特別償却の要件と制度選択で節税を最大化する方法

特別償却の要件と制度選択で節税を最大化する方法

特別償却の要件と制度を正しく理解して節税を最大化する

特別償却の制度は「法人しか使えない」と思い込んでいると、従業員1,000人以下の個人事業主は年間数十万円単位の節税機会を丸ごと逃します。


この記事の3ポイント
📌
特別償却は「前倒し節税」

初年度に取得価額の30%を追加償却できる制度。税額は将来的に変わらないが、今の資金繰りを大きく改善できる。

⚖️
税額控除との選択が最大の分岐点

資金繰りが厳しければ特別償却、余裕があれば税額控除が一般的に有利。両方の同時適用は不可。

青色申告が前提条件

法人・個人を問わず、特別償却を受けるには青色申告が必須。申告書への明細書添付も忘れると適用が認められない。


特別償却の基本的な要件と仕組みを理解する


特別償却とは、租税特別措置法に基づき、一定の要件を満たす固定資産を取得した場合に、通常の減価償却費に加えて追加の償却額(特別償却額)を損金として計上できる優遇制度です。


通常の減価償却は、資産の耐用年数に応じて毎期少しずつ費用を計上していきます。例えば1,000万円の機械装置を耐用年数10年・定額法で償却する場合、毎年100万円ずつしか経費に計上できません。しかし特別償却を適用すれば、初年度に通常の100万円+特別償却300万円(取得価額の30%)=合計400万円を経費として計上できます。これは、東京都内の小規模オフィス家賃に換算すると4ヶ月分相当に近い金額です。


重要なのはこの点です。特別償却は税金が完全になくなる制度ではありません。資産の耐用年数が終わるまでに計上できる総償却額は変わらず、あくまでも「初期に多くの費用を前倒しで計上できる」という時期配分の仕組みです。ただし、設備投資直後の資金繰りが厳しい時期に現金負担を軽くできる効果は非常に大きく、事業拡大フェーズにある中小企業にとっては無視できない武器となります。


大前提として、特別償却を適用するには「青色申告」を行っていることが必要です。これが条件です。白色申告のまま設備投資をしても、特別償却は一切受けられません。青色申告への切り替えは、税務署への届出が必要で、法人は設立後3ヶ月以内、個人事業主は申請する年の3月15日までが提出期限です。


また、特別償却を申告する際には、確定申告書(法人税申告書)に「特別償却の付表」と「適用額明細書」を必ず添付する必要があります。これを忘れると、要件を満たしていても特別償却が認められなくなるので要注意です。


































項目 通常の減価償却 特別償却
初年度の経費計上 取得価額 ÷ 耐用年数(月割り) 通常分+取得価額の最大30%
総償却額 取得価額の全額 同左(変わらない)
月割り計算 必要 不要(期末取得でも30%可)
青色申告 不要 必須
申告書への添付書類 通常の別表のみ 特別償却の付表+適用額明細書


実はここに意外な特典があります。通常の減価償却では期中取得の資産は月割り計算が必要ですが、特別償却部分には月割りという概念がありません。3月決算の法人が2月末に機械を購入しても、取得価額の30%を丸ごとその期の特別償却として計上できます。これを知っておくと、決算直前の設備投資でも最大限に活用できます。


特別償却の要件を満たす3つの主要制度

特別償却を活用できる制度は1つではなく、目的と要件によって複数の制度が用意されています。つまり選択肢は多いということです。ここでは代表的な3制度を整理します。


中小企業投資促進税制


中小企業の設備投資を支援するもっともベーシックな制度です。資本金1億円以下の法人または従業員1,000人以下の個人事業主が、新品の機械装置など所定の資産を取得した場合に適用されます。取得価額の30%の特別償却、または取得価額の7%の税額控除を選択適用できます。事前の計画認定は不要で、届出なしで申告書に明細書を添付するだけで適用できる点が使いやすいポイントです。


対象設備の主な取得価額要件は下記のとおりです。



  • 機械装置:1台160万円以上

  • 測定・検査工具:1台120万円以上(または1台30万円以上かつ合計120万円以上)

  • ソフトウェア:70万円以上(複数合計でも可)

  • 貨物自動車:車両総重量3.5トン以上

  • 内航船舶:取得価額の75%相当が基準取得価額


② 中小企業経営強化税制


こちらはさらに強力な制度です。中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定を受けた事業者が対象で、条件を満たす設備については取得価額の100%即時償却または最大10%税額控除が可能です。ざっくり言うと、1,000万円の設備を購入したその年に1,000万円全額を経費計上できるということです。


機械装置(160万円以上)・工具(30万円以上)・器具備品(30万円以上)・建物附属設備(60万円以上)・ソフトウェア(70万円以上)が対象です。令和7年度税制改正では、B類型(収益力強化設備)に限り売上高100億円を目指す企業向けに建物も追加されました。


この制度の注意点は、事前に経営力向上計画の認定を受ける必要があることです。設備取得後から60日以内に申請すれば例外的に認められるケースもありますが、原則として取得前の認定が必要な点は押さえておきましょう。


③ 中小企業防災・減災投資促進税制


自然災害リスクへの対応を支援する制度です。事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業者が対象で、対象設備の18%(令和7年4月以降は16%)の特別償却が認められます。資本金の制限がない点が特徴で、大企業に近い規模の中小企業でも活用できます。自家発電設備、貯水タンク、防水シャッターなどが対象設備に含まれます。




























制度名 特別償却率 事前認定 主な対象設備
中小企業投資促進税制 30% 不要 機械装置・ソフトウェアなど
中小企業経営強化税制 100%(即時償却) 必要(経営力向上計画) 機械装置・建物附属設備など
中小企業防災・減災投資促進税制 18%(令和7年4月以降16%) 必要(事業継続力強化計画) 自家発電設備・防水シャッターなど


3つの制度は目的が異なります。シンプルに設備投資の節税をしたいなら投資促進税制、より大きな即時効果を狙うなら経営強化税制、防災対策を兼ねるなら防災・減災税制、という選び方が現実的です。


中小企業庁が公開している詳細なパンフレットは各制度の要件確認に役立ちます。


中小企業投資促進税制の最新情報(中小企業庁公式)


特別償却と税額控除、どちらを選ぶべきか数字で比較する

特別償却を活用できる制度の多くは、特別償却か税額控除かの選択適用になっています。この選択を誤ると、数十万円の差が生まれることもあります。


例えば中小企業投資促進税制を使って、資本金3,000万円以下の法人が1,000万円の機械装置を購入した場合を考えてみましょう。法定耐用年数10年(定額法)として計算します。



  • 特別償却の場合:初年度の償却費 = 通常100万円 + 特別償却300万円 = 400万円。課税所得が400万円圧縮されるため、法人税率約23%で計算すると約92万円の納税が減ります。ただし2年目以降の償却費は毎年100万円より少なくなります。

  • 税額控除の場合:取得価額1,000万円 × 7% = 70万円を法人税から直接差し引けます。通常どおりの減価償却(毎年100万円)も継続しながら、さらに70万円の税金が恒久的に安くなります。


総額で見ると、税額控除のほうが純粋な節税額(永続的な減税)は大きいケースが一般的です。一方で特別償却は初年度の現金流出を抑える効果が強く、今期の資金繰りを大幅に改善します。


短期的な資金繰り改善が優先なら特別償却、長期的な恒久節税を重視するなら税額控除が基本です。


また赤字企業の場合は注意が必要です。税額控除は法人税がゼロなら使えませんが(翌期1年のみ繰り越し可)、特別償却は赤字でも損金として計上でき、青色申告の欠損金繰越控除(最大10年)と組み合わせれば将来の黒字と相殺して節税に活用できます。赤字でも諦める必要はないということです。


一方、資本金3,000万円超1億円以下の法人は税額控除が選べず、特別償却(30%)しか適用できません。この点は事前に自社の資本金規模を確認しておきましょう。


国税庁タックスアンサー:中小企業投資促進税制の詳細要件(国税庁公式)


個人事業主が特別償却の要件を満たして使いこなす方法

「特別償却は法人だけの制度だ」と思っていると損をします。個人事業主でも条件を満たせば特別償却を活用できます。


個人事業主が特別償却を利用するための基本要件は2つです。①常時使用する従業員数が1,000人以下であること、②青色申告を行っていること。この2点が条件です。規模の大小にかかわらず、多くのフリーランスや小規模事業者が対象に入ります。


申告の手続きは法人と少し異なります。個人事業主が特別償却を申請する場合、青色申告決算書「減価償却の計算」の「割増(特別)償却費」の欄に特別償却額を記入し、確定申告書提出時に「償却限度額の計算に関する明細書」を添付します。法人で必要な「適用額明細書」は個人には不要な場合もありますが、制度ごとに確認が必要なため、国税庁のタックスアンサーや税務署で最新の手続きを確認しておきましょう。


業種の制限も確認が必要です。製造業・建設業・飲食業・小売業・情報通信業など幅広い業種で適用できますが、娯楽業(映画業を除く)や性風俗関連特殊営業は適用対象外です。銀行業・保険業なども除外されています。


特別償却を初年度に使い切れなかった場合、青色申告を連続して提出している事業者であれば「特別償却不足額」として翌期に繰り越すことができます。ただし繰越できるのは翌期1期分のみです。2期以上先への繰越はできないため、翌期で確実に活用できる計画を立てておきましょう。


個人事業主で特別償却の対象になる設備を検討している場合、会計ソフトを利用すると減価償却の管理・申告書への反映が格段に楽になります。例えばfreeeやマネーフォワード クラウド確定申告などでは、特別償却の入力欄が設けられており、計算ミスや記入漏れを防ぐうえで役立ちます。


個人事業主向けの特別償却解説(マネーフォワード クラウド)


特別償却の要件で見落としやすい3つのチェックポイント

特別償却は使えると思っていたのに申告後に否認される、というケースが実際に起きています。厳しいところですね。ここでは見落としやすい落とし穴を3つ解説します。


① 「事業の用に供した」かどうかが判定基準


設備を購入しただけでは特別償却は適用できません。その事業年度内に「事業の用に供した」こと(実際に稼働・使用を開始したこと)が必要です。例えば、3月決算の法人が3月28日に機械を購入したものの、設置工事が4月になって完了した場合、特別償却の適用は次の事業年度になります。期末ギリギリの設備購入では納品・稼働スケジュールを必ず確認しましょう。


② 同一資産への複数制度の重複適用は不可


特別償却と税額控除は同一資産に対して重複適用できません。また、圧縮記帳を適用した資産に対して特別償却を同時に適用することも原則として認められていません。補助金を受け取って圧縮記帳をした設備には、特別償却が使えないケースがあります。補助金と特別償却を組み合わせて考えている場合は、税理士への確認が不可欠です。


③ 適用除外事業者に該当しないか確認する


資本金1億円以下の法人でも、直近3年の所得金額の年平均が15億円を超える「適用除外事業者」に該当すると、特別償却・税額控除どちらも適用できなくなります。急成長中の企業は毎期この基準を確認する必要があります。また、大企業の発行済株式の50%以上を保有する子会社は、たとえ資本金が1億円以下でも対象から除かれます。これは知らないと損する情報です。


以下の3点を毎回チェックリストとして使いましょう。



  • ✅ 設備を取得した事業年度内に稼働開始しているか

  • ✅ 同じ資産に対して他の特別措置(圧縮記帳など)と重複していないか

  • ✅ 適用除外事業者・大企業の子会社に該当していないか


申告書の添付書類も要注意です。法人の場合「特別償却の付表(二)」と「適用額明細書」の両方が必要です。どちらか一方でも欠けていると特別償却が認められなくなります。添付漏れに気づいたら速やかに税務署に相談し、修正申告の可否を確認しましょう。


国税庁:中小企業経営強化税制の詳細(国税庁公式タックスアンサー)




令和7年12月改訂 減価償却実務問答集