

給与所得だけの人でも、合計所得金額を48万円超えると配偶者控除が丸ごと消えます。
「合計所得金額」と「所得金額」は似ていますが、意味が異なります。この違いを把握できていない人は意外と多いです。
所得金額とは、収入から必要経費や給与所得控除を差し引いた後の金額のことです。例えば給与収入が400万円の会社員であれば、給与所得控除額は124万円(2020年以降の改正後)となり、給与所得は276万円になります。
合計所得金額はその名の通り「合計」した数字ですが、単純な足し算ではありません。損益通算(赤字の所得で黒字の所得を相殺すること)を行った後の金額が基本となります。ただし、繰越控除(前年以前の赤字を今年の所得から引く)は合計所得金額の計算には含めません。つまり損益通算後・繰越控除前の金額です。
国税庁が定義する「合計所得金額」には、以下の所得が含まれます。
退職所得は原則として分離課税のため、多くの控除判定で「合計所得金額に含めない」扱いになりますが、制度によって異なります。これは重要な点です。
参考:国税庁「所得の種類と課税方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto319.htm
計算は所得の種類ごとに行うのが基本です。
まず最も身近な給与所得の計算から確認しましょう。給与収入から「給与所得控除」を差し引きます。この控除額は収入によって変わり、例えば年収300万円なら控除額98万円・所得202万円、年収500万円なら控除額144万円・所得356万円となります(2020年以降の税制改正後の数字)。
事業所得は収入から実際の必要経費を引いた金額です。青色申告特別控除(最大65万円)はこの段階で引くことができますが、それはあくまで「事業所得の計算内」の話です。合計所得金額はあくまで所得控除(基礎控除・配偶者控除など)を引く前の数字である点に注意が必要です。
一時所得は計算方法が独特です。
つまり、生命保険の満期金が200万円、払込保険料が120万円だった場合、一時所得は200万円 − 120万円 − 50万円 = 30万円となり、合計所得金額に加算されるのはその半額の15万円です。これは見落とされやすい計算です。
雑所得(年金や副業収入)は原則として収入 − 必要経費で計算しますが、公的年金は「公的年金等控除」が別途適用されます。FXや仮想通貨の利益は申告分離課税となりますが、損失が出た場合は他の所得との損益通算が原則できません。この点は後の章で詳しく触れます。
参考:国税庁「給与所得控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
損益通算を正しく使えると、合計所得金額を大きく下げられます。
損益通算とは、ある所得がマイナスになった場合に、他の所得のプラスと相殺できる仕組みです。例えば、不動産所得が−100万円(赤字)で給与所得が400万円あった場合、損益通算後の合計所得金額は300万円となります。これは節税の観点から非常に重要な仕組みです。
ただし、損益通算には厳密なルールがあります。
不動産所得に赤字が出た場合でも、「土地取得のための借入金利子」に相当する部分はなかったものとみなされ、損益通算の対象外となります。これは意外と見落とされがちなルールです。
繰越控除は、損益通算をしてもなお残った赤字を翌年以降3年間繰り越せる制度です。ただし前述の通り、繰越控除を適用した後の金額は「合計所得金額」には含まれません。「合計所得金額」はあくまで「繰越控除前」の数字です。この原則が条件判定で大きな影響を持ちます。
例えば、前年の株の損失を今年に繰り越して差し引いた結果、実際の課税所得はゼロ円であっても、合計所得金額はプラスのままということがあります。そうなると、住民税非課税世帯の判定や給付金の受給要件を満たさない可能性があります。痛いですね。
参考:国税庁「損益通算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
合計所得金額は、控除や給付のほぼすべての判定に使われます。
これが把握できていないと、計算上は節税しているつもりでも、重要な控除が受けられなくなるケースがあります。代表的な制度と合計所得金額の判定ラインをまとめます。
| 制度名 | 合計所得金額の判定ライン | 超えた場合の影響 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 2,400万円以下:48万円控除 2,400万円超〜2,450万円以下:32万円 2,450万円超〜2,500万円以下:16万円 2,500万円超:控除なし |
高所得者は基礎控除が段階的に縮小・消滅 |
| 配偶者控除 | 本人の合計所得金額が900万円以下 | 900万円超〜950万円・950万円超〜1,000万円で段階縮小。1,000万円超で控除なし |
| 扶養控除(被扶養者の判定) | 被扶養者の合計所得金額が48万円以下 | 48万円超で扶養から外れる(年収103万円超に相当) |
| 住民税非課税世帯 | 合計所得金額が自治体ごとの基準額以下 (例:東京23区は単身で45万円以下) |
各種給付金・医療費助成・保育料減免の対象外になる |
| ひとり親控除 | 本人の合計所得金額が500万円以下 | 500万円超で控除(35万円)が受けられない |
| 勤労学生控除 | 合計所得金額が75万円以下 | 超えると控除(27万円)が適用されない |
| 医療費控除・セルフメディケーション税制 | (金額基準はないが総所得金額等が計算基礎) | 所得が高いほど還付額は増加傾向 |
配偶者の扶養判定(103万円の壁)も実態は「合計所得金額48万円以下かどうか」で決まります。給与収入であれば給与所得控除55万円を引いた後の金額で判定されるため、103万円 − 55万円 = 48万円となる計算です。これが基本です。
注意が必要なのは、副業やパート以外の収入(FXの利益・不動産収入・懸賞金など)がある場合です。こうした収入が合計所得金額に加算されると、給与収入が103万円以下でも扶養から外れるケースがあります。
参考:国税庁「配偶者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
金融に関心がある人ほど、この計算で引っかかる落とし穴があります。
まず株式の配当所得についてです。上場株式の配当は「申告分離課税」「総合課税」「申告不要(源泉徴収のみ)」の3つから選択できます。申告不要を選んだ場合、配当所得は合計所得金額に含まれません。しかし総合課税で申告すると配当控除を受けられる一方で、合計所得金額が上がります。配偶者控除や住民税非課税の判定ラインを超えてしまうリスクがある点を必ず確認してください。
上場株式の譲渡損失と配当所得の損益通算を「特定口座(源泉徴収あり)」で完結させている場合、その損益は合計所得金額に含まれません。一方で確定申告をして損益通算すると合計所得金額に影響が出ます。申告することで税金が戻る一方、各種控除の判定ラインを超えてしまうケースもあるため、損得のトータル計算が不可欠です。
仮想通貨(暗号資産)の利益は雑所得として総合課税の対象です。例えば仮想通貨で100万円の利益が出た場合、それがそのまま合計所得金額に加算されます。損失が出ても他の所得と損益通算できず、翌年への繰り越しも認められていません(2025年時点)。この制約は大きな注意点です。
副業収入が20万円以下であれば確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要な場合があります。また「20万円以下なら合計所得金額に影響しない」という誤解があります。正確には、確定申告をしない場合も所得は発生しており、制度によっては合計所得金額に含まれると判断されることがあります。20万円以下なら問題ありません、とは一概には言えません。
合計所得金額の試算は、確定申告前に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」でシミュレーションする方法が簡便です。入力した情報をもとに合計所得金額の試算ができ、各控除の適用可否も自動判定されます。
参考:国税庁「確定申告書等作成コーナー」
https://www.keisan.nta.go.jp/