

相当の地代を毎年きちんと払っているのに、借地権の評価額がゼロではなく数百万円の相続税請求が来て、払い過ぎになるケースがあります。
借地権の相続税評価を理解するには、まず「地代」の種類を整理する必要があります。地代の金額水準によって、借地権の評価額がまったく異なる結果になるからです。地代には大きく分けて「通常の地代」「相当の地代」「実際の地代」の3種類があります。
「通常の地代」とは、借主がすでに権利金を払っている前提で、底地部分(地主の権利部分)に対して支払う地代のことです。計算式は「土地の価額×(1-借地権割合)×6%」となります。たとえば土地の評価額が5,000万円、借地権割合が60%の場合、通常の地代は「5,000万円×40%×6%=120万円/年」です。
「相当の地代」は、権利金を支払わない代わりに支払う、土地全体に対応する高い水準の地代です。つまり底地だけでなく借地権部分も含めた土地全体の使用対価です。計算式は「土地の価額×6%」で、先の例なら「5,000万円×6%=300万円/年」となり、通常の地代より大幅に高くなります。
「実際の地代」とは文字通り、今まさに支払っている年間の地代額です。この実際の地代が通常の地代と相当の地代のどのレンジに属するかによって、借地権の相続税評価額が変わる仕組みになっています。つまり地代が高いほど借地権評価額は低くなり、逆に地代が安いほど評価額は高くなります。
地代3種類の関係が基本です。
| 地代の種類 | 計算式(概算) | 借地権評価への影響 |
|---|---|---|
| 通常の地代 | 土地価額×(1-借地権割合)×6% | 借地権評価額=自用地×借地権割合 |
| 相当の地代 | 土地価額×6% | 借地権評価額=ゼロ |
| 通常の地代と相当の地代の中間 | 上記2つの間 | 借地権評価額=減額される(中間計算) |
参考:国税庁が公表している地代と借地権評価の考え方の根拠となる通達です。
相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて|国税庁
相当の地代の計算式は「土地の価額(過去3年間の平均)×6%」です。ここで注意すべきなのは、「土地の価額」は相続開始年の1年分ではなく、過去3年間の自用地評価額の平均を使う点です。地価の変動による影響を平準化するための仕組みです。
たとえば、次のようなケースを想定してみましょう。
毎月に換算すると450万円÷12=37.5万円です。かなり高額に感じるかもしれませんが、これは権利金(本来なら土地価額の60~70%を一括払いする場合が多い)の代わりに毎年分割して払い続けるイメージです。
「年6%」の根拠は法人税法施行令第137条にあります。借地権の設定により他人に土地を使用させる行為をした内国法人は、権利金の収受に代えて相当の地代を収受するときは認定課税されないと規定されています。この6%という数字は、土地全体のインカムゲインとして適正とされる利回り水準から導き出された数値です。
この計算が重要です。実際の地代がこの相当の地代(450万円)以上であれば、借地権評価額はゼロになります。反対に、この数字を下回る実際の地代しか払っていない場合は、その差額分だけ借地権評価額が発生し、相続税の対象となるのです。
参考:国税庁による借地権評価の公式解説ページです。
借地権割合の調べ方についても確認できます。
相当の地代を支払うと借地権評価額がゼロになることは理解できても、「ゼロということは地主側の底地の評価はどうなるの?」と疑問を持つ方は少なくありません。
これが非常に重要なポイントです。
権利金の授受なしで相当の地代を支払っている場合、借地権評価額はゼロになります。しかし、地主(底地権者)側の評価は「自用地評価額×80%」となります。通常の借地関係(権利金あり)の場合、底地権者の評価は「自用地評価額×(1-借地権割合)」、たとえば借地権割合60%なら「×40%」になるのと比べると、相当の地代方式では底地評価が高くなる特徴があります。
これには理由があります。借地権評価額がゼロでも、地主からすれば他人の建物が土地の上に建っているという事実は変わりません。完全に自由に使える土地(更地)と比べると不便があるため、20%のディスカウントが認められているのです。
まとめると次のようになります。
| 地代の状況 | 借地権評価額 | 底地評価額 |
|---|---|---|
| 権利金あり、通常の地代 | 自用地×借地権割合(例:60%) | 自用地×(1-借地権割合)=自用地×40% |
| 権利金なし、相当の地代払い | ゼロ | 自用地×80% |
| 権利金なし、無償(使用貸借) | ゼロ | 自用地×100%(自用地評価額のまま) |
借地権と底地の合計が100%にならないケースがある点は、税務上の特殊な取り決めとして覚えておくと安心です。相当の地代方式では借地権+底地の合計が80%になり、残りの20%がいわゆる「評価減の恩恵」となります。
参考:チェスター税理士法人による通常の地代・相当の地代の概念解説ページです。計算式と判定表が分かりやすくまとめられています。
通常の地代、相当の地代とは。
借地権評価に絶対必須の概念。
|税理士法人チェスター
実際の地代が通常の地代と相当の地代のちょうど中間にある場合、借地権評価額はゼロにはなりませんが、本来の評価額より低くなります。
この場合に使用する計算式は少し複雑です。
計算式は次のとおりです。
具体例で確認してみましょう。
これを上の計算式に代入すると、借地権評価額は「1億円×70%×(1-(300万-144万)÷(480万-144万))=3,750万円」です。
通常の評価(1億円×70%=7,000万円)と比較して、3,250万円も低い評価額になります。これは、高めの地代を払っている分だけ借地権の「お得感(借り得)」が薄れ、その分だけ評価額が下がるという発想から来ています。
意外ですね。地代を多く払えば払うほど、相続税評価が下がるという逆転の発想です。ただし、「通常の地代と相当の地代の間」という微妙な水準では評価がゼロにはならないため、可能なら相当の地代(年6%)以上を払う設定にするほうが相続税対策上は有利です。
相当の地代の支払い方には「改定方式」と「固定方式」の2種類があります。この違いを知らないと、将来の相続で想定外の課税が発生する可能性があります。
「改定方式」は、土地の価格変動に連動させ、おおむね3年以下の周期で地代を見直す方式です。常に適切な相当の地代を維持することになるため、借地権評価額はゼロのまま保てます。一方、地価が上昇すると地代の支払額も上がるデメリットがあります。
「固定方式」は、相当の地代を最初に設定した金額のまま据え置く方式です。地価が上昇しても地代は変わらないため、見かけ上は「支払い負担が増えない」メリットがあります。しかし、地価上昇分だけ地代の水準が下がっていくため、「自然発生借地権」が生じ始めます。自然発生借地権が蓄積されると、借地権評価額がゼロから増加し、最終的には相続税の課税対象が増える結果になります。
たとえば、当初は土地5,000万円で相当の地代300万円(6%)を設定していたが、その後地価が8,000万円に上昇して地代を据え置きにしているケースを考えましょう。実際の地代は300万円、現在の相当の地代は8,000万円×6%=480万円なので、実際の地代は相当の地代より180万円不足している状態です。この差額分だけ自然発生借地権が積み上がっていきます。
これは痛いですね。また、固定方式で「土地の無償返還に関する届出書」も提出していない場合は、将来の無償返還が認められにくくなるリスクも高まります。毎年の地代節約で数十万円得するつもりが、相続時に数百万円単位の税負担増につながる可能性があります。届出書の提出タイミングは、できるだけ借地契約の締結時に行うことが重要です。
参考:改定方式と固定方式の詳細な解説です。
届出書の提出方法まで確認できます。
相当の地代の「改定方式」と「固定方式」の違い|税理士法人チェスター相続実務アカデミー
借地権の相続税評価で特に法人が絡む場合に注意すべきなのが「認定課税」です。借地権の認定課税とは、法人に絡む土地の賃貸借において、権利金も相当の地代も支払われていない場合に、法人が借地権を無償で取得したとみなして法人税が課税される制度です。
認定課税を回避する方法は主に2つあります。
無償返還届出書は、借地契約終了時に土地を無償で返還することを約束し、税務署に届け出る書類です。この届出書を提出した場合、借地権の評価額はゼロになります(認定課税は発生しない)。ただし、地主側(個人)の貸宅地の評価は「自用地評価額×80%」となります。
注意点が1つあります。無償返還届出書を提出したとしても、「通常の地代」よりも低い地代(固定資産税相当額以下)しか払っていない場合、借主法人への利益供与とみなされ贈与税・法人税の問題が起きる可能性があります。
つまり認定課税の回避には「相当の地代を払う」か「無償返還届出書を出す」かのいずれかが条件です。そして届出書を出したとしても、最低でも通常の地代以上は払い続けることが必要です。税務的に「届出書さえ出せば地代は0円でよい」と誤解している方が多いので要注意です。
参考:借地権の認定課税のメカニズムと、相当の地代・無償返還届出書の仕組みを解説しています。
借地権の認定課税とは?権利金との関係やケースごとの課税内容を解説|センチュリー21
親子間などで土地を無償で貸し借りしているケースは世の中に多いです。この場合は「使用貸借」と呼ばれ、借地権の評価とは全く別の取り扱いになります。
使用貸借は、地代をまったく払わないか、せいぜい固定資産税相当額以下しか払っていない取引を指します。税務上、使用貸借では借地権が発生しないとされており、借地権の評価額はゼロです。「タダで使わせてもらっているだけ」なので、借りる側に財産的権利は認められないわけです。
ここで重要な逆転が起きます。借地権がゼロということは、相続時に地主(親)が亡くなった際、その土地は「自用地」として100%の評価額で相続税が課されます。一方、通常の賃貸借(地代あり)の場合、底地評価は「自用地×(1-借地権割合)」まで下がるため、地主側の相続税が大幅に低くなります。
これが原則です。つまり「無償で貸しているから相続税の問題はない」という思い込みは危険です。むしろ適切な地代を設定した賃貸借にしたほうが、地主である親の相続税対策になります。
昭和48年10月以前に開始された使用貸借については特別な取り扱いがあり、今でも借地権が認識される場合があります。古くからの家族間貸借がある場合は専門の税理士に確認することをお勧めします。
| 取引の種類 | 借地権評価 | 地主の底地評価(相続時) |
|---|---|---|
| 使用貸借(地代ゼロ) | ゼロ | 自用地評価額×100%(高い) |
| 通常の賃貸借(権利金あり) | 自用地×借地権割合 | 自用地×(1-借地権割合)(低い) |
| 相当の地代あり(権利金なし) | ゼロ | 自用地×80%(中程度) |
借地権の相続において、多くの方が見落としがちなのが「小規模宅地等の特例」の活用です。この特例は自己所有の土地だけに使えると思われがちですが、借地権にも適用できます。
これは使えそうです。
小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たした土地(または借地権)について、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。特定居住用宅地(被相続人の自宅)の場合は330㎡まで80%減額、貸付事業用宅地の場合は200㎡まで50%減額されます。
借地権が「特定居住用宅地」に当たるケースを具体例で見てみましょう。
2,000万円の評価が400万円になるため、相続税の節税効果は非常に大きいです。この特例は借地権の上に建つ自宅に被相続人が居住し、相続人が要件を満たして引き続き居住する場合などに適用できます。
さらに、相当の地代を払っていて借地権評価額がゼロの場合は、そもそも特例の対象となる評価額自体がゼロになるため、小規模宅地等の特例を借地権側に使う余地はなくなります。その代わり、地主(底地権者)側の貸宅地に特例を使えるかどうかを検討するという視点が生まれます。借地権評価と特例の組み合わせは複雑なので、専門家への相談が一番の近道です。
参考:借地権に対する小規模宅地等の特例の適用要件と計算方法の詳細です。
【小規模宅地の特例】借地権との関係を徹底解説|税理士法人トゥモローズ
実務上、特に複雑になるのが「地主が個人(オーナー)で、借地人が同族会社(法人)」のパターンです。このケースは家族経営の中小企業で頻繁に見られ、税務上の取り扱いを誤ると多額の課税が発生します。
このパターンでは、権利金の授受がなく相当の地代も払っていない場合、法人税法施行令第137条に基づく「権利金の認定課税」が問題になります。法人が借地権に相当する経済的利益を無償で受けたとみなされ、法人税が課税されるのです。
認定課税を回避する手段として有効なのは前述の「無償返還届出書」の提出です。届出書を提出すると、借地権の評価額はゼロとなり(法人側への認定課税なし)、地主側(個人)の土地の評価は「自用地評価額×80%」となります。
また、個人地主と法人借地人の間で相当の地代を支払っている場合の底地評価額は、自用地評価額の80%となります。しかし、相当の地代の計算方式を「固定方式」にしていると、地価上昇で自然発生借地権が生まれ、法人側の株価評価(純資産価額)が増加する可能性があります。
同族会社の場合、借地権評価額は法人の相続税評価(株価計算の純資産価額)にも影響します。地主が亡くなったときの底地評価だけでなく、株式の評価にも波及するため、税務全体を見渡す視点が必要です。
借地権の評価を自分で調べる第一歩は、国税庁の路線価図を確認することです。路線価図は国税庁のウェブサイト(財産評価基準書 路線価図・評価倍率表)で無料で閲覧できます。
路線価図の読み方のポイントは2つです。
同じ「400C」の路線に面する100㎡の土地を例にとると、自用地評価額は40万円×100㎡=4,000万円で、借地権割合はC=70%なので、借地権評価額は4,000万円×70%=2,800万円となります。
重要なのが「路線価にアルファベットが記載されていない地域」の存在です。田舎や地方の一部エリアでは、路線価にC・Dなどの借地権割合記号がない場合があります。これは「借地権の取引慣行が存在しない地域」を意味し、このような地域では借地権の評価額はゼロとなります。つまり、権利金の授受なく地代を払っていても、その地域が「取引慣行なし」なら借地権は評価されません。
路線価ではなく倍率表による評価が行われる地域(農村部など)の場合も、倍率表に借地権割合が記載されています。路線価地域以外の土地を扱う場合は倍率表を確認する必要があります。
路線価図の確認は国税庁の公式サイトで無料でできます。評価したい土地の住所を入れて確認するだけです。
参考:国税庁の財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)の公式ページです。
借地権の評価において、ほとんどの解説では触れられない盲点があります。それが「昭和48年10月以前から存在する使用貸借契約」への特別対応です。これは独自視点になる少し専門的な話ですが、古くからの家族間土地貸借を持つ方には見逃せない内容です。
現在の税務では、使用貸借(固定資産税相当額以下の地代または無償)の場合、借地権は発生しないとされています。これは昭和48年11月1日に「使用貸借通達(直資2-189)」が発遣されたことで確立したルールです。
しかし、それ以前に使用貸借が始まっていた土地については、このルールが適用されません。昭和48年10月以前に開始された使用貸借で、相続開始時まで継続している契約については、今でも借地権を認識して評価する取り扱いです。結果として、借地権評価額=自用地評価額×借地権割合、底地評価額=自用地評価額×(1-借地権割合)という正規の評価が適用されます。
戦後の高度経済成長期や昭和40年代に親族間での土地の無償貸し借りを始めたケースは全国に数多く存在します。こうした契約は今も続いている場合があり、相続発生時に「昔からタダで貸しているから問題ない」と思っていたら、借地権評価が必要だと判明するケースもあります。
数十年前の契約書や経緯が残っていない場合も多く、実態確認と専門家への相談が特に重要です。
借地権が絡む相続を適切に処理するには、税理士に相談する前に必要な情報を整理しておくことが、時間とコストの節約になります。
まず確認すべき書類と情報は次の通りです。
これらを手元に用意したうえで、「実際の地代が相当の地代・通常の地代・固定資産税のどの水準に当たるか」を確認するのが最初のステップです。
特に「権利金を払った記録がない」「昔から払っている地代が相場より高い気がする」「法人が絡む契約で届出書を出したかどうか覚えていない」という場合は、早めに税理士への相談を検討してください。借地権評価の誤りは、追徴課税(延滞税含む)の原因になることもあります。
相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」です。
期限に注意すれば大丈夫です。
申告期限ギリギリに慌てると専門家への依頼が間に合わなくなる場合もあるため、相続発生後できるだけ早く動き始めることをお勧めします。
ここまで解説してきた内容を踏まえると、借地権の評価で得をするかどうかは「地代設定の最初のタイミング」で大きく決まることが分かります。
相当の地代(年6%)を設定し、かつ「改定方式」を選んでいる場合は、常に借地権評価額がゼロを維持できます。将来地価が上がっても借地権評価にはほとんど影響しません。地主側の相続税対策としても、底地が80%評価になるため有利です。
一方、権利金なし・地代も固定資産税相当しか払っていないケース(通常の地代以下)で賃貸借を続けている場合、借地権評価額は「自用地×借地権割合」がフルでかかります。地価が5,000万円の土地で借地権割合60%なら、評価額3,000万円に相続税が課されることになります。
また、「固定方式」で地代を据え置いている場合、地価上昇とともに自然発生借地権が蓄積し、最終的には当初想定より多くの相続税が発生するリスクがあります。
得する行動パターンとしては次のポイントが挙げられます。
地代は条件が整えば変更も可能です。相当の地代に満たない契約を続けている方は、一度税理士に相談して現在の地代水準を確認してみることが、将来の数百万円単位の節税につながる可能性があります。

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