

即時償却を選ぶと、税額控除より総納税額が増えるケースがあります。
中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づいて設備を取得した場合に、即時償却または税額控除を選択できる優遇制度です。2017年(平成29年)に創設され、令和7年度税制改正により、適用期限が2027年3月31日まで2年間延長されることが確定しました。
即時償却とは、取得した設備の費用全額をその年度に一括で経費計上する処理方法です。通常、機械や設備を購入した場合は「耐用年数」に応じて数年かけて減価償却します。これが即時償却を使えば、初年度に取得価額の100%を損金算入できます。
たとえば耐用年数5年・取得価額500万円の機械を購入した場合、通常の定額法だと毎年100万円ずつ5年間かけて償却します。即時償却を適用すると、購入した年に500万円全額を経費にできるため、その年の課税所得が大幅に圧縮されます。
大切な前提が一つあります。即時償却は「課税の繰り延べ」であり「税金の免除」ではありません。5年間トータルで見た納税額は、通常の減価償却と変わりません。つまり、即時償却の本質的なメリットは初年度の税負担を一気に下げてキャッシュフローを改善することにあります。
この制度の対象企業は、青色申告書を提出する中小企業者等です。具体的には、資本金1億円以下の法人、資本金や出資を有しない法人で常時使用従業員数が1,000人以下のもの、従業員1,000人以下の個人事業主などが対象になります。ただし、大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人や、前3事業年度の平均所得が15億円を超える法人は対象外となる点に注意が必要です。
対象となる設備には金額要件があります。機械・装置は1台160万円以上、工具・器具・備品は1台30万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウェアは70万円以上です。また中古品は対象外で、新品の設備に限定されます。
参考リンク:中小企業庁の公式ページです。制度の最新要件や手続きの全体フロー、各類型の申請書類などを確認できます。
本制度では、経営力向上計画に記載する設備を類型に分けて管理しています。令和7年度改正後の現行制度ではA・B・D・E類型の4つが対象です。なお、C類型(デジタル化設備)は2025年4月1日をもって廃止されています。
A類型(生産性向上設備)は、生産性の指標が旧モデルと比較して年平均1%以上向上する設備が対象です。工業会等から証明書を取得し、経営力向上計画に添付して申請します。手続きがもっともシンプルで、利用者数が多い類型です。
B類型(収益力強化設備)は、年平均の投資利益率が7%以上(令和7年度改正で従来の5%から引き上げ)になることが見込まれる投資計画に記載された設備が対象です。公認会計士や税理士の事前確認書を取得のうえ、経済産業局に申請する必要があります。
D類型(経営資源集約化設備)は、M&A(事業承継等)を行った後に取得する設備で、修正ROAまたは有形固定資産回転率の一定の改善が見込まれるものが対象です。
E類型(経営規模拡大設備)は令和7年度改正で新設された類型で、売上高100億円超をめざす成長意欲の高い中小企業が対象です。通常の中小企業経営強化税制に拡充措置が上乗せされ、より大きな税制優遇を受けられます。
| 類型 | 概要 | 主な要件 |
|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 旧モデル比で年平均1%以上の生産性向上 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 年平均投資利益率7%以上(改正後) |
| D類型 | 経営資源集約化設備 | M&A後に取得、ROA等の改善が見込まれる |
| E類型 | 経営規模拡大設備 | 売上高100億円超を目指す企業向け(新設) |
各類型で申請の流れが異なります。A類型は工業会への証明書申請が起点です。B・D・E類型は投資計画の策定→公認会計士や税理士の事前確認→経済産業局への申請→経営力向上計画の認定、という複数ステップを踏みます。書類に不備がなければ認定まで約30日、複数省庁にまたがる場合は約45日かかります。
ここで見落としやすい重要なルールがあります。それが「60日ルール」です。原則として設備は経営力向上計画の認定を受けてから取得する必要があります。しかし例外として、設備を取得した後に計画を申請する場合は、設備取得日から60日以内に計画申請書が行政庁に受理される必要があります。60日を過ぎてしまうと制度の適用を受けられなくなります。これは知らないと損する期限ルールです。
参考リンク:国税庁が公表している制度の概要と対象設備の詳細です。法的根拠となる条文や適用条件の確認に使えます。
多くの経営者が「即時償却と税額控除、どちらが得なのか」と迷います。結論は経営状況次第ですが、具体的な数字で比較することで判断しやすくなります。
前提条件を整理しましょう。設備取得額は500万円、耐用年数5年、定額法で毎年100万円ずつ償却、減価償却前の利益は1,000万円、法人実効税率は30%、税額控除率は10%(資本金3,000万円以下の場合)とします。
通常の減価償却の場合は、毎年100万円の減価償却費を差し引いた900万円が課税所得になります。法人税は年間270万円で、5年間の合計は1,350万円です。
即時償却を選んだ場合、初年度は500万円全額が経費になるため、課税所得は500万円に圧縮されます。法人税は150万円となり、通常より120万円少なくなります。これは非常に大きな効果です。ただし、2年目以降は減価償却費がゼロになるため、毎年300万円の法人税を払い続けます。5年間のトータルは1,350万円で、通常の減価償却と同じです。
税額控除(10%)を選んだ場合、通常の減価償却を行いながら、初年度の法人税から500万円×10%=50万円を直接控除します。初年度の法人税は220万円になります。2年目以降は通常どおり270万円を払い、5年間の合計は1,300万円です。通常償却より恒久的に50万円の節税を実現します。
| 項目 | 通常の減価償却 | 即時償却 | 税額控除(10%) |
|---|---|---|---|
| 初年度の法人税 | 270万円 | 150万円 | 220万円 |
| 5年間の法人税合計 | 1,350万円 | 1,300万円 | |
| トータルの節税効果 | なし | なし(繰り延べのみ) | 50万円の恒久節税 |
この比較から、長期的な節税効果だけを見ると税額控除のほうが有利です。これが記事冒頭の「驚きの一文」の根拠です。
ただし、即時償却が圧倒的に有利になるシーンも存在します。たとえばその年に突発的な大きな利益が出た場合です。課税所得を大きく下げたい年に即時償却を使えば、初年度に150万円もの税負担を軽くでき、その分の資金を次の投資や運転資金に回せます。コロナ禍やリーマンショックのような急激な景気悪化が起きた場合も、手元キャッシュが厚い企業のほうが生き残りやすいことを考えると、現金を手元に残す効果は数字以上の価値があります。
また、赤字の年に即時償却を使うと、さらに赤字を増やして「繰越欠損金」を増やすことができます。繰越欠損金は青色申告法人であれば最長10年間繰り越せるため、翌年以降の利益と相殺して法人税を減らすことが可能です。たとえば赤字100万円の年に500万円の設備を即時償却すると、欠損金が600万円になります。翌年に800万円の利益が出た場合、課税所得は800万円-600万円=200万円まで圧縮されます。
つまり、即時償却が最も有効に機能するのは「利益が大きい年」「先行きに不安がある年」「翌年以降の利益で欠損金を活用できる見込みがある場合」です。
即時償却のメリットを最大化するには、自社の経営状況を正確に把握することが不可欠です。判断の目安として、以下のパターンを参考にしてください。
- 💰 即時償却が有利なケース:その年の利益が例年より大幅に多い/業績に不安がある/銀行借入の返済を優先したい/翌年以降の設備投資計画がある
- 📈 税額控除が有利なケース:毎期安定した利益が見込める/法人税額が多い/財務諸表を良く見せたい(金融機関への借入評価など)
ここで見落としやすい注意点を2つ確認しておきましょう。
注意点①:税額控除には法人税額の20%という上限がある
税額控除で控除できる金額は、その年の法人税額の20%が上限です。たとえば法人税が100万円なら最大20万円しか控除できません。控除しきれなかった分は翌事業年度1年間だけ繰り越せますが、2年目も使い切れなければその分は消滅します。設備規模が大きいほどこのリスクが高まります。利益規模と設備投資額のバランスに注意が必要です。
注意点②:リース取得では即時償却が使えない
所有権移転外リース取引で取得した設備には、即時償却(特別償却)の規定が適用されません。リースを活用して設備を導入した場合は税額控除のみ選択できる点を覚えておきましょう。これは意外と知られていないルールです。
また、申請手続きに関しても落とし穴があります。多くの中小企業が「設備を買ってから申請すればいい」と思いがちですが、原則は認定を受けてから設備を取得する順番です。例外の「60日ルール」があるとはいえ、工業会証明書(A類型)や経済産業局確認書(B・D類型)の取得には別途時間がかかります。証明書や確認書の申請は経営力向上計画の申請より前に行う必要があるため、設備購入を決めたらまず税理士や認定経営革新等支援機関に相談するのが最善の手順です。
参考リンク:中小企業庁が公開する支援措置活用の手引きです。A〜E類型ごとの申請書類・フローの詳細が記載されています。
中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和7年度税制改正版)」
金融の観点から中小企業経営強化税制の即時償却を評価するとき、「節税額の大小」だけでなく「資金の時間的価値」という視点が重要になります。
お金には「今手元にある100万円」と「5年後に受け取る100万円」では価値が違う、という概念があります。即時償却によって初年度に120万円分の税負担を軽くできるということは、その120万円を今すぐ手元に残せるということです。その120万円を別の投資に回して年3%の利回りを5年間稼いだとすれば、約139万円に増えています。これが資金の時間的価値の恩恵です。
つまり即時償却が特に有効なのは、節税した資金を再投資できる企業です。設備投資→即時償却で税負担を抑える→浮いた資金で次の設備や広告・人材に投資→さらに売上が伸びる、というサイクルを回せれば、税制優遇の恩恵が複利的に積み上がります。
現実的な活用シナリオを一つ紹介します。製造業A社が1,000万円の機械装置(A類型)を導入するケースです。
- 通常の減価償却だと初年度の法人税は約240万円(定額法・耐用年数10年・利益800万円・税率30%の場合)
- 即時償却を選ぶと課税所得はマイナスとなり、法人税はゼロ。浮いた240万円を翌年の広告費や採用費に充てられる
- 2年目以降の減価償却費はゼロになるが、投資効果で売上が伸びていれば十分に吸収できる
これはキャッシュが出ていっていないにもかかわらず経費が増える、という減価償却の「非現金費用」としての性質を最大限に活用した戦略です。
ただし、会計上の利益が大きく落ち込むため、金融機関の融資審査に影響が出る可能性もあります。決算書の利益が著しく小さくなると、銀行が「経営が悪化している」と判断するリスクがあります。融資を予定している場合は、税理士と事前に対策を話し合うことが望ましいといえます。
多くの記事では触れられていない視点として、中小企業経営強化税制の即時償却と各種補助金を組み合わせた活用があります。これは同じ設備投資でより大きな恩恵を得るための実践的なアプローチです。
たとえば「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」などは、補助金の採択後に設備を購入することを条件とするケースが多くあります。補助金で購入費の一部を賄い、残りの自己負担額を中小企業経営強化税制の即時償却で一括経費計上する、という組み合わせが可能です。
ただし重要な注意点があります。補助金は「受け取ったタイミングで収入になる」ため、受給した年に法人税がかかります。これを圧縮記帳と呼ばれる別の会計処理で調整するケースもありますが、中小企業経営強化税制の即時償却との組み合わせ方次第で効果が変わります。つまり、組み合わせた場合は必ず専門家と事前にシミュレーションすることが条件です。
令和7年度改正で新設されたE類型では、売上高100億円超を目指す中小企業向けに拡充措置が設けられ、さらに「中小企業成長加速化補助金」との活用も期待されています。成長戦略を描く中小企業にとっては、大型の設備投資を税制と補助金の両輪で支援してもらえる環境が整っています。
また、太陽光発電など再生可能エネルギー設備については、中小企業経営強化税制の即時償却が適用できるケースがあります(自家消費型、余剰売電型で自家消費率50%以上の設備など)。電気代の削減とキャッシュフローの改善を同時に狙えるため、製造業や倉庫業を中心に注目度が高まっています。
2027年3月末という期限が迫っている今、経営力向上計画の認定取得から設備の取得・事業供用まで、最低でも2〜3ヵ月のリードタイムが必要です。電子申請かつ単独省庁あての場合でも約14日かかります。補助金との組み合わせを狙う場合はさらに時間が必要になります。逆算して今すぐ動き出すことが、期限を有効活用する唯一の方法です。
参考リンク:令和7年度税制改正における本制度の見直し・延長の詳細が解説されています。E類型の新設や給与増加要件など改正ポイントを把握できます。