

倍率方式を「固定資産税評価額×倍率」だけで終わらせると、相続税を数百万円払いすぎる。
倍率方式とは、路線価が定められていない地域(倍率地域)の土地を相続する際に使う評価方法です。計算式はシンプルで、「固定資産税評価額×評価倍率=相続税評価額」の一本です。路線価方式のように土地の形状や奥行きに応じた補正計算が不要なケースが多く、相続人自身でも計算できる場合があります。
ただし「シンプル」と「簡単」は別物です。ここが大きな落とし穴になります。
たとえば、固定資産税評価額が3,000万円、評価倍率が1.1倍の土地であれば、相続税評価額は「3,000万円×1.1=3,300万円」と計算します。評価倍率に「1.1」が多いのには理由があります。不動産価格の目安として「時価:相続税評価額:固定資産税評価額=10:8:7」という比率(10・8・7の法則)が知られており、固定資産税評価額(7)に1.1を掛けると概ね路線価水準(8)に近づくように設計されているためです。
倍率方式と路線価方式のどちらを使うかは、国税庁が公表する「財産評価基準書」で確認できます。路線価図に「倍率地域」と記載がある場合が倍率方式の対象です。路線価が見当たらない場合や、都市計画図・課税明細書に「市街化調整区域」と書かれている場合も、倍率方式が適用されます。
倍率方式が適用される土地のイメージとしては、地方や郊外の農地・山林・宅地などです。東京23区内のほとんどは路線価方式ですが、それ以外の市街化調整区域は倍率方式です。
| 評価方法 | 対象エリア | 計算式の概要 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 主に市街化区域(都市部) | 路線価×面積×各種補正率 |
| 倍率方式 | 主に市街化調整区域(郊外・地方) | 固定資産税評価額×評価倍率 |
評価倍率は国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」から確認できます。都道府県→市区町村→地域の順に選択していくと、地域別の倍率が一覧表示されます。倍率は地目(宅地・田・畑・山林など)と地域によって異なりますので、自分の土地の地目を正確に把握してから確認するようにしましょう。
参考:国税庁「No.4606 倍率方式による土地の評価」に基本的な考え方が掲載されています。
評価倍率表は、国税庁の「財産評価基準書」のサイトから誰でも無料で閲覧できます。手順を知らないと迷子になりがちなので、流れを把握しておきましょう。
まず「財産評価基準書(rosenka.nta.go.jp)」のトップページを開き、地図またはリストから都道府県を選択します。次に「評価倍率表 一般の土地等用」をクリックし、市区町村の一覧から対象の自治体を選びます。町名・大字名が五十音順で並んだ倍率表が表示されたら、目的の地域と地目の欄を確認します。
倍率表には主に4つの情報が掲載されています。
倍率表には「純」「中」という文字が倍率の前に付いていることがあります。これは農地・山林・原野の分類を示すもので、「純」は純農地・純山林・純原野として倍率方式で計算、「中」は中間農地・中間山林・中間原野として同じく倍率方式で計算します。一方、「周比準」「比準」「市比準」が付いている場合は倍率方式ではなく宅地比準方式となるため、計算方法が変わります。
倍率地域と路線価地域が混在している地域の場合、まず自分の土地が市街化区域にあるのか、市街化調整区域にあるのかを調べる必要があります。市区町村の都市計画課や役場の窓口で確認するか、自治体のホームページで都市計画図を閲覧できる場合があります。これを確認せずに倍率表の数字を選んでしまうと、適用する評価方法そのものを間違えることになります。
倍率方式の計算で最も多いミスの一つが「課税標準額」を使ってしまうことです。これは見落とすと相続税額に直接影響する、致命的な間違いです。
毎年4月頃に自治体から送付される固定資産税・都市計画税の「課税明細書」には、土地ごとに「評価額(固定資産税評価額)」と「課税標準額」の2つが記載されています。倍率方式の計算で使うのは「評価額」のほうです。課税標準額は固定資産税を課税するための基準となる金額であり、住宅用地の特例(小規模住宅用地は評価額の1/6、一般住宅用地は1/3)などが適用された後の数字です。
つまり、課税標準額は固定資産税評価額よりも大幅に小さい場合があり、誤って課税標準額を使うと相続税評価額が実態よりも低く計算されてしまいます。これが問題なのは、過少申告として税務署に指摘されるリスクがあるからです。
課税標準額を使ってしまうと過少申告です。
具体的な数字で確認してみましょう。たとえば、ある土地の固定資産税評価額が2,000万円、課税標準額が333万円(住宅用地特例で1/6に軽減されている場合)だとします。倍率が1.1倍のとき、正しい相続税評価額は「2,000万円×1.1=2,200万円」です。しかし誤って課税標準額を使うと「333万円×1.1=366万円」となり、約1,834万円もの評価差が生じてしまいます。
固定資産評価証明書を役所で取得する場合も、「評価額」欄の数字を確認するようにしてください。課税明細書が手元にない場合、市区町村役場(東京23区は都税事務所)の窓口で申請できます。発行手数料は1通あたり200〜400円程度です。
倍率方式の計算で見落とされがちなのが、地目の確認です。地目とは、土地の用途による区分のことで、宅地・田・畑・山林・原野・雑種地などがあります。
相続税の土地評価では、登記簿上の地目ではなく「相続開始時点の現況の地目」で判断します。これが登記上の地目と一致していない場合に、大きな問題が発生します。たとえば、登記上は「畑」のままになっているのに、実際にはアスファルト敷きの駐車場(雑種地)として使われているケースです。この場合、相続税評価上は「雑種地」として評価しなければなりません。
地目が変わると倍率も変わります。
市街化調整区域において、畑と宅地では1㎡あたりの固定資産税評価額が1桁以上変わることもあります。登記上の地目に対する評価額をそのまま使えないケースがあり、正しい地目の固定資産税評価額を改めて算定する必要が出てきます。
なお、雑種地(ゴルフ場・遊園地・駐車場・資材置き場など)については、倍率表に評価倍率が掲載されていません。倍率地域の雑種地は「比準方式」として、近隣の類似地目の土地の価額をベースに計算することになります。市街化区域の場合は「宅地比準方式」、市街化調整区域の農地等の場合は「農地等比準方式」が適用されます。
また、市街化調整区域の雑種地を評価する際には「しんしゃく割合」という減価補正が認められています。開発行為の可否や法的規制の内容に応じて最大50%の減額が可能で、これを正しく適用できるかどうかで評価額が大きく変わります。しんしゃく割合の判定は税務調査で指摘されやすい項目でもあるため、専門家に確認を依頼するのが無難です。
倍率方式を使う際のもう一つの落とし穴が「基準年度」の問題です。意外と知られていないポイントです。
固定資産税評価額は、原則として3年に1度「評価替え」が行われます。直近では2024年(令和6年)が評価替えの年にあたりました。つまり、同じ土地でも評価替えが行われた年とそうでない年では、固定資産税評価額が変わる場合があります。
相続税の計算で使うべき固定資産税評価額は「相続が開始した年の1月1日時点の固定資産税評価額」です。古い年度の課税明細書を使ってしまうと、正確な評価額にならない可能性があります。
さらに厄介なのが、一部の自治体では地価の下落などを理由として3年の周期を待たずに評価額を下げることがある点です。評価倍率は自治体の評価額の動きを加味した上で設定されています。そのため、自治体が独自に評価額を下げている年分の評価額に、その倍率をかけると評価額が低くなりすぎてしまいます。
倍率は基準年度の評価額に対して設定されています。
たとえば、平成26年に亡くなった方の相続税を計算する場合、評価替え(基準年度)は平成24年度です。もし自治体が平成25年に独自で評価額を引き下げていた場合、その数字を使うのではなく、平成24年(基準年度)の固定資産税評価証明書を取り寄せて計算しなければなりません。面倒でも基準年度の証明書を取得することが、正確な評価の大前提です。
1月から3月の間に亡くなった方の場合、相続税の申告時点ではまだその年の固定資産税評価額が公表されていない(4〜5月公表のため)という状況も発生します。この場合は前年度の評価額を使いますが、評価替えの年に重なると注意が必要です。
参考:相続税の土地評価の注意点や補正計算について、フジ総合グループの解説記事が参考になります。
フジ総合グループ「倍率方式による相続税評価の計算方法と注意点を解説!」
「倍率方式は補正ができない」と思っている方は多いですが、実は一定の補正計算が認められています。これを知らないと、払わなくてよい相続税を払い続けることになります。
倍率方式で適用できる主な補正は以下の3種類です。
実際の事例を一つ紹介します。不動産鑑定士が倍率方式の土地(当初評価額約2,700万円)を見直したところ、固定資産税評価額そのものに「セットバック未反映」「不整形地補正の未適用」「都市計画道路予定地の未織り込み」という3つのミスが発見されました。これらを正しく補正し直した結果、評価額が約500万円下がり、最終的に相続税が約200万円還付されました。
還付を受けられる期間は、相続税の申告期限の翌日から5年以内(更正の請求)です。この期限内であれば見直しの申請が可能です。心当たりがある場合は、相続税専門の税理士に相談することで還付になる可能性を確認できます。
参考:実際に固定資産税評価額の見直しで相続税が還付になった事例はこちらで詳しく解説されています。
フジ総合グループ「倍率地域における固定資産税評価額の落とし穴|約200万円の相続税還付事例」