基礎控除の43万円を引いた額が所得割の計算ベースになります。どれだけ医療費をたくさん払っていても、扶養家族が何人いても、旧ただし書き所得の計算では関係ありません。
「所得控除を増やせば保険料が下がる」と思っていた方には、意外な事実ですね。
では、所得控除はまったく意味がないのでしょうか?答えはNOです。所得控除が効くのは、住民税の「課税所得」を下げるルートを通じて、間接的に軽減判定に影響を与える場合に限られます。たとえば、均等割や平等割の「7割軽減・5割軽減・2割軽減」の判定では、所得基準に軽減判定所得という別の計算式が使われ、ここには扶養控除相当額が加算されます。
まず「計算の土台となる所得の定義」を押さえることが大切です。
国民健康保険料は大きく「医療分」「後期高齢者支援金分」「介護分(40〜64歳)」の3つに分かれ、それぞれに所得割・均等割・平等割(資産割を加える自治体もある)が設定されています。
計算の仕組みが基本です。主な内訳は以下のとおりです。
所得割の料率は自治体によって大きく異なります。たとえば東京都世田谷区では医療分の所得割率が約7.47%(2024年度)、大阪市では約8.35%と差があります。
これは使えそうです。
同じ所得でも居住する自治体によって年間数万円単位の差が生じることがあります。引っ越しや移住を検討する際には、保険料の差も比較材料の一つになり得ます。
所得割を下げるには旧ただし書き所得を下げることが条件です。そのためには「所得そのものを合法的に下げる」か、「基礎控除の適用を正確に受ける」かのいずれかが現実的な手段になります。
世田谷区:国民健康保険料の計算方法(自治体の計算例として参考)
多くの人が混同しがちなポイントです。国民健康保険料の計算で「使える控除」と「使えない控除」は明確に分かれています。
✅ 保険料計算に反映される控除(旧ただし書き所得の計算に影響するもの)
❌ 保険料計算に反映されない控除(旧ただし書き所得には関係しないもの)
厳しいところですね。
ただし、iDeCo(個人型確定拠出年金)については注意が必要です。iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得税・住民税の控除対象になりますが、国民健康保険料の旧ただし書き所得の計算では差し引かれません。「iDeCoに加入すれば保険料も下がる」と思っていた方は要注意です。
ただし自治体によっては独自の計算ルールを持つ場合があるため、居住地の市区町村窓口や公式サイトで確認することが原則です。
国税庁:所得控除の種類と計算方法(税務上の控除の定義確認に)
「所得控除は国民健康保険料に関係ない」と言いきれない理由がここにあります。均等割・平等割には「軽減制度」があり、この判定には「軽減判定所得」という特別な計算式が使われます。
軽減の仕組みを整理しましょう。
ここで重要なのは、軽減判定所得の計算では扶養控除相当額は加算されない一方で、65歳以上の年金受給者には最大15万円の公的年金等控除相当額が除かれる仕組みがあることです。
また、専従者給与を受け取っている事業専従者がいる世帯では、軽減判定の際に事業専従者控除・青色専従者給与が加算される場合もあります。これが意外な接点です。
低所得世帯にとっては軽減制度こそが最も大きな節約効果をもたらします。年収100万円以下の単身世帯であれば7割軽減が適用され、均等割の約70%が自動的に減額されます。申請不要で市区町村が判定してくれますが、所得申告をしていないと判定できないため、収入がゼロの年でも必ず住民税の申告(または確定申告)を行うことが必要です。
申告が条件です。
厚生労働省:国民健康保険の保険料・税の軽減措置について(PDF)
確定申告や住民税申告が国民健康保険料に反映されるのは翌年度の6月以降です。たとえば2024年(令和6年)の所得に基づく保険料は、2025年6月に送付される「国民健康保険料(税)決定通知書」に反映されます。
反映のタイミングが基本です。
申告の流れを整理すると次のようになります。
申告の期限を過ぎてしまった場合でも、期限後申告や修正申告をすることで保険料の再計算を求めることが可能です。ただし、年度をまたいだ修正は市区町村との連携が必要になるため、早めの対応が重要です。
会社員から独立した人がよく陥るミスがあります。前年に給与収入のみだった場合、年末調整で所得税の申告は完結しますが、住民税の申告は別途必要な場合があるのです。特に副業収入が20万円以下で確定申告不要のケースでも、住民税の申告は必要なため、国民健康保険料の計算にズレが生じることがあります。
これは痛いですね。
保険料の過払いを防ぐためには、毎年の申告状況を確認する習慣が大切です。e-Taxを使えば申告状況の確認や修正申告がスマートフォンからでも行えるため、一度登録しておくと便利です。
国税庁:e-Tax(電子申告・申請・納税システム)公式サイト
フリーランスや自営業者にとって、国民健康保険料は年収の増加とともに急激に跳ね上がるコストです。自治体の上限額(2024年度:医療分65万円+後期支援金分24万円+介護分17万円=合計106万円)に達するまで、所得が増えるほど保険料も増え続けます。
合法的に所得を下げる手段が条件です。具体的な方法を確認しましょう。
① 青色申告特別控除(最大65万円)の活用
青色申告者は、正規の簿記(複式簿記)で帳簿をつけ、e-Taxで申告することで65万円の特別控除を受けられます。この控除は旧ただし書き所得の計算にも反映されるため、所得割を直接下げる効果があります。白色申告との差額は最大65万円。所得割率が7%の自治体であれば、それだけで年間約4万5,000円の保険料削減につながります。
② 必要経費の適正計上
フリーランスの場合、業務に関連する交通費・通信費・書籍代・PC購入費などは経費として計上できます。経費が増えれば事業所得が下がり、旧ただし書き所得も減少します。ただし「按分(あんぶん)」が必要なものは実態に合った割合で計上することが原則です。
③ 小規模企業共済への加入
小規模企業共済の掛金(月最大7万円、年間最大84万円)は所得控除の対象ですが、前述のとおり国民健康保険料の旧ただし書き所得には影響しません。ただし、所得税・住民税の節税と老後の積み立てという別のメリットがあるため、総合的な資産形成の手段として検討する価値があります。
④ 任意継続保険との比較
会社を退職した直後は、前職の健康保険に2年間加入できる「任意継続」という選択肢があります。国民健康保険料が高くなる見込みの人は、退職後すぐに両者を試算して比較することをおすすめします。年収500万円前後の単身者では、任意継続の方が年間10〜20万円安くなるケースもあります。
結論は所得の最適化が最大の節約です。
帳簿の管理には「freee」「マネーフォワードクラウド確定申告」などのクラウド会計ソフトが広く使われています。青色申告特別控除の65万円を確実に受けるための複式簿記にも対応しており、初めての方でも入力ガイドに沿って進めやすい設計になっています。
freee:フリーランス・個人事業主向けクラウド会計ソフト(青色申告対応)
国民健康保険料の計算と所得控除の関係は、一見シンプルに見えて複雑な仕組みが絡み合っています。「旧ただし書き所得」を下げる手段を正確に把握し、毎年の申告を丁寧に行うことが、長期的な保険料の節約につながります。自治体の窓口や税理士への相談も積極的に活用してみてください。