

株で大きく負けたのに、FXの利益と合算して税金を減らせると思い込んでいると、確定申告後に数十万円の追徴課税が来ます。
「合算」という言葉は、日常会話では単純に「複数の数字を足し合わせる」という意味で使われます。しかし金融・税務の世界では、この「合算」には非常に重要なルールと制限が伴います。
所得税の計算において「合算」とは、複数の所得区分で発生した利益と損失を一定のルールにもとづいて足し合わせ、課税対象となる所得金額を算出することを指します。複数の収入源を持つ投資家や副業をしている会社員にとって、「何と何を合算できるのか」を正確に理解しているかどうかが、毎年の税負担を大きく左右します。
所得税法の基本的な考え方では、給与所得や事業所得、不動産所得などを「総合課税」として合算し、累進税率で課税します。一方で、株式の譲渡所得やFXの利益などは「申告分離課税」として他の所得とは合算せず、独立して計算します。つまり、同じ「損益」でも、どの所得区分に属するかによって合算できるかどうかがまったく異なるのです。
合算が認められると、黒字の所得から赤字の所得を差し引くことができ、課税所得が圧縮されます。これを「損益通算」と呼びます。例えば、給与所得が500万円あり、副業の事業所得が100万円の赤字だった場合、損益通算によって課税所得は400万円になります。日本の所得税は累進課税(所得が多いほど税率が高くなる仕組み)を採用しているため、課税所得が400万円台に下がることで適用税率が変わり、実際の節税効果は想像以上に大きくなることがあります。
まず「合算=損益通算」が前提です。そして損益通算には厳格な範囲制限があることを、次の項目から具体的に確認していきましょう。
| 所得区分 | 課税方式 | 他の所得との合算 |
|---|---|---|
| 給与所得 | 総合課税 | ○(原則可能) |
| 事業所得 | 総合課税 | ○(損失の場合に合算可) |
| 不動産所得 | 総合課税 | ○(一部制限あり) |
| 上場株式の譲渡所得 | 申告分離課税 | △(株・投資信託間のみ) |
| 国内FX(先物取引に係る雑所得) | 申告分離課税 | △(先物取引等との間のみ) |
| 暗号資産(仮想通貨) | 総合課税(雑所得) | ×(他の雑所得との合算は限定的) |
| NISA口座の損益 | 非課税(損失も税務上ゼロ扱い) | ×(一切の通算不可) |
参考:所得税における合算・損益通算ルールの概要(国税庁)
No.2250 損益通算|国税庁
金融所得における「合算できるかどうか」の判断は、まず「その所得が総合課税か分離課税か」から始まります。この区分を誤ると、申告内容にミスが生じ、後から追加の税金が発生するリスクがあります。
総合課税は、給与所得・事業所得・不動産所得・雑所得(一部を除く)などを文字通り「合算」して課税する方式です。これらの所得をすべて足し合わせ、その合計金額に応じて所得税率が決まります。所得税率は最低5%から最高45%まで7段階の累進税率が適用されます。合計所得が大きくなるほど税率も上がる仕組みです。
申告分離課税は、特定の所得を他の所得と切り離して、独立した税率で課税する方式です。上場株式の譲渡所得や配当所得(申告分離を選択した場合)、国内FX取引の利益などが対象で、税率は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。この方式では、原則として他の総合課税の所得と合算することはできません。
つまり、高所得の会社員が国内FXで大きな利益を得ても、その利益は給与所得と合算されて税率が上がることはなく、一律20.315%が課税されます。これは所得が多い人にとってはむしろ有利に働くケースもあります。一方、合算できないということは、給与所得と損益通算もできないことを意味します。
分離課税が原則です。だからこそ「同じ区分の所得間でのみ通算できる」というルールが生じます。
例えば国内FXで50万円の損失が出ても、同年の給与所得500万円から差し引くことはできません。同じ「先物取引に係る雑所得等」に分類される商品先物取引やCFD(取引所)の利益とは合算できますが、株式の譲渡所得や暗号資産の損益とは合算不可です。この線引きを理解しておくことが、確定申告での正確な申告につながります。
参考:総合課税・申告分離課税の詳細(国税庁)
No.2240 申告分離課税制度|国税庁
金融商品に興味を持って複数の投資をしている人が最も陥りやすいのが、「この損失と利益を合算して相殺できる」という思い込みです。実際には、多くの組み合わせで合算が認められていません。
まず株式とFXの合算について説明します。株式の譲渡所得は「申告分離課税」の上場株式等の所得区分、一方で国内FX(くりっく365以外)は「先物取引に係る雑所得等」という別の申告分離課税の区分です。この2つは税制上のカテゴリが異なるため、損益を合算することはできません。
株とFXは合算できません。例えば、ある年に株式で100万円の損失が出て、FXで50万円の利益が出たとします。「合算すれば差し引き50万円の損失だから税金はゼロ」と考えがちですが、実際にはFXの利益50万円には20.315%=約10万円の税金が発生します。株の損失は株の利益(または株の配当所得)との合算にしか使えないのです。
次に暗号資産(仮想通貨)との合算について説明します。暗号資産の利益は総合課税の雑所得に分類されますが、国内FXは申告分離課税の雑所得です。「どちらも雑所得じゃないか」と思いがちですが、税制上は別の区分として扱われるため、これらを合算することはできません。暗号資産で100万円の損失が出て、国内FXで100万円の利益が出ていても、FXの利益には別途課税されます。
もう一つ重要なのがNISAロ座の取り扱いです。NISA口座は利益が非課税になる制度ですが、「非課税」という性質上、損失も税務上ゼロとして扱われます。つまり、NISA口座で50万円の損失が出ても、特定口座や一般口座の利益と合算(損益通算)することは一切できません。NISA口座では損失が節税の道具として使えないことを覚えておけばOKです。
意外ですね。しかしこれが現行の税制の仕組みです。確定申告前に自分の各口座・各商品の損益区分を把握しておくことが、申告ミスを防ぐ最初の一歩です。複数の証券会社に口座を持っている場合、年間取引報告書を各社から取り寄せ、所得区分ごとに整理することが欠かせません。
No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁
損益通算(合算)をしても損失が残った場合、「繰越控除」という制度を使うことで、翌年以降の利益と合算して節税できます。この制度を知っているかどうかで、数年間にわたって数十万円単位の差が出ることがあります。
繰越控除とは、損益通算後も控除しきれなかった損失を、翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益と合算できる制度です。上場株式等の譲渡損失や、国内FXの損失がこの対象になります。これは使えそうです。
具体的な例を挙げます。2024年に上場株式で200万円の損失が出て、同年に50万円の株式の利益があったとします。損益通算で200万円-50万円=150万円の損失が残ります。確定申告でこの150万円を申告しておくと、2025年・2026年・2027年のいずれかの年に株式の利益が出たとき、その150万円を差し引いた残りにだけ課税されます。利益が全部で150万円以内に収まれば税金はゼロになります。
ただし、繰越控除を使い続けるには一つ重要な条件があります。損失が発生した年だけでなく、その後も損失を繰り越す期間は毎年連続して確定申告を行わなければなりません。「取引のない年は確定申告しなくてもいい」と思って1年間申告をスキップすると、繰越の権利が失効してしまいます。繰越が条件です。
また、確定申告の方法にも注意が必要です。証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」では同一口座内の損益は自動的に相殺されますが、複数の証券会社をまたいだ損益通算や繰越控除を行うためには、自分で確定申告をする必要があります。特定口座を使っているからといって、自動的に最適な節税がなされているわけではないのです。
確定申告ソフトやクラウドサービスを活用すると、複数口座の年間取引報告書を一括で取り込み、損益通算・繰越控除の計算を自動化することができます。マネーフォワード クラウド確定申告やfreeeの確定申告などのサービスでは、証券会社との連携機能を使って申告書類を効率よく作成できます。
No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁(繰越控除の詳細ルール)
損益通算(合算)は「赤字を減らすための守りの節税」としてイメージされることが多いですが、実は積極的に活用することで資産形成のペースを上げる「攻めの節税」にもなります。この視点はあまり取り上げられていません。
例えば、年末近くに保有株式の中に含み損を抱えている銘柄がある場合、その銘柄をあえて年内に売却して損失を確定させることができます。これを「損出し」と呼びます。同じ年に上場株式の利益が出ている場合、損失を合算して相殺することで課税対象額を圧縮できます。売却後に同じ銘柄を買い直すことも可能です(ただし、翌営業日以降に買い直さないと「取得価額の調整」が必要になる場合があります)。
不動産所得を持つ投資家の場合も、合算(損益通算)が強力な節税ツールになります。アパートやマンション経営で減価償却費や管理費などが収入を上回って赤字になった場合、その赤字を給与所得と合算して節税できます。例えば給与所得600万円に対して、不動産所得が150万円の赤字なら、課税所得は450万円になります。この場合の節税額のシミュレーションを以下に示します。
| 条件 | 合算なし(損益通算しない) | 合算あり(損益通算する) |
|---|---|---|
| 給与所得 | 600万円 | |
| 不動産所得(赤字) | 算入なし | ▲150万円 |
| 課税所得(控除後) | 480万円 | 330万円 |
| 所得税(概算) | 約53万円 | 約23万円 |
| 差額(節税効果) | 約30万円の削減 | |
つまり30万円が節税できるということですね。住民税や社会保険料にも連動して影響するため、実際の節税効果はさらに大きくなるケースもあります。
ただし、注意が必要な点もあります。不動産所得の赤字のうち、「土地取得のための借入金利子」に対応する部分は損益通算の対象外です。また、国外の中古建物で生じた特定の減価償却費に関する損失は2021年分以降は損益通算できません。不動産投資を節税目的で検討している場合は、事前に税理士に確認することが欠かせません。
複数の金融商品を組み合わせた投資戦略において「合算のルール」を把握しておくことは、投資の成否だけでなく、手元に残る税引き後の利益を最大化する上で非常に重要です。損益通算・繰越控除のルールは毎年の税制改正で変わることもあるため、確定申告の時期には国税庁の最新情報を確認する習慣をつけることをおすすめします。
No.2250 損益通算|国税庁(合算・損益通算の公式ルールの最終確認に)