免税事業者とインボイス経過措置の終了と控除率の変化

免税事業者とインボイス経過措置の終了と控除率の変化

免税事業者へのインボイス経過措置、終了と控除率の全変化

帳簿に「80%控除対象」と一言書かないだけで、あなたの控除がゼロになります。


📋 この記事の3つのポイント
📉
経過措置は2031年9月まで5段階で縮小

令和8年度税制改正で、当初3段階だったスケジュールが5段階に細分化。2026年10月から80%→70%→50%→30%→0%と段階的に控除率が下がる。終了時期も2年延長され、2031年9月まで。

⚠️
経過措置は「帳簿への一文」がないと適用されない

事前届出は不要だが、帳簿に「経過措置の適用を受ける旨」の記載がないと、要件を満たさず控除がゼロに。申告時に気づいても遡及修正は困難なため要注意。

💡
2割特例→3割特例、個人事業者は知らないと大損

2026年10月以降、個人事業者向けに「3割特例」が新設(令和9〜10年分)。しかし事業区分によっては簡易課税の方が有利なケースもあり、事前シミュレーションが必須。


免税事業者からの仕入れに係るインボイス経過措置の基本的な仕組み


2023年10月にスタートしたインボイス制度では、原則として適格請求書(インボイス)のない取引からは仕入税額控除を受けられません。しかし、制度開始と同時に取引先のすべてがインボイス発行事業者になれるわけではなく、特に免税事業者との長期取引がある課税事業者は一気に税負担が増大する可能性がありました。


この急激な負担増を和らげるために設けられたのが「仕入税額控除の経過措置」です。つまり、免税事業者からの課税仕入れであっても、一定期間・一定割合の消費税を控除できる仕組みです。


たとえばイメージしやすい例として、免税事業者から年間550万円(税込・税率10%)の仕入れをしている場合を考えます。含まれる消費税相当額は50万円です。経過措置がなければこの50万円は1円も控除できません。しかし現行の80%控除期間中は40万円を控除でき、自己負担はわずか10万円に抑えられています。これが措置の核心です。


経過措置は、免税事業者だけでなく「消費者から中古品を買い取る場合」や「インボイス未登録の課税事業者からの仕入れ」にも適用されます。対象は広いということです。


対象となる取引 具体例
免税事業者からの仕入れ 年商1,000万円以下のフリーランス個人事業主との取引
消費者からの仕入れ 中古品ショップが一般消費者から商品を買い取るケース
インボイス未登録の課税事業者 登録申請をしていない事業者との取引全般


経過措置の適用に事前申請や届出は不要です。ただし「不要」なのは申請だけで、帳簿・請求書の要件は必須です。この点を誤解していると、後で控除が認められない事態になります。詳しくは次の見出しで解説します。


参考:仕入税額控除の経過措置の要件について(freee)
https://www.freee.co.jp/kb/kb-invoice/invoice_transitional_measures/


免税事業者との取引でインボイス経過措置を受けるための帳簿・請求書の要件

経過措置を適用するには、帳簿と請求書の両方で要件を満たさなければなりません。どちらか一方でも不備があれば、その取引の控除はゼロになります。厳しいところですね。


まず帳簿には、以下の4項目の記載が必要です。


  • 取引相手の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(経過措置の適用を受ける課税仕入である旨
  • 支払対価の額


特に見落としやすいのが「経過措置の適用を受ける旨」の記載です。「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」といった文言を取引ごとに入れる必要があります。記号でも代替でき、たとえば対象取引に「※」を付けて欄外に「※は80%控除対象」と記せば要件を満たします。


これは帳簿の記載ルールが原則です。


次に請求書(または領収書)側では、以下の項目が揃っていれば問題ありません。


  • 発行者の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率対象品目がある場合はその旨)
  • 税率ごとに合計した税込価格
  • 受領者の氏名または名称


インボイスとの決定的な違いは、登録番号が不要な点です。免税事業者は登録番号を持っていないため、その代わりに区分記載請求書等と同様の記載内容が確認できればOKです。


会計ソフトを使っている場合は、摘要欄に「経過措置対象」と自動入力されるよう設定しておくことを強くおすすめします。手入力だと記載漏れが起きやすく、税務調査で一括否認されるリスクがあります。1件の記載漏れが思わぬ損失につながりかねません。


また、取引先が適格請求書発行事業者かどうかは、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で登録番号から確認できます。年に1回は全取引先の登録状況をチェックする習慣をつけておくと安心です。


参考:国税庁・インボイス制度Q&A(仕入税額控除の要件)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-15.pdf


令和8年度改正で免税事業者インボイス経過措置の控除率と期間はどう変わるか

令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)によって、経過措置は大幅に見直されました。当初3段階だった控除率の引き下げスケジュールが、5段階に細分化されています。これは使えそうです。


適用期間 改正前(旧) 改正後(新)
〜2026年9月30日 80% 80%(変更なし)
2026年10月1日〜2028年9月30日 50% 70%(新設)
2028年10月1日〜2030年9月30日 50% 50%
2030年10月1日〜2031年9月30日 0% 30%(新設)
2031年10月1日〜 0% 0%(終了)


注目すべきは2026年10月時点の変化です。改正前は「80%→50%」と一気に30ポイントも下がる予定でした。免税事業者から年間550万円(税込)の仕入れをしている場合、自己負担が10万円から25万円へと一気に15万円の増加という厳しい状況でした。


改正後は70%が経由点として入ったため、2026年10月時点の負担増は5万円にとどまります。各フェーズでの増加幅が10〜20ポイントに均された形です。


また、経過措置の終了時期も2029年9月から2031年9月へと2年延長されました。追加の準備期間が生まれたことになります。


この改正の影響が特に大きいのは、建設業・小売業・飲食業など、免税事業者の下請けや個人事業者との取引が多い業種です。仕入先ごとの取引金額を洗い出し、2026年10月以降の負担増を実数で試算しておく必要があります。


参考:令和8年度税制改正・インボイス経過措置の見直し詳細(税理士法人小原会計)
https://tax-ohara.jp/blog/detail/20260216100100/


参考:2026年10月改正・仕入税額控除の経過措置が2年延長(創業手帳)
https://sogyotecho.jp/inputtaxcredit-extension/

免税事業者向け2割特例が終了し、個人事業者は3割特例に移行する実務影響


免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)に転換した小規模事業者向けの「2割特例」は、令和8年(2026年)9月30日をもって終了します。この特例は、消費税の納付額を売上税額の2割に抑えられる非常に使い勝手のいい制度でした。

2割特例は原則です。しかし改正後は、個人事業者と法人で扱いが分かれます。


  • 🏢 法人:2026年9月30日をもって2割特例は終了。その後は本則課税または簡易課税への移行が必要。

  • 👤 個人事業者:令和9年分・令和10年分(2027年・2028年)の2年間に限り、売上税額の「3割」を納税額とする「3割特例」が新設。



2割から3割への変更で、個人事業者の納税額は単純に1.5倍になります。これは痛いですね。もし年間の売上税額が100万円だとすれば、これまで20万円の納税が30万円になるという計算です。

重要なのは「3割特例を選ぶのが常に正解ではない」という点です。
簡易課税制度では、事業区分ごとの「みなし仕入率」を売上税額に乗じて控除額を計算します。例えば卸売業(第1種:みなし仕入率90%)や小売業(第2種:80%)の場合、簡易課税を選んだ方が3割特例より実質的な納税額が低くなるケースがあります。


事業区分 みなし仕入率 3割特例との比較
卸売業(第1種) 90% 簡易課税が有利な場合多い
小売業(第2種) 80% 簡易課税が有利な場合多い
建設業・製造業(第3種) 70% ケースによる
飲食店業(第4種) 60% 3割特例が有利な場合も
サービス業(第5種) 50% 3割特例が有利なことが多い
不動産業(第6種) 40% 3割特例が有利なことが多い


なお、簡易課税制度を利用するには事前の届出が必要です。令和9年分(2027年分)から適用したい個人事業者は、2026年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。期限に注意が必要です。


3割特例か簡易課税かの判断は、自分の事業区分と仕入れ規模によって変わります。顧問税理士や税務署への相談を経て、事前にシミュレーションを行うことが欠かせません。


参考:インボイス制度「経過措置」見直し・2割特例から3割特例への移行(澤田公認会計士・税理士事務所)
https://sawada-cpta.com/blog/transitional-measures-for-the-invoice-system/


免税事業者との取引における少額特例との違いと経過措置の賢い使い分け

インボイス制度の経過措置の話をするとき、よく混同されるのが「少額特例」との関係です。名前が似ていますが、目的も対象も全く異なります。この違いが分かると、実務の幅が広がります。


少額特例とは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存なしで仕入税額控除(100%)を受けられる制度です。基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限って利用できます。対象期間は2023年10月から2029年9月までです。


ここが重要な比較ポイントです。


  • 📌 少額特例:税込1万円未満の取引なら、免税事業者からの仕入れでも100%控除可能。ただし売上高に要件あり。
  • 📌 経過措置(80%等控除):取引金額に関係なく、免税事業者等からの仕入れに段階的な控除率を適用。売上高の制限なし。
  • 📌 両制度は併用可能:1万円未満の取引は少額特例で100%、1万円以上の取引は経過措置で80%(現在)の控除、という使い分けができます。


なお、少額特例には「1件1万円未満」という判定ルールがあります。同一日に9,000円と8,000円の仕入れを別々に行った場合は、それぞれ1万円未満として少額特例が使えます。一方、同一の請求書で合計1万円以上になる場合は少額特例の対象外になるため、注意が必要です。


また、令和8年度改正では少額特例の上限要件が「税込1億円」に引き下げられる方針も示されています。現在は事実上すべての中小事業者が対象ですが、改正後は年商1億円超の事業者は少額特例を使えなくなる可能性があります。自社の課税売上高が1億円前後の場合は特に注意して確認しておきましょう。


経過措置と少額特例、どちらも上手に組み合わせることで、仕入税額控除の損失を最小化できます。これが条件です。会計ソフトの設定で、取引金額ごとに自動振り分けができる仕組みを整えておくと、日常業務での対応漏れを防ぐことができます。


参考:少額特例の概要と適用要件(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/02.htm


免税事業者インボイス経過措置終了後を見据えた中長期的な資金・取引先の対応策

経過措置は2031年9月で完全終了します。その後は免税事業者からの仕入れに係る消費税を1円も控除できません。終了は確実です。だからこそ、今から段階的に準備を進めておくことが経営リスクの最小化につながります。


まず取り組むべきは、免税事業者からの仕入れ金額の実態把握です。会計ソフトや取引先マスタを活用し、「適格請求書発行事業者かどうか」を全取引先に対して分類してください。そのうえで、2026年10月・2028年10月・2030年10月という3つの切り替えポイントで、自社の消費税負担がどう増えるかを数字で試算します。


次に取引先との交渉が必要になる局面です。控除できない消費税分をどちらが負担するかは、取引先との協議によって決まります。ただし、課税事業者側が一方的に値引きを迫ることは、下請法や独占禁止法に抵触するリスクがあるため、丁寧な交渉が求められます。


  • 💬 値引き交渉ではなく「コスト増加の共有」として話し合う
  • 📋 取引先がインボイス登録を検討している場合は、登録方法の情報提供をサポートとして行う
  • 🔄 代替取引先の確保を並行して検討し、交渉の選択肢を広げておく


会計システム面では、控除率の段階的変更に対応できる設定が必要です。2026年10月に80%→70%へ切り替わる際に、会計ソフトの設定変更を忘れると過剰控除または過少控除が発生します。切り替え前に確認することが大切です。


最後に、資金計画への反映です。経過措置終了後の2031年10月以降、年間の消費税負担がどれだけ増えるかを試算しておくと、キャッシュフローの見通しが立てやすくなります。影響額が大きい場合は、金融機関との事前相談や融資枠の確保も選択肢に入ります。「まだ先の話」と感じるかもしれませんが、税制は事前準備が早いほど有利です。顧問税理士への相談を今のうちから始めておくと、戦略の選択肢が広がります。


参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html




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