

繰延税金資産は「資産」と名がついていますが、将来の黒字が見込めないと一切計上できません。
税効果会計とは、企業会計(財務会計)と税務会計のズレを調整し、損益計算書上の法人税等を税引前当期純利益と対応させるための会計処理です。企業が日々の経理で計上する「費用」と、税務申告で損金に認められる「損金」は、必ずしも一致しません。このズレが差異となり、そのうち将来的に解消されるものを「一時差異」と呼びます。
一時差異のなかで特に重要なのが、将来減算一時差異(Deductible Temporary Difference)です。これは、将来の期間にその差異が解消するときに課税所得を減少させる(減算する)効果を持つ一時差異のことを指します。
つまり、将来減算一時差異が基本です。
会計上はすでに費用として計上済みなのに、税務上は損金算入が認められず「今期は税金をより多く払う」という状態が発生します。しかし将来、その差異が解消されるタイミングで課税所得が減り、税負担が軽くなる。この将来の税金軽減効果を現時点の資産として計上したものが「繰延税金資産」です。
税効果会計は上場企業・金融商品取引法の適用を受ける非上場企業・会計監査人を設置する大会社等に義務付けられており、中小企業では任意となっています。
参考情報:税効果会計の全体像と一時差異の考え方(EY Japan)
わかりやすい解説シリーズ「税効果」第2回:一時差異と永久差異(EY Japan)
将来減算一時差異の代表例として最も頻繁に登場するのが、貸倒引当金の損金算入限度超過額です。
企業が売掛金などの債権に対して貸倒引当金を計上する場合、会計上は引当金全額を費用として計上できます。しかし税法では、損金に算入できる貸倒引当金の額には限度があります。限度額を超えた部分は、当期において損金不算入となり、ここで将来減算一時差異が生まれます。
たとえば、会計上100万円の貸倒引当金を繰り入れ、そのうち税法上の損金算入限度額が50万円だったとします。この場合、超過額50万円が将来減算一時差異です。
実際に貸倒れが発生するか、翌期以降に損金算入が認められるタイミングで差異が解消します。差異解消時に課税所得が50万円減算されるため、税負担が軽くなります。
仕訳の例(法定実効税率30%の場合)を見てみましょう。
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 差異発生時 | 繰延税金資産 | 150,000円 | 法人税等調整額 | 150,000円 |
| 差異解消時 | 法人税等調整額 | 150,000円 | 繰延税金資産 | 150,000円 |
繰延税金資産150,000円 = 超過額50万円 × 税率30%、という計算です。
差異発生時の仕訳では繰延税金資産(資産)が増え、法人税等調整額(P/L上の収益)が計上されることで、P/L上の税金負担が減少します。これは実際に払う税金が多い分を「先払い」として資産に置いておくイメージです。
回収可能性が条件です。
退職給付引当金も、将来減算一時差異の典型例として必ずと言っていいほど挙げられます。
企業は従業員の将来の退職給付に備えて、毎期、退職給付引当金(または退職給付に係る負債)を計上します。会計上はこれを費用として認識しますが、税法上は実際に退職給付を支払った年度でなければ損金に算入できません。したがって、引当金計上時点では損金不算入となり、将来減算一時差異が生じます。
退職給付引当金は数億円規模になる企業も多く、大企業では特に重大な将来減算一時差異の源泉です。解消時期が長期にわたることが多いため、「スケジューリング不能な将来減算一時差異」として扱われるケースもあります。
長期解消の差異には注意が必要です。
解消時期が不明確な差異については、繰延税金資産の回収可能性の判断がさらに慎重を要します。特に企業分類が「分類2」に該当する会社では、スケジューリング不能な差異に係る繰延税金資産は原則として計上できません。
退職給付引当金の将来減算一時差異の計算例を確認しましょう。
この1,500万円は、将来の税負担軽減効果を先取りした資産です。ただし回収可能性が認められる範囲内でのみ計上できます。
参考情報:繰延税金資産の回収可能性の判断基準(マネーフォワード クラウド)
繰延税金資産とは?取り崩しや回収可能性、仕訳について解説(マネーフォワード クラウド)
減価償却費の損金算入限度超過額は、将来減算一時差異のなかで実務上最もよく発生するもののひとつです。
企業会計では、固定資産の耐用年数を経済的実態に基づいて設定し、それに応じた減価償却費を計上します。一方、税法では法定耐用年数が定められており、会計上の償却年数と異なることがあります。
たとえば、取得価額1,200万円の機械装置を会計上は3年(定額法)で償却する場合、年間の減価償却費は400万円です。ところが税法上の法定耐用年数が5年であれば、年間の損金算入限度額は240万円となります。この差額160万円が、毎年の将来減算一時差異として発生します。
意外と見落としがちですが、この差異は法定耐用年数が満了するまでに全額解消されるので、解消時期が比較的明確です。
差異が明確なのでスケジューリングしやすいですね。
減価償却超過額の将来減算一時差異は、スケジューリングが可能な差異として扱われます。そのため、企業分類に関わらず比較的認識しやすく、繰延税金資産の計上要件を満たしやすい差異です。
| 項目 | 会計上 | 税務上 | 差異(年間) |
|---|---|---|---|
| 取得価額 | 1,200万円 | 1,200万円 | – |
| 耐用年数 | 3年 | 5年 | – |
| 年間減価償却費 | 400万円 | 240万円(限度) | 160万円(将来減算一時差異) |
在庫(棚卸資産)の評価損や固定資産の減損損失も、将来減算一時差異の発生原因になります。
会計上、棚卸資産は原価と正味売却価額のいずれか低い額で評価する「低価法」が適用されます。そのため、在庫の市場価格が大きく下がると評価損を計上します。しかし税法では、この評価損の多くが損金として認められません。損金算入されるのは、実際に廃棄や売却が行われた年度が原則です。
これが将来減算一時差異となり、将来の廃棄・売却時に課税所得を減少させます。
たとえば、製造業の企業が長期滞留在庫に対して100万円の評価損を計上したとします。税法上は損金不算入のため、100万円の将来減算一時差異が発生します。法定実効税率が30%であれば、繰延税金資産は30万円です。
また、固定資産の減損損失も同様の取り扱いです。会計上は減損損失として費用計上しますが、税法では減損の事実のみでは損金算入が認められず、売却や廃棄が伴って初めて損金となるケースが大半です。
ただし、スケジューリングが難しいケースも多いため要注意です。
在庫の廃棄や固定資産の売却時期が明確でない場合、スケジューリング不能な将来減算一時差異となり、企業の業績分類によっては繰延税金資産の計上が制限されます。この点が、貸倒引当金や減価償却超過額との大きな違いです。
賞与引当金も実務上頻繁に登場する将来減算一時差異のひとつです。
企業は期末時点で翌期支給予定の賞与を引当金として計上します。会計上は当期の費用ですが、税法上では実際に賞与を支払った年度でしか損金に算入できません。この計上時期のズレが将来減算一時差異を生み出します。
賞与引当金は翌年度に支払われることが多く、1年以内に解消される差異です。つまり、解消時期が明確なスケジューリング可能な将来減算一時差異であり、繰延税金資産の回収可能性を判断しやすい部類に入ります。
これは使えそうです。
具体的な仕訳例として、当期末に賞与引当金100万円を計上した場合(法定実効税率30%)を見てみましょう。
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 引当金計上時(差異発生) | 繰延税金資産 | 30万円 | 法人税等調整額 | 30万円 |
| 翌期に賞与支払い(差異解消) | 法人税等調整額 | 30万円 | 繰延税金資産 | 30万円 |
差異解消時には逆仕訳を行い、繰延税金資産を取り崩します。これにより翌期の税金費用が増え、前期に行った調整が完結します。
賞与引当金以外にも、役員退職慰労引当金や修繕引当金なども、損金算入時期のズレによって将来減算一時差異を発生させることがあります。
参考情報:法人税等調整額の仕訳と計算方法(みずほ銀行)
法人税等調整額とは?対象となる項目や計算方法・仕訳例を解説(みずほ銀行)
将来減算一時差異を理解するうえで、永久差異との違いを明確に把握しておくことは非常に重要です。混同すると仕訳ミスや財務分析の誤りに直結します。
一時差異は「いつかは解消される」差異です。会計と税務でタイミングがずれているだけで、全期間を通じてみると累計額は一致します。これに対して永久差異は、計算目的の違いから生じるものであり、将来的に解消されることがありません。
永久差異の代表例を整理すると、以下の通りです。
これらは永久に解消されないため、税効果会計の対象外です。
つまり繰延税金資産も繰延税金負債も計上しません。
永久差異は税効果会計の対象外が原則です。
この違いを押さえておくと、企業の財務諸表を読む際に「なぜこの差異は繰延税金資産として計上されていないのか」という疑問を解消できます。投資家・アナリストが決算書を分析する際にも、この知識が役立ちます。
将来減算一時差異から繰延税金資産を算出するには、法定実効税率が欠かせません。法定実効税率とは、法人税・住民税・事業税などを合算した、実質的な企業の税負担率のことです。
法定実効税率の計算式は以下の通りです。
$$\text{法定実効税率} = \frac{\text{法人税率} \times (1 + \text{地方法人税率} + \text{住民税率}) + \text{事業税率}}{1 + \text{事業税率}}$$
現在の日本では、一般的な法定実効税率はおおよそ30%前後となっています(企業規模・所在地・税制改正によって変動します)。
繰延税金資産の計算式はシンプルです。
$$\text{繰延税金資産} = \text{将来減算一時差異} \times \text{法定実効税率}$$
例えば、将来減算一時差異の合計が500万円で法定実効税率が30%の場合、繰延税金資産は150万円となります。これは「将来500万円分が課税所得から減算されることで、150万円分の税金が軽くなる」ことを意味しています。
法定実効税率は企業の規模や所在地によって変わる点に注意が必要です。特に外形標準課税が適用される資本金1億円超の企業と、適用されない中小企業では事業税率が大きく異なるため、税効果会計の担当者は自社の正確な実効税率を把握しておくことが重要です。
将来減算一時差異が発生したからといって、必ずしも繰延税金資産を全額計上できるわけではありません。これが税効果会計で最も注意すべきポイントのひとつです。
繰延税金資産の計上には「回収可能性」の判断が必要です。回収可能性とは、将来差異が解消するタイミングに、十分な課税所得が見込めるかどうかを指します。課税所得がなければ、税金そのものが発生せず、差異が解消されても節税効果を享受できません。
回収可能性が条件という点が要です。
日本の会計基準では、企業を過去の業績・将来見通しに応じて5つに分類し、分類ごとに計上できる繰延税金資産の範囲が異なります。
| 分類 | 業績の特徴 | 計上できる繰延税金資産の範囲 |
|---|---|---|
| 分類1 | 過去3年間すべて十分な課税所得がある | 全額計上可能 |
| 分類2 | 安定的に課税所得が生じているが欠損金なし | スケジューリング不能なものを除き計上可 |
| 分類3 | 課税所得が大きく増減している | おおむね5年以内のものを計上可 |
| 分類4 | 過去3年内に重要な欠損金がある | 翌期の見積課税所得範囲内のみ計上可 |
| 分類5 | 過去3年すべてで重要な欠損金が生じている | 計上不可(全額評価性引当) |
分類5に該当すると繰延税金資産の計上はゼロです。業績悪化が続く企業では「繰延税金資産の取り崩し」が起き、費用が増加して最終赤字が拡大することがあります。これが金融ニュースで「繰延税金資産の取り崩しによる下方修正」として報じられるケースです。
参考情報:回収可能性の企業分類と実務対応(ゼロス有限責任監査法人)
繰延税金資産の回収可能性に関する企業分類について(ゼロス有限責任監査法人)
実務で見落とされがちなのが、スケジューリング不能な将来減算一時差異の扱いです。
スケジューリング不能な差異とは、「いつ解消するか合理的に見積もれない一時差異」のことです。貸倒引当金のうち回収時期不明な債権や、処分時期が未定の資産に対する評価損などが代表的です。
一般的な理解では「将来減算一時差異 = 将来税金が安くなる = 繰延税金資産を計上できる」と考えがちです。しかし実際は、解消時期が不明確なものは回収可能性の判断ができないとされ、企業分類によっては一切計上できないのです。
意外ですね、これは見落とせません。
さらに見落とされやすいのが、連結財務諸表における子会社への適用です。連結決算では子会社間の債権債務の消去によって引当金が減額されるケースがあり、これが将来加算一時差異として扱われる場合があります。この場合、親会社単体ではなく連結ベースで差異を管理する必要があり、個別財務諸表とは異なる論点が生じます。
また、IFRSと日本基準では繰延税金資産の当初認識の例外規定が存在します。IAS第12号では、「資産または負債を当初認識する際に生じる将来減算一時差異のうち、企業結合ではなく、かつ発生時に会計上の利益にも課税所得にも影響しないもの」については繰延税金資産を認識しないという例外があります。これは日本基準とは異なるポイントであり、グローバル企業の財務諸表を読む際に意識しておくと分析精度が上がります。
このような細かな違いを知っておくと、財務分析のプロとして差がつきます。
将来減算一時差異に加え、「繰越欠損金」も繰延税金資産の計上根拠になります。
これも見逃せない重要な論点です。
繰越欠損金とは、税務上の赤字(欠損金)を翌期以降に繰り越し、将来の課税所得から控除できる制度です。日本の税法では、中小企業は欠損金を10年間繰り越せます(大企業では利用制限あり)。
繰越欠損金があると、将来の課税所得を減少させる効果があるため、将来減算一時差異と同様に繰延税金資産の計上根拠として認められます。
ただし、繰越欠損金が大きいということは「過去に赤字だった」ということでもあります。企業分類上は「分類4」「分類5」に該当する可能性が高く、繰延税金資産の計上に制限がかかるケースが多いです。
繰越欠損金と将来減算一時差異を組み合わせて繰延税金資産を管理することが、実務では非常に重要です。
繰越欠損金は10年以内に使い切ることが条件です。
税効果会計を理解することは、財務諸表の読解力に直結します。特に、繰延税金資産の残高とその変動を追うことで、企業の業績動向を読み取るヒントになります。
貸借対照表(B/S)の資産の部に計上されている繰延税金資産の金額が大きい企業は、将来的に多くの将来減算一時差異を抱えていることを意味します。これは将来の税負担軽減余地があることを示すと同時に、現時点での「税金の前払い」が多いことも意味します。
一方、ある年の決算で繰延税金資産が大幅に減少していたら要注意です。これは「業績悪化などにより、将来の課税所得が見込めなくなったため、回収可能性を再評価した結果、評価性引当を計上した」可能性があります。
損益計算書(P/L)では「法人税等調整額」として現れます。この数字がプラスなら税金が減る方向、マイナスなら増える方向の調整が行われていると読めます。
具体的なチェックポイントを挙げると次の通りです。
財務諸表の注記には「繰延税金資産・繰延税金負債の発生原因別内訳」が記載されており、どの将来減算一時差異が大きいかを確認できます。これを読むことで企業のリスク構造を把握でき、投資判断の精度が高まります。
参考情報:税効果会計の仕訳・開示ポイントの詳細
税効果会計の仕訳・開示ポイントを解説!(まろ会計)
将来減算一時差異は、日商簿記2級でも重要な出題テーマです。試験では仕訳問題・財務諸表の作成問題の両方で出題されるため、基本的な計算と仕訳の流れを押さえておく必要があります。
簿記2級で問われる主な将来減算一時差異の例は、減価償却超過額と貸倒引当金繰入超過額の2つが中心です。
典型的な出題パターンとして次のようなケースがあります。
試験での計算手順は基本的に3ステップです。
簿記2級の試験では法定実効税率が問題文中に与えられるため、計算自体はシンプルです。差異が「発生」なのか「解消」なのかで借方・貸方が逆になることを確実に覚えておくと間違いを防げます。
仕訳の方向が基本です。
試験問題の練習には、日商簿記公式サイトや各出版社の過去問題集が役立ちます。なかでも、大原やTACなどの資格スクールが提供するテキストは、将来減算一時差異の例と仕訳を体系的に学べる良質なコンテンツが揃っています。
将来減算一時差異の知識は、単なる会計処理の理解にとどまらず、企業の税務戦略を考えるうえでも重要な視点を与えてくれます。
引当金の計上タイミングを適切に管理することで、将来減算一時差異を意図的に活用し、繰延税金資産を積み上げることができます。たとえば、業績が好調な年度に引当金を多く計上することで、将来の税負担を前もって平準化する効果が生まれます。
ただし、繰延税金資産の計上はあくまでも「将来の課税所得が十分である」という前提に立ちます。意図的に引当金を積み増しても、将来の業績が見込めなければ回収可能性がなく、繰延税金資産として認識できません。むしろ、計上後に取り崩しが必要となり、費用増加につながるリスクもあります。
バランスが大事ですね。
また、繰延税金資産の残高が大きすぎると、企業の財務の健全性に対して懐疑的な見方をされることもあります。特に銀行借入やIPO(株式公開)の審査においては、繰延税金資産の内容と回収可能性の妥当性が厳しく審査される場合があります。
将来減算一時差異をうまく活用するためには、税務会計の知識だけでなく、自社の業績見通しと照らし合わせた綿密なタックス・プランニングが求められます。公認会計士・税理士などの専門家に相談しながら、適切な判断を行うことが重要です。
参考情報:税効果会計における繰延税金資産の回収可能性の実務
税効果会計の実務ポイント解説シリーズ 第1回 繰延税金資産の回収可能性(EY Japan)
Please continue.