即時償却とは個人事業主が使える節税制度の全知識

即時償却とは個人事業主が使える節税制度の全知識

即時償却とは何か個人事業主が押さえるべき節税制度の全体像

青色申告をしていない個人事業主は、この節税制度を1円も使えません。


📋 この記事のポイント3つ
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即時償却の基本

設備投資の費用を購入した年度に全額経費計上できる制度。通常は耐用年数に応じて毎年少しずつ計上するところ、初年度に一括で落とせる。

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使える条件と落とし穴

青色申告者であることが絶対条件。少額減価償却資産の特例なら年間300万円まで、中小企業経営強化税制なら上限なしで即時償却が可能。ただし翌年の税負担増に注意が必要。

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即時償却 vs 税額控除

即時償却は「課税の繰り延べ」に過ぎないが、税額控除はトータルで節税になる。どちらが有利かは事業の利益状況によって異なる。


即時償却とは:個人事業主向けに減価償却の仕組みから理解する

「即時償却」という言葉を聞いたことはあっても、減価償却との違いがよくわからない、という方は少なくありません。まずは基礎から整理しましょう。


通常、事業で使う機械・パソコン・車両などの固定資産は、その年に全額を経費にすることができません。代わりに「法定耐用年数」という国が定めた使用可能年数にわたって、毎年少しずつ経費として分割計上していく仕組みが「減価償却」です。たとえば、業務用のパソコン(耐用年数4年)を20万円で購入した場合、1年あたり5万円ずつ、4年間にわたって経費計上するのが原則です。


即時償却が基本です。これは、その分割計上ルールを無視して、購入した年度に取得価額の全額を一括で経費計上できる特例制度のことをいいます。上の例に当てはめると、20万円のパソコンを買った年に20万円全額を経費として落とせるため、その年の所得が20万円圧縮され、支払う所得税・住民税を大幅に抑えることができるわけです。


これは使えそうです。特に事業収益が大きく出た年度に、計画的な設備投資と組み合わせることで強力な節税効果を発揮します。なお、固定資産の即時償却に関係する制度は複数あり、①少額減価償却資産の特例、②中小企業経営強化税制(即時償却)、③中小企業投資促進税制(特別償却30%)の3つが個人事業主にとって特に重要です。
































制度名 対象金額 償却割合 事前認定 青色申告
少額減価償却資産の特例 30万円未満(年300万円上限) 100%(即時) 不要 必須
中小企業経営強化税制 機械160万円以上など 100%(即時) 必要 必須
中小企業投資促進税制 機械160万円以上など 30%(特別償却 不要 必須


個人事業主が使える代表的な制度はこの3つです。それぞれ対象となる資産の金額・種類・手続きが異なります。以降のH3ブロックで、各制度を順に深掘りしていきます。


参考:少額減価償却資産の特例について(中小企業庁の公式ページ。適用期限・上限額・手続き方法が簡潔にまとめられている)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tokurei/syougaku_shisan.html


即時償却が個人事業主に使える条件と「少額減価償却資産の特例」の活用法

即時償却を活用するうえで、まず押さえるべき最重要ルールがあります。青色申告が条件です。白色申告確定申告をしている個人事業主は、これから紹介する少額減価償却資産の特例も、中小企業経営強化税制も、いずれも利用できません。節税効果の大きな特例制度は、青色申告者に限定されているケースがほとんどです。


「少額減価償却資産の特例」は、青色申告をしている個人事業主がもっとも手軽に使える即時償却制度です。取得価額が30万円未満の減価償却資産を購入した場合、年間合計300万円を上限として、購入した年度に全額を経費計上することができます。事前の認定申請も不要で、確定申告の青色申告決算書「減価償却費の計算」欄の「摘要」に「措法28の2」と記載するだけで適用できます。


対象となる資産の範囲は広く、パソコン・コピー機・エアコン・応接セット・業務用ソフトウェア・事業用の車両(30万円未満のもの)など、事業で使う幅広い備品が対象です。また、中古資産も対象になる点は見落とされがちです。たとえば、取得価額25万円の中古の軽トラックを購入した場合でも、この特例で全額を経費計上できます。


注意すべき点がいくつかあります。第一に「年間300万円」という上限は、台数ではなく取得価額の合計額です。1台20万円のパソコンなら15台(合計300万円)まで適用できますが、16台目からは適用外となります。第二に、取得価額が30万円未満かどうかの判定は「税込・税抜」の経理方式によって変わります。税込経理の場合は消費税込みの金額で判定するため、たとえば税抜29万円・税込31.9万円の商品は30万円以上となり特例が使えません。税抜経理を採用しておくと有利なケースがあります。


第三に、この特例で経費計上した資産は「償却資産税固定資産税)」の課税対象になります。償却資産税は地方税で、毎年1月1日時点で所有している事業用資産に課されます。合計額が150万円未満なら非課税になりますが、申告自体は必要です。申告を怠ると追徴課税のリスクがあるため、忘れずに手続きしましょう。


参考:弥生株式会社による少額減価償却資産の特例の解説(仕訳方法・適用要件・申告書への記載方法が詳しく解説されている)
https://www.yayoi-kk.co.jp/shinkoku/aoiroshinkoku/oyakudachi/shogakugenkashokyakushisan/


即時償却が個人事業主の大型設備投資に使える中小企業経営強化税制の申請手順

少額減価償却資産の特例は年間300万円が上限ですが、それ以上の大型設備投資に即時償却を活用したい場合は「中小企業経営強化税制」が選択肢になります。この制度を使えば、取得価額160万円以上の機械装置でも100%即時償却が可能です。つまり制度です。500万円の加工機械を導入した年に、その500万円全額を経費計上できます。


ただし、この制度を使うためには「経営力向上計画」の事前認定を受ける必要があります。申請から認定まで通常1か月程度かかります。設備を購入してから申請しても間に合わない場合があるため、計画的な準備が欠かせません。


個人事業主が中小企業経営強化税制を使う場合の主な流れは次の通りです。



  • ① 投資計画を策定し、対象設備の類型(A類型:生産性向上設備、B類型:収益力強化設備など)を確認する

  • ② 必要に応じて工業会等から「性能向上要件証明書」を取得する(A類型の場合)

  • ③ 所轄の経済産業局に「経営力向上計画」を申請し、認定を受ける

  • ④ 認定後に対象設備を取得・事業供用開始する

  • ⑤ 確定申告時に認定申請書の写し・認定書の写しを添付し、青色申告決算書に特別償却額を記載して申告する


対象となる設備には最低取得価額の基準があり、機械・装置は1台160万円以上、工具・器具・備品は1台30万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウェアは70万円以上です。また、本店・社宅・乗用自動車・福利厚生施設などは「生産等設備」に該当しないため、対象外となります。個人事業主の場合、乗用車を即時償却しようとして対象外と判明するケースが散見されるため注意が必要です。


なお、この制度の適用期限は令和9年3月31日(2027年3月末)まで延長されていますが、延長の都度内容が変わるため、国税庁・中小企業庁の最新情報を確認することが原則です。


参考:国税庁タックスアンサー No.5434 中小企業経営強化税制(即時償却の対象資産・要件・申告手続きの公式解説)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5434.htm


即時償却のメリットと個人事業主が見落としがちな3つのデメリット

即時償却の最大のメリットは、設備投資を行った年度の課税所得を大きく圧縮できる点です。利益が多く出た年度に合わせて設備購入を実行すれば、その年の所得税・住民税の負担を劇的に抑えられます。たとえば、所得税率が33%の税率帯にいる個人事業主が300万円の機械を即時償却した場合、単純計算で99万円ほどの税負担軽減効果が生じます。税負担が軽くなった分を、さらなる事業投資や手元資金の確保に回せるため、資金繰り改善の効果も大きいです。


ただし、即時償却には見落とされがちなデメリットも存在します。


デメリット1:翌年以降の経費が消える


即時償却は「課税の繰り延べ」であって、真の意味での節税ではありません。通常の減価償却であれば複数年にわたって経費計上できた金額を、初年度に前倒ししているだけです。翌年以降は当該資産の減価償却費がゼロになるため、利益が膨らみやすくなり、逆に税負担が増えます。複数年の収益見通しを踏まえた判断が必要です。


デメリット2:赤字の年には効果がない


即時償却で経費計上できても、そもそも利益(所得)がなければ税負担は発生しません。赤字の事業者が即時償却を行っても節税効果はゼロです。青色申告の純損失の繰越控除(3年間)を使えば将来の黒字と相殺できますが、確実に黒字が出る見通しがない年度に無理に設備を購入する必要はありません。痛いですね。


デメリット3:即時償却と税額控除の重複適用はできない


中小企業経営強化税制では、即時償却と税額控除のどちらかを選択しなければなりません。両方を同一の資産に適用することは制度上認められていません。税額控除(取得価額の7〜10%を直接税額から差し引く)は、長期的に見るとトータルの税負担を実際に減らすことができます。即時償却は「繰り延べ」ですが、税額控除は「真の節税」です。利益が安定している事業者は税額控除の方が有利なケースが多い点を覚えておけばOKです。





























即時償却 税額控除(7〜10%)
初年度の節税効果 大きい(全額経費化) 中程度
トータルの節税額 変わらない(繰り延べのみ) 控除分だけ実質節税
赤字時の効果 なし(繰越可) 翌年繰越可(1年)
向いているケース 今期だけ利益が突出した 利益が毎年安定している


参考:マネーフォワードクラウドによる特別償却・即時償却・税額控除の違いの解説(個人事業主視点でわかりやすく比較されている)
https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/80465/


即時償却を個人事業主が賢く使うための独自視点:「利益の山」に合わせた投資タイミング戦略

一般的な記事では「利益が出たら即時償却を活用しよう」と書いてあります。しかし、それだけでは不十分です。即時償却で本当に得をするには、「利益の高さ=適用税率」に合わせた投資タイミングの設計が重要です。


所得税は累進課税なので、所得が多いほど税率が高くなります。所得195万円超〜330万円以下なら税率10%ですが、900万円超〜1,800万円以下なら33%です。つまり同じ100万円の即時償却でも、税率10%の人には10万円の節税効果しかない一方、税率33%の人には33万円の節税効果があります。


これは使えそうです。この原則を踏まえると、個人事業主が即時償却を最大限活用するための判断軸は以下の3点です。



  • 📌 その年の利益(課税所得)がいくらになりそうか、決算前(10〜11月頃)に試算する

  • 📌 課税所得が高い税率帯に入りそうな年度こそ、まとめて設備投資を実行するタイミングと捉える

  • 📌 翌年以降の収益見通しも考慮して、「今年だけ突出して利益が多い」状況かどうかを見極める


たとえば、今年の課税所得が1,000万円(税率33%)で、来年以降は500万円(税率20%)程度に落ち着く見込みなら、今年に設備を集中購入して即時償却する方が、翌年に購入して毎年減価償却するより税負担が少なくなります。逆に毎年900万円超の安定した高収益を上げているなら、税額控除の方がトータルで有利な可能性があります。


決算の2〜3か月前に試算を行うことが原則です。この時点で利益を把握し、設備を年度内に購入・納品・使用開始できるかどうかを確認することが欠かせません。決算ギリギリに購入しても、納品が翌期になった場合は翌期の経費扱いになるため、スケジュール管理が重要です。


こうした年間の税務・財務戦略の設計が難しいと感じる場合は、青色申告に対応した会計ソフト(マネーフォワードクラウド確定申告・弥生会計・freeeなど)で試算機能を活用し、税理士への相談と組み合わせる方法が現実的です。年間の顧問料を払ってでも、1回の即時償却の恩恵が顧問料を上回るケースは珍しくありません。結論はシンプルです。「利益の山が高い年度に集中投資する」という原則を覚えておきましょう。


参考:国税庁タックスアンサー 所得税の税率(個人事業主の課税所得と税率の対応表。節税効果の試算に活用できる)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm