繰延税金負債の具体例と仕訳・発生ケース完全解説

繰延税金負債の具体例と仕訳・発生ケース完全解説

繰延税金負債の具体例と仕訳・発生ケースを徹底解説

含み益がある株を持っているだけで、あなたの企業の貸借対照表には見えない税金の借金が静かに積み上がっています。


📋 この記事の3つのポイント
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繰延税金負債とは「課税の後払い予約」

会計上は利益が出ているのに税務上はまだ課税されていない差額分を、将来払う税金として貸借対照表の負債に計上する勘定科目です。免除ではなく「延期」なのがポイントです。

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発生ケースは主に5種類に限定される

その他有価証券評価差額金・固定資産圧縮積立金・特別償却準備金・繰延ヘッジ損益・前払年金費用が代表例です。繰延税金資産と比べて発生するケースは少ないのが特徴です。

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計算は「将来加算一時差異 × 法定実効税率(約30%)」

例えば株式の含み益が1,000円なら、繰延税金負債は1,000円×30%=300円です。財務諸表を読む際にも、この数字が企業の潜在的な税負担を示すサインになります。


繰延税金負債とは何か:税効果会計の基本と将来加算一時差異のしくみ

繰延税金負債(英語ではDeferred Tax Liability、略してDTL)とは、税効果会計によって計上される負債の勘定科目です。一言でまとめると「課税が後回しになっている場合の、その支払い見積額」を貸借対照表(B/S)の負債の部に示したものです。


そもそも「税効果会計」とは何でしょうか? 企業が帳簿上で計算する会計上の利益と、法人税を計算する際の税務上の所得(課税所得)は、必ずしも同じ金額にはなりません。会計は「企業の経営実態を正確に表す」ことを目的にしているのに対し、税務は「担税力に応じた公平な課税」を目的としているため、ルールの違いが生まれるからです。この差異を調整し、財務諸表上の税負担を適切な期間に配分するための会計処理が税効果会計です。


この差異には大きく2種類あります。まず「永久差異」は、会計と税務の間で永遠に解消しない差異(例:交際費の損金不算入など)です。もう一方の「一時差異」は、いずれは解消される時間的なズレで、税効果会計の対象はこちらです。一時差異のうち、将来の課税所得を増加させるもの(将来に加算調整が入るもの)を「将来加算一時差異」と呼び、これに対応して計上されるのが繰延税金負債です。


つまり将来加算一時差異が原則です。


繰延税金負債の計算式はシンプルで、「将来加算一時差異の金額 × 法定実効税率」で算出します。法定実効税率は企業の規模や所在地によって異なりますが、一般的には約30%前後が使われます(2026年4月以降は防衛特別法人税の影響で30.64%超になる見込みです)。含み益が1,000円の有価証券があれば、繰延税金負債は300円です。


重要なのは、これが「税金の免除」ではなく「税金の延期」だという点です。繰延税金負債が貸借対照表に計上されているということは、将来必ず支払いが発生する見込みの税金があるということ。財務諸表を読む際には、この負債が隠れた税コストのサインだと認識しておく必要があります。


また、税効果会計で使われる勘定科目を整理すると次のとおりです。








種類 勘定科目 意味
損益 法人税等調整額 税効果会計による調整額(P/L)
資産 繰延税金資産(DTA) 将来の税負担が減る見込み(先払いイメージ)
負債 繰延税金負債(DTL) 将来の税負担が増える見込み(後払いイメージ)


なお、上場企業や会社法上の大会社には税効果会計の適用が義務付けられています。中小企業は任意適用ですが、大企業の子会社になっている場合は強制適用となる点にも注意が必要です。


参考:野村證券の証券用語解説集による「繰延税金負債」の定義(貸借対照表における計上箇所や意味をコンパクトに確認できます)
繰延税金負債|証券用語解説集 - 野村證券


繰延税金負債の具体例①:その他有価証券評価差額金と含み益への課税

繰延税金負債が発生する最も代表的なケースが「その他有価証券の時価評価」です。金融に興味がある方なら、株式投資や有価証券の時価評価という言葉はなじみ深いでしょう。


企業が売買目的以外で長期保有している株式(その他有価証券)は、決算日に時価で評価し直すことが会計ルールで義務付けられています。このとき株価が上がっていれば「含み益」が生じます。ただし、まだ売却していないため実際の利益は発生しておらず、税務上も課税されません。


ここが繰延税金負債発生のポイントです。


会計上は含み益を認識しているのに、税務上は課税されていない状態。これは「今は課税されていないが、将来株を売ったときに必ず課税される」ことを意味します。この将来の税金支払い義務を先取りして貸借対照表に載せたものが、繰延税金負債です。


具体的な数値例で確認しましょう。











前提条件 金額
A社株式(その他有価証券)の取得価額 10,000円
決算日の時価(未売却) 12,000円
評価益(含み益) 2,000円
法定実効税率 30%
繰延税金負債 2,000円 × 30% = 600円
その他有価証券評価差額金(純資産へ計上) 2,000円 − 600円 = 1,400円


この仕訳は次のようになります。







借方 金額 貸方 金額
投資有価証券 2,000 繰延税金負債 600
その他有価証券評価差額金 1,400


「BSに含み益を計上するなら、それに対する課税額もBSに計上しなければならない」という考え方が根本にあります。これは財務諸表の健全性を守るための処理です。


なお、翌期の期首には逆仕訳で振り戻し(洗い替え処理)、含み益を取得時の価額に戻します。決算のたびにこの処理を繰り返すのが基本です。


財務分析の観点では、繰延税金負債が大きいほど「その企業は多くの含み益を持ちながら、まだ課税されていない状態だ」と読み取れます。含み益を実現させずに持ち続けることで課税を延ばせる一方、将来的に大量の売却が発生した場合、一気に税負担が増えるリスクも内包しています。これは投資判断にも直結する情報です。


参考:公認会計士・税理士監修による繰延税金負債の具体例と仕訳の詳細解説(その他有価証券評価差額金のロジックと仕訳を図で確認できます)
【図解】繰延税金負債とは?わかりやすく解説します - 会計ノーツ


繰延税金負債の具体例②:圧縮記帳(固定資産圧縮積立金・特別償却準備金)で発生するケース

補助金や保険金をもらったときにも、繰延税金負債が登場するケースがあります。「圧縮記帳」と呼ばれる会計処理がその入口です。


補助金(国庫補助金など)や火災保険金を受け取ると、会計上は収益として計上されます。しかし、これを受け取った年度にそのまま課税されてしまうと、補助金・保険金の趣旨(設備投資や資産再取得のための支援)が損なわれかねません。例えば1,000万円の補助金をもらって、300万円が税金で消えると残り700万円しか設備に使えなくなるからです。


そこで税法では、一定の要件を満たせば課税を後ろ倒しにする「圧縮記帳」が認められています。課税の免除ではなく延期がポイントですね。


圧縮記帳には「直接減額方式」と「積立金方式」の2種類があります。このうち繰延税金負債が発生するのは積立金方式だけです。これは直接減額方式と比べると財務諸表の見栄えが良くなる(資産が大きく見える)ため、大企業やグループ会社では積立金方式が採用されるケースが多くあります。


具体的な数値例を見てみましょう。









前提条件 金額
国庫補助金収益 1,000円
圧縮積立金(積立金方式) 1,000円
法定実効税率 30%
繰延税金負債 1,000円 × 30% = 300円







借方 金額 貸方 金額
繰越利益剰余金 1,000 固定資産圧縮積立金 1,000
法人税等調整額 300 繰延税金負債 300


特別償却準備金も同様の考え方で計上されます。特別償却とは、一定の要件を満たした中小企業が適用できる制度で、通常の減価償却費よりも多額の費用を初年度に計上できる仕組みです。早期に多くの費用を計上することで課税を先送りできる一方、その分の将来課税額を繰延税金負債として記録します。


特別償却準備金は中小企業だけに適用が認められます。


この圧縮記帳・特別償却のケースで押さえておきたいのは、「補助金・保険金を受け取ったことが決算書に一見わかりにくくなる」という点です。積立金方式を採用すると資産の帳簿価額がそのまま残るため、直接減額方式と比べて設備の状態が正確に把握しやすくなる反面、繰延税金負債という潜在的な税負担が純資産から控除される形で計上されます。財務諸表を読む際には、固定資産圧縮積立金や特別償却準備金の残高と、それに紐づく繰延税金負債も一緒に確認する習慣をつけると精度が上がります。


参考:MoneyForwardによる税効果会計と繰延税金負債の仕訳解説(持ち合い株式・圧縮記帳の仕訳例を確認できます)
繰延税金負債とは?税効果会計での仕訳例とともに解説 - マネーフォワード クラウド


繰延税金負債の具体例③:繰延ヘッジ損益と前払年金費用の発生ケース

繰延税金負債が発生するケースはまだあります。ここでは「繰延ヘッジ損益」と「前払年金費用」を取り上げます。少し専門的に感じるかもしれませんが、大企業の財務諸表ではよく登場するため、投資家・財務担当者にとっては見落とせないポイントです。


繰延ヘッジ損益のケース


企業が為替リスクや金利リスクを回避するために行うヘッジ取引(例:為替予約やデリバティブ)には、「ヘッジ会計」と呼ばれる特別な会計処理が適用されます。ヘッジ対象(例:輸出売上)と対応するタイミングで損益を認識するため、ヘッジ手段に生じた評価差益は一時的に純資産の部に繰り延べられます。この繰り延べた部分を「繰延ヘッジ損益」といいます。


ヘッジ手段に含み益が発生した場合、その他有価証券と同様に「会計上は益を認識しているが、税務上はまだ課税されていない」状態になります。これはまさに将来加算一時差異が生じているということです。


具体的な数値例を確認しましょう。









前提条件 金額
為替予約(ドル売り)のヘッジ手段含み益 100,000円
法定実効税率 30%
繰延税金負債 100,000円 × 30% = 30,000円
繰延ヘッジ損益(純資産計上) 100,000円 − 30,000円 = 70,000円







借方 金額 貸方 金額
為替予約(デリバティブ) 100,000 繰延税金負債 30,000
繰延ヘッジ損益 70,000


なお、税務上の繰延ヘッジ要件を満たさない場合は、貸方が「繰延ヘッジ損益」ではなく「法人税等調整額」になる点が実務上の注意点です。要件の充足確認は必須です。


前払年金費用のケース


企業が企業年金制度(確定給付型)を持つ場合、年金資産(積み立てたお金)が退職給付債務(従業員への支払い義務の現在価値)を上回る超過部分を「前払年金費用」として処理することがあります。これは資産計上されますが、税務上は損金算入ができないため、会計と税務の間に差異が生じます。


退職給付引当金がマイナスになる(年金資産が債務超過する)場合に繰延税金負債が発生します。これは企業型確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)を持つ大企業では特に頻繁に登場するケースです。


これらのケースは繰延ヘッジも前払年金費用も共通して「実際にお金が動いているわけではないが、将来の税支払い義務を計上する」という構造を持っています。財務諸表を読むときには、そのロジックをセットで理解しておくと全体像が掴みやすくなります。


参考:jinjer(ジンジャー)による繰延ヘッジ損益・前払年金費用を含む全5ケースの仕訳解説(実務で使える仕訳例が確認できます)
繰延税金負債とは?発生するケースや仕訳例を紹介 - jinjer Blog


繰延税金負債と繰延税金資産の違い:貸借対照表での位置と相殺のルール

繰延税金負債を理解する上で、セットで押さえておきたいのが「繰延税金資産(DTA)」との違いです。両者は名前が似ているため混同されがちですが、機能はまったく逆です。


シンプルに言えば、将来の税負担が減る見込みを計上するのが繰延税金資産、将来の税負担が増える見込みを計上するのが繰延税金負債です。











比較項目 繰延税金資産(DTA) 繰延税金負債(DTL)
差異の種類 将来減算一時差異 将来加算一時差異
貸借対照表の位置 資産の部 負債の部
税負担への影響 将来、税金が減る 将来、税金が増える
イメージ 法人税の前払い 法人税の後払い
主な発生原因 賞与引当金、減損損失、繰越欠損金など 有価証券含み益、圧縮積立金など
発生頻度 比較的多い 限定的


繰延税金資産は「回収可能性」の判断が必要で、将来に十分な課税所得が見込めない場合は計上できません。一方、繰延税金負債は基本的に回収可能性の問題が生じないため、計上要件が厳しくないという特徴があります。


繰延税金負債は計上条件がシンプルです。


相殺のルールも重要です。同一企業内で繰延税金資産と繰延税金負債の両方が生じている場合は、原則として相殺して貸借対照表に純額表示します。ただし、親子会社間など、別法人のものを相殺することは認められていません。連結財務諸表を読む際には、この点を誤解しないよう注意が必要です。


財務分析では「繰延税金負債の残高が大きい」ことをネガティブに見すぎないことも大切です。含み益を多く抱えていることの裏返しでもあるため、潜在的な資産価値の高さを示している場合もあります。ただし、その含み益が実現したタイミングで一気に税負担が増えるリスクも考慮に入れる必要があります。


例えば株式市場が急落した場合、含み益が一気に吹き飛び、繰延税金負債の取り崩しが発生することがあります。この場合は逆に利益を押し上げる効果が生まれるため、「決算利益が良く見えるが、実態は株の損失によるもの」という逆説的な現象が起こることもあります。


なお、繰延税金資産・負債の発生原因と金額の内訳は、財務諸表の注記(税効果会計に関する注記)として開示されています。投資家として企業を分析する際には、この注記欄にも必ず目を通す習慣をつけることをおすすめします。


参考:KPMGジャパンによる繰延税金資産・負債の基本概念と発生原因の整理(国際基準とも対照しながら概念を深堀りできます)
繰延税金資産及び繰延税金負債 - KPMG Japan


繰延税金負債を財務諸表で読み解く:投資判断に使える独自視点の分析法

ここまで会計処理の仕組みを見てきましたが、金融に興味がある方なら「実際の投資判断にどう使えるか」が気になるはずです。ここでは、財務諸表の読み手として繰延税金負債を活用する視点を紹介します。


まず、有価証券報告書の「税効果会計に関する注記」を開いてみましょう。そこには繰延税金資産・負債の発生原因別の内訳が記載されています。特に「その他有価証券評価差額金に係る繰延税金負債」の金額が大きい企業は、多くの株式含み益を持っています。


これは二面性があります。含み益の存在は「潜在的な資産価値が高い」ことを意味しますが、市場環境が悪化した場合に含み益が急減し、繰延税金負債の取り崩しが起きると、一時的に純利益が押し上げられることがあります。つまり「業績好調に見えるが、実は株の損失によるバイアスがかかっている」というケースが生まれます。


日立製作所の事例が参考になります。2009年3月期に約7,900億円の赤字に陥りましたが、その内訳は本業の赤字2,900億円に加え、繰延税金資産の取り崩し5,000億円超が含まれていました(日経ビジネス、2015年掲載)。繰延税金の変動が決算数字を大きく動かす実例です。


数字だけで判断するのは危険です。


もう一つの視点として、「繰延税金負債の残高が増えているか減っているか」のトレンドに注目する方法があります。繰延税金負債が毎期増加している企業は、継続的に含み益や圧縮積立金が積み上がっており、財務的に安定した資産形成を行っている可能性があります。逆に急減している場合は、資産の大規模売却やポートフォリオ変更が起きた可能性を読み取れます。


また、繰延税金負債と繰延税金資産の「純額」も重要な指標です。純額でプラス(資産超)の場合は将来税負担が軽くなる見込みが強く、逆に純額でマイナス(負債超)の場合は将来の税負担増加リスクが潜んでいます。


財務諸表の分析力を上げるには、税効果会計の注記をもとに実際の企業データで練習するのが近道です。証券会社のスクリーニングツールや有価証券報告書の検索システム(EDINETなど)を使うと、複数企業の繰延税金負債の規模感を比較できます。一度自分でスクリーニングして確認してみることをおすすめします。


参考:EDINETで上場企業の有価証券報告書を検索し、税効果会計の注記を確認できます(実際の企業データで繰延税金負債の内訳を比較する際に活用できます)
EDINET(金融庁)- 有価証券報告書の検索・閲覧