

法人で不動産を5年以内に売っても、税率は個人より約10%低い。
不動産を売却して得た利益のことを「譲渡所得」と呼びます。この譲渡所得には、売却した不動産の所有期間によって「短期」と「長期」の2種類の区分があります。判定基準は、売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかです。
短いですね。つまり1日の差でも区分が変わります。
たとえば2026年に売却するケースで考えると、取得日が2020年12月31日以前であれば「長期譲渡所得」、2021年1月1日以降であれば「短期譲渡所得」に分類されます。この1日の違いで税率が大きく変わるため、売却タイミングの管理が非常に重要です。
個人に課される税率の違いは以下のとおりです。
| 区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
| 短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
個人の短期譲渡所得税率39.63%は、長期の約2倍に相当します。これほど大きな差がある理由は、短期での不動産転売を抑制するための政策的な意図があるためです。
一方、法人の場合は所有期間による税率の区分が「譲渡所得税」としては存在しません。法人が不動産を売却した場合の利益は、他の事業所得と合算されて「法人税等」として課税されます。法人税等の実効税率は法人の規模や所得額によって異なりますが、概ね30〜35%程度です。
法人の主な税率の内訳を確認すると、法人税(資本金1億円以下・年800万円以下の部分)が15%、年800万円超の部分が23.2%、地方法人税が法人税額の10.3%、法人事業税(年400万円以下の部分)が3.5%などとなっています。これらを合算した実効税率が実際の税負担を示す指標になります。
つまり短期譲渡の場合は法人が有利です。
個人が5年以内に不動産を売却すると39.63%の税率が適用されるのに対し、法人なら所有期間に関係なく30〜35%程度の実効税率で済むことが多いため、短期譲渡においては法人のほうが税負担は軽くなります。
参考:土地・建物の譲渡に係る個人・法人の税制の概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000074.html
法人が短期譲渡において個人より有利な理由は、税率の数値だけにあるわけではありません。課税の仕組みそのものが根本的に異なります。これが重要です。
個人の場合、不動産の譲渡所得は「分離課税」が適用されます。給与所得や事業所得といった他の所得とは切り離して課税されるため、たとえ他の所得で赤字が出ていても、不動産の譲渡益からは差し引けません。また、不動産の譲渡損が生じた場合も、原則として他の所得と損益通算することができません。不動産の譲渡損は基本的に切り捨てとなるのです。
これは痛いですね。
一方で法人は、不動産売却益も他の事業収益も、すべてひとまとめにして「法人の所得」として計算します。つまり、同じ事業年度に他の事業で損失が発生していた場合、その損失と不動産売却益を相殺することが可能です。これを損益通算といいます。
具体的な例で見てみましょう。
- 不動産売却益:2,000万円
- 当期の事業損失:500万円
個人の場合は、事業損失500万円と不動産売却益2,000万円を合算できないため、2,000万円に対して税金が課されます。法人の場合は、2,000万円-500万円=1,500万円が課税所得となり、税負担を500万円分圧縮できます。
さらに法人は、欠損金(赤字)を最大10年間繰り越せます(青色申告の場合)。過去の事業の損失があれば、不動産売却益と相殺して節税につなげることもできます。
以下は個人と法人の課税の仕組みをまとめた比較です。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 課税方式 | 分離課税 | 総合課税(全所得を合算) |
| 短期税率(5年以内) | 39.63% | 実効税率30〜35%程度 |
| 長期税率(5年超) | 20.315% | 実効税率30〜35%程度 |
| 損益通算 | 不可(原則) | 可能 |
| 損失の繰越 | 不可(原則) | 10年間可能(青色申告) |
「損益通算できる」ことが法人の最大の武器です。
参考:不動産のキャピタルゲイン課税における個人と法人の比較(青山財産ネットワークス)
https://www.azn.co.jp/column/20220929-927.html
法人が土地を売却する場合、もともとは「土地等の譲渡益に対する追加課税(土地重課制度)」という特別な課税が存在していました。これは通常の法人税等に加えて、以下の税率が上乗せされる制度です。
- 🔴 所有期間5年以下(短期):+10%の上乗せ課税
- 🔵 所有期間5年超(長期):+5%の上乗せ課税
これが適用されると、法人の短期譲渡における税負担は実効税率に最大10%が上乗せされることになり、実質的には個人の短期譲渡税率(39.63%)と大きな差がなくなってしまいます。
しかし現在この制度は適用が停止されています。停止の開始は1998年(平成10年)1月1日からで、その後も期限ごとに延長が繰り返されてきました。現時点では2026年3月31日まで停止中です。
2026年4月以降については、現時点では延長するかどうか未定の状態です。
これはつまり、法人が土地を短期で売却するうえでの有利な環境は「2026年3月31日まで」の暫定的な状態である可能性があるということです。もし重課が再開されれば、法人の税率は大幅に上昇します。
土地の売却を検討している法人は、この期限を意識しておく必要があります。
建物の場合は重課の対象外ですが、土地と建物が一体の物件を売却する場合は土地部分が重課の対象となる点も注意が必要です。
売却時期の調整余地があるなら、税理士と連携して2026年3月31日を境とした戦略を立てることが、法人にとって実質的な節税につながります。
参考:土地等の譲渡益に対する追加課税制度(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000074.html
法人で不動産を売却する場合、「個人なら使える控除が使えない」という制約があります。これを知らずに法人化を進めると、想定外の税負担を抱えることになります。
個人だけに認められている主な特例は以下のとおりです。
これらはすべて個人のみが使える制度です。法人には適用されません。
「法人化すれば税率が下がる」という発想は短期譲渡においては正しい場合が多いですが、3,000万円特別控除を使える居住用不動産の売却については、個人のままのほうが圧倒的に有利なケースもあります。
計算例で確認してみましょう。
- 居住用不動産の取得費:2,000万円
- 売却価格:5,000万円
- 所有期間:3年(短期)
- 譲渡所得:3,000万円(※諸費用は簡略化)
🔸 個人の場合:3,000万円特別控除を適用 → 課税対象0円 → 税金0円
🔸 法人の場合:3,000万円に対して法人税等(実効税率約33%)→ 約990万円の税金
この違いは非常に大きいです。
短期であっても居住用財産の場合は、個人売却のほうが特例によって大幅に有利になります。法人化の判断は「売却する不動産の種類や用途」によって変わります。投資用不動産と居住用不動産とでは最適な戦略が異なるため、個別に専門家へ確認することが不可欠です。
参考:国税庁「マイホームを売ったときの特例(No.3302)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
法人が不動産売却益に対する税負担を合法的に抑えるためには、課税所得そのものを圧縮する手段を組み合わせることが重要です。以下に実践的な節税の考え方を整理します。
① 売却タイミングを事業年度で調整する
法人税は事業年度全体の利益に対してかかります。不動産売却益が加わる年度に他の収益が集中していると、税率が高い区分に入り税負担が増大します。
たとえば、本業の利益が多い年度と売却益が重なると、年800万円超の部分に23.2%の法人税率が適用され、事業税・住民税なども含めた実効税率が最大水準に近づきます。逆に本業が赤字や低収益の年度に売却を行えば、売却益が赤字と相殺されて課税所得が圧縮されます。
売却の調整余地があれば、年度の選定だけで数十万〜数百万円の節税になることがあります。
② 関連経費を漏れなく計上する
法人の課税所得は「益金-損金」で計算されます。不動産売却に関連する以下の費用は損金に算入できます。
これらを漏れなく計上することで、利益(課税所得)を圧縮できます。
③ 退職金の支給で利益を圧縮する
役員や従業員の退職に合わせて不動産を売却するケースでは、退職金を支給することで法人の損金を増やせます。法人が支払った退職金は損金に算入されるため、売却益と相殺して課税所得を圧縮できます。
これは使えそうです。
受け取る役員・従業員側も、退職所得は「(退職金-退職所得控除)×1/2」に対してのみ所得税が課されるため、通常の給与と比べて税負担が軽くなる特徴があります。勤続20年以下なら年40万円、20年超なら年70万円が退職所得控除として認められます。
④ 設備投資で課税所得を下げる
不動産売却益が出る事業年度に、事業用の設備投資を行うことも節税手段になります。中小企業を対象とした「中小企業経営強化税制」などを活用すれば、取得価額の全額即時償却(特別償却)や税額控除が認められます。
適用できる主な投資対象は機械装置(160万円以上)やソフトウェア(70万円以上)などです。
ただし、節税を目的とした無駄な支出は本末転倒です。あくまでも事業目的のある投資に限って検討するのが原則です。
以下に、法人の節税戦略を一覧で整理します。
| 節税手段 | 効果の概要 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 売却年度の調整 | 本業赤字期に合わせることで課税所得を圧縮 | 損益通算が前提 |
| 関連経費の計上 | 仲介手数料・印紙税・解体費用などを損金算入 | 証憑書類の保管必須 |
| 退職金の支給 | 損金算入で法人の課税所得を下げる | 不当に高額な退職金は否認されるリスクあり |
| 設備投資 | 即時償却・税額控除で税負担を軽減 | 中小企業経営強化税制など要件確認が必要 |
法人の節税策は組み合わせることで効果が高まります。一つひとつの金額は小さくても、複数を同時に活用することで数百万円単位の節税効果になることもあります。具体的な数字は法人の規模や状況によって異なるため、事前に税理士へ相談することが最も確実です。
参考:国税庁「法人税の税率(No.5759)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm