取引相場のない株式の評価と純資産価額の正しい計算手順

取引相場のない株式の評価と純資産価額の正しい計算手順

取引相場のない株式の評価と純資産価額の全知識

純資産価額が高い会社の株式ほど、相続税の支払額が必ず増えるわけではありません。


📋 この記事の3ポイント要約
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会社規模で評価方式が3分類される

大会社・中会社・小会社の区分によって、類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式が割り当てられます。同じ会社の株式でも区分が変わるだけで評価額が大きく異なります。

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純資産価額は類似業種比準の最大4倍になることがある

日経新聞の調査では、純資産価額の中央値は4万2,648円に対し、類似業種比準方式では1万1,622円という調査結果があります。評価方式の選択が納税額を左右します。

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37%控除と80%評価に適用除外がある

法人税等相当額37%控除は、会社が別の非上場株式を保有している場合には適用できません。また80%評価は大会社の純資産価額選択時には使えないなど、例外が多い点に注意が必要です。


取引相場のない株式の評価における会社規模と純資産価額方式の位置づけ

取引相場のない株式とは、証券取引所に上場していない株式、いわゆる非上場株式のことです。上場株式と異なり市場で株価が毎日確定するわけではないため、相続税や贈与税の申告においては、一定のルールに基づいて評価額を算定しなければなりません。


評価の出発点は「会社規模の判定」です。評価対象の会社を大会社・中会社・小会社のいずれかに区分し、それぞれ異なる評価方式を適用します。この区分は、①総資産価額(帳簿価額)、②従業員数、③直前1年間の取引金額(売上高)という3つの基準で判定されます。


- 大会社:従業員70人以上、または総資産・売上高が一定以上の会社。原則として類似業種比準価額方式で評価する。


- 中会社:大会社と小会社の中間に位置する会社。「中会社の大(L=0.90)」「中会社の中(L=0.75)」「中会社の小(L=0.60)」の3段階に細分化される。


- 小会社:最も規模の小さい区分。原則として純資産価額方式で評価する。


純資産価額方式は、一言で言えば「今、会社を清算したらいくらになるか」を計算するアプローチです。会社が保有するすべての資産を相続税評価額に洗い替えし、そこから負債と含み益に対する法人税等相当額を差し引いて1株あたりの純資産価額を算出します。


規模が小さい会社ほど純資産価額方式の比重が大きくなる、というのが原則です。


ただし、どの規模の会社であっても、納税義務者の選択により純資産価額方式を単独で使うことができます。大会社や中会社でも「類似業種比準価額より純資産価額の方が低くなる」と判断した場合、純資産価額方式を選ぶことが認められています。つまり原則は類似業種比準であっても、選択の余地は常にあります。これは使えそうです。


なお、国税庁タックスアンサーNo.4638には、各評価方式の適用条件が整理されており、実務の出発点として必ず参照すべき内容が記載されています。


国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価(評価方式の全体像が確認できます)


取引相場のない株式の評価における純資産価額の具体的な計算手順

純資産価額方式の計算は、大きく3つのステップで構成されています。順を追って確認しましょう。


ステップ①:資産の相続税評価額への洗い替え


会社が保有する資産(土地・建物・有価証券売掛金など)を、財産評価基本通達に基づく相続税評価額に換算します。ここで帳簿価額と時価の差が「含み益」として浮かび上がります。


たとえば、帳簿上5,000万円で計上されている土地が、相続税評価額では9,000万円と評価された場合、4,000万円の含み益が生じます。この差額が後の計算で重要な役割を担います。


ステップ②:法人税等相当額(37%控除)の控除


含み益4,000万円に対して37%を乗じた1,480万円を、法人税等相当額として控除します。これは「もし会社が今すぐ資産を売却したら、法人税を払わなければならない」という現実を反映した措置です。


37%という割合は、法人税・地方法人税・事業税・地方法人特別税・道府県民税・市町村民税を合算した実効税率に相当します。以前は42%でしたが、法人税率の引き下げに伴い、平成28年4月1日以後の相続等から37%に改正されました。


ステップ③:1株あたりの純資産価額の算出


相続税評価額による純資産(資産合計−負債合計)から法人税等相当額を差し引いた金額を、発行済株式総数で割ることで1株あたりの純資産価額が得られます。


$$1株あたり純資産価額 = \frac{(相続税評価額による総資産 - 総負債 - 評価差額 \times 37\%)}{発行済株式総数}$$


計算式は シンプルに見えますが、資産ごとの評価ルールが複雑です。


注意が必要な資産として「課税時期前3年以内に取得した土地・建物」があります。通常は路線価固定資産税評価額で評価しますが、直近3年以内に取得したものは路線価評価が認められず、通常の取引価額(実勢時価)での評価が必要です。これを見落とすと評価額が大幅に狂うため、取得時期の確認は必須です。


国税庁|財産評価基本通達 第8章第4節 純資産価額(通達185の原文が確認できます)


取引相場のない株式の評価額が最大4倍変わる:評価方式の選択と節税インパクト

純資産価額方式と類似業種比準価額方式では、評価額に驚くほどの差が生じることがあります。


日本経済新聞の調査(2024年)によれば、純資産価額方式による評価額の中央値は1株あたり4万2,648円であったのに対し、類似業種比準価額方式では同じ会社が1万1,622円と、約4分の1の水準にとどまりました。評価方式が一つ変わるだけで、納税額が数倍規模で変わりうるということです。


| 評価方式 | 特徴 | 評価額の傾向 |
|---------|------|------------|
| 類似業種比準価額方式 | 上場会社の株価・配当・利益を参考 | 低くなりやすい |
| 純資産価額方式 | 会社の資産・負債を時価換算 | 高くなりやすい |
| 配当還元方式 | 配当金額÷10%で計算 | 最も低くなりやすい |


土地保有特定会社株式保有特定会社に該当すると、類似業種比準方式が使えず、強制的に純資産価額方式のみになります。これが問題です。土地の含み益が大きい会社ほど、純資産価額方式では株価が膨らみ、相続税が高額になりやすい構造があります。


実務上、土地保有特定会社は大会社で「総資産に占める土地等の割合が70%以上」、中会社では「90%以上」で判定されます。不動産を多く保有するオーナー企業では、自社がこの区分に該当していないかを事前に確認しておくことが非常に重要です。


類似業種比準価額方式が使える立場なら積極的に活用する。これが節税の基本です。


取引相場のない株式の純資産価額に適用される80%評価と37%控除の例外

純資産価額方式には、評価額を下げるための2つの重要な軽減措置があります。ただし、どちらにも適用除外があり、誤解が生じやすいポイントです。


80%評価(同族株主グループの持株割合が50%以下の場合)


株式の取得者とその同族関係者の議決権割合の合計が50%以下である場合、純資産価額に100分の80を乗じた金額を評価額とすることができます。少数株主グループに属する場合、自動的に20%の減額が認められます。


ただし、この80%評価には適用できないケースが存在します。大会社の株式について納税者が「類似業種比準価額の代わりに純資産価額を選択した」場合、その純資産価額には80%評価が適用されません。つまり大会社の株式を純資産価額で評価する場合、80%評価は原則として使えません。この点は見落とされがちです。


37%控除の例外(子会社が非上場株式を保有している場合)


評価会社(親会社)が、別の取引相場のない株式(子会社株式)を保有している場合、その子会社株式の純資産価額を計算する際には、37%の法人税等相当額控除が認められません。


これは「二重に斟酌する必要はない」という考えに基づくものです。親会社を評価する段階で一度含み益に対する法人税相当額を考慮しており、子会社の段階でも同様の控除を行うことは過剰な軽減になるとの判断です。


また、現物出資・合併・株式交換株式移転によって著しく低い価格で受け入れた資産がある場合も、受け入れ時の時価との差額分には37%控除が適用されません。例外が条件です。


軽減措置 適用条件 適用できないケース
80%評価 取得者+同族関係者の議決権が50%以下 大会社の選択純資産価額
37%控除 含み益がある資産を保有している場合 評価会社が非上場株式を保有する場合の子会社計算・現物出資等受入資産


これらの例外は、実務でも見落としが起きやすい箇所です。特にグループ会社の株式が絡む場合は、37%控除の適用可否を必ず確認することが重要です。


尼崎の税理士事務所|純資産価額方式による非上場株式評価 実務完全ガイド(37%控除の例外・80%評価の実務解説が詳しく記載されています)


取引相場のない株式の評価における特定会社と純資産価額の独自リスク

一般的にはあまり語られませんが、「特定の評価会社」に該当すると、有利な評価方式が選べなくなり、純資産価額方式一択を強いられるケースがあります。これを知らずに事業承継の準備を進めると、将来の相続税が想定外に膨らむリスクがあります。


「特定の評価会社」とは、以下の6つに分類されます。


- 比準要素数1の会社:類似業種比準の3要素(配当・利益・純資産簿価)のうち2つがゼロで、かつ前々期末も2つ以上ゼロ
- 株式等保有特定会社:総資産価額中に占める株式・出資の割合が一定以上(大会社等は50%以上)
- 土地保有特定会社:総資産中に占める土地等の割合が一定以上(大会社は70%以上、中会社は90%以上)
- 開業後3年未満の会社等:開業してから3年未満、または比準要素が全てゼロの会社
- 開業前または休業中の会社
- 清算中の会社


注目すべきは「比準要素数1の会社」です。利益が出ていない年が続いたり、無配当が続いたりすることで、気づかないうちにこの区分に該当することがあります。該当すると純資産価額のみで評価されるため、類似業種比準が使える場合と比べて評価額が大幅に上がる可能性があります。


また「株式等保有特定会社」は、持ち株会社型のグループ経営をしている企業に多く見られます。総資産の50%以上が株式・出資で構成されると該当します。この場合、S1+S2方式(株式部分は純資産価額、それ以外は一般方式で評価する方法)を選択できますが、計算が複雑になります。


業績が悪い年ほど評価が高くなる、というパラドックスが生じるのがこの評価制度の特徴的な側面です。利益がゼロに近い状態でも含み益を抱えた土地が多ければ純資産価額は高止まりします。


こうしたリスクを事前に管理するためには、決算期ごとに自社の会社区分・特定会社該当性を確認しておくことが現実的な対策です。毎年の決算時点で税理士に評価区分の確認を依頼する、あるいは事業承継の専門家に定期的なシミュレーションを委託するといった方法が有効です。


税理士法人チェスター|土地保有特定会社の判定方法(特定会社の該当要件が丁寧に解説されています)


取引相場のない株式の評価と純資産価額を活用した相続税対策の視点

純資産価額の仕組みを理解した上で、合法的に評価額を適正化する手段があります。ただし、「評価を下げること」が目的ではなく、「正しい評価方法を選ぶこと」が本来の目的です。以下は、実務でよく登場する検討ポイントです。


①会社規模の引き上げ


従業員数・売上高・総資産を増やし、小会社から中会社・中会社から大会社へ区分を上げることで、類似業種比準価額方式の比重が高まります。類似業種比準価額が純資産価額を下回る局面では、相続税評価額を大きく下げられます。


②生命保険の活用と死亡退職金


会社が役員を被保険者とする生命保険に加入しておくと、被相続人の死亡時に保険金が会社に入り、それを原資として死亡退職金を遺族に支払うことができます。この死亡退職金は「未払退職金」として純資産価額計算上の負債に計上でき、株価の上昇を抑制する効果があります。保険差益に対する法人税等相当額も負債計上が認められます。


③含み損資産の活用


含み益のある資産が多いほど純資産価額が高くなります。逆に含み損のある資産が存在すれば、評価額を下げる方向に働きます。ただし、含み損目的で不良資産を抱え続けることは経営上のリスクがあるため、慎重な判断が必要です。


④同族関係者グループの持株割合の調整


取得者とその同族関係者の議決権割合が50%以下になる場合、80%評価の恩恵を受けられます。少数株主に株式を分散させることで、評価額を20%下げられる場面があります。


注意が必要なのは、節税目的のみで組成されたスキームは、税務当局に「租税回避行為」と指摘されるリスクがある点です。


実際、最高裁令和4年4月19日判決では、財産評価基本通達による評価方法によらず「時価」で評価された事例があり、「著しく不適当な評価」と判断される事案では通達外の評価が適用されます。適正な評価のためには、スキームの経済的合理性を担保することが不可欠です。


評価方式の理解は、単なる税金計算の話にとどまらず、事業承継全体の設計に関わります。税理士や公認会計士など専門家と連携しながら、長期的な視点で対策を進めることが重要です。


国税庁|財産評価基本通達 第8章 株式及び出資(純資産価額方式の根拠通達の原文です)