

設備を購入した後に計画を申請しても、この税制は一切使えません。
近年、能登半島地震をはじめとした大規模自然災害が全国で頻発しています。こうした背景から、中小企業の防災・減災能力を引き上げることが国の重要課題となりました。その流れで令和元年7月16日に施行された「中小企業強靱化法」(中小企業等経営強化法の改正法)を根拠として誕生したのが、この税制です。
正式名称は「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度」で、中小企業防災・減災投資促進税制とも呼ばれます。租税特別措置法第44条の2に規定されており、国税庁の法令解釈通達も公表されています。つまり、この税制の根拠は経済産業省と国税庁の両方にまたがっているという点が特徴的です。
仕組みはシンプルです。青色申告書を提出する中小企業者が、経済産業大臣から「事業継続力強化計画」の認定を受けたうえで、認定後1年以内に計画に記載した防災・減災設備を購入し事業に使用した場合、その取得価額の16%を特別償却できます。これが原則です。
特別償却とは何でしょうか? 通常の減価償却に加えて、初年度にさらに一定割合を経費として先取りできる制度です。節税効果が「前倒し」になるため、設備投資直後のキャッシュフロー改善につながります。
なお、令和7年度税制改正によって適用期限は2年間延長され、令和9年(2027年)3月31日まで事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業者が対象となっています。これは使えそうです。
参考リンク(国税庁:租税特別措置法関係通達 第44条の2 特定事業継続力強化設備等の特別償却関係)。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/200911/pdf/01.pdf
この税制を活用するには、まず「誰が使えるか」を把握することが重要です。対象となるのは以下の要件をすべて満たす事業者です。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 申告方法 | 青色申告書を提出していること |
| 法人の規模 | 資本金・出資金が1億円以下の法人(資本・出資を有しない法人は従業員1,000人以下) |
| 個人事業主 | 常時使用する従業員数が1,000人以下であること |
| 計画認定 | 令和9年3月31日までに事業継続力強化計画の認定を受けていること |
個人事業主も対象になる点は意外かもしれません。法人だけが対象だと思い込んでいた方は要確認です。ただし、前3事業年度の平均所得金額が15億円超の法人(適用除外事業者)は除かれます。また、大規模法人(資本金5億円以上等)から2分の1以上の出資を受ける法人も対象外です。
次に対象設備ですが、令和7年度改正後の最新ルールでは以下のとおりです。
ここで注意が必要です。令和7年度税制改正において、以前は対象に含まれていたサーモグラフィ装置(感染症対策設備)が対象外になりました。コロナ禍の名残で「サーモグラフィを計画に入れれば使える」と考えている事業者は、最新情報の確認が条件です。
また、以下の設備は要件を満たしても絶対に対象外となります。
補助金と税制を「ダブルで使おう」と考えている方は注意が必要です。補助金で購入した部分については特別償却の対象外になります。これは痛いですね。設備投資の資金調達方法によっては、節税効果がゼロになるケースがあるため、購入前に必ず確認しましょう。
令和7年4月1日以後に取得する設備への特別償却率は16%です。これは段階的に引き下げられてきた経緯があります。令和3年3月31日までは20%、令和5年3月31日までは18%、そして現在は16%となっています。早期に設備を取得した方が有利だったことは事実ですが、16%でも十分な節税メリットは残っています。
具体的な数字で考えてみましょう。500万円の自家発電機を導入するケースです。
24万円の節税です。コンビニの日販(平均約50万円)の約半日分に相当する金額が、申告書の一枚の別表を添付するだけで節税できるイメージです。
重要な点を補足します。この税制は特別償却のみで、税額控除は選択できません。中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制では、特別償却か税額控除かを選べますが、防災・減災税制では選択肢がないという点が根本的に異なります。つまり赤字の年に適用しても、税額そのものを減らす効果はありません。黒字が出ている年に設備を取得するタイミングの方が節税メリットを最大化できます。タイミングが条件です。
特別償却は「税の繰延べ」の性質を持ちます。初年度に多く経費計上できる分、翌年以降の償却額が減るため、トータルの税負担は変わりません。しかし、今年の手元資金が増えることで、設備投資後の資金繰りが楽になるという実務的なメリットは大きいです。これは使えそうです。
参考リンク(経済産業省:令和7年度中小企業税制パンフレット)。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/keizokuryoku/bousaizeisei_gaiyo.pdf
この税制で最も多い失敗は「設備を先に買ってしまうこと」です。手順を間違えると、100万円以上の設備を購入しても特別償却がゼロになります。正しい3ステップを把握しておきましょう。
ステップ1:事業継続力強化計画を作成・申請・認定取得
まず事業継続力強化計画を自社で作成し、主たる事業所の所在地を管轄する経済産業局に申請します。申請にはGビズIDアカウント(gBizIDプライムまたはgBizIDメンバー)が必要で、電子申請システムを使います。申請費用は無料です。標準処理期間は約45日とされていますが、申請書に不備があると審査に時間がかかるため、余裕を持って申請することが大切です。
計画書はA4で6ページ程度のフォーマットです。数値目標の記載が不要なため、経営力向上計画よりも作りやすいとされています。ただし、税制措置を利用する場合は「取得予定設備」の名称・形式・取得年月・設置場所・単価・数量・金額を具体的に記載し、経済産業大臣の確認を受ける必要があります。ここが曖昧だと後で問題が起きます。
ステップ2:認定後1年以内に計画記載の設備を取得
認定を受けた計画に記載した設備を、認定日から1年以内に取得して事業の用に供します。計画に記載した設備と実際に導入した設備が異なる場合は、変更申請が必要です。変更なく計画を変えて設備を取得した場合には税制が適用されません。見積もりを取り、購入前提で相手先と打ち合わせを済ませておくことが現実的です。
ステップ3:税務申告時に別表と計算明細書を添付
設備取得後、税務申告の際に対象設備の「償却限度額の計算明細書」を添付します。法人税の確定申告書には別表と適用額明細書も必要です。認定通知書と認定を受けた計画の写しは税務調査時に必要となるため、大切に保管してください。保管が原則です。
なお、関与している税理士がいる場合は申告前に必ず情報共有を行いましょう。自社で申告している場合は、計算明細書の添付を忘れないようにしてください。
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①計画認定 | 経済産業局へ電子申請(無料) | 標準処理期間45日・GビズID必要 |
| ②設備取得 | 認定日から1年以内に計画記載設備を取得 | 計画と異なる設備は変更申請が必要 |
| ③税務申告 | 確定申告書に計算明細書・別表を添付 | 認定通知書・計画の写しを保管 |
参考リンク(中小企業強靱化プロジェクト:申請から認定までの期間FAQ)。
https://kyoujinnka.smrj.go.jp/faq/01.html
金融に関心のある方であれば、税制だけで判断するのではなく、この計画を取得することで得られる「税制外の支援」も合わせて考えることが重要です。実は事業継続力強化計画の認定を受けると、防災・減災税制だけでなく、複数の支援メニューへのアクセス権が同時に手に入ります。
一つ目は日本政策金融公庫による低利融資です。設備資金については基準利率から0.9%引き下げの優遇金利が適用されます。1,000万円の設備融資なら年間約9万円の利息負担が減ります。これはいいことですね。
二つ目は信用保証の別枠です。事業継続力強化計画に基づいて民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による普通保険等とは別枠での追加保証が利用できます。担保力が乏しい中小企業にとっては、融資のハードルが実質的に下がる仕組みです。
三つ目は補助金審査での加点措置です。ものづくり補助金をはじめとした一部の補助金で、認定を受けた事業者が審査において加点されます。補助金の採択率向上という観点からも、認定を持っていることは有利に働きます。
令和元年度に事業継続力強化計画の認定を受けた事業者5,920件のうち、防災・減災税制の活用を予定していたのはわずか約200件(全体の約3.4%)でした。この数字は当時の認知度の低さを反映していますが、令和2年度には認定件数が約3.3倍の19,707件に増加しています。認知が広まるにつれ税制活用を予定する件数も増加傾向にあります。
「自社は赤字だから税制メリットがない」という声もあります。確かに特別償却は黒字のときに最大の効果を発揮します。しかし、低利融資や補助金加点というメリットは赤字・黒字に関係なく享受できます。つまり税制のみが判断基準ではない、ということです。計画の策定自体は無料で、最短2日程度で作成可能とも言われています。申請費用ゼロ・作成コスト低という特性から、「使わない理由がない」制度に近いという評価も専門家の間に存在します。
利用状況でいえば、最も多く導入された設備は「停電に備えた自家発電設備」で、次いで「洪水に備えた止水板等」となっています。特に近年の集中豪雨リスクの高まりを考えると、止水板は30万円以上という比較的低い取得価額要件(器具備品区分)でも対象になる点は見逃せません。設備単価が低くても対象になるのが条件です。
参考リンク(中小企業庁:事業継続力強化計画認定制度のページ)。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html