将来加算一時差異の例と繰延税金負債の仕訳を徹底解説

将来加算一時差異の例と繰延税金負債の仕訳を徹底解説

将来加算一時差異の例と繰延税金負債の仕組みを徹底解説

繰延税金負債が大きい企業は、将来の税金支払い増が確定しているため、純資産が実質的に目減りしているリスクがある。


📋 この記事でわかること(3つのポイント)
📌
将来加算一時差異とは何か?

一時差異が解消するときに課税所得が増える仕組みを、永久差異や将来減算一時差異との比較でわかりやすく解説します。

📊
圧縮積立金・有価証券評価益などの具体例

実務でよく出る代表的な将来加算一時差異の例を、繰延税金負債の仕訳・計算式つきで詳しく紹介します。

💡
財務分析・投資判断への活用法

繰延税金負債の大きさが企業の将来キャッシュフローに与える影響と、財務諸表の読み解き方をわかりやすく解説します。


将来加算一時差異の意味と税効果会計の基本


将来加算一時差異とは、会計上の資産・負債の金額と税務上の資産・負債の金額に差が生じている場合に、その差異が将来解消するときに「課税所得を増額させる効果」を持つものを指します。少しわかりにくい言葉ですが、簡単に言えば「今は税金を払っていないが、将来その分の税金を払うことが確定している状態」です。


税効果会計は、企業会計と税務会計のズレを調整するために使われる手続きです。会計上の費用・収益と、税務上の損金・益金ではルールが異なり、認識のタイミングにズレが生じることがあります。このズレを「一時差異」と呼び、将来加算型と将来減算型に分類されます。


一時差異には2種類あります。差異が解消するときに課税所得を減らす「将来減算一時差異」と、逆に課税所得を増やす「将来加算一時差異」です。将来減算一時差異には「繰延税金資産」を計上し、将来加算一時差異には「繰延税金負債」を計上します。


つまり将来加算一時差異が原則です。


なお、永久差異(交際費の損金算入超過額・寄付金の損金不算入など)は将来的にも解消されないため、税効果会計の対象にはなりません。


一時差異のみが税効果会計の対象になります。


これが基本です。


金融庁「税効果会計に係る会計基準」では、将来加算一時差異・将来減算一時差異の定義と繰延税金負債の計上原則が明記されています。


将来加算一時差異の例①:圧縮積立金(圧縮記帳・積立金方式)

将来加算一時差異の最もわかりやすい例が、圧縮積立金です。圧縮記帳とは、国庫補助金や保険差益などを原資に固定資産を取得した際、その収益に対する課税を将来に繰り延べる仕組みです。


すぐには課税されません。


積立金方式で圧縮記帳を行った場合を具体的な数字で見てみましょう。



  • 圧縮額(将来加算一時差異):4,000

  • 法定実効税率:30%

  • 繰延税金負債:4,000 × 30% = 1,200


この場合の仕訳は以下のとおりです。






借方 金額 貸方 金額
法人税等調整額 1,200 繰延税金負債 1,200


圧縮積立金4,000のうち、税効果会計を適用すると圧縮積立金(純資産)は2,800に減り、残る1,200は繰延税金負債として負債に計上されます。将来積立金を取り崩すたびに、この繰延税金負債が少しずつ解消されていきます。


これが解消の流れです。


実務では、耐用年数10年の固定資産で圧縮積立金を取り崩すなら、毎期400ずつ加算調整が入り、繰延税金負債も毎期120ずつ減少するイメージです。


一時差異は毎年少しずつなくなります。


公認会計士・税理士 寺田誠一氏による「圧縮記帳(将来加算一時差異)の税効果会計と法人税申告書設例」では、別表四・別表五(一)の記載まで含めた実務的な解説が確認できます。


将来加算一時差異の例②:その他有価証券の評価差益

もう一つ代表的な将来加算一時差異の例が、その他有価証券の評価益です。保有している株式や債券(その他有価証券)を時価評価した際に含み益が生じた場合、まだ売却していないため課税はされません。


しかし、いずれ売却すれば課税されます。


具体的な数字で確認しましょう。



  • A社株式(その他有価証券)の取得原価:400

  • 当期末の時価:500(評価益:100)

  • 法定実効税率:30%

  • 繰延税金負債:100 × 30% = 30


この場合の仕訳は以下のとおりです。







借方 金額 貸方 金額
投資有価証券 100 繰延税金負債 30
その他有価証券評価差額金 70


ここで特徴的なのは、繰延税金負債の相手勘定が「法人税等調整額(損益)」ではなく「その他有価証券評価差額金(純資産)」になる点です。


意外ですね。


これは、評価差額そのものを純資産直入しているため、対応する税効果も純資産から直接控除する処理になるからです。


売却した期には逆仕訳で繰延税金負債を取り崩し、その分課税所得が増加します。含み益を計上したなら、対応する税金も計上するのが原則です。


会計ノーツ「繰延税金負債とは?図解と具体例でわかりやすく解説」では、その他有価証券・圧縮記帳における繰延税金負債のロジックを図解で確認できます。


将来加算一時差異の例③:特別償却準備金

特別償却準備金も将来加算一時差異の代表例です。租税特別措置法に基づく特別償却制度を適用し、準備金方式で処理した場合に発生します。通常の減価償却を超えて損金算入した部分が積み立てられ、この金額分が税務と会計のズレになります。


例えば、機械装置1,000万円を取得し、特別償却率30%の適用を受けた場合を考えます。



  • 特別償却額:1,000万円 × 30% = 300万円(将来加算一時差異)

  • 法定実効税率:30%

  • 繰延税金負債:300万円 × 30% = 90万円


将来、準備金を取り崩して益金算入する際に課税所得が増加し、繰延税金負債が解消されます。中小企業を含む多くの企業が節税目的で特別償却を活用していますが、税効果会計を適用すると繰延税金負債として負債が増加する点を見落としがちです。


繰延税金負債の計上は必須です。


特別償却は当期の税金を減らす一方で、将来課税が先送りされているだけです。金融機関や投資家に財務状態を示す際には、この繰延税金負債の存在が純資産の実質的な厚みに影響します。節税効果の裏側にある将来の税金負担も意識しておきましょう。


マネーフォワード クラウド「永久差異と一時差異の違いとは?例から解説」では、圧縮積立金・特別償却準備金・評価差益などの将来加算一時差異の具体例が整理されています。


将来加算一時差異の例④:連結財務諸表固有の差異(子会社留保利益)

連結財務諸表においては、個別財務諸表には存在しない特有の将来加算一時差異が発生します。最も代表的なのが、連結子会社の留保利益に係る差異です。これは連結財務諸表固有の将来加算一時差異と呼ばれます。


連結子会社が利益を上げて利益剰余金が増加した場合、将来その利益が配当として親会社に支払われたとき、または子会社株式を売却した際に親会社で課税が発生します。そのため、子会社の留保利益は原則として将来加算一時差異として認識し、繰延税金負債を計上します。


ただし、例外があります。「親会社が子会社を清算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合」には、繰延税金負債を計上しないことができます。


これは知らないと判断を誤るポイントです。


また、持分法適用会社(関連会社)の留保利益については、投資会社が半永久的に配当させない方針をとっている場合も、繰延税金負債を計上しないことができます。上場企業のM&A・連結会計の実務ではこの判断が財務数値に大きく影響するため、実務家にとっては重要なポイントです。


EY Japan「税効果会計の実務ポイント解説シリーズ第3回 連結税効果」では、子会社留保利益に係る将来加算一時差異の取扱いが詳しく解説されています。


将来加算一時差異と将来減算一時差異の違いを比較表で整理

将来加算一時差異と将来減算一時差異は混同されやすいため、しっかり整理しておきましょう。


整理すると理解が深まります。


































将来加算一時差異 将来減算一時差異
差異解消時の課税所得への影響 増加させる 減少させる
計上する科目 繰延税金負債 繰延税金資産
税金の性質 将来の税金の未払い 将来の税金の前払い
具体例 圧縮積立金・特別償却準備金・有価証券評価益 貸倒引当金超過・減価償却超過・繰越欠損金
回収可能性の検討 原則不要(支払可能性あり) 必要(回収可能性を検討)


特に重要なのが最後の行です。将来減算一時差異に対する繰延税金資産は、将来の課税所得が十分にないと回収できないため、「回収可能性」という概念を使って計上できる金額を制限します。一方、将来加算一時差異に対する繰延税金負債は原則として全額計上します。


回収可能性は関係ありません。


これを逆に理解している人も多いですが、繰延税金負債には「回収可能性の制限」がないことが基本原則です。ただし前項で触れた子会社留保利益など、一定の例外ケースは存在します。


将来加算一時差異における繰延税金負債の計算方法

繰延税金負債の計算はシンプルです。


結論から言えば以下の1式だけです。



  • 💡 繰延税金負債 = 将来加算一時差異 × 法定実効税率


法定実効税率は企業が所在する国・地域の法人税・住民税事業税を組み合わせた税率で、日本の上場企業では概ね30%前後です。


具体例でも確認します。



  • 有価証券評価差益:1,000万円(将来加算一時差異)

  • 法定実効税率:30%

  • 繰延税金負債:1,000万円 × 30% = 300万円


この300万円は貸借対照表(B/S)の負債の部に計上されます。純資産の評価差額金は700万円(1,000万円 − 300万円)となります。差異が解消した期に繰延税金負債300万円を取り崩し、法人税等調整額を計上します。


差異が解消するまで負債のまま保持されます。


実務上、法定実効税率は各期末時点で確定している税率を用いることが原則とされています。税制改正などで税率が変わると、期末に残っている繰延税金負債の金額も洗い替えが必要になる点は注意が必要です。


freee「税効果会計とは?メリットや方法、適用手順などをわかりやすく解説」では、繰延税金資産・繰延税金負債の計算式と適用手順が整理されています。


将来加算一時差異が発生したときの仕訳フロー(発生〜解消まで)

将来加算一時差異は、発生した期と解消した期の両方で仕訳が必要です。


フローを整理しましょう。


🔵 差異が発生した期(例:圧縮積立金4,000、税率30%)






借方 金額 貸方 金額
法人税等調整額 1,200 繰延税金負債 1,200


→ 差異4,000 × 30% = 1,200を繰延税金負債として計上。


税金費用が増加します。


🔴 差異が解消した期(例:圧縮積立金400を取り崩した場合)






借方 金額 貸方 金額
繰延税金負債 120 法人税等調整額 120


→ 解消額400 × 30% = 120ずつ繰延税金負債を取り崩します。


このように、将来加算一時差異が発生した期は法人税等調整額(費用)が増加し、当期純利益が減少します。逆に解消した期は法人税等調整額が収益計上(減算)され、純利益に戻る形になります。一見複雑ですが、発生・解消のワンセットで理解するとわかりやすいです。


繰延税金負債が計上されない例外ケースとは

将来加算一時差異に対しては原則として繰延税金負債を計上しますが、例外も存在します。


把握しておくと実務で役立ちます。


企業会計基準適用指針第28号(税効果会計に係る会計基準の適用指針)には、繰延税金負債を計上しない例外として次のケースが挙げられています。



  • 🔸 企業が清算するまでに明らかに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合

  • 🔸 連結子会社の留保利益に係る一時差異で、親会社が予測可能な将来に投資を売却する意思がなく、かつ差異が解消しない場合

  • 🔸 持分法適用会社の留保利益で、投資会社が半永久的に配当させない方針を明確にしている場合

  • 🔸 連結手続上の評価損消去に伴う連結財務諸表固有の一時差異(特定条件下)


これらは「繰延税金負債を計上しないことができる」例外です。ただし判断誤りは重大な会計上の誤りになり得るため、安易に例外適用しないことが重要です。


一般的な事業会社の単独財務諸表における圧縮積立金・有価証券評価益・特別償却準備金については、例外に該当する余地はほぼなく、原則通り繰延税金負債を計上します。


例外は基本的にレアケースです。


TKC「税効果会計に係る会計基準の一部改正等について」では、繰延税金負債を計上しない例外ケースの考え方と連結財務諸表への影響が解説されています。


将来加算一時差異を投資家・財務分析の視点で読む独自視点

金融・投資に関心があるなら、将来加算一時差異は「財務諸表を深く読む」ための重要な視点になります。


一般的にはあまり語られないポイントです。


貸借対照表の「繰延税金負債」の残高が大きい企業は、将来確実に税金を追加で支払わなければならないことを意味しています。純資産は帳簿上では大きく見えても、実質的な「税引後純資産」はその分目減りするとも言えます。東証プライム上場企業の中には、繰延税金負債が純資産の10%を超えるケースも存在します。


これは単純に見逃せない数字です。


一方で、繰延税金負債が大きいこと自体が悪いわけではありません。含み益を多く抱えている(=資産価値が上がっている)結果として繰延税金負債が大きくなっている企業は、資産の質が高い可能性があります。


投資家視点での確認方法として、有価証券報告書の「税効果会計注記」を見ると、どの一時差異から繰延税金負債が発生しているかが開示されています。有価証券評価差益が原因なのか、圧縮積立金が原因なのかによって、その企業の財務構造への見方は大きく変わります。


財務分析の深度が上がりますね。


財務諸表の読み解きに役立つツールとして、各社の有価証券報告書はEDINETで無料閲覧できます。税効果会計の注記欄を確認する習慣をつけると、財務分析スキルが格段に上がります。


企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」では、将来加算一時差異の取扱いに関する権威ある原文が確認できます。


将来加算一時差異に関する実務上のよくある誤解3つ

将来加算一時差異について、実務でよく見られる誤解を整理します。


知っておくと損を避けられます。


❌ 誤解①「繰延税金負債も回収可能性を検討しないといけない」


将来減算一時差異に対する繰延税金資産は回収可能性の検討が必要ですが、将来加算一時差異に対する繰延税金負債は原則として全額計上が必要です。


「支払可能性」の問題はほぼ発生しません。


一時差異が解消すれば課税されるだけだからです。


これは明確に違います。


❌ 誤解②「圧縮記帳を使えば税金が安くなる」


圧縮記帳はあくまで課税の「繰り延べ(延期)」であり、税金の「免除」ではありません。積立金方式の場合、将来加算一時差異として税効果会計を適用すると、繰延税金負債を計上しなければなりません。節税効果があるのは確かですが、将来に税金を支払うことは変わりません。


圧縮記帳は免税ではないのです。


❌ 誤解③「その他有価証券評価差額金の税効果は損益計算書に影響する」


その他有価証券の評価差額を全部純資産直入法で処理する場合、対応する繰延税金負債の相手勘定は「法人税等調整額(P/L)」ではなく「その他有価証券評価差額金(純資産)」になります。


損益計算書には直接影響しません。


損益に影響しない点が意外なポイントです。


将来加算一時差異の例まとめ:一覧表で確認

ここまでの内容を一覧表で確認しましょう。


代表例を整理するとこうなります。


































将来加算一時差異の例 発生の仕組み 繰延税金負債の相手勘定
圧縮積立金(積立金方式) 補助金・保険金受取時の課税繰り延べ 法人税等調整額(P/L)
特別償却準備金 租税特別措置法上の特別償却の積み立て 法人税等調整額(P/L)
その他有価証券評価差益 有価証券の時価評価による含み益 その他有価証券評価差額金(純資産)
連結上の資産評価差益(子会社時価評価) 支配獲得時の連結調整 評価差額(純資産)
子会社留保利益(連結固有) 子会社の配当・売却時の課税見込み 法人税等調整額(P/L)


将来加算一時差異のパターンによって、仕訳の相手勘定が損益計算書項目(法人税等調整額)になるか純資産項目になるかが変わります。一覧で把握しておくと実務・試験の両方で役立ちます。


整理しておきましょう。


将来加算一時差異は、一言で言えば「税金の後払い状態」を示す概念です。差異が発生した期に繰延税金負債を計上し、解消した期に取り崩すというサイクルを理解すれば、財務諸表を見る目も変わります。投資分析においても、繰延税金負債の内訳と規模を確認することで、企業の実質的な財務体力をより正確に把握できます。


この知識を積み上げていきましょう。




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