
印紙税は、経済取引等に伴って契約書や領収書などの文書を作成した場合に、印紙税法に基づきその文書に課税される国税です。印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られており、この課税文書とは次の3つすべてに当てはまる文書をいいます。
まず、印紙税法別表第一の課税物件表に掲げられた20種類の文書に該当することが前提となります。これらの文書は、経済取引または権利の授受その他の行為が行われた際に、その事実を証するために作成される文書であり、一般的にその作成行使の事実の背景に相当の経済的利益が存在し、これに軽度の補完的課税を行うに足る担税力があると認められるものです。
印紙税の納税義務は課税文書を作成した時に成立し、納税義務者は課税文書の作成者となります。領収書等であれば交付の時、契約書等であれば契約当事者の意思の合致を証明(契約者双方の署名押印が揃う)する時に納税義務が発生します。
印紙税の課税対象となる文書は、印紙税法別表第一(課税物件表)に20の号に分類して掲げられています。主要な分類としては以下のようなものがあります:
第1号文書:不動産の譲渡に関する契約書、地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書、消費貸借に関する契約書、運送に関する契約書
第2号文書:請負に関する契約書(工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など)
第3号文書:約束手形、為替手形
第4号文書:株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券
第17号文書:金銭又は有価証券の受取書(領収書)
これらの文書に該当するかどうかは、文書の種類だけで決まるのではなく、記載する内容や個別の事例に応じて判断されることが重要なポイントです。
印紙税の課税においては、文書に記載されている金額(受け取った金額や契約金額など)に応じて、印紙税額が定められています。また、文書の種類ごとに、1通あたりの印紙税額が一律に定められるものもあります。
例えば、第2号文書(請負に関する契約書)では以下のような税額設定があります:
第17号文書(領収書)の場合は:
契約金額については、金額そのものが記載されていない場合でも、取引数量や単価などから総額が推定できる場合は、推定できる金額を契約金額として扱います。
印紙税法では、課税文書にあたる場合でも例外的に印紙税が課されない場合が定められており、これを「非課税規定」といいます。非課税文書は以下の3つのカテゴリに分類されます:
1. 契約金額が少額なもの等
別表第一の課税物件表の非課税物件欄に記載されているもので、文書の種類によって非課税となる金額基準が異なります。
2. 国、地方公共団体その他の非課税法人が作成するもの
別表第二非課税法人の表に記載された法人が作成する文書は課税対象から除外されます。
3. 特定の者の作成する特定の文書及び特別法により非課税とされる文書
日銀や独立行政法人など特定の者の作成する特定の文書及び国民健康保険法や厚生年金法などの特別法により非課税とされる文書が該当します。
重要なのは、一定の金額未満であることが文書に記載されている必要があるという点です。実際には1万円未満や5万円未満であったとしても、そのことが文書に記載されていなければ、非課税とはなりません。
契約書における印紙税の課税対象判定では、実質的な内容で判断されることが重要です。契約書の定義は、当事者間の契約の成立、契約の更改(既存の債務を消滅させて新たに債務を成立させること)、契約内容の変更や補充を証明する目的で作成する文書とされています。
契約書に該当するものは、契約の予約の文書や写しも含み印紙と消印が必要です。また、2名以上が共同して一つの文書を作成した場合は、共同して作成した者全員が納税義務を負います。
**継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)**では、契約期間が3ヶ月以内で、かつ更新の定めのないものは課税対象から除外されます。これは、長期的な取引関係を前提とした契約に対する特別な配慮といえます。
**定款(第6号文書)**については、株式会社等の設立で作成される定款の原本で、公証人の保存するもの以外が対象となり、一律40,000円の印紙税が課されます。
契約金額変更契約書についても、元の契約書とは別の文書として印紙税の課税対象となることに注意が必要です。変更内容や金額に応じて適切な印紙税額を判定する必要があります。
近年、デジタル化の進展により印紙税の課税対象に関する新たな課題が生じています。電子契約の普及により、従来の紙ベースの文書に対する印紙税制度との整合性について議論されています。
電子データの取扱いについては、電子マネー等の支払いで領収書が電子データとなる場合は、紙の文書ではないため印紙税の対象とはなりません。しかし、電子マネーで支払いを受けた際に紙の領収書を発行した場合は、金銭又は有価証券の受取書に該当するので印紙税の課税対象となります。
クレジットカード決済の場合は、信用取引による売買に該当するため、印紙税の課税対象とはなりません。これは現金授受を伴わない取引形態に対する特別な取扱いです。
課税回避への対応として、国税庁では最近における印紙税の課税回避等の動きと今後の課税の在り方について検討を進めています。企業側では、適正な印紙税の納付を確保するため、文書作成時の判定フローを整備し、定期的な社内研修を実施することが重要です。
領収書の再発行については、たとえ金銭の受領が1回であっても、その受領事実を証明する目的で作成されるものである限り課税対象となります。納税義務者は再発行を要請した得意先ではなく、受取書の作成者であることに注意が必要です。
また、印紙税の過怠税については、納付漏れや金額のミス等があった場合には、印紙税の過怠税として納めなかった印紙税額の1~3倍程度の税額が追加徴収されるため、適正な納付管理が不可欠です。