退職給付引当金の仕訳と支払時の正しい処理方法

退職給付引当金の仕訳と支払時の正しい処理方法

正しい処理手順を解説します。


退職給付引当金の仕訳と支払時に必ず知っておきたい会計処理

引当金を毎期コツコツ積んでいても、支払時の仕訳を1つ間違えると、法人税申告で数百万円の課税漏れが発覚し、修正申告延滞税を同時に請求されます。


📋 この記事の3つのポイント
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支払時は「退職給付引当金」を取り崩す

引当金を設定している会社では、退職金支払時の借方は「退職金」ではなく「退職給付引当金」を使います。引当金を超えた差額のみ「退職給付費用」で追加計上します。

⚠️
繰入額は損金不算入・支払時に損金算入

毎期の退職給付費用(繰入額)は会計上の費用ですが、税務上は全額損金不算入です。実際に退職金を支払った事業年度に、その支払額が損金算入されます。

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源泉徴収と退職所得控除を忘れずに

退職金は「退職所得」として源泉徴収が必要です。勤続年数20年以下は年40万円、20年超は年70万円の退職所得控除が適用されます。 仕訳では差額を「預り金」で処理します。


退職給付引当金の仕訳における基本の考え方と支払時の全体像


退職給付引当金とは、将来従業員に支払う退職金に備えて毎期積み立てておく負債勘定です。企業会計の発生主義の考え方に基づき、従業員が労働を提供した期間ごとにその退職金コストを費用認識します。貸借対照表では「固定負債の部」に計上されます。


支払時の仕訳を理解するには、まず「積立時」と「支払時」の2ステップで処理が完結することを押さえましょう。


つまり2段階です。


フェーズ 借方 貸方
①積立時(決算) 退職給付費用 100万円 退職給付引当金 100万円
②支払時(退職発生) 退職給付引当金 500万円 現金預金 500万円


積立時の仕訳で損益計算書に費用が計上され、同額が貸借対照表の負債として積み上がっていきます。支払時には、この負債(引当金)を取り崩し、同額の現預金が減少します。


引当金を設定していない小規模企業では、支払時に「退職金 / 現金預金」という仕訳だけを行います。どちらの方法が適切かは、退職金制度の内容と企業規模によって異なります。


退職給付引当金の支払時に使う勘定科目と正確な仕訳例

支払時の借方科目は「退職給付引当金」です。


これが基本です。


引当金を十分に積んでいる場合、例えば積立残高500万円に対して退職金300万円を支払うケースでは、次のような仕訳になります。


借方 金額 貸方 金額
退職給付引当金 3,000,000円 普通預金 3,000,000円


このとき、引当金残高の200万円は取り崩されずに残ります。次の退職者に備えた引当金として引き続き計上され続けます。


一方、引当金残高が支払額を下回る場合は差額の処理が必要です。たとえば引当金250万円しかない従業員に300万円を支払う場合、不足分の50万円は当期の費用として計上します。


借方 金額 貸方 金額
退職給付引当金 2,500,000円 普通預金 3,000,000円
退職給付費用 500,000円


不足分の処理が漏れると損益が歪みます。


注意が必要ですね。


なお引当金ゼロの会社で退職金を払う場合は「退職金(費用)/ 普通預金」で処理します。この場合、支払った全額がその期の費用となるため、退職者が重なった年度は利益が大きく圧迫されることもあります。


退職給付引当金の支払時における源泉徴収と預り金の仕訳

退職金は「退職所得」として所得税源泉徴収が必要です。給与と同じ扱いだと思っている人もいますが、計算方法が大きく異なります。


退職所得には「退職所得控除」という大きな控除が適用されます。勤続年数20年以下の場合は年数×40万円、20年超の場合は800万円+(年数−20年)×70万円が控除されます。たとえば勤続30年の場合、控除額は800万円+(30−20)×70万円=1,500万円にもなります。退職金の実質的な税負担は通常の給与と比べて大幅に軽くなります。


源泉徴収額が発生する場合の仕訳例(退職金500万円、源泉徴収税20万円)は次のとおりです。


借方 金額 貸方 金額
退職給付引当金 5,000,000円 普通預金 4,800,000円
預り金 200,000円


天引きした税額は「預り金」で処理し、翌月10日までに税務署へ納付します。このとき「退職所得の受給に関する申告書」を本人から提出してもらっているかどうかが重要です。申告書の提出がない場合は控除が適用されず、総支給額の20.42%という高い税率で一律源泉徴収することになります。


申告書があるかどうかで、手取り額が数十万円単位で変わります。


これは使えそうです。


参考:退職所得の源泉徴収に関する国税庁の公式説明はこちら
退職金と税 | 国税庁


退職給付引当金の繰入仕訳と損金不算入の仕組みをわかりやすく解説

多くの経理担当者が誤解しやすいのが「繰入額は費用だから損金になるはず」という認識です。


実はなりません。


平成10年の法人税法改正により、退職給付引当金の繰入額は税務上、全額が損金不算入となりました。会計上は正当な費用処理であっても、税務上はその段階では認められないということです。損金が認められるのは、あくまで実際に退職金を支払った時点です。


これによって会計上の利益と税務上の課税所得にズレが生じます。このズレは「将来減算一時差異」として税効果会計の対象となります。退職給付引当金の残高×法定実効税率(一般的に約30〜31%)で計算した繰延税金資産を計上することで、このズレを財務諸表上で調整します。


項目 会計上の取扱い 税務上の取扱い
引当金繰入時 費用計上(退職給付費用)✅ 損金不算入❌
退職金支払時 引当金取崩(仕訳のみ) 損金算入


つまり税務と会計では「費用を認識するタイミング」がずれます。決算時には法人税申告書の別表4で「退職給付引当金繰入額(加算・留保)」として必ず加算調整が必要です。この調整を忘れると、本来よりも課税所得が少なく申告してしまう「申告漏れ」につながります。


参考:税務上の取扱いに関する国税庁の詳細解説はこちら
退職給付会計に係る税務上の取扱いについて | 国税庁


退職給付引当金の計算方法・原則法と簡便法の違いを仕訳に絡めて整理

退職給付引当金の計算方法には「原則法」と「簡便法」の2種類があります。どちらを使うかによって、毎期の繰入額の計算構造が異なります。


原則法は、将来の退職給付見込額を現在価値に割り引いて算定する方法です。割引率や昇給率・退職率・死亡率といった統計的前提が必要で、計算は非常に複雑です。実務ではアクチュアリー(年金数理人)への委託が一般的です。主に従業員数が比較的多い企業で適用されます。


簡便法は、従業員数300人未満の企業を対象に認められた簡易的な方法です。期末時点で全員が自己都合退職した場合に支払うべき退職金の総額(期末自己都合要支給額)を退職給付債務とみなして計算します。


簡便法による年度末の繰入額計算式はシンプルです。


$$\text{当期繰入額} = \text{期末要支給額} - (\text{期首引当金残高} - \text{当期支払退職金})$$


たとえば期首残高800万円・当期支払100万円・期末要支給額1,000万円であれば、繰入額は1,000万円−(800万円−100万円)=300万円となります。


この計算式が基本です。


なお、会社が導入する退職金制度が「退職一時金制度」か「確定給付企業年金制度」かによっても処理が変わります。確定給付年金では年金資産(外部積立額)を控除した差額が引当金になるため、年金資産の時価評価も毎期必要となります。


参考:退職給付会計の原則法・簡便法の違いについて詳しくはこちら
退職給付引当金の「簡便法」とは 正しい仕訳と計算方法 | 経理プラス


退職給付引当金の支払時と確定拠出年金・中退共との仕訳の違い

退職給付引当金の仕訳が必要なのは「確定給付制度」に限られます。


これは意外と知られていません。


確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)や中小企業退職金共済(中退共)は「確定拠出制度」に分類されます。確定拠出制度では、会社は毎月の掛金以上の追加義務を負わないため、引当金の計上は不要です。掛金を支払った時点で全額費用計上(損金算入)するだけです。


制度の種類 引当金計上 掛金の損金算入 退職金支払時の仕訳
退職一時金制度(確定給付) 必要✅ 支払時のみ 退職給付引当金/現預金
確定給付企業年金(DB) 必要✅ 掛金拠出時 退職給付引当金/現預金
確定拠出年金(DC) 不要❌ 掛金拠出時に全額 仕訳不要(会社は支払わない)
中退共 不要❌ 掛金拠出時に全額 仕訳不要(直接支給される)


中退共が特にシンプルです。毎月の掛金を「福利厚生費 / 普通預金」で処理するだけで、従業員が退職した際の退職金は中退共から直接本人へ振り込まれます。会社側での退職金支払時の仕訳は一切発生しません。


確定拠出制度に移行している会社では「退職給付引当金 / 退職給付費用」という仕訳は出てきません。逆に、まだ退職一時金制度を維持している場合は毎期の繰入と支払時の取崩が必要です。


自社の制度を把握することが条件です。


参考:中退共と確定給付企業年金の会計処理の違いについては、IICパートナーズの解説が参考になります
退職給付会計において中小企業退職金共済制度はどのように扱うか? | IICパートナーズ


退職給付引当金の支払時に余剰が生じた場合の取り崩し仕訳と戻し入れ処理

引当金が支払額を上回るケースにも注意が必要です。


これは忘れがちですね。


たとえば引当金300万円が積み上がっている従業員が自己都合退職となり、実際の退職金が210万円だったとします。このとき残りの90万円が「余剰」として宙に浮いた状態になります。この余剰は引当金として残したままにはできません。正しくは「退職給付引当金 / 退職給付費用(戻入れ)」として取り崩します。


借方 金額 貸方 金額
退職給付引当金 3,000,000円 普通預金 2,100,000円
退職給付費用(戻入れ) 900,000円


戻入れとは、過去に費用計上した引当金繰入額を取り消す処理です。損益計算書上では収益(マイナス費用)として計上されます。


ただし簡便法では、個々の従業員に紐付いた引当金管理ではなく、全従業員合計の期末要支給額ベースで引当金を算定するケースが多いです。この場合、個別の余剰・不足よりも、期末一括で差額を調整する処理になります。


差額補充法の考え方が基本です。


参考:引当金の余剰発生時の具体的な処理については人事労務ジャパンのQ&Aが参考になります
退職金引当額の満額ではない退職金支払いについての会計処理 | 人事・労務の相談


退職給付引当金の支払時と税効果会計・繰延税金資産の関係

退職給付引当金と税効果会計は、財務諸表に大きな影響を与えます。


これは知っておくと得します。


毎期の退職給付費用繰入額は税務上損金不算入のため、「会計上の費用 > 税務上の損金」という状態が生まれます。この差(将来減算一時差異)に対して、法定実効税率を掛けた金額を「繰延税金資産」として資産計上します。


たとえば退職給付引当金残高1,000万円・法定実効税率30%であれば、繰延税金資産は300万円です。


$$\text{繰延税金資産} = \text{退職給付引当金残高} \times \text{法定実効税率(例:30\%)} = 1,000\text{万円} \times 30\% = 300\text{万円}$$


この300万円は将来、退職金を実際に支払って損金算入されたとき(引当金取崩時)に解消されます。退職金が支払われるタイミングで繰延税金資産も取り崩されます。


ただし注意が必要な点があります。繰延税金資産は「将来に課税所得が発生する見込みがある場合のみ」計上できます。将来の課税所得が見込めない企業(赤字続きの会社など)では、繰延税金資産の計上が制限されたり、一部取り崩しが必要になる場合があります。


この判定を「回収可能性の判断」と呼びます。


退職給付引当金に係る一時差異は長期的に解消される特性があり、この判断が特に難しいとされています。大企業では監査法人と毎期確認作業が発生します。


参考:退職給付引当金と繰延税金資産の回収可能性についての詳しい解説はこちら
退職給付に係る負債に伴う税効果の影響 | 清陵監査法人


退職給付引当金の支払時・役員退職金との仕訳の違いと注意点

役員退職金は従業員の退職給付引当金とは別の処理が必要です。


混同しがちですが、根本的に異なります。


従業員の退職金は退職給付会計の対象ですが、役員(取締役・監査役など)に対する退職金は退職給付会計の対象外です。役員の場合は「役員退職慰労引当金」という別の勘定科目を使います。


区分 引当金科目 費用科目 支払時の借方
従業員 退職給付引当金 退職給付費用 退職給付引当金
役員 役員退職慰労引当金 役員退職慰労引当金繰入 役員退職慰労引当金


役員退職金の支払では、税務上の手続きが特に重要です。役員退職金は主総会の決議によって金額が正式に確定した日の属する事業年度に損金算入されます。取締役会で「内定」した段階では損金算入できません。


ここで多くの会社が見落とすのが、「支払先が役員の親族である特殊関係使用人の退職金」です。このケースでは、不相応に過大な金額については損金算入が認められません。同業種・同規模の企業と比較して適正な範囲でなければ、過大支給分は役員賞与と同様の扱いになります。


役員退職慰労引当金の繰入は、退職給付引当金と同様に税務上は損金不算入です。また、役員退職金は特定の条件を満たす場合に「特別損失」として計上できる場合もあります。大規模なリストラや会社の経営環境が一変した事象を伴う場合が該当します。


退職給付引当金の支払時・少人数企業と大企業で異なる実務対応

企業規模によって退職給付引当金の実務対応は大きく異なります。


これは独自の視点ですね。


300人未満の中小企業は、簡便法を使って期末自己都合要支給額ベースで引当金を算定します。外部の専門家に依頼しなくても自社内で計算できるため、経理コストは比較的低く抑えられます。ただし引当金計上が義務でも、実際には計上していない中小企業が存在することも事実で、税務調査で指摘されるリスクがあります。


300人以上の大企業や上場企業では原則法が求められます。アクチュアリー(年金数理人)への委託費用は年間で数十万円から百万円以上かかることもあります。計算結果は複数の前提数値(割引率・昇給率・退職率)の変動による影響も受けるため、毎期の繰入額が大きく変動することがあります。


また、IFRS(国際財務報告基準)を適用する企業では「確定給付債務(DBO)」の計算に加えて、数理計算上の差異の即時認識(OCI処理)が求められるなど、日本基準とは異なる処理が必要になります。


| 企業規模 | 計算方法 | 主な実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 300人未満(中小) | 簡便法OK | 期末要支給額の正確な把握が必要 |
| 300人以上(大企業) | 原則法 | アクチュアリーへの依頼、年金資産の時価評価 |
| 上場・IFRS適用企業 | IAS19準拠 | OCI処理・開示要件が増加 |


中小企業では退職金制度の見直し(確定拠出年金・中退共への移行)で引当金計上を不要にする選択もあります。引当金管理コストの削減と、掛金の即時損金算入というダブルメリットが得られます。この移行を検討することが条件になってくるケースも多いです。


退職給付引当金の支払時における実務チェックリストと申告調整の手順

退職金支払時に経理担当者が確認すべき手順をまとめます。


これは使えそうです。


退職金支払いが確定した際に確認する事項は以下の通りです。


- ✅ 当該従業員の退職給付引当金残高を確認する
- ✅ 退職金支給額(就業規則の計算式に基づく)を算定する
- ✅ 退職所得控除額を計算する(勤続年数を確認)
- ✅ 「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無を確認する
- ✅ 源泉徴収税額を計算し、仕訳に「預り金」を計上する
- ✅ 引当金残高と支払額の差異処理(超過は退職給付費用、余剰は戻入れ)
- ✅ 法人税申告書への反映(退職金支払額の損金算入確認)


特に税務申告の観点では、退職金の支払時期と決算期のタイミングが重要です。たとえば3月決算の会社で、3月末退職・4月支払の場合、退職日(3月)で損金算入するか支払日(4月)で損金算入するかを選択できます。どちらを選ぶかによって、当期と翌期の課税所得が変わります。


$$\text{損金算入タイミングの選択肢} = \begin{cases} \text{退職日(当期)に損金算入} \\ \text{支払日(翌期)に損金算入} \end{cases}$$


利益が多い期に損金算入を前倒しにすることで節税効果が見込めます。逆に赤字の期に無理に前倒しても意味がありません。当期の利益状況を確認したうえで判断することが原則です。


また、退職金支払後に税務調査が入った際に「なぜこの金額か」を説明できる計算根拠(就業規則・退職金計算書・勤続年数証明)を整備しておくことも大切です。


書類が整っていれば問題ありません。


参考:法人税申告における退職金の損金算入時期について国税庁の法人税基本通達が参考になります
第2款 販売費及び一般管理費等 | 国税庁




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