

届出を出す前に、知っておいてほしいことがあります。
配偶者に月8万円払っても、届出1枚の提出が1日遅れると年間96万円が経費ゼロになります。
個人事業主が配偶者や家族に支払う給与は、原則として必要経費に算入できません。これは所得税法第56条に定められたルールで、家族への対価を経費にすると際限なく節税できてしまうことを防ぐためです。
ただし、青色申告をしている個人事業主には特別な例外が認められています。それが「青色事業専従者給与」の制度です(所得税法第57条)。
青色申告者であれば、一定の要件を満たす家族従業員に支払った給与を全額必要経費として計上できます。これは家計にとって非常に大きな節税手段になります。たとえば配偶者に月10万円(年間120万円)を支払った場合、その分だけ事業所得が減り、所得税と住民税の両方が軽減されます。
この制度を使うための前提条件が、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出です。届出がないと、実際に給与を支払っていても経費として認められません。
青色専従者として認められるには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
届出が必須条件です。どれだけ家族が毎日働いていても、届出書の提出がなければ経費算入はゼロです。これが原則です。
税務署は届出の有無を確認してから経費算入の可否を判断します。実態だけでは救済されないのが、この制度の厳しい点になります。
国税庁タックスアンサー No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除(要件・手続きの公式解説)
届出の期限は、状況によって3通りに分かれています。この違いを把握していないと、うっかり期限を逃してしまうリスクがあります。
【パターン①】すでに事業を営んでいる場合(原則)
青色事業専従者給与を経費に算入しようとする年の3月15日までに提出する必要があります。たとえば2026年分の確定申告で専従者給与を経費にしたい場合、2026年3月16日(月曜のため翌平日)が提出期限です。提出期限が土・日・祝日に当たるときは翌平日が期限になります。
【パターン②】その年の1月16日以降に新規開業した場合
開業した日から2か月以内が提出期限です。たとえば3月1日に開業した場合は、4月30日までに提出する必要があります。「3月15日」というルールは適用されません。
【パターン③】年の途中で新たに専従者が加わった場合
専従者として働き始めた日から2か月以内が提出期限です。5月15日から配偶者が事業を手伝い始めたなら、7月15日までに届け出ることが必要になります。
3パターンがある、ということですね。
なお、一度提出した届出書は、内容に変更がなければ毎年出し直す必要はありません。これは知っておいて損のない情報です。ただし次のような変更があった場合は、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく提出する義務があります。
変更届の提出を怠ったまま届出額を超えた給与を支払うと、超過分は経費として認められなくなります。注意が必要です。
国税庁 A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続き(提出期限・提出方法の公式ページ)
届出書の書式は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。また、e-Taxでも作成・提出が可能です。記入する主な項目は以下の通りです。
| 記載項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 専従者の氏名・続柄・年齢 | 「妻」「長男」など具体的な続柄を記入。年齢は12月31日時点 |
| 仕事の内容・従事の程度 | 「経理・請求書作成・顧客管理。平日10時〜18時勤務」のように具体的に |
| 給料(月額・支給期) | 支給予定の上限金額と「毎月20日ごろ」などの支給日を明記 |
| 賞与(支給期・金額) | 賞与がない場合は空欄で構わない。ある場合は支給月と金額の上限を記載 |
| 昇給の基準 | 「毎年おおむね〇%」「使用人の昇給基準と同じ」など |
| 資格等 | 関連資格があれば記入。なければ「特になし」で問題ない |
注意点が1つあります。届出書に記載した給与額は「上限」として機能します。実際の支払いが届出額より少ない分には問題ありません。しかし、届出額を超える給与を支払いたくなった場合は、必ず事前に変更届を提出しなければなりません。払ってから後で変更届を出しても、超過部分は経費として認められません。
提出方法は3通りあります。
e-Taxが便利ですね。
初めての方は税務署窓口への持参がおすすめです。その場で記載内容の確認もしてもらえますし、受付印入りの控えを手元に保管しておくことで、後から「届出していたかどうか」のトラブルを防げます。
国税庁 A1-12 青色事業専従者給与に関する変更届出手続き(変更届の提出方法)
届出の期限を過ぎてしまった場合、その年の専従者給与は一切経費になりません。これはどれほどの損失になるのでしょうか?
具体的な数字で見てみましょう。配偶者に月8万円(年間96万円)を支払ったとして、事業主の所得税率が20%・住民税率が10%の合計30%の場合を想定します。
96万円 × 30% = 約28.8万円の税負担が増える
つまり、届出1枚を期限内に出し忘れるだけで、約28万円もの余計な税金を払うことになります。さらに、青色申告者は白色申告者向けの「事業専従者控除」(配偶者最大86万円、その他親族最大50万円)も適用できません。届出さえしていれば使えた節税の機会が、完全に消えてしまうわけです。
痛いですね。
さらに見落とされがちなのが、扶養控除との関係です。青色専従者として登録した時点で、その家族は配偶者控除(最大38万円)や扶養控除の対象から外れます。専従者給与が少額(年間38万円以下)の場合は、専従者にするより扶養のままでいた方が税金が少なくなるケースもあります。
判断の目安を整理します。
給与額の設定は節税シミュレーションが重要です。弥生の「青色申告 オンライン」やfreeeの「青色申告」などのクラウド会計ソフトには、専従者給与額のシミュレーション機能があるものもあります。設定前に一度試算しておくと安心です。
freee 青色申告だと扶養控除が受けられないことも!青色事業専従者給与との関係解説(扶養と専従者給与の比較)
ここでは、検索上位の記事ではあまり詳しく触れられていない、実務上でつまずきやすいポイントを取り上げます。
【チェック①】給与を増額したいとき、変更届は「払う前」に出す
届出書に記載した金額が上限になるため、実際に増額した給与を支払う前に変更届を提出する必要があります。「遅滞なく」という法的な表現は曖昧ですが、実務上は「増額した給与を支払う日よりも前」を目安にします。支払い後に変更届を出しても超過分は経費と認められません。これが原則です。
【チェック②】専従者がアルバイトや副業をしている場合は要注意
青色専従者の要件は「その事業に専ら従事すること」です。別の会社に勤務していたり、他の事業を営んでいる場合は、原則として専従者の要件を満たしません。ただし、従事できる期間のうち2分の1を超えてその事業に従事していれば認められる「みなし専従」の規定もあります。副業の比率が高い場合は税務署や税理士に確認することを検討しましょう。
【チェック③】専従者をやめるときも届出が必要
専従者が退職したり他の仕事に就いた場合は、「取りやめ」の手続きが必要です。専用の書式はなく、元の届出書に給与額を0円と記載して再提出するか、自由書式で「専従者を外す旨」を記した書面を税務署に提出します。この手続きを怠ると、実態のない専従者給与が帳簿に残り、税務調査での指摘を受けるリスクがあります。
【チェック④】「毎年届出が必要」という誤解について
これは意外と多い誤解です。青色事業専従者給与の届出書は、一度提出すれば原則として毎年出し直す必要はありません。変更がなければ翌年以降もそのまま継続して適用されます。つまり、初年度に正確な内容で提出し、変更があった都度変更届を出すというのが正しい管理方法です。
【チェック⑤】税務調査で否認されるリスクを下げる「労務の記録」
届出書を適切に提出しても、実際の労務実態が確認できなければ否認されることがあります。税務調査では「本当にその家族が事業に従事していたか」が問われます。勤務日報・業務記録・やり取りのメール・作業の写真など、客観的な証拠を日常的に残しておくことが非常に重要です。記録がないと、否認された場合に修正申告が必要になり、追徴課税が発生するリスクがあります。
税務調査は毎年行われるわけではありませんが、事業規模が大きくなるほどリスクは高まります。記録管理を日常的に行う習慣が条件です。
小谷野税理士法人 青色専従者の届出とは?必要書類・提出期限・注意点を解説(届出の全体像と注意点の解説)