税込経理から税抜経理への変更で節税できる方法と注意点

税込経理から税抜経理への変更で節税できる方法と注意点

税込経理・税抜経理の変更で法人税まで変わる仕組みと実践ポイント

税込経理を使い続けていると、本来払わなくてよい税金を前払いしていることがあります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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変更に届出は不要

税込経理から税抜経理への変更(またはその逆)に、税務署への届出は一切不要。期首のタイミングで実務上の処理を変えるだけで対応できます。

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税抜経理で節税できるケースが多い

少額減価償却資産の特例(10万円未満・30万円未満)や交際費の1万円判定は、税抜経理の方が有利に働く場面が多く、法人税の圧縮につながります。

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変更時は棚卸資産・注記に注意

経理方式を変更すると「重要な会計方針の変更」として個別注記表への記載が必要です。また棚卸資産の評価額の整合性にも注意が必要です。


税込経理と税抜経理の変更:基本と仕訳の違い

消費税の経理処理には「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2種類があります。どちらを選ぶかは事業者の自由であり、税務署への届出も一切必要ありません。つまり、次の期首から処理を変えるだけで、実務上の変更が完了します。


両者の最大の違いは、仕訳のやり方にあります。例えば、税抜1万円(税込1万1,000円)の消耗品を購入した場合を見てみましょう。



















方式 借方 貸方
税込経理 消耗品費 11,000円 現金 11,000円
税抜経理 消耗品費 10,000円
仮払消費税等 1,000円
現金 11,000円


税込経理は消費税を含めた総額で記帳するシンプルな方式です。一方、税抜経理は本体価格と消費税を「仮払消費税等」「仮受消費税等」という勘定科目に分けて管理します。


仕訳が増える分だけ手間がかかるのが税抜経理のデメリットです。ただし、現代では弥生会計・freee・マネーフォワード等の会計ソフトが自動で消費税を分計してくれるため、実務上の負担はほぼゼロに近くなっています。これは使えそうです。


なお、消費税の免税事業者は税込経理しか選択できないという点は重要なルールです。インボイス登録を機に課税事業者になった方は、税抜経理への変更を検討できるタイミングになります。


参考:国税庁タックスアンサー「No.6375 税抜経理方式または税込経理方式による経理処理」では、仕訳の具体例と法令根拠が確認できます。


国税庁|No.6375 税抜経理方式または税込経理方式による経理処理


税込経理から税抜経理に変更するタイミングと手続きの流れ

前述の通り、経理方式の変更に税務署への届出は不要です。しかし「いつから変更できるのか」については、注意が必要です。


原則として、期首(事業年度の開始日)からの変更が実務上のスタンダードです。期中(年度の途中)からの変更は、同一年度内で処理方式が混在することになり、棚卸資産や固定資産の評価額に矛盾が生じやすいため、基本的には避けるべきとされています。


期首から変更する場合の大まかな手順は以下の通りです。



  • 📌 Step 1:会計ソフトの設定変更 弥生・freee・マネーフォワードなどであれば、事業所設定または税設定の画面から消費税の経理方式を「税込」→「税抜」に切り替えます。

  • 📌 Step 2:棚卸資産の期首残高の確認 前期まで税込経理だった場合、繰越された棚卸資産の残高は税込金額のままです。期首の棚卸資産はそのまま引き継ぐのが原則で、さかのぼって税抜に修正する必要はありません。

  • 📌 Step 3:個別注記表への記載 法人の場合、経理方式の変更は「重要な会計方針の変更」に該当するため、決算時の個別注記表にその旨と影響額を記載する必要があります。

  • 📌 Step 4:固定資産台帳の確認 変更前に取得した固定資産の取得価額は、変更前の方式のままで減価償却を継続します。さかのぼっての修正は認められません。


個人事業主の場合も基本的な考え方は同じです。前年が免税事業者だった場合、期首の棚卸資産は前年末の税込金額をそのまま引き継いで構いません。これが原則です。


変更の翌期から、新しい方式で全取引を統一的に処理していくことが重要なポイントです。


参考:国税庁「No.6905 税抜経理と税込経理の選択適用(法人の場合)」には、法人の選択適用に関する法令根拠と、混用が認められる範囲が詳しく記載されています。


国税庁|No.6905 税抜経理と税込経理の選択適用(法人の場合)


税込経理と税抜経理の変更が減価償却・少額資産特例に与える影響

経理方式の変更が最も直接的に影響するのが、固定資産の取得価額の判定です。これを知らないと、数万円単位の税負担の差が生まれます。


消耗品費として一括経費にできる少額減価償却資産の金額基準は、以下のように経理方式によって判定ベースが変わります。




























資産区分 金額基準 税抜経理での判定 税込経理での判定
少額減価償却資産 10万円未満 税抜価格で判定 税込価格で判定
一括償却資産 20万円未満 税抜価格で判定 税込価格で判定
中小企業特例(30万円未満) 30万円未満 税抜価格で判定 税込価格で判定


具体例で見てみましょう。税抜98,000円(税込107,800円)のパソコンを購入した場合です。


税抜経理であれば98,000円として判定されるため「10万円未満」となり、購入した年に消耗品費として全額を経費計上できます。一方、税込経理では107,800円で判定されるため「10万円以上」となり、資産計上のうえ耐用年数(パソコンであれば4年)にわたって減価償却しなければなりません。


つまり、同じパソコンを同じ金額で買っても、税込経理では「その年の経費にならない」ということです。痛いですね。


中小企業者等が使える「30万円未満特例」でも同様の差が生まれます。例えば税抜28万円(税込30.8万円)の業務用機材を購入した場合、税抜経理なら28万円で30万円未満と判定され、全額を即時に損金算入できます。税込経理だと30.8万円となり特例の対象外となってしまいます。


設備投資が多い会社ほど、この差が積み重なります。年に複数台のPCや機材を購入するようなオフィスでは、税込経理のままでいると毎年数十万円単位で損をする可能性があります。これが基本です。


なお、2026年4月1日以降、この特例の上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられる予定とされており、税抜経理を採用しておくメリットはさらに大きくなる見込みです。


参考:少額減価償却資産の特例や交際費の経理方式別判定について詳しく解説している税理士事務所のブログです。具体的な数字と仕訳例で理解しやすく整理されています。


石秀税理士事務所|消費税の「税込経理方式」と「税抜経理方式」の違いと実務への影響


税込経理から税抜経理への変更で交際費・棚卸資産はどう変わるか

税抜経理への変更によるメリットは、固定資産の判定だけではありません。日常的な接待費の処理にも影響があります。


令和6年度の税制改正により、1人あたり1万円以下の接待飲食費は「交際費等」から除外され、会議費として全額を損金算入できるようになりました。この「1万円」の判定基準も、採用している経理方式によって変わります。


例えば、取引先と3人で会食し、税抜9,700円(税込10,670円)を支払った場合を考えましょう。1人あたりに換算すると、税抜経理では1人あたり約3,233円(9,700円÷3)で判定します。一方、税込経理では1人あたり3,557円(10,670円÷3)となります。この例では両方とも1万円以下なので問題ありませんが、1人あたりの飲食費がギリギリ1万円前後になるようなケースでは、大きな差が生まれます。


もう少し金額が大きいケースで見てみましょう。税抜9,500円(税込10,450円)の飲食を1人でした場合、税抜経理なら9,500円で「1万円以下」と判定され会議費扱いになります。税込経理では10,450円となり「1万円超」のため交際費となり、損金算入の制限がかかります。これは知っていると得するポイントです。


次に、棚卸資産の変更時の扱いについて整理します。



  • 🔸 期首の棚卸資産はそのままの金額で引き継ぐ 前期末(=当期首)の棚卸資産の残高は、前の経理方式の金額のままで構いません。税込から税抜に変更したからといって、期首の棚卸額を税抜価格に組み替え直す必要はありません。

  • 🔸 期末の棚卸は新しい方式で評価 変更した期の期末棚卸は、新しい方式(税抜)で評価します。つまり変更年度の損益計算書上では、期首棚卸高(税込)と期末棚卸高(税抜)が混在することになります。

  • 🔸 棚卸資産の明細書類を7年間保存 特に免税事業者から課税事業者に変わる場合、棚卸資産に関する書類は確定申告期限から原則7年間の保存が義務付けられています。


期首の棚卸が税込、期末が税抜となる混在状態は一見不自然に見えますが、これは税法上認められた処理です。変更した期のみの現象であり、翌期以降は税抜ベースで統一されます。一時的な混在と割り切って対応しましょう。これだけ覚えておけばOKです。


税込経理が有利になる例外パターンと経理方式変更の独自チェックポイント

ここまで税抜経理のメリットを中心に解説してきましたが、すべてのケースで税抜経理が有利とは限りません。意外ですね。実は、税込経理の方が有利になる場面も存在します。


税込経理が有利になる代表的なケースとして、まず特別償却税額控除などの税制優遇措置が挙げられます。「取得価額が〇〇万円以上の設備投資をした場合に特別控除が受けられる」というタイプの優遇措置では、取得価額が大きい方がギリギリで要件をクリアできる可能性があります。税込経理の方が取得価額が大きくなるため、このようなラインを狙う際には有利に働くことがあります。


また、簡易課税制度を利用している中小企業では、税込経理を選んでも実務上の不便が少ないとされています。前々年度の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象の簡易課税制度では、課税仕入れの明細を厳密に管理する必要がないため、仮払消費税等を細かく計上するメリットが薄れる側面があります。処理が簡単なのも利点です。


さらに、あまり語られない視点として「期中の損益の見え方」の違いがあります。税込経理では期中の売上高が消費税込みで大きく見えるため、「業績が良さそう」に映ることがあります。銀行融資の審査を控えていたり、社内向けに数字のインパクトを重視する場面では、これが意図せずプラスに作用することもあります。一方、投資家向けの財務報告や経営管理の観点では、消費税込みの数字は実態を見えづらくするため、税抜経理での実力値把握が推奨されます。


では、経理方式の変更を検討すべきかどうか、実務的な判断基準を整理しましょう。以下のいずれかに当てはまる場合は、税抜経理への変更を具体的に検討する価値があります。



  • 年間10万円前後の備品・消耗品を複数購入している:少額減価償却資産の特例が使えるかどうかで、年間の法人税が変わります。

  • 接待交際費が月数万円以上ある:1人あたり1万円前後の飲食が多い会社では、税抜経理の方が「会議費」扱いにしやすくなります。

  • 毎月の損益を正確に把握したい:期中に消費税を分離しておくことで、月次の経営判断がよりシャープになります。

  • 「なんとなく昔から税込経理」のままになっている:見直さずに放置しているだけで、毎年損をしている可能性があります。


逆に、以下のようなケースでは税込経理のままでも問題は少ないと考えられます。



  • 免税事業者のまま(インボイス未登録):この場合は税込経理一択となります。

  • 備品購入がほとんどなく、交際費も少額:方式による差が出る場面が少ないため、変更の優先度は低くなります。

  • 特別償却の要件をギリギリで狙っている:税込金額の方が要件クリアに有利な場合があります。


経理方式の選択は「どちらでも同じ」ではなく、会社の状況によって最適解が変わります。結論は「状況次第で判断する」が正解です。気になる方は、顧問税理士に現状を伝えたうえでシミュレーションしてもらうのが最も確実です。税理士ドットコムや地域の税理士紹介サービスを使えば、初回相談無料で意見を聞けることが多いので、一度確認する価値はあります。


参考:国税庁「No.6905 税抜経理と税込経理の選択適用(法人の場合)」は、混用が認められる範囲や法人・個人の違いをまとめた公式の一次情報です。


国税庁|No.6905 税抜経理と税込経理の選択適用(法人の場合)