

子会社の業績が好調なほど、あなたが相続で支払う税額は数千万円単位で増える可能性があります。
非上場株式の相続税評価は、上場株式とはまったく異なる仕組みで動いています。上場株式であれば証券取引所での市場価格が基準になりますが、非上場株式には公開された市場価格がありません。そのため、国税庁が定める「財産評価基本通達」に従い、会社の財務内容をもとに評価額を算定することになります。
親会社の非上場株式を評価する際に、その親会社が子会社の株式を保有していると、評価作業は2段階になります。まず子会社の株価を算定し、その値を親会社の資産の一部として組み込んだうえで、親会社の株価を算出する流れです。これが「子会社株式の相続税評価」の基本構造です。
評価方法は、会社規模(大会社・中会社・小会社)と株主の立場(同族株主かそれ以外か)によって変わります。
以下のように整理できます。
| 株主の立場 | 評価方式 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 同族株主(原則) | 原則的評価方式 | 類似業種比準価額・純資産価額・併用 |
| 少数株主など | 配当還元方式 | 過去の配当実績をもとに算定、評価額は低め |
同族株主が親会社の株式を相続または贈与で取得した場合、原則として原則的評価方式が適用されます。この方式の中でも最も重要な計算ロジックが「純資産価額方式」で、会社の資産・負債を相続税評価額に置き換えて1株あたりの価額を求めます。つまり大切なのは、子会社の財務状態がそのまま親会社の株価に響くという点です。
子会社が赤字でも、黒字でも、その財務内容は親会社の評価額に影響します。評価ルールを把握していないと、相続発生後に想定外の税額を請求される事態になりかねません。
参考リンク(国税庁による取引相場のない株式の評価制度の概要)。
No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁
親会社の株価を純資産価額方式で算定するとき、計算は2つのステップで進みます。まず子会社の株価を算定し、次にその値を親会社の資産として組み込みます。それぞれのステップで何をするかを、具体的な数字で確認してみましょう。
【前提条件(例)】
- 子会社:発行済株式数10万株、資産の相続税評価額合計2億円、負債5,000万円
- 親会社:発行済株式数100万株、資産の相続税評価額合計11億5,000万円(子会社株式の評価額を含む)、負債2億円、資産の帳簿価額合計4億円
ステップ1:子会社の1株あたり純資産価額を算定する
子会社の純資産価額(相続税評価額ベース)=2億円 − 5,000万円 = 1億5,000万円
1株あたりの純資産価額 = 1億5,000万円 ÷ 10万株 = 1,500円
ステップ2:親会社の1株あたり純資産価額を算定する
1. 相続税評価額ベースの純資産 = 11億5,000万円 − 2億円 = 9億5,000万円
2. 帳簿価額ベースの純資産 = 4億円 − 2億円 = 2億円
3. 評価差額 = 9億5,000万円 − 2億円 = 7億5,000万円
4. 法人税等相当額(37%控除)= 7億5,000万円 × 37% = 2億7,750万円
5. 控除後の純資産 = 9億5,000万円 − 2億7,750万円 = 6億7,250万円
6. 1株あたり純資産価額 = 6億7,250万円 ÷ 100万株 = 672.5円
大切なのは、ステップ1の子会社の評価では37%控除を使えないという点です。ステップ2の親会社の評価では37%控除を適用しています。つまり、計算の段階によって控除の適否が異なるわけです。
これが原則です。実務でこの違いを見落とすと、子会社株式の評価が本来より低く算定され、親会社の株価も過小になります。
純資産価額方式には「評価差額に対する法人税等相当額の37%控除」というルールがあります。これは「会社を清算した場合、含み益に対して法人税が課されるため、あらかじめその分を差し引く」という考え方に基づいています。現行の実効税率を踏まえ37%という数字が使われています。
ところが、財産評価基本通達186-3では、子会社株式の評価においてはこの37%控除を使えないと明記されています。なぜ禁止されているのでしょうか?
理由は大きく2つあります。
1つ目は「二重控除の防止」です。
子会社で37%を控除し、さらに親会社でも37%を控除すると、同じ含み益について重複して税負担を差し引く計算になります。
これは公平性の観点から認められません。
2つ目は「租税回避の防止」です。親会社に含み益のある土地などの資産を保有している場合、そのまま持っていると純資産価額が高くなります。しかし資産を子会社に移してしまえば、37%控除が適用される子会社の含み益として処理できるようになります。このルールがなければ、資産を子会社に移すだけで意図的に株価を引き下げる操作が可能になってしまいます。
| 対象 | 37%控除の可否 |
|---|---|
| 親会社自身の資産(土地・建物など)の評価差額 | ✅ 控除できる |
| 親会社が保有する子会社株式の評価差額 | ❌ 控除できない |
37%控除ができるかどうかが条件です。適用誤りは税務調査での指摘案件になりやすく、過少申告加算税(最大15%)と延滞税(納期限から2か月超で年8.7%)が加算されることもあります。
参考リンク(財産評価基本通達186-3の原文)。
第1節 株式及び出資|国税庁(財産評価基本通達)
実務では、1つの親会社が複数の子会社を持ち、さらにその子会社が孫会社を持つ、というグループ構造が珍しくありません。こうした多段階の場合、評価作業はさらに複雑になります。
基本的な考え方は同じです。孫会社の株価をまず算定し、その値を子会社の資産として組み込み、子会社の株価を確定させます。次に子会社株価を親会社の資産に組み込み、親会社の株価を算出するという流れになります。
注意すべきなのは、どの段階の株価を算定する場合も、子会社(または孫会社)の株式部分については37%控除が適用できないという点です。3階層、4階層と構造が深くなるほど、計算の煩雑さと見落としリスクが高まります。
また、孫会社が「株式等保有特定会社」に該当するかどうかの判定も必要です。この判定を誤ると、評価方法の選択がそもそも間違えた状態になります。結果として親会社の申告値も狂い、税務調査での指摘対象になります。
複数の子会社や孫会社がある場合は専門家への相談が必須です。1社ずつの評価作業だけで膨大な時間を要するうえ、専門的な知識がなければ判定誤りに気づきにくいのが実情です。
子会社株式を多く保有している会社は「株式等保有特定会社」として特別扱いされることがあります。これは財産評価基本通達が定めた「特定の評価会社」の区分の一つです。
株式等保有特定会社とは、会社の総資産(相続税評価額ベース)に占める株式等の割合が50%以上の会社を指します。この50%というラインが判定の分かれ目です。
「株式等」の範囲には、上場・非上場の株式だけでなく、出資金(合同会社への出資など)、転換社債型新株予約権付社債も含まれます。一方で投資信託は含まれないため、保有資産の内容によって50%判定の結果が変わります。
| 株式等の割合 | 判定結果 | 原則評価方法 |
|---|---|---|
| 50%以上 | 株式等保有特定会社に該当 | 純資産価額方式(評価額が高くなりやすい) |
| 50%未満 | 該当しない | 会社規模に応じた原則的評価方式 |
この判定が重要なのは、株式等保有特定会社に該当すると、評価額が高くなりやすい「純資産価額方式」が強制されるからです。通常は類似業種比準価額方式と純資産価額方式を組み合わせて使えますが、特定会社では類似業種比準価額方式が原則として使えなくなります。
一般的に、類似業種比準価額方式で算定した株価の方が低くなる傾向があります。つまり株式等保有特定会社に認定されると、相続税の税負担が大幅に増える可能性があるわけです。
参考リンク(株式等保有特定会社の評価の詳細)。
(特定の評価会社の株式)|国税庁
株式等保有特定会社に該当した場合、原則は純資産価額方式で評価しますが、もう一つの選択肢として「S1+S2方式」があります。この方式は、会社の資産を株式等(S2)とそれ以外の資産(S1)に分けて、それぞれ別々に評価し合算する方法です。
S1(株式等以外の部分)は、一般の評価会社に準じて評価します。つまり会社規模に応じた類似業種比準価額方式や純資産価額方式が使えるため、S1の部分については株価を抑えられる可能性があります。
S2(株式等の部分)は純資産価額方式で評価します。
ここでは37%控除が適用可能です。
つまりS1+S2方式です。S1部分に類似業種比準価額が使えれば、全体を純資産価額方式で評価するよりも株価を低く抑えられるケースがあります。どちらを選ぶかは取得者の選択に委ねられていますが、試算を比較したうえで判断することが重要です。
具体的にどちらが有利かは、会社の資産構成や規模によって異なります。その試算には専門知識が必要なため、相続税に精通した税理士への確認が欠かせません。
日本の中堅・中小企業でも、海外に子会社を設けるケースが増えています。しかしこの海外子会社が好調になることで、日本の親会社の相続税評価額が想定外に高くなる事態が起きることがあります。
仕組みはこうです。日本の親会社が海外子会社の株式を保有している場合、その株式の時価(通常は時価純資産で算定)を使って親会社の資産を評価します。海外子会社が業績好調で内部留保が積み上がっていると、時価は簿価を大きく上回ります。
この結果、親会社の総資産に占める子会社株式の割合が高まります。これが50%を超えると「株式等保有特定会社」に該当し、純資産価額方式で評価されることになります。類似業種比準価額方式が使えなくなり、株価が大幅に跳ね上がるわけです。
海外子会社が好業績であることは事業上は喜ばしいことです。しかし相続税の文脈では、それが親会社の株価を押し上げ、オーナーの相続税負担を何千万円単位で増加させる引き金になり得ます。
これは意外ですね。
特に経営者が高齢になってきた会社では、海外子会社の業績と自社株評価の関係について、早い段階で税理士に現状確認を依頼することをおすすめします。
子会社株式を評価する際にも、その子会社の「会社規模」を判定する必要があります。会社規模は、従業員数・直前期の売上高・総資産価額の3つの指標をもとに、大会社・中会社(大・中・小)・小会社に分類されます。
この分類によって、子会社の評価方法が変わります。大会社は類似業種比準価額方式、小会社は純資産価額方式が原則で、中会社は両者を組み合わせた併用方式になります。
| 会社規模 | 原則的評価方法 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額方式 |
| 中会社(大・中・小) | 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式(類似業種比準価額方式との選択可) |
ここで注意すべき点があります。子会社が小会社に該当する場合、純資産価額方式が原則となりますが、37%控除はできません。小会社の場合は資産の含み益がそのまま評価額に反映されやすく、親会社の株価を引き上げる効果が大きくなります。
つまり「子会社が小規模な会社だから影響は少ない」と思うのは危険です。規模が小さくても含み益の大きい資産を保有していれば、評価額は膨らみます。規模の判定と資産の内容を両方確認することが基本です。
子会社株式の評価を誤った場合、どのようなリスクが生じるのかを具体的に確認しておく必要があります。最も問題になるのは「法人税等相当額37%控除を子会社株式の評価で誤って適用してしまう」パターンです。
この誤りが発生すると、子会社株式の評価額が本来よりも低く算定されます。その結果、親会社の純資産価額も過小に計算され、相続税・贈与税の申告額が少なくなります。これを税務調査で指摘されると、追加で納めるべき税額のほかに以下のペナルティが加算されます。
- 過少申告加算税:不足税額の10%(税務調査の事前通知後は15%に増加)
- 延滞税:法定納期限の翌日から2か月以内は年2.4%、2か月超で年8.7%(令和6年現在の水準)
仮に申告漏れの相続税額が1,000万円だった場合、過少申告加算税100万円に加え、発覚が2年後なら延滞税も約170万円以上になります。合計で1,270万円超の追加負担になるわけです。
痛いですね。税務調査で相続税の申告誤りが見つかった場合、更正処分や修正申告が求められ、一度の調査で大きな損失が発生します。特に中堅・中小企業のオーナー家においては、評価誤りによる追徴が事業承継計画自体を狂わせることもあります。
「株特外し」とは、株式等保有特定会社に該当しないよう、総資産に占める株式等の比率を50%未満に下げる対策のことです。これを行うことで、純資産価額方式の強制適用を避け、類似業種比準価額方式との組み合わせが可能になります。その結果、株価を抑えて相続税負担を軽減できるケースがあります。
主な手法としては次のようなものがあります。
- 収益性の高い不動産を購入し、非株式資産の比率を高める
- 株式等の一部を売却し、その代金を保険や投資信託に換える(ただし投資信託は株式等から除外)
- 子会社が事業を行い、事業用資産(機械・設備等)を増やすことで非株式資産を厚くする
これは使えそうです。ただし、財産評価基本通達189には「合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとする」と定められています。
つまり、税負担を軽くする目的だけで直前に資産をわざわざ入れ替えると、税務署がその変動を「ないもの」として取り扱う可能性があります。株特外しを進める場合は、合理的な事業目的があること、そして時間的な余裕を持って早期に着手することが不可欠です。
「課税時期の直前に行った」という状況は特に目をつけられやすくなります。相続が発生する何年も前から計画的に動くことが原則です。
子会社株式の評価が高くなった場合でも、「事業承継税制(非上場株式等についての相続税の納税猶予制度)」を活用することで、相続税・贈与税の大部分を猶予または免除できる場合があります。
事業承継税制は2018年の税制改正で大幅に拡充され、「特例措置」として対象株式の全株について相続税・贈与税の100%の猶予が受けられるようになりました。
これは親会社の株式が対象です。
一定の要件を満たして事業を継続する限り、猶予された税額は最終的に免除されます。
ただし、特例措置の適用には「特例承継計画」を都道府県に事前提出する必要があり、2026年3月31日までに提出が完了していることが求められています(適用申請は2027年12月31日まで)。
この期限は厳守です。
子会社株式の評価が高く、株式等保有特定会社に該当するほど多くの子会社株式を抱えている会社ほど、事業承継税制の効果が大きくなります。特例措置の期限が近づいているため、まだ適用を検討していない場合は今すぐ税理士に確認することが重要です。
参考リンク(事業承継税制の特例措置についての国税庁情報)。
No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁
子会社株式の評価が高いと親会社の株価も上がり、結果として相続税の負担が大きくなります。合法的な範囲で評価を下げる対策は存在しますが、いずれも事前に計画的に行う必要があります。
代表的な手法を以下に示します。
- 役員退職金の支払い:先代経営者に多額の退職金を支払うことで、会社の純資産が減少し株価を下げられます。
退職金は一定額まで損金算入が認められます。
- 役員報酬の引き上げ:収益を圧縮し類似業種比準価額の「利益」の要素を下げる効果があります。ただし適正額を超えると税務上問題になるため慎重な設定が必要です。
- 含み損のある資産の処分:時価が下がった資産を売却し含み損を実現することで、純資産価額を引き下げる効果があります。
- 設備投資・不動産取得:事業用資産を増やすことで含み益のバランスが変わり、評価に影響を与えることがあります。
いずれの対策も、タイミングと規模が適切かどうかの判断が肝心です。特に「退職金支払い直後に相続が発生すると退職金の損金算入が否認されるリスクがある」など、実行には実務的な落とし穴が存在します。
自社株の評価引き下げを検討する際は、財産評価基本通達に精通した相続専門の税理士に相談のうえ、3〜5年単位の計画で進めることが現実的です。
子会社株式の評価というと「株式会社の株式」だけが対象だと思われがちですが、財産評価基本通達の適用範囲はそれよりも広くなっています。
これが実務上の盲点になるケースがあります。
まず「取引相場のない出資」、つまり合同会社(LLC)や合名会社・合資会社への出資持分も同様のルールが適用されます。親会社が合同会社に出資している場合、その出資持分の評価でも37%控除は認められません。
次に「転換社債型新株予約権付社債」です。これは株式ではなく社債に分類されますが、将来株式に転換できる権利を持っているため、株式等保有特定会社の判定においては株式等に含めて計算します。社債だから関係ない、と見落としがちな部分です。
また、ゴルフ会員権のうち「株式制」のものは株式として扱われます。ゴルフ会員権を多数保有している会社が株式等保有特定会社の50%ラインを超えてしまう事例も実際に存在します。
このように子会社株式の評価では、一見「株式ではない」と思われる資産も評価対象に含まれることがあります。資産の名称だけで判断せず、保有している資産の内容を財産評価基本通達の定義に照らして正確に確認することが必要です。
子会社株式を含む非上場株式の相続税評価を正確に行うためには、相当量の資料収集が必要です。まず親会社と子会社それぞれについて、以下の書類が必要になります。
- 過去3期分の法人税申告書(決算書・勘定科目内訳書含む)
- 株主名簿(役職と被相続人との続柄)
- 法人所有の不動産明細(固定資産税課税通知書)
- 有価証券の明細(銘柄・株数)
これらの書類をもとに、まず子会社の会社規模を判定し、適切な評価方法を選択します。次に子会社の純資産価額を37%控除なしで算定し、親会社の資産に組み込みます。親会社の評価差額に37%控除を適用し、最終的な1株あたりの純資産価額を算出します。
相続税の申告期限は「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内」です。この期限は延長が基本的に認められないため、相続発生後はすぐに動き出すことが必要です。特に子会社が複数あったり、株式等保有特定会社の判定が必要になるケースでは、準備期間が相当必要になります。
評価に不安がある場合は、相続税専門の税理士に依頼することが最も安全です。子会社株式の評価を含む申告は、一般的な相続税申告よりも複雑なため、経験豊富な専門家の選択が重要です。
参考リンク(相続税申告に必要な書類の一覧)。
No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁