

マッチング拠出を使っているあなたは、月2万円の節税チャンスを丸ごと捨てています。
「企業型DC」と「iDeCo」はどちらも確定拠出年金制度の一種ですが、運営主体と掛金の負担者が根本的に異なります。企業型DCは会社が制度を設計・運営し、掛金も会社が拠出します。一方、iDeCo(個人型確定拠出年金)は個人が自分で金融機関を選び、自分で掛金を出して運用する制度です。
この違いが、税制優遇の受け方にも影響します。企業型DCの事業主掛金は従業員の給与所得に含まれないため、最初から非課税の扱いです。iDeCoの掛金は個人が支払うものですが、その全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が直接軽減されます。つまり、iDeCoの節税メリットは会社員本人に帰属します。
どちらも運用益は非課税で、受取時にも控除が使えます。3段階すべてで税制優遇を受けられる点は共通です。
以下の表で基本的な違いを整理しておきましょう。
| 項目 | 企業型DC | iDeCo |
|---|---|---|
| 掛金の負担者 | 会社(マッチング拠出は従業員も可) | 個人 |
| 金融機関の選択 | 会社が指定 | 自分で選択 |
| 口座管理手数料 | 原則会社負担 | 個人負担 |
| 拠出上限(月額) | 5.5万円または2.75万円 | 最大2万円(企業型DCあり) |
| 所得控除 | 事業主掛金は給与に含まれず非課税 | 掛金全額が所得控除対象 |
企業型DCは手数料の面で有利ですが、運用商品は会社が選んだラインナップに限られます。iDeCoは自由度が高い反面、毎月の口座管理手数料(金融機関により異なるが月171円〜)を自己負担します。これは覚えておくべき点です。
参考:企業型DCとiDeCoの制度比較に関する厚生労働省の公式情報
厚生労働省|確定拠出年金制度について
2022年10月以前は、企業型DCに加入している会社員がiDeCoも使うには「会社の規約にiDeCo加入を認める規定があること」と「事業主掛金の上限を5.5万円から3.5万円に引き下げること」という二重のハードルがありました。これが2022年10月の法改正でほぼ撤廃され、条件さえ満たせば誰でも併用できるようになっています。
現在の併用の条件は次の3点です。企業型DCの事業主掛金が月額5.5万円未満であること、マッチング拠出を利用していないこと、企業型DCとiDeCoの掛金合計が月額5.5万円(他の企業年金がある場合は2.75万円)を超えないこと。これが基本です。
たとえば会社の事業主掛金が月2万円の場合、iDeCoに最大月2万円拠出できます。合計4万円で上限5.5万円以内に収まります。一方、会社の掛金がすでに月3.6万円なら、iDeCoは残り1.9万円しか使えません。上限が2万円でも、合計が5.5万円を超えてはいけないからです。これが条件です。
自分の拠出可能額を確認するには、勤務先の人事部門か企業型DCの運営管理機関(ログインできる加入者サイト)で事業主掛金額を確認するのが最短ルートです。
参考:掛金の上限額と計算方法についての詳細
りそな銀行|企業年金制度とiDeCoの併用
「マッチング拠出をしているから、iDeCoも使えると思っていた」という誤解は非常に多いです。しかし、法律上この2つは併用できません。2022年10月の法改正後もこのルールは変わっていません。どちらか一方を選ぶ必要があります。
マッチング拠出とは、会社が拠出する掛金に対して、従業員が上乗せして追加拠出できる制度です。上乗せ金額は「事業主掛金と同額まで」かつ「合計が月5.5万円以内」が条件でした。2026年4月1日の改正からはこの「事業主掛金と同額まで」という制限が撤廃され、より自由に上乗せできるようになります。
では、マッチング拠出とiDeCoのどちらを選ぶべきか。判断の軸は主に2つです。
手数料の面では、マッチング拠出が有利です。iDeCoには国民年金基金連合会への手数料(月105円)と信託銀行への手数料(月66円)が必ずかかります。金融機関手数料を合わせると月171円以上が確定コストです。年間換算で約2,000円以上の出費になります。厳しいところですね。
一方でiDeCoには「ポータビリティの高さ」があります。転職しても個人の口座としてそのまま継続できるため、転職が多い方にとっては管理のしやすさがメリットになります。
参考:マッチング拠出とiDeCoの比較についての解説
企業型DCとiDeCoの併用が特に効果を発揮するのは、「企業型DCの事業主掛金が少なく、iDeCoで余枠を活用できる場合」です。具体的な数字で見てみましょう。
年収600万円の会社員で、会社の企業型DC事業主掛金が月1万円(年12万円)の場合を想定します。この場合、iDeCoに月2万円(年24万円)拠出できます。
| 年収 | 所得税率 | 住民税率 | iDeCo年間拠出額 | 年間節税額 | 30年間の節税合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 10% | 10% | 24万円 | 約4.8万円 | 約144万円 |
| 600万円 | 20% | 10% | 24万円 | 約7.2万円 | 約216万円 |
| 800万円 | 23% | 10% | 24万円 | 約7.9万円 | 約237万円 |
| 1,000万円 | 33% | 10% | 24万円 | 約10.3万円 | 約309万円 |
年収600万円の人なら、月2万円の拠出で年間約7.2万円の節税になります。30年続ければ、拠出時だけで216万円分の税金を免れる計算です。これは使えそうです。
さらに運用益への非課税効果も加わります。通常の課税口座では売却益や配当に20.315%の税がかかりますが、iDeCoや企業型DCの口座内ではゼロです。たとえば30年間・年率3%で運用した場合、元本720万円(月2万円×12ヶ月×30年)が約1,165万円に成長し、運用益約445万円に本来かかるはずの税金(約90万円)も非課税になります。
注意点として、受取時には退職所得控除や公的年金等控除が使えますが、2026年1月からは退職金との「調整期間」が5年から10年に延びました。退職金とDC一時金を近い時期に受け取ると控除を満額使えず、税金が増えることがあります。受取タイミングの設計も大切です。
参考:iDeCoの節税効果の詳細と計算方法
国税庁|確定拠出年金の掛金の所得控除について
企業型DCとiDeCoを併用している人が転職するとき、見落としがちな落とし穴があります。転職後6ヶ月以内に企業型DCの移換手続きをしないと、積み立てた資産が国民年金基金連合会に「自動移換」されてしまいます。
自動移換されると何が起きるか。まず移換時に4,348円の手数料が発生します。さらに自動移換後4ヶ月以降は毎月52円(年間624円)の管理手数料が資産から差し引かれ続けます。運用もできないため、資産はただ減り続けます。痛いですね。
現時点で国内に「放置された確定拠出年金」を持つ人は約80万人以上と言われており、自動移換された資産の総額は3,300億円を超えているとも報じられています(日本経済新聞2025年10月)。転職が当たり前になった時代だからこそ、この問題は深刻化しています。
転職先のパターンによって手続きの選択肢が変わります。
移換の手続き自体は複雑ではありませんが、期限が「資格喪失後6ヶ月以内」と決まっています。転職バタバタの時期に忘れやすいので、退職日が決まった段階でカレンダーに期限をメモしておくのが確実です。
また、iDeCoとの併用状態で転職した場合、転職先の企業型DC掛金が多くなると、iDeCoの掛金を減額しなければならないケースもあります。手続きはiDeCoの運営管理機関(例:SBI証券、楽天証券など)のWebサイトから行えます。
参考:転職時の確定拠出年金の手続きと自動移換の注意点
2026年は確定拠出年金制度にとって大きな転換点の年です。会社員の老後資産形成に直結する改正が複数施行されるため、内容を把握しておくことが必要です。
まず2026年4月1日から、マッチング拠出の制限が見直されます。これまでは「加入者(従業員)の上乗せ掛金は事業主掛金を超えてはいけない」というルールがありましたが、この縛りがなくなります。会社の掛金が少なくても、従業員が自分の判断でより多く積み立てられるようになります。これはいいことですね。
次に2026年12月1日から、拠出限度額が引き上げられます。現在の「企業型DC+iDeCo合計で月5.5万円」という上限が「月6.2万円」に拡大されます。iDeCo単体の上限は引き続き月2万円ですが、企業型DCと合わせた総枠が広がることで、会社の掛金が少ない人ほど積み立て可能額が増えます。
| 施行時期 | 改正内容 | 対象者への影響 |
|---|---|---|
| 2026年1月〜(施行済) | 退職所得控除の調整期間:5年→10年 | 退職金とDC一時金を近い時期に受け取ると税負担増のリスク |
| 2026年4月1日〜 | マッチング拠出の上限制限撤廃 | 会社掛金が少なくても従業員が多く積み立て可能に |
| 2026年12月1日〜 | 企業型DC+iDeCo合計上限が月5.5万円→6.2万円に引き上げ | 老後資産の積み立て枠が7,000円分拡大 |
| 2026年12月1日〜 | iDeCo加入年齢の上限が65歳未満→条件付きで70歳未満まで延長 | 60歳以降も積み立てを継続しやすくなる |
注意すべきは、「上限が上がっても会社の制度は自動では変わらない」という点です。企業型DCは会社の規約に基づいて運用されているため、掛金上限の拡大を実際に活用するには会社側の規約変更が必要です。会社が対応しない限り、従業員は増額できません。
一方iDeCoは個人の制度なので、自分でiDeCoの掛金を設定変更すれば2026年12月以降は多く積み立てられるようになります。法改正のタイミングで自分の状況を再確認しておくことをおすすめします。
参考:2026年の法改正内容についての詳細解説
総合型401k.com|2026年法改正で企業型DCはどう変わる?掛金上限6.2万円など解説