

取得費の領収書をなくすと、売却額の95%に税金がかかります。
金地金(きんじがね)やインゴットを売却して利益が出た場合、その利益は「譲渡所得」として課税されます。そして、金を購入してから何年保有していたかによって、税負担の大きさが大きく変わります。これが長期・短期の分類のポイントです。
保有期間が5年以内の売却は「短期譲渡所得」、5年を超えると「長期譲渡所得」に区分されます。この区分が税額に直結します。
長期譲渡所得の場合、(売却額 ー 取得費 ー 譲渡費用)から特別控除50万円を引いた後の金額を、さらに2分の1にした金額だけが課税対象になります。つまり実質的な課税ベースが半分に圧縮されるという、大きな恩恵があります。
一方、短期譲渡所得の場合は、特別控除50万円を引いた全額がそのまま課税対象になります。保有5年を1日超えるか、超えないかで税額に大きな差が生じるというわけです。
| 区分 | 保有期間 | 課税対象額の計算 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以内 | (売却益 ー 特別控除50万円)× 100% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | (売却益 ー 特別控除50万円)× 1/2 |
ここで注意したいのが「総合課税」の仕組みです。金地金の売却益は不動産の長期譲渡所得のように一律20.315%の分離課税ではなく、給与所得や事業所得など他のすべての所得に合算されて税率が決まります。つまり、年収が高い人ほど高い税率が適用される累進課税の対象になるのです。
所得税の最高税率は45%、住民税10%と合わせると最大55%前後の税負担が生じることもあります。長期保有で課税ベースを半分に抑えたとしても、所得水準によっては決して軽くない負担になることを理解しておきましょう。
国税庁「No.3161 金地金の譲渡による所得」(金地金売却の所得区分と計算方法の公式情報)
「税率」と聞いてもピンとこない方も、具体的な数字に落とし込むと税負担のイメージがつかめます。ここでは実際の数値でシミュレーションしてみましょう。
【ケース①:長期保有(5年超)で売却した場合】
6年前に1kgのインゴットを500万円で購入し、2026年時点で1,200万円で売却した場合を考えます。
この325万円が他の所得(給与など)に合算されて課税されます。つまり約375万円の利益が課税対象から外れるイメージです。
【ケース②:短期(5年以内)で売却した場合(同じ条件)】
長期と短期を比べると、課税対象額が325万円 vs 650万円と2倍の差になります。たった1日の違いが数十万円単位の税額差を生むケースも珍しくありません。注意が必要ですね。
【税率感覚の目安】
給与収入500万円の会社員が金売却益325万円(長期)を上乗せした場合、合計所得は約820万円前後になります。この水準では所得税率が33%程度の区分に入り得るため、概算で100万円超の税負担が発生することになります。
課税対象額が大きいほど税率も上がる仕組みが総合課税の特徴です。そのため「いくら稼いだか」だけでなく、「他の所得と合算したらいくらになるか」を必ず意識してください。
特別控除の50万円は、その年の金以外の総合課税の譲渡益とも合計した上で適用される上限です。例えば美術品や骨董品の売却益と同じ年に合算されると、その年の特別控除は50万円までしか使えません。これが基本です。
金を相続した場合や、購入から長年が経過して領収書をなくしてしまった場合、「購入価格がわからない」という状況は珍しくありません。しかしこれが、税負担を劇的に悪化させる原因になります。
取得費(購入価格)が不明な場合、税務上は「売却額の5%」を取得費として計算するルールがあります。これを「概算取得費」と呼びます。
具体例で考えてみましょう。1kgのインゴットを1,000万円で売却したとします。
もし実際の購入価格が700万円と証明できれば、(1,000万円 ー 700万円 ー 50万円)× 1/2 = 125万円が課税対象になります。差額は300万円以上です。痛いですね。
購入価格を証明できるかどうかで、税負担が数倍変わることもあります。これは、長期保有で5年を超えたとしても、取得費不明では恩恵の多くを失うことを意味します。
では、取得費を証明するにはどうすればよいのでしょうか。購入時に金業者から発行される「計算書」や「取引明細書」、「領収書」が有効な証明書類になります。再発行は対応していない業者も多いため、購入時から確実に保管することが最善策です。
また、最近は2026年2月の確定申告シーズンを前に、日本経済新聞でも「取得費不明だと売却価格の95%が売却益になる」と警鐘を鳴らす記事が掲載されています。金価格が高騰し売却する方が増えている今、特に注意が求められます。
大阪中央区本町 税理士法人「金地金等を譲渡して利益を得た場合の課税関係」(取得費不明時の95%課税ルールを含む詳細解説)
金への投資手段は「金地金(現物)」だけではありません。純金積立や金ETF(上場投資信託)、金投資口座など複数の方法があります。そして実は、投資手段によって課税方法と税率がまったく異なります。これは使えそうです。
【金地金(現物)の場合】
保有期間に応じて長期・短期の総合課税が適用されます。他の所得と合算されるため、所得水準に応じて最大55%前後の実効税率になることもあります。一方で、5年超保有で課税ベースが半分になる恩恵と、50万円の特別控除が受けられます。
【金ETF・金投資口座の場合】
国税庁のNo.3161でも明示されているとおり、金投資口座や金貯蓄口座などからの利益は「金融類似商品」として扱われ、一律20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)の源泉分離課税となります。
| 投資手段 | 課税方式 | 実効税率の目安 | 特別控除・損益通算 |
|---|---|---|---|
| 金地金(現物) | 総合課税(長期/短期) | 所得次第で最大約55% | 50万円特別控除あり(長期は1/2圧縮) |
| 金ETF(上場投資信託) | 申告分離課税 | 一律20.315% | 他の株・投信と損益通算可 |
| 金投資口座・金貯蓄口座 | 源泉分離課税 | 一律20.315% | なし(確定申告不要) |
つまり、年収が高い会社員が大きな利益を得た場合、現物の金地金よりも金ETFや金投資口座のほうが税負担が低くなる可能性が高いわけです。逆に、年収が比較的低く、金の売却益も50万円以下に収まる場合は、現物保有で特別控除を活用するほうが実質非課税に近い効果が得られます。
金ETFは証券口座で購入でき、NISAの成長投資枠を使えば売却益への課税そのものをゼロにできる場合もあります。投資手段の選択が節税の第一歩と言えるでしょう。
なお、金ETFと金現物では価格連動性や流動性、保管コストなどの違いもあります。税制面だけで選ぶのではなく、投資目的に合わせて比較検討することをおすすめします。
ここまでの内容を踏まえ、長期譲渡所得の税率メリットを最大限活かすための具体的な行動を整理します。正しく理解して動けば、同じ金額の売却益でも手元に残るお金は大きく変わります。
① 5年超の保有を徹底する
まず基本中の基本として、購入日から5年と1日以上経過してから売却することを意識しましょう。これだけで課税対象が半分になります。購入日の確認は取引明細書で行い、「あと数か月」という場合は売却を待つことを検討してください。
② 複数年に分けて少量ずつ売却する
特別控除の50万円は年間上限です。一度に大量売却するより、複数年に分割して売却することで、毎年50万円の控除枠を繰り返し使えます。例えば売却益100万円を2年に分けると、控除を2回使えてお得です。ただし、金価格は変動するため、将来の下落リスクとのバランスを考えながら判断が必要です。
③ 購入証明書・領収書を絶対に保管する
前述のとおり、取得費不明になると95%が課税対象になるリスクがあります。金地金を購入した際の「計算書」や「取引明細」は、税務上の重要書類として長期保管してください。特に相続で受け取った金は注意が必要です。前の保有者の購入記録がないと、概算取得費5%しか認められません。
④ 相続した金は3年10か月以内の売却を検討する
相続で金を取得した場合、相続税の申告期限(相続開始から10か月)から3年以内に売却すれば「取得費加算の特例」が使える可能性があります。払った相続税の一部を取得費に上乗せして譲渡所得を圧縮できる制度です。適用には条件があるため、税理士への相談をおすすめします。
⑤ 200万円超の売却は確定申告を確実に行う
売却額が200万円を超えると、買取業者から税務署へ「支払調書」が提出されます。氏名・住所・売却金額が税務署に伝わる仕組みです。「個人の売買はバレない」と思って無申告でいると、後から追徴課税や延滞税・無申告加算税が加わり、かえって大きな損失になります。
確定申告は毎年2月16日〜3月15日が申告期間です。申告期限が必ずあります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えばオンラインで手続きが完結するため、ぜひ活用してください。
確定申告作業に不安がある場合は、マネーフォワード クラウド確定申告などの申告支援ソフトを使うと、売却益や各控除を入力するだけで書類が自動作成されるため、ミスを減らせます。
国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」(長期譲渡所得の税額計算の公式ルールと特例一覧)