租税回避の国を利用した節税と法的リスクの全知識

租税回避の国を利用した節税と法的リスクの全知識

租税回避の国を使った節税の仕組みと日本の税制リスク

タックスヘイブンに法人を作れば税金はほぼゼロになると思っていたら、日本で数十億円の追徴課税を受けることがある。


この記事の3つのポイント
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租税回避地(タックスヘイブン)とは?

法人税・所得税がゼロまたは極端に低い国・地域。ケイマン諸島・シンガポール・ラブアン島などが代表例で、合法的な節税から脱税リスクまで幅広い実態がある。

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日本のCFC税制(外国子会社合算税制)の罠

税率20%未満の国に子会社を置いても、経済活動基準を満たさなければ日本で課税される。サンリオは香港・台湾子会社の所得約42億円が合算対象となり、約13億円の追徴課税を受けた。

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グローバルミニマム課税で「逃げ場」が縮まっている

140以上の国・地域が合意した最低税率15%ルールが2024年4月から適用開始。年収7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業は、どの国に子会社を置いても最低15%の税負担が確定する。


租税回避の国(タックスヘイブン)の基本的な仕組みと代表的な国一覧


タックスヘイブン(租税回避地)とは、法人税・所得税などの税率が著しく低い、または完全に免除されている国・地域のことです。日本語では「租税回避地」や「低課税地域」とも呼ばれます。単に税率が低いだけでなく、秘匿性の高さや、現地に拠点を置かずとも税制優遇を受けられる点も、多くの企業や富裕層が利用する理由です。


代表的な租税回避地を地域別に見ると、カリブ海エリアではケイマン諸島・バミューダ・英領バージン諸島が有名で、いずれも法人税率は0%です。アジアではシンガポール・香港・マレーシア領ラブアン島が代表格で、特にシンガポールと香港は法人税率が17%以下と低水準に設定されています。


タックスヘイブン国は、面積が小さい島国や地域が多いのも特徴です。農業や製造業を発展させにくい分、海外企業を低税率で誘致し、経済を成り立たせるという戦略を取っています。


つまり、タックスヘイブンは「意図的に設計された誘致政策」ということです。


金融や投資ビジネスに特化したビジネス環境が整備されており、ファンドの設立・運用、保険、国際取引の決済など、物理的な場所を必要としない事業ほど活用しやすい環境になっています。


| 地域 | 代表的な国・地域 | 法人税率の目安 |
|------|-----------------|--------------|
| カリブ海 | ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島 | 0% |
| アジア | シンガポール、香港、ラブアン島 | 0〜17% |
| ヨーロッパ | ルクセンブルク、モナコ、マン島 | 0〜17% |
| 中東 | ドバイ、バーレーン | 0〜9% |
| オセアニア | クック諸島、西サモア | 0% |


注目すべきは、2019年のTJN(タックス・ジャスティス・ネットワーク)調査で、租税回避地ランキング上位3位を英国領が独占した点です。バージン諸島・バミューダ・ケイマン諸島と、いずれも英国領であることは多くの人が見落としているポイントです。


参考:タックスヘイブンの国・地域一覧と基本的な税率の仕組みについての解説(AGSグループ)
タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは?仕組みや問題点、OECDによる規制 | AGSグループ


租税回避を目的とした国への法人設立と4つの節税スキーム

タックスヘイブンを活用した節税スキームは大きく4種類に整理できます。それぞれのリスクレベルが大きく異なるため、正確に把握しておくことが重要です。


①現地移住+現地での事業は、最もリスクが低い方法です。タックスヘイブンに会社を設立し、実際にその国に移住して事業を行う場合、現地の税制がそのまま適用されます。実体のある会社として認められれば、法人税が0〜3%に抑えられる可能性があります。ただし、生活ごと移すことになるため、ハードルが高いのも事実です。


ペーパーカンパニーの設立は、最もリスクが高いスキームです。日本に本社を置きながら、タックスヘイブンに実体のない子会社を設立して利益を移す手法ですが、日本の「外国子会社合算税制(CFC税制)」によって、現在はほぼ対策が封じられています。


③タックスヘイブン経由の贈与は、会社を経由することで贈与税を所得税に切り替えて節税する手法ですが、税務調査で否認されるリスクが高く、専門家なしで実施するのは危険です。


④タックスヘイブンへの移住(個人)は、相続税の節税として有効ですが、被相続人・相続人ともに10年以上海外に居住する必要があるという厳しい条件があります。これが知られていない落とし穴です。


2017年の税制改正以前は「5年ルール」でしたが、現在は「10年ルール」へと厳格化されています。


海外移住したばかりの5年以内に相続が発生した場合、日本の相続税が全額課税されます。これは痛いですね。


節税スキームを選ぶ際の判断基準は「現地に実体があるか」に尽きます。実体のない会社を使った節税は、制度改正で対策済みであることを前提として考えてください。


参考:タックスヘイブンを使った節税の合法・違法の境界線について
タックスヘイブンは違法?メリットや仕組み・注意点についてわかりやすく解説 | BIZARQ


租税回避の国に子会社を持つ日本企業が直面するCFC税制(外国子会社合算税制)のリスク

CFC税制(外国子会社合算税制)とは、日本の居住者や法人が株式の50%超を保有する海外子会社について、一定条件を満たす場合にその所得を日本の親会社に合算して課税する制度です。いわゆる「タックスヘイブン対策税制」として知られています。


このCFC税制が適用されるかどうかは、海外子会社の租税負担割合が20%未満かどうかを起点に判定します。もし20%を下回る場合、さらに「経済活動基準」を満たすかどうかが問われます。


経済活動基準は以下の4つです。


- 🏢 事業基準:主な事業が株式保有・無形資産の提供・船舶リースではないこと
- 🏭 実体基準:本店所在地国に事務所・工場などの固定施設を実際に保有していること
- 👔 管理支配基準:現地で自ら事業の管理・支配・運営を行っていること
- 🌐 所在地国基準(または非関連者基準):主に現地で事業活動を行っていること


この4基準のうち1つでも満たせなければ、子会社の全所得が日本の親会社に合算されます。4基準を満たしても、配当・利子・有価証券の譲渡益などの「受動的所得(特定所得)」が2,000万円を超え、かつ全所得の5%超であれば、その部分だけは合算対象となります。


経済活動基準が条件ということですね。


実際にこの制度で問題になった代表的な事例として、サンリオがあります。東京国税局は2022年、サンリオが香港・台湾子会社の所得約42億円を申告しなかったとして、約13億円の追徴課税処分を下しました。サンリオは処分を不服として法的手続きを進めましたが、この事例は「海外子会社の実態確認を怠ると想定外の課税が来る」ことを示す典型例として業界に衝撃を与えました。


また、租税回避の意図がなくても、M&A(企業買収)で取得した海外子会社が知らずにCFC税制の対象になっていたというケースも実際に起きています。これは意外ですね。


参考:CFC税制の詳細な適用判定フローと実務上の注意点
タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の仕組みと適用判定 | AGSグループ


租税回避地を使っても課税される移転価格税制と二重課税リスク

CFC税制と並んで重要なのが「移転価格税制」です。多国籍企業が関連会社間の取引価格を意図的に操作することで、税率の低い国に利益を集中させる行為を防止する制度です。


移転価格税制では、親子会社間・グループ会社間の取引価格が「独立した第三者との取引価格(独立企業間価格)」と乖離していると判断された場合、税務当局が所得を修正して課税します。


移転価格に関する税務調査で一度指摘を受けると、追徴税額が数億円〜数十億円規模に達することも珍しくありません。また、移転価格課税の更正期間は通常の3年ではなく6年と長く、過去に遡って大きな追徴税額が積み上がるリスクがあります。


具体的な事例を見ると、その規模がわかります。


- 💸 武田薬品工業:移転価格税制で約570億円の追徴税額
- 💸 日本コカ・コーラ:移転価格問題で約150億円の追徴課税
- 💸 日本碍子:ポーランド子会社との取引で約85億円の追徴


これらは氷山の一角です。結論は「移転価格の文書化と価格設定の合理性確保」が必須ということです。


さらに、移転価格課税には「二重課税」というリスクも伴います。日本側が「A国への支払いは過大」と否認した一方で、A国が同じ取引を正当と判断している場合、同じ所得に両国で税金が課されます。


この問題に対しては租税条約を活用した「相互協議」という手続きで解決を求めることができますが、解決まで数年かかるケースも多いため、事前に「APA(事前確認制度)」を国税当局に申し出て移転価格の算定方法を確認しておくことが、リスク軽減の実践的な対策です。


参考:移転価格税制の最新動向と日本企業への影響
日本における移転価格課税の動向と最近の事例 | ITPS国際税務パートナーズ


租税回避地の「逃げ場」が消える!グローバルミニマム課税の全貌と日本企業への影響

2024年4月から日本でも本格適用が始まった「グローバルミニマム課税(Pillar2)」は、タックスヘイブンを使った租税回避の構造そのものを変えつつある制度です。OECDが主導するBEPSプロジェクト(税源浸食・利益移転防止プロジェクト)の一環として、140以上の国・地域が合意しています。


グローバルミニマム課税の基本ルールは、「年間連結売上高7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業グループに対して、各国ごとに最低15%の実効税率を確保する」というものです。東京ドーム約900個分の資産規模を持つような大企業グループが対象になります。


実際の仕組みはこうです。例えば、ある日本の多国籍企業がケイマン諸島(法人税0%)に子会社を置いて利益を計上した場合、15%との差額=15%分が日本の親会社に対して「上乗せ課税(トップアップ税)」として課されます。これが「どこへ行っても最低15%」の意味です。


注意が必要なのは、「財務諸表上の実効税率が15%以上でも、グローバルミニマム課税を回避できない場合がある」という点です。国ごと・事業ユニットごとに計算される実効税率が基準となるため、全体平均が15%を超えていても特定の国での計算で引っかかることがあります。


グローバルミニマム課税が条件ということですね。


ただし、有形資産(建物・機械設備など)の帳簿価額と支払給与の一定割合については課税対象から除外されます。実際に工場を持ち、従業員を雇っている拠点がある企業ほど、負担増が抑えられる設計です。これはいいことですね。


なお、2025年12月時点でEUはベトナムと英領タークス・カイコス諸島を新たにタックスヘイブンのブラックリストに追加しています。タックスヘイブンとして認定される国・地域は定期的に見直されているため、利用する際は最新の状況確認が必須です。


参考:財務省によるグローバルミニマム課税の制度解説(公式)
グローバル・ミニマム課税の法制化について | 財務省


参考:EYジャパンによる実務的な注意点の解説
なぜ財務諸表上の税率が15%でもグローバルミニマム課税を回避できないのか | EY Japan


【独自視点】租税回避地を活用する前に知っておくべきレピュテーションリスクと現実的な節税戦略

タックスヘイブンの活用を検討する際、税務的なリスク以上に見落とされがちなのが「レピュテーションリスク(評判リスク)」です。


2016年のパナマ文書リークでは、世界の富裕層・政治家・大企業の租税回避実態が一挙に公開され、日本でも数十億円規模の申告漏れが発覚した事例が報じられました。2021年のパンドラ文書でも同様の暴露が起き、世界的な批判を受けた企業・個人が続出しました。


法的に問題がなくても、社会的な批判にさらされると株価の下落・取引先からの離脱・採用への悪影響が生じます。これは大きなデメリットです。


また、パナマ文書が示したもう一つの教訓は、「秘匿性が高いはずのタックスヘイブンでも、情報は漏れる」という現実です。高い秘匿性を前提にした節税スキームは、情報漏えい時のリスクが突然顕在化します。


では現実的に何ができるか、という話になります。


税率が低い国に実体を持った事業を展開することが、もっとも持続可能な節税戦略です。例えば、シンガポールは法人税率17%ながらスタートアップ向けの免税制度や条約ネットワークが充実しており、IT企業や金融企業が拠点を構えるケースが増えています。香港も法人税率16.5%で、海外源泉所得が非課税というメリットが活かせる環境です。


さらに、移転価格の事前確認(APA)や国際税務に強い税理士へのアドバイザリー契約など、「事前に制度の枠内で行動する」ことが、追徴課税という想定外の損失を防ぐ最善策です。


🔎 国際税務の相談窓口として活用できる制度:


- APA(事前確認制度):国税庁に申し出ることで、移転価格の算定方法を事前に確認できる。無料で申請可能。


- 租税条約の相互協議:二重課税が発生した際に、両国の税務当局が協議して解決する仕組み。


- 専門税理士への相談:国際課税に精通した税理士によるタックスプランニングが、コンプライアンス上のリスクを大幅に下げる。


合法かどうかだけが基準では不十分です。「社会的に説明できるか」という視点を加えることが、長期的な資産保全につながります。


参考:パナマ文書問題を受けた国際的な租税回避規制の動きについて
EUの租税回避防止の取り組みについて | EU MAG




デジタル課税と租税回避の実務詳解