みなし仕入率で決まる消費税の節税と落とし穴

みなし仕入率で決まる消費税の節税と落とし穴

みなし仕入率を正しく使えば消費税の納税額は大きく変わる

簡易課税を選んでいる事業者のうち、業種区分を一度も確認していない人は毎年数十万円単位で損をしている可能性があります。


この記事でわかること
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みなし仕入率の基本と6段階の業種区分

第1種(卸売業)90%〜第6種(不動産業)40%まで、どの業種がどの区分に該当するかを整理します。

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業種区分ミスが起こす損失と「最低率の罰則」

複数事業を営む場合に区分を怠ると、自動的に最も低いみなし仕入率が適用されます。知らないと大きな損です。

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2割特例・75%ルール・簡易課税の賢い選び方

業種・売上規模・設備投資計画によって最適な制度は異なります。判断基準を具体的な数字で解説します。


みなし仕入率とは何か:簡易課税制度の基本的な仕組み

消費税の納税方法には、大きく分けて「原則課税(本則課税)」と「簡易課税」の2種類があります。原則課税では、売上にかかる消費税から実際の仕入れ経費にかかった消費税を差し引いて納税額を計算します。一方、簡易課税では、実際の仕入れ消費税を一切集計せず、売上消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けるだけで仕入税額控除が算出できます。


これが原則です。


みなし仕入率は、国が業種別の平均的な仕入比率をもとに定めた概算率で、第1種(卸売業)から第6種(不動産業)まで6段階に分かれています。以下の表がその区分です。







































事業区分 該当する業種 みなし仕入率
第1種事業 卸売業(他の事業者に販売) 90%
第2種事業 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡) 80%
第3種事業 建設業・製造業・鉱業・電気業など 70%
第4種事業 飲食店業・その他(第1〜3・5・6種以外) 60%
第5種事業 金融・保険業、運輸通信業、サービス業 50%
第6種事業 不動産業 40%


みなし仕入率が高いほど控除できる消費税額が増えるため、納税額は少なくなります。つまり、自分の事業が正しい区分で申告されているかどうかが、納税額に直結するわけです。


簡易課税は、基準期間(個人事業主なら前々年、法人なら前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下で、かつ事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署に提出した事業者が選択できます。基準が条件です。


具体的な計算式はシンプルです。たとえばサービス業(第5種・みなし仕入率50%)で年間課税売上が1,100万円(消費税100万円)の場合、仕入税額控除は100万円 × 50% = 50万円、納付税額は100万円 − 50万円 = 50万円となります。実際にいくら経費を使っていても、この計算式だけで納税額が決まります。これは使えそうです。


参考:国税庁 No.6505「簡易課税制度」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm


みなし仕入率の業種区分で「間違えやすい判定」を事例で解説

業種区分の判定は、一見シンプルに見えて実は複雑です。同じ商品を扱っていても、誰に売るかによって事業区分が変わることがあります。


典型的な例が「卸売業と小売業の違い」です。仕入れた商品をそのまま他の事業者に販売すれば第1種(みなし仕入率90%)、消費者に販売すれば第2種(80%)となります。販売先が「事業者か消費者か」という一点で、みなし仕入率が10%も変わります。売上が1,000万円の場合、消費税10%の売上消費税は100万円。みなし仕入率が90%と80%とでは、仕入税額控除が90万円か80万円かの差となり、納税額で10万円違ってきます。


金融や不動産に関わる方が特に注意すべきケースがあります。不動産業は第6種(40%)ですが、不動産の売買と賃貸業を両方営んでいる場合でも、どちらも第6種に分類されます。一方、建物管理業(いわゆるビル管理や清掃)はサービス業として第5種(50%)に分類されることが多く、同じ「不動産関連」でも区分が変わります。


「金融業は第5種(50%)」という点も意外と知られていません。証券会社や保険代理業など、金融・保険業全般はサービス業と同じく第5種に位置します。金融に興味がある個人投資家が副業として保険代理業を始めた場合、50%が適用されます。つまり受け取った消費税の半額を納める計算になります。


飲食店業は第4種(60%)ですが、ホテルの宿泊サービスは第5種(50%)です。同じ宿泊施設内のレストランが独立して料金を受け取れる形式(飲食店業)であれば第4種、宿泊料込みで「1泊2食2万円」といった一体型の場合は全額が第5種(宿泊)として扱われます。この区分の違いだけで納税額が変わるので、宿泊業を営む方は特に注意が必要です。


また、製造業の中でも「加工賃のみを受け取る外注加工業者」は第3種(70%)ではなく第4種(60%)になります。製造に使う原材料を自分で用意しているかどうか、が判定の分かれ目です。原材料を自己調達してモノを作れば第3種、顧客から預かった材料を加工するだけなら第4種という扱いになります。


業種区分の詳細な判定フローについては、国税庁の質疑応答事例が参考になります。


参考:国税庁「簡易課税の事業区分について(フローチャート)」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/20/02.htm


みなし仕入率を「区分しないと40%」になる怖いルールと複数事業の計算

複数の事業を営んでいる方が見落としがちな、非常に重要なルールがあります。2種類以上の事業を行っている場合、事業ごとに売上を区分して帳簿に記録しなければなりません。これを怠ると、どれだけみなし仕入率の高い事業を行っていても、全体の売上に対して最も低いみなし仕入率が強制適用されるというペナルティが発生します。


厳しいところですね。


たとえば、卸売業(第1種・90%)と不動産業(第6種・40%)を両方営んでいる事業者が、売上の区分を帳簿上していなかった場合、全体の課税売上に対して40%のみなし仕入率しか使えなくなります。この差は非常に大きく、課税売上消費税が200万円あれば、区分すれば(卸売業が大半なら)170万円以上の控除が得られるところが、区分しなければ80万円の控除にとどまってしまいます。区分のあるなしで、年間90万円以上の差が生じる計算です。


これは日常の帳簿記帳の段階で防げる問題です。


複数の事業を営む場合の計算方法には、「原則的な方法(加重平均)」と「75%特例(簡便法)」の2種類があります。原則では業種別に売上消費税を集計し、それぞれのみなし仕入率を掛けた合計を仕入税額控除とします。一方で、75%特例は手続きが大幅に楽になります。


75%特例の内容は以下の通りです。


- 1種類の事業が全体の75%以上の場合:その事業のみなし仕入率を全売上に適用してよい
- 2種類の事業の合計が全体の75%以上の場合(3種類以上の場合):その2種類にはそれぞれの率を適用し、残り(25%未満)には2種類の中で低い方の率を適用してよい


実際の計算例を見てみましょう。卸売業(第1種・90%)の売上が5,000万円、小売業(第2種・80%)の売上が3,000万円、不動産業(第6種・40%)の売上が2,000万円、合計1億円の事業者を想定します。


卸売業+小売業の合計が8,000万円で、全体の80%を占めます(≥75%)。この場合、75%特例を適用すると、不動産業の2,000万円分にも第2種(80%)を適用できます。原則計算では不動産業に40%しか使えないので、特例の方が控除が多くなり有利です。この場合の差額は(80% − 40%)× 200万円(=2,000万円×10%)= 80万円もの違いが出ます。


75%特例の詳細については、税理士による解説記事が参考になります。


参考:みかげ会計事務所「2種類以上の事業を営む場合のみなし仕入率の計算方法」
https://www.mikagecpa.com/archives/7768/


みなし仕入率と2割特例の有利・不利を業種別に比較する

インボイス制度の開始(2023年10月)に伴い、もともと免税事業者だった方が課税事業者になったケースを対象に「2割特例」という新しい計算方法が設けられました。2割特例は業種に関わらず一律で「売上消費税の20%を納税する」というシンプルな制度で、これは実質的にみなし仕入率80%に相当します。


2割特例の適用期間は、個人事業主なら2025年(令和7年)分、2026年(令和8年)分の確定申告まで(令和8年9月30日までの課税期間)です。期限があります。


簡易課税のみなし仕入率と2割特例を、業種別に比較すると次のようになります。













































事業区分 簡易課税のみなし仕入率 2割特例(実質) 有利な制度
第1種(卸売業) 90% 80% ✅ 簡易課税
第2種(小売業) 80% 同等
第3種(建設・製造) 70% 80% ✅ 2割特例
第4種(飲食業など) 60% 80% ✅ 2割特例
第5種(金融・サービス) 50% 80% ✅ 2割特例
第6種(不動産業) 40% 80% ✅ 2割特例


金融業・保険業・サービス業(第5種)のように、みなし仕入率が50%の業種では、2割特例を使うと実質80%の控除が受けられることになります。これは非常に大きな差です。課税売上消費税が100万円あれば、簡易課税では50万円しか控除できないのに対し、2割特例では80万円の控除が可能。納税額は50万円から20万円へと30万円の節税になります。


ただし、2割特例には注意点もあります。


- 2割特例は「もともと免税事業者だった方がインボイス登録を機に課税事業者になった場合」が対象です。最初から課税事業者だった方は対象外です
- 2割特例は事前届出が不要で、申告書に記載するだけで使えます。一方、簡易課税は課税期間が始まる前日までに「簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です
- 2割特例適用後に簡易課税に移行する場合も、通常の届出期限ルールの特例が認められています(インボイス特例適用事業者向けの経過措置あり)


参考:invoice.ne.jp「みなし仕入れ率はインボイス制度でどうなる?簡易課税・2割特例との比較」
https://media.invoice.ne.jp/column/invoices/deemed-purchase-rate-invoice.html


みなし仕入率と簡易課税の「落とし穴」:設備投資年は損をする構造

簡易課税・みなし仕入率の活用には、見落とされがちなデメリットがあります。それが「設備投資年の損失問題」と「2年間の縛り」です。


簡易課税は、実際の仕入れや経費にかかった消費税とは無関係に、みなし仕入率を使って計算します。これが通常時は「みなし率が実際より高ければ節税」として機能しますが、大きな設備投資をした年にはまったく逆の効果をもたらします。


具体的に考えてみましょう。たとえば、サービス業(第5種・50%)の事業者が、課税売上消費税100万円の事業年度に3,300万円(税込)の設備投資をしたとします。設備投資にかかる消費税は300万円です。原則課税であれば、支払った消費税300万円を仕入税額控除に算入できるため、納税額は100万円(売上消費税)− 300万円(仕入消費税)= マイナス200万円、つまり200万円の還付を受けられます。


痛いですね。


しかし簡易課税では、支払った設備投資の消費税は一切考慮されません。みなし仕入率50%で計算するため、仕入税額控除は100万円 × 50% = 50万円。納税額は50万円となり、200万円の還付を受けるどころか、逆に50万円を納税しなければなりません。この1件だけで250万円の差が生まれます。


そしてここに「2年縛り」という問題が重なります。簡易課税を一度選択すると、原則として2年間は原則課税に戻れません。1年目に設備投資で損をしても、2年目も簡易課税のまま継続されます。大規模な設備投資・リノベーション・店舗開設などを予定している場合は、その前年から逆算して選択を切り替えるタイミングを判断することが重要です。


2年縛り内の対処として、税理士への相談が最も確実な対策です。課税期間開始前に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することで解除できますが、提出期限を逃すと原則2年間は変更できません。毎年のキャッシュフロー計画の中で、消費税の選択も含めて見直す習慣を持つことが、長期的な節税につながります。


参考:freee「簡易課税制度とは?申告方法やメリット、デメリットを解説」
https://www.freee.co.jp/kb/kb-accounting/simplified-tax-system/


みなし仕入率を最大限に活かす:業種・状況別の選択戦略まとめ

ここまで解説した内容を整理して、実際の選択判断に活かせる視点をまとめます。みなし仕入率を活用した消費税の選択は、「業種」「売上規模」「設備投資の有無」「複数事業の構成」という4つの軸で考えると判断しやすくなります。


まず「業種」の観点です。卸売業(90%)は簡易課税が圧倒的に有利です。実際の仕入率が70%程度でも、みなし仕入率90%を使えるため、差額分が実質的な節税になります。一方、金融・保険業・不動産業・サービス業(50%・40%)の方は、原則課税との比較が必要です。実際の仕入率・経費率がみなし仕入率を上回る業種では、原則課税の方が有利なケースが多くあります。


「売上規模」の観点では、課税売上高5,000万円以下が簡易課税の要件です。売上が安定して1,000万円程度の小規模事業者の場合、経理の手間を省く目的で簡易課税を選ぶことには合理性があります。ただし節税効果は業種によって大きく異なります。


「設備投資の有無」は、前述の通り最も注意が必要な判断軸です。2年以内に大きな設備投資・店舗改装・機器購入を予定している場合は、簡易課税より原則課税を選ぶ方が有利になる可能性があります。設備投資の規模と売上の比較が判断の鍵です。


「複数事業の構成」では、75%特例を活用できるかどうかが重要なポイントになります。1種類の事業が75%以上を占めている場合、全体にその率を適用できるため、計算も簡便で節税効果も高くなります。区分管理の手間を惜しんで区分しない場合は、最低率が強制適用されるリスクがあります。これは原則です。


金融に関わる方の独自視点として、覚えておきたい点があります。副業や資産運用の収益には消費税がかからないもの(株式の配当・利子・為替差益など)が多く、課税売上高の計算に影響しない場合があります。しかし、たとえば不動産賃貸収入(課税)と株式売却(非課税・課税売上割合に影響)が混在する場合、原則課税では課税売上割合の計算が複雑になります。このような場面でも簡易課税はインボイスの管理や按分計算が不要になるため、事務負担の軽減として大きなメリットになり得ます。


最終的な判断を一人でするのは難しいケースもあります。消費税の課税方法の選択は、開始前に届出が必要で後から変更できない制約があるため、毎期の申告に合わせて税理士に相談しながら判断することが最も確実な対策です。特に売上規模が変動しやすい個人事業主・フリーランスの方は、年1回のタイミングで今後の事業計画と照らし合わせて選択を見直す習慣が重要です。


参考:国税庁「事業の種類が区分されていない場合」(事業区分なしの場合に最低率が強制適用される根拠)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/20/10.htm