

路線価図に書かれた「D(60%)」という数字だけで売却価格を計算すると、実勢取引より数百万円から1,000万円単位で損をすることがある。
借地権割合とは、土地全体の価値のうち「借地権(土地を借りて建物を建てる権利)」が占める割合を数値化したものです。同じ一枚の土地には、地主が持つ「底地権」と借地人が持つ「借地権」という2つの権利が重なっています。どちらの権利が土地の価値のうち何割を占めるのかを示すのが、この割合です。
国税庁が毎年7月1日に公表する路線価図を使えば、誰でも無料で確認できます。手順はシンプルです。
1. 国税庁ホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にアクセス
2. 調べたい土地の都道府県を選択し、「路線価図」をクリック
3. 市区町村・地名(丁目)を選択し、対象の路線価図を開く
4. 土地に面している道路の数字とアルファベットを確認する
数字とアルファベットの組み合わせがすべてを語っています。例えば「550D」と書かれていれば、路線価は550千円(55万円/㎡)、アルファベット「D」は借地権割合60%を意味します。これが基本です。
アルファベットと割合の対応表は以下の通りです。
| 記号 | 借地権割合 | 主な地域イメージ |
|------|-----------|----------------|
| A | 90% | 銀座・新宿などの超一等地 |
| B | 80% | 都心主要駅周辺の商業地 |
| C | 70% | 駅前商業地・高級住宅地 |
| D | 60% | 市街地の一般住宅地 |
| E | 50% | 郊外の閑静な住宅地 |
| F | 40% | 地方の車社会型住宅地 |
| G | 30% | 農村・山間部寄りの地域 |
住宅地では「D(60%)」が最も多く見られます。東京・大阪などの都心商業地は「B(80%)〜A(90%)」と高く、地方郊外では「F(40%)〜G(30%)」になる傾向があります。
路線価図は毎年更新されます。再開発が進んだエリアでは数年前の記号が変わることもあるため、必ず最新年度の図面であることを確認することが条件です。
参考:国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」では、路線価図と評価倍率表の両方を無料で閲覧できます。
路線価が設定されているのは主に市街地です。郊外や農村部など、路線価のない地域は「倍率地域」と呼ばれ、別の方法で借地権割合を確認します。
倍率地域の調べ方は以下の手順です。
1. 同じく国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にアクセス
2. 都道府県を選択後、「評価倍率表(一般の土地等用)」をクリック
3. 市区町村を選択し、表示された倍率表で対象の町名・大字名を探す
4. 「借地権割合」欄の数値を読み取る
ここで注意すべき点があります。評価倍率表の「借地権割合」欄が「-(ハイフン)」になっている地域は、借地権の取引慣行がない地域とみなされます。この場合、借地権割合は原則として「ゼロ」、または国税庁タックスアンサーに基づき20%として計算するケースがあります。意外ですね。
また、倍率表で「-」となっていても、その地域が路線価地域の一部に含まれる場合があり、その際は路線価図側で確認し直すことになります。両方を行き来しながら確認するイメージを持っておくと混乱しません。
倍率地域での相続税評価額の計算式は次の通りです。
自用地評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率
借地権評価額 = 自用地評価額 × 借地権割合
固定資産税評価額は、毎年春頃に市区町村から届く固定資産税の納税通知書に記載されています。手元にない場合は市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を取得できます(有料)。
路線価地域か倍率地域かを確認する方法も同じ国税庁サイトで可能です。路線価図を開いたときに「倍率地域」と記載があれば、評価倍率表を使う合図です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:国税庁「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」では、欄ごとの読み方が公式に解説されています。
借地権割合を調べた後は、実際に相続税評価額を計算します。式はシンプルです。
借地権の相続税評価額 = 自用地評価額 × 借地権割合
「自用地評価額」とは、その土地を更地として自分で使用している場合の評価額のことです。路線価地域なら「路線価 × 面積」、倍率地域なら「固定資産税評価額 × 倍率」で求めます。
具体的な数字で見てみましょう。
📌 計算例(路線価地域の場合)
- 路線価:55万円/㎡(550千円表示)
- 面積:100㎡(一般的な戸建て土地の広さ。東京ドームのグラウンド面積の約1/130)
- 借地権割合:D=60%
> 自用地評価額 = 55万円 × 100㎡ = 5,500万円
> 借地権評価額 = 5,500万円 × 60% = 3,300万円
この3,300万円が、相続税の計算に使う借地権の評価額になります。
一方、地主側(底地を相続する場合)の評価式は逆算します。
貸宅地(底地)の評価額 = 自用地評価額 × (1 − 借地権割合)
同じ例なら、5,500万円 × 40%(1-60%) = 2,200万円が底地の評価額です。
もう一点、重要な仕組みがあります。借地権を相続する際、法定相続人(配偶者・子など)が引き継ぐ場合には地主の承諾は法的に不要です。これは借地借家法の規定に基づくもので、「売却(譲渡)」とは異なり、権利を包括的に引き継ぐためです。地主から「名義変更料を払え」と言われても、法的な支払い義務はありません。
ただし、相続の事実を地主に伝えておくことは、その後のトラブル回避のため非常に有効です。義務ではありませんが、関係維持のために通知するのが賢明な判断です。
参考:国税庁「No.4611 借地権の評価」では、評価の基本ルールが公式に解説されています。
借地権割合を調べて計算した評価額が、そのまま売却価格になると思っている方は非常に多いです。これは大きな誤解です。
路線価は実勢(市場)価格のおおむね80%を目安に設定されています。つまり、路線価ベースで計算した時点ですでに実勢より2割低い数字になっています。さらに借地権の場合、評価額と実際の売却価格のギャップはより大きくなります。
なぜかというと、借地権売却には地主の「譲渡承諾」が必ず必要になるからです(法定相続での引き継ぎとは異なります)。その際、一般的に売却価格の約10%程度を「譲渡承諾料」として地主に支払う慣行があります(法的義務ではなく、交渉によって決まります)。
また、金融機関からローンを組んで借地権付き建物を購入する買主がいる場合、土地(地主の所有物)への抵当権設定について地主の別途承諾が必要となります。この「ローン承諾」が得られない場合、現金購入できる人しか買えなくなり、買い手が大幅に絞られ、価格が下落します。
実際の相場感をまとめると以下のようになります。
| 売却先 | 実際の売却価格の目安(更地価格比) |
|--------|-------------------------------|
| 地主に直接売却 | 50〜70%程度 |
| 買取業者に売却 | 50%程度 |
| 仲介で一般市場へ | 70%程度(地主の協力があれば) |
例えば、更地価格が1億円の土地で借地権割合が70%(C)なら、相続税評価額は7,000万円です。しかし実際に仲介で売却できる額は7,000万円 × 70%程度=4,900万円前後になるケースもあります。評価額より2,000万円以上低い結果です。痛いですね。
路線価図上の割合はあくまで税務計算のスタートラインです。実際の売却を検討する際は、不動産会社の査定と地主との関係性を軸に判断することが原則です。
参考:借地権の実際の売却相場と評価額との乖離について詳しい解説が掲載されています。
センチュリー21|借地権割合とは?調べ方・計算方法と「売却価格」が決まる本当のポイント
借地権割合は節税にも深く関わっています。特に注目すべきが「小規模宅地等の特例」との組み合わせです。
この特例は自分で所有している土地だけに使えると思われがちですが、実は借地権にも適用できます。条件を満たせば、借地権の評価額を330㎡を上限として80%減額できます。
適用の主な条件は次の通りです。
- 配偶者が相続する場合:無条件で適用可
- 同居していた相続人(子など)が相続し、引き続き居住・保有する場合:適用可
- 家なき子(別居でも、相続前3年以内に自己所有の家屋に居住していない親族):一定条件下で適用可
数字で確認します。
📌 小規模宅地等の特例を借地権に適用した場合の試算
- 自用地評価額:1億円
- 借地権割合:70%(C)
- 借地権評価額:7,000万円
- 特例適用後(80%減):7,000万円 × 20% = 1,400万円
特例を使わなければ7,000万円に課税されるところが、1,400万円の評価に圧縮されます。相続税率30%で試算した場合、差額5,600万円 × 30% = 1,680万円分の節税効果になります。これは使えそうです。
さらに一歩進んだ活用として、相続前に底地を地主から買い取り、借地権と底地を合わせて「所有権」に統合する戦略があります。借地権のまま特例を使う場合と、所有権にして特例を使う場合では、手元現金の配分と土地評価額の圧縮具合が変わります。どちらが有利かは土地の規模・路線価・現金保有額によって異なるため、事前のシミュレーションが必須です。
なお、小規模宅地等の特例は申告書への添付書類が必要であり、期限内の申告が条件です。申告を忘れると特例は使えません。期限は原則として相続開始を知った日から10ヶ月以内です。
借地権相続で複雑な計算や地主との交渉が発生する場合は、相続専門の税理士や弁護士への早期相談が、費用以上の節税・トラブル防止につながります。相続後に発覚したミスは取り戻しが難しい性質を持っています。
参考:国税庁「No.4124 小規模宅地等の特例」では、適用対象・上限面積・減額割合が公式に整理されています。
国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)