

帳簿価額で計算すると、相続税が数百万円単位で変わることがあります。
非上場株式には、上場株式のように市場で形成された時価がありません。そのため、相続や贈与が発生したとき、税務上は一定のルールに従って株価を算出する必要があります。純資産価額方式は、そのための代表的な手法のひとつです。
この評価方式の根幹にある考え方は「今この瞬間に会社を解散したら、株主の手元にいくら戻ってくるか」というシンプルなものです。会社が持つすべての資産を時価で換算して売却し、全負債を返済した後に残った純財産を、発行済株式数で割った金額が1株あたりの評価額となります。たとえば会社を解散して最終的に5,000万円が残り、発行済株式数が1,000株であれば、1株=5万円という評価になります。
つまり純資産価額方式ということですね。資産・負債をそのまま帳簿価額で計算するのではなく、相続税評価額(財産評価基本通達に基づく時価)に洗い替えて計算するのが最大の特徴です。含み益がある資産(特に土地)を保有している会社では、帳簿価額と相続税評価額のギャップが大きくなりやすく、結果として株価が大きく変わることがあります。
この評価方式が特に重要になるのは、中小企業のオーナー経営者が亡くなった際の相続や、後継者への株式の生前贈与、M&A(合併・買収)の場面です。事業承継の文脈でも必須の知識となっており、正確に理解しておくことで相続税の計算ミスを防ぐことができます。
国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価(純資産価額方式の根拠通達を確認できます)
純資産価額方式の公式的な計算式は次の通りです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| A | 課税時期における相続税評価額による純資産価額(総資産−総負債) |
| B | 課税時期における帳簿価額(法人税法上)による純資産価額(総資産−総負債) |
| 37% | 評価差額(含み益)に対する法人税等相当額の割合 |
計算式は次のように表せます。
> 1株あたりの純資産価額 = {A−(A−B)×37%} ÷ 課税時期における発行済株式数
(A−B)の部分が「含み益」にあたります。土地や有価証券などを今すぐ売却した場合の利益(時価と帳簿価額の差)です。この含み益に法人税等相当額37%をかけた金額を差し引くのは、「実際に解散したら、この利益分にも法人税がかかるから」という理由です。二重課税を防ぐための仕組みとして設けられています。
37%という数字が原則です。かつては42%でしたが、法人税率の改正に伴い現行では37%が適用されています(課税時期が平成28年4月1日以降のもの)。この37%は法人税・事業税・地方法人特別税など、すべての税をひっくるめた割合です。
具体的な数字で確認しましょう。たとえば相続税評価額ベースの純資産(A)が9,000万円、帳簿価額ベースの純資産(B)が5,000万円で、発行済株式数が1,000株の場合の計算は次のようになります。
なお、(A−B)がマイナスになる場合(つまり帳簿価額のほうが時価より高い場合)は、ゼロとして計算します。含み損がある場合はそのまま不利になるわけではない、という点は知っておくと役立ちます。
計算式の構造は理解できても、肝心の「AとBをどう求めるか」が実務では最もつまずきやすいポイントです。資産・負債それぞれに細かいルールがあります。
資産の評価(Aの側)
資産は財産評価基本通達に従って評価します。ただし、科目ごとに特別なルールがあります。注意すべき主なものは次の通りです。
負債の評価(BおよびAに共通)
帳簿の負債をそのまま使うのではなく、含めるもの・含めないものの区別が厳格にあります。
引当金が負債に含まれない点は意外ですね。帳簿上では負債の部に計上されているにもかかわらず、純資産価額方式の計算では差し引けないため、その分だけ純資産価額が高くなりやすい傾向があります。退職給与引当金が数千万円規模ある会社では、この差が株価に大きく影響します。
なお、「帳簿価額」は会計上のものではなく、法人税法上の税務調整後の帳簿価額を使う点も重要です。法人税申告書の別表五(一)に記載された税務上の否認金額を踏まえた数値を用いる必要があります。
国税庁|財産評価基本通達 第1節 株式及び出資(資産・負債の取扱い規定が詳細に記載されています)
37%控除は純資産価額方式の中で最も重要な「値引き要因」のひとつですが、常に使えるわけではありません。これが実務でよく見落とされるポイントです。
37%控除が使えないのは、「評価対象会社が保有する他社の非上場株式を、さらに純資産価額方式で評価するとき」です。つまり、37%控除が認められるのは直接の評価対象会社に対してのみ、1回限りです。
具体的な例で考えましょう。A社の株式を評価するとき、A社がB社(非上場)の株式を保有している場合、B社株式の評価額を純資産価額方式で計算する際には37%控除を適用することができません。A社の評価で一度37%控除を使ったとすると、B社の評価で重ねて37%控除を使うことはできない、ということです。
37%控除は1回だけが原則です。同族オーナーが複数の非上場会社を保有し、それらの会社が互いに株式を持ち合っているようなケースでは特に注意が必要です。こうした持合い構造の場合、評価の二重控除を防ぐためのルールが厳格に適用されます。
また、37%控除の計算において(A−B)がマイナスになる場合、つまり含み損があるケースでは、この金額はゼロとして扱います。含み損があっても37%分を「プラス」に戻すことは認められていません。そのため、含み損を抱えた会社の株式では、計算上この節税効果は機能しません。
税理士法人トゥモローズ|純資産価額方式の評価上の留意点(37%控除の重複適用禁止などが詳しく解説されています)
非上場株式の評価では、純資産価額方式のほかに「類似業種比準方式」という評価方法も存在します。どちらの方式を使うか、あるいは両方を組み合わせるかは、会社の規模に応じて決まります。これが実務で大きな意味を持ちます。
会社規模と評価方式の関係
| 会社の規模区分 | 使用する評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(または純資産価額方式を選択可) |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式 |
| 小会社 | 純資産価額方式(または類似業種比準方式50%+純資産価額方式50%を選択可) |
会社規模は「総資産価額」「従業員数」「取引金額(売上高)」の組み合わせで判定します。規模が大きいほど類似業種比準方式の比率が高くなります。
類似業種比準方式は、類似する上場企業の株価を参考にして計算するため、一般的に純資産価額方式よりも評価額が低く出やすい特徴があります。特に「収益性が業界平均を下回る場合」「含み益の多い不動産を保有している場合」には、類似業種比準方式のほうが有利になることが多いです。
これは使えそうです。たとえば不動産を多く持つ中小企業の場合、純資産価額方式だと含み益がそのまま評価額に反映されてしまうため株価が高くなりやすく、相続税の負担が重くなるケースがあります。そうした場合に、会社規模の区分次第では類似業種比準方式との組み合わせで評価額を抑えられる可能性があります。
なお、持株割合が50%以下の同族関係者が株式を取得する場合は、純資産価額方式で算出した価額の80%を評価額として使うことができます(財産評価基本通達185)。少数株主ほど会社への支配力が弱いという考え方に基づく特例で、同じ会社の株式であっても取得者の立場によって評価額が変わるという、重要な実務ポイントです。
J-Net21(中小機構)|会社の株式の評価はどうやって決まる?純資産価額方式(会社規模別の評価方式の選択が図解で確認できます)
純資産価額方式の計算式を正確に理解した上で、実際の相続・事業承継の場面でどう活かすかを考えると、数字の見え方がまるで変わってきます。
まず押さえておきたいのは、純資産価額方式による評価額が高いほど相続税・贈与税の負担が増えるということです。つまり、株式を次世代に移転する前に評価額を合法的に抑えておくことが、事業承継における税負担軽減の核心になります。
評価額が下がる主な場面は次の通りです。
一方で、タイミングを間違えると逆効果になる落とし穴もあります。「今すぐ不動産を購入して含み益を圧縮しよう」と考えても、取得後3年以内は路線価評価ではなく通常取引価額で評価しなければならないため、評価圧縮の恩恵がそのまま受けられません。不動産による自社株対策には最低3年以上の準備期間が必要なのが原則です。
また、上場株式と違い非上場株式の評価は評価者の判断余地が大きいため、税務調査で評価方法を否認されるリスクも存在します。税務調査での修正申告に加えて、過少申告加算税(追加税額の10〜15%)や延滞税が課される可能性もあるため、評価の根拠を文書でしっかり残しておくことが重要です。
こうした対策は複合的な判断が必要になります。純資産価額方式の計算式を理解した上で、具体的な数字を使って「評価額がいくらになるか」を事前にシミュレーションし、相続専門の税理士とともに計画を立てることが、確実な事業承継への近道です。
税理士法人チェスター|純資産価額方式を使った非上場株式の評価方法(計算式の基礎から資産・負債の取扱いまで体系的に解説されています)