

節税を頑張るほど、税務調査のリスクが上がって追徴課税が平均430万円になることがある。
「節税スキーム」という言葉は少し難しく聞こえますが、中身はシンプルです。法律で認められた控除・非課税制度・経費を組み合わせて、合法的に納税額を減らす仕組みのことを指します。脱税や租税回避とは明確に異なり、税法の範囲内で動くことが前提です。
個人事業主の所得税は「超過累進税率」で計算されます。課税所得が増えるほど税率が上がる仕組みで、最低5%から最高45%まで段階的に課税されます。つまり、課税所得を1円でも減らすほど節税効果が出る構造です。
計算式は以下のイメージです。
| 計算ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① | 収入 - 必要経費 = 所得 |
| ② | 所得 - 各種控除 = 課税所得 |
| ③ | 課税所得 × 税率 - 控除額 = 所得税額 |
節税スキームが狙う場所は、主に「①の経費を増やす」か「②の控除を増やす」かのどちらかです。この2点を最大化することが、節税戦略の出発点になります。
課税所得が330万円を超えると税率は20%になります。たとえば所得控除を100万円増やせば、それだけで20万円の節税になる計算です。これが数字で見た節税の手ごたえです。
具体的な節税余地を知ることが条件です。
個人事業主に固有の制度として「青色申告特別控除(最大65万円)」「小規模企業共済(最大年84万円の所得控除)」「iDeCo(最大年81.6万円の所得控除)」があります。この3つだけを合わせると230万円超の控除余地になります。所得税率20%で計算すれば46万円、税率23%なら53万円の節税効果になる計算です。節税スキームは制度をどれだけ組み合わせられるかが鍵になります。
なお、個人事業主が納める税金は所得税だけではありません。住民税・個人事業税・消費税・復興特別所得税の合計5種類が対象になります。所得税の節税は住民税にも波及するので、1つの控除が複数の税金を同時に下げる効果があります。
経費を増やすことが節税の第一歩です。しかし「経費に何でも入れればいい」というわけではありません。国税庁の基準では、「事業遂行のために直接必要な費用」だけが必要経費として認められます。
個人事業主がよく使う経費の代表例をまとめると以下のとおりです。
家事按分は特に使い勝手がよい一方、注意が必要な部分でもあります。按分割合の根拠は「面積・使用時間・コンセントの数」など合理的な説明ができるものであれば自分で設定できますが、実態と乖離した割合の設定は税務調査で否認される原因になります。
たとえば在宅ワークの個人事業主が「自宅の90%を業務で使っている」として家賃の大半を経費にすると、それは生活実態と合わない按分として調査対象になりやすいのです。過大按分はアウトです。
少額減価償却資産の特例は便利な制度ですが、白色申告者は利用できません。青色申告をしていることが前提条件になる点は見落としがちです。この特例を使いたい場合は、まず青色申告への切り替えが先決です。
なお、「必要経費と判断されるかどうか」が曖昧な支出は、領収書を保管しておくだけでなく、業務との関連性を説明できるメモを残しておくことが有効です。税務調査で説明を求められた際に根拠を示せることが、経費認定の可否に直結します。
経費の次に大きな節税余地が「各種控除」の活用です。個人事業主が使える控除の中でも、特に節税インパクトが大きいものを3つ取り上げます。これは使えそうです。
① 青色申告特別控除(最大65万円)
青色申告をe-Taxで電子申告、または優良な電子帳簿を保存すると、最大65万円の特別控除が受けられます。所得税率20%なら13万円、税率23%なら14.9万円の節税効果です。青色申告は節税スキームの最初の一歩と言えます。
青色申告には他にも強力な節税メリットがあります。たとえば、赤字を翌年以降3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」、生計を一にする家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」、少額減価償却資産の特例の適用もあります。複式簿記の帳簿付けが要件ですが、会計ソフト(freeeやマネーフォワード、弥生など)を使えば、簿記の知識がなくても対応できます。
② iDeCo(個人型確定拠出年金)(最大年81.6万円の所得控除)
個人事業主のiDeCoの掛金上限は月額68,000円で、年間最大816,000円が全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります。所得税率20%なら約16.3万円、税率23%なら約18.8万円の節税になる計算です。運用益も非課税というのも大きなメリットです。
ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せません。手元の資金繰りを考えた上で掛金を設定することが大切です。老後の資産形成と節税を同時に実現できる制度です。
③ 小規模企業共済(最大年84万円の所得控除)
月額1,000〜70,000円の範囲で設定でき、年間最大84万円の掛金が全額所得控除になります。将来の廃業・引退時に退職金として受け取れる仕組みで、受取時も退職所得扱いになるため税制優遇が続きます。
なお小規模企業共済は、会社員と個人事業主を兼業している場合は加入できません。また、加入期間が20年未満だと元本割れするリスクがある点にも注意が必要です。節税効果が大きい分、長期視点での加入判断が必要です。
3つを合わせて最大限活用した場合の節税シミュレーションは次のとおりです。
| 制度 | 最大控除額 | 節税額(税率20%) |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 65万円 | 約13万円 |
| iDeCo | 81.6万円 | 約16.3万円 |
| 小規模企業共済 | 84万円 | 約16.8万円 |
| 合計 | 230.6万円 | 約46万円 |
これら3つだけで年間約46万円の節税余地があります。知っているか知らないかの差が大きいですね。
節税スキームを活用することは合法ですが、「節税のつもりが脱税になっていた」というケースが実際に起こっています。追徴課税はリアルなリスクです。
国税庁のデータによると、個人事業主が税務調査を受けた場合の1件あたりの追徴課税平均額は約430万円前後とされています。これは本来の税額に加えて「加算税(10〜35%)」と「延滞税(年2.4〜8.7%)」が上乗せされる可能性があるためです。
税務調査で指摘されやすい代表的なポイントを確認しておきましょう。
税務署はAIやビッグデータを活用して申告内容の異常を検知するようになっています。たとえば「売上が急増したのに経費率が突然上がった」「同業他社と比較して利益率が著しく低い」といった申告は、自動的にフラグが立つ仕組みです。
税務調査は「142人に1人」の確率とされていますが(国税庁データ)、一度調査が入ると原則3年分、悪質と判断されると7年分まで遡って調査されます。追徴課税+加算税+延滞税のセットが来るのが痛いですね。
節税の「合理的な根拠を常に記録に残しておくこと」が、調査リスクを最小化する実践的な対策になります。家事按分なら按分割合の計算根拠、経費なら業務との関連性のメモを残しておく習慣が重要です。税務調査への備えとして、税理士への相談も有効な手段の一つです。
個人事業主として事業を続けるうちに所得が増えてきたとき、次のステージとして「法人成り」や「マイクロ法人スキーム」が視野に入ってきます。これは金融に詳しい人ほど知っている、上位の節税戦略です。
法人成りの目安:課税所得800万円超から
個人事業主の所得税の最高税率は45%ですが、法人税の実効税率は中小企業向けで23.2%が上限です。課税所得が800万円を超えたあたりから、法人化による税負担の差が大きくなってきます。
法人成りすると「役員報酬として給与所得控除を使える」「退職金を経費にできる」「欠損金を10年繰り越せる」などの追加メリットも生まれます。
ただし法人化にはコストも伴います。均等割(最低7万円)・税理士費用・社会保険の事業主負担増などを差し引いた「ネット節税額」で判断することが重要です。
マイクロ法人スキームとは
個人事業を続けながら別途マイクロ法人を設立し、法人から低額の役員報酬(月4.5万円程度)を受け取ることで、社会保険料の等級を最低ランクに抑える手法です。個人事業主が支払う国民健康保険料は所得に比例して増え続けますが、会社の社会保険に切り替えると報酬額に応じた固定額になるため、大幅な削減ができます。
ただし、マイクロ法人スキームにはリスクも存在します。法人の実態がなければ「節税目的のみの設立」として否認される可能性があります。また、個人事業とマイクロ法人の事業内容は必ず別にする必要があります。同一事業の分割とみなされると問題になります。法人維持コスト(均等割・税理士費用など)を差し引いた実質効果を冷静に計算することが先決です。
マイクロ法人スキームを実行する前に、税理士への相談が必須の選択肢です。