

隣り合う土地を分けて申告するほど、相続税が安くなるとは限りません。
相続税の計算において、土地の評価は「評価単位」を正しく決めることから始まります。この評価単位こそが、税額に直結する最初の重要な判断です。
多くの方が「1筆(ひとふで)=1つの評価単位」だと思い込んでいますが、これは正確ではありません。国税庁が定める財産評価基本通達によると、宅地の評価単位は「1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)」です。つまり、登記上何筆に分かれていても、実際に一体として使われている土地はまとめて1つの評価単位として扱います。
基本はここです。
逆に、登記上は1筆の土地であっても、内側で複数の用途に使われていれば、それぞれ別の評価単位として扱う場合もあります。たとえば、1筆の土地の北側に自宅、南側に賃貸アパートが建っている場合、利用内容が違うため2つの評価単位に分かれます。
ここで登場するのが「一体利用」という概念です。一体利用とは、複数の土地(または複数の地目)が実態として1つの目的で使われている状態を指します。この状態にある場合は、たとえ地目が違っても、また複数の筆にまたがっていても、全体を1つの評価単位として扱うことが原則です。
評価単位の決め方は次の3つの視点で考えます。まず「地目」(土地の種類)ごとに分けるのが原則、次に「権利」(誰がどのような権利で使っているか)、そして「取得」(遺産分割で誰が取得したか)です。この3軸を組み合わせて評価単位が決まります。
| 視点 | 原則 | 例外(一体評価になるケース) |
|---|---|---|
| 地目 | 地目ごとに分けて評価 | 2以上の地目が一体利用されている場合は一体評価 |
| 権利 | 権利の種類・権利者ごとに分けて評価 | 使用貸借の場合は自分で使っているとみなし一体評価 |
| 取得 | 取得者ごとに分けて評価 | 不合理分割に当たる場合は分割前の状態で一体評価 |
一体利用の考え方が最もわかりやすく現れるのは、「地目が異なる土地が隣接しているケース」です。
コンビニエンスストアを例に挙げましょう。店舗が建っている土地の地目は「宅地」、来客用駐車場として使われている隣の土地の地目は「雑種地」です。地目だけを見れば別々に評価するのが原則です。しかしコンビニ店舗と駐車場は、実際にはセットで一体として機能しています。このような場合は「ただし書き」例外が適用され、両方をまとめて1つの評価単位として扱います。
これが一体利用の典型例です。
同様のケースは日常の不動産にたくさんあります。たとえばアパートの建物敷地(宅地)と、入居者専用の駐車場(雑種地)が隣接している場合、駐車場はアパート入居者だけが使っているため一体評価の対象です。
つまり宅地として評価します。
一方、同じアパート敷地であっても、駐車場を外部の第三者にも貸している場合は「一体利用」とは見なされず、別々の評価単位に分かれます。
この判断の違いが税額に影響します。実際の地目によって適用される補正率や評価方法が異なるため、一体評価か個別評価かで最終的な相続税評価額が大きく変わることがあるのです。
さらに「なお書き」例外という規定もあります。市街化区域などの「街なか」において、田・畑・山林・雑種地などが隣接していて、一体として評価したほうが合理的と判断される場合も、地目が違っても一体評価が認められます。これは特に「地積規模の大きな宅地の評価」(後述)と組み合わさることで、相続税の大幅な節税につながるケースがあります。
国税庁|地目の異なる土地が一体として利用されている場合の評価(質疑応答事例)
「一体利用かどうか」を判断するための基準として、実務上は「利用の単位」に関する3つの原則が用いられています。
1つ目は「自分で自由に使っているものは一体評価」という原則です。
自宅の敷地と、その隣に建てた自分の事業所がある場合、どちらも自分が自由に使っているため、1つの評価単位です。また、自宅の敷地の一部を子どもに「ただで(使用貸借で)」貸して子どもが家を建てている場合も、使用貸借は自分が自由に使っているとみなすため、一体評価の対象になります。
使用貸借ならOKということです。
2つ目は「賃貸契約がある場合は入居者・借主ごとに別評価」という原則です。
自宅の隣に賃貸アパートが建っている場合、アパートの入居者には「借家権」という権利が発生します。このため、自宅敷地とアパート敷地は別々の評価単位になります。賃貸アパートが複数棟ある場合も、棟ごとに評価単位を分けるのが基本です。ただし、複数棟を一括でサブリース会社に貸していて、かつ各棟を同時にしか解約できないような契約形態であれば、一体評価となる可能性もあります。
3つ目は「遺産分割での取得者ごとに区分して評価」という原則です。
仮に生前は一体利用だった土地でも、相続によってAさんとBさんが別々に取得した場合、Aさんが取得した部分とBさんが取得した部分はそれぞれ別の評価単位となります。
取得者が変われば評価単位も変わります。
この3原則を組み合わせて判断することが、土地評価単位の正確な決定につながります。なお、利用状況は登記や契約書だけでは判断できないことも多く、現地での確認が必要になるケースも少なくありません。
国税庁|No.4603 宅地の評価単位(相続税・贈与税の税務情報)
一体利用による評価単位の判定は、「地積規模の大きな宅地の評価」(平成30年1月1日以降の相続に適用)との組み合わせで、相続税の節税に直結します。
これは使えるポイントです。
「地積規模の大きな宅地の評価」とは、三大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏)では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の宅地について、路線価×地積で計算した通常の評価額から一定の割合を減額できる制度です。具体的には、通常の評価額の約6割〜8割程度に圧縮されるケースが多く、土地所有者にとって非常に有利な制度です。
問題は、この面積要件が「評価単位ごと」に判定されることです。たとえば、隣り合う2つの土地がそれぞれ400㎡だとします(三大都市圏の場合)。別々に評価すれば2つとも500㎡未満で要件を満たさず、減額の恩恵を受けられません。しかし、この2つが一体利用されていると判断されれば、合計800㎡として評価単位がまとまり、500㎡の面積要件をクリアします。
実際の還付事例(三重県・村上様)では、約450㎡のA土地と約660㎡のB土地(他人から借りた土地)を別々に評価していたため、それぞれが面積要件を満たさず広大地評価が適用されていませんでした。しかし一体利用として正しく一体評価し直すと合計約1,110㎡となり、広大地評価の適用が可能になりました。その結果、元の納税額3,870万円が3,130万円に更正され、740万円もの相続税が還付されました。
| 地域 | 地積規模の大きな宅地の面積要件 |
|---|---|
| 三大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏の一部) | 500㎡以上 |
| 上記以外の地域 | 1,000㎡以上 |
評価単位の取り方1つで、数百万円単位の差が生まれます。地積規模の大きな宅地の制度は、一体利用の評価と切り離して考えることができません。
税理士法人チェスター|地積規模の大きな宅地の評価:適用要件・評価方法・計算例を解説
「一体評価=税額が下がる」とは限りません。状況によっては、一体評価のほうが税額が高くなるケースもあります。
愛知県の大島様の事例がその典型です。幹線道路沿いに4棟の貸家が建つ440㎡の土地がありました。申告時は4棟の貸家敷地を全体で「一体評価」し、全体を「角地」として評価していたため、約5,881万円という高い評価額になっていました。
実際には、4棟は別々の利用区分に属する貸家であり、土地の評価は原則として「敷地ごと・利用区分ごと」に個別に行うべきでした。土地を改めて個別評価すると、角地になるのはB土地だけでした。A・C・D土地は角地ではなく「一方路の土地」として評価し直せます。さらにC・D土地は幹線道路(路線価16万円/㎡)ではなく側道(路線価10万円/㎡)に接する土地として評価でき、C土地は旗竿地(不整形地補正率0.76)の適用まで受けられました。
その結果、4土地の合計評価額は約4,341万円となり、当初より約1,540万円の評価減を実現。
460万円の相続税が還付されました。
このように一体評価のほうが評価額が高くなってしまうケースでは、原則に戻って個別評価を行うことが正解です。
個別評価が原則です。
一体評価にすべきか個別評価にすべきかは、単純に決められるものではなく、土地の形状・路線価・利用状況・地積などを総合的に分析した上で判断が必要です。
評価単位について学ぶと、「細かく分割すれば間口狭小補正や不整形地補正が使えて節税できる」と考える方がいます。
しかしこれは認められていません。
これを「不合理分割」と呼びます。贈与や遺産分割等によって宅地を分割した場合に、分割後の土地が宅地として通常の用途に供することができない(つまり建物が建てられないほど狭い・形がいびつすぎるなど)と認められるときは、分割前の画地全体を「1画地の宅地」として評価します。
具体的な例を挙げます。1筆の土地を細長い三角形と残りの部分に分けて相続した場合、三角形の部分は建物を建てられないほど使い勝手が悪く、通常の宅地としての利用に供することができないため、不合理分割と判断されます。同様に、1筆の土地を30㎡と残りの部分に分けた場合も、30㎡の土地では建物が建てられず、不合理分割と見なされます。
不合理分割の適用を受けると、意図した節税効果が得られないだけでなく、税務調査の対象になるリスクも高まります。
注意が必要です。
一方、分割後の各土地がそれぞれ単独で通常の宅地として利用できる面積・形状であれば、遺産分割による区分は有効です。生前に土地の分割方法を検討する際は、各分割後の土地が宅地として独立して利用できるかどうかを必ず確認してください。
税理士法人トゥモローズ|不合理分割を徹底解説(相続税の評価単位)
一体利用の考え方が活きる、あまり知られていない実務上のポイントがあります。それは「建物が建っていない土地でも、貸家建付地として評価できるケース」です。
通常、「貸家建付地(ちんかけたてつきち)」とは、土地オーナーが建物を建て、その建物を第三者に賃貸している場合の敷地を指します。貸家建付地として評価されると、自用地(更地)より評価額が下がります。計算式は「自用地評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」です。たとえば借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%の場合、評価額は自用地の82%に下がります。
では、土地の一部に建物が建っており、隣接する別の土地部分(建物がない部分)が来客用駐車場として機能している場合はどうでしょうか。三重県の村上様の事例では、A土地(自己所有)が来客用駐車場、B土地(借地権)に貸家が建っていました。A土地には建物がありませんが、一体として貸家の敷地として機能しているため、A土地部分も「貸家建付地」として評価できると判断されました。
建物が建っていなくても貸家建付地になれます。
これは意外です。
この考え方は、貸付アパート敷地と入居者専用駐車場の評価にも同様に当てはまります。アパートに附随する駐車場は、建物がなくとも全体を「貸家建付地」として評価することが認められています。貸家建付地と自用地では評価額に数十万円単位の差が生まれることもあるため、見落とすと損になります。
税務研究会|建物敷地以外の駐車場が貸家建付地として認められる場合(税務実務解説)
「小規模宅地等の特例」は、被相続人が住んでいた自宅や事業に使っていた土地について、相続税評価額を最大80%(居住用・事業用)または50%(貸付事業用)減額できる制度です。相続税の節税において最強クラスの特例と言われています。
この特例と一体利用の評価単位は密接に関係しています。特例の適用対象となる土地の範囲を確定するためには、まず評価単位を正しく決めることが必要だからです。
たとえば、自宅敷地と子どもに使用貸借で貸している土地が隣接している場合、使用貸借は「自分が自由に使っているとみなす」ルールにより一体評価となります。つまり子どもに貸している部分も含めた全体が1つの評価単位となり、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の対象として扱われる可能性があります。
一方、同じ土地の隣に賃貸アパートがある場合、アパート敷地は別評価単位となります。小規模宅地等の特例では、居住用(特定居住用宅地等)は330㎡まで80%減額、貸付事業用(貸付事業用宅地等)は200㎡まで50%減額と、それぞれ別の上限面積・減額率で計算されます。評価単位が正しく分かれていなければ、特例の適用面積や減額率が誤ってしまいます。
特例の活用は条件を満たした場合が前提です。そのベースとなる評価単位の判定が正確でなければ、特例効果も正しく反映されません。
ここまで一体利用の基礎から具体的な事例まで見てきました。では実際に相続が発生した場合、どのような点に注意すれば評価単位の誤りを防げるのでしょうか。
現地を必ず確認することが第一歩です。
評価単位の判断は、登記簿や公図だけでは不十分です。実際の土地利用状況・境界の有無・駐車場の利用者・建物の配置・高低差の有無などを現地で確認することが不可欠です。たとえば、地図上では一続きに見える土地でも、3メートルを超える高低差で物理的に分断されている場合は別評価単位とみなすことがあります。
賃貸借契約書の内容も確認が必要です。
駐車場がアパート入居者専用か外部にも貸しているかによって評価単位が変わります。この判断は契約書の内容に依存するため、契約形態を確認しないまま評価すると誤りにつながります。
地目の現況確認も重要です。
登記簿上の地目と相続税評価上の地目が異なる場合があります。登記簿に「田」と書いてあっても、砂利を敷いて駐車場にしている場合は農地への復元が困難なため「雑種地」として評価します。相続税評価における地目は「相続開始時点の現況」で判断します。
土地評価に精通した税理士に依頼することが最も確実な方法です。
相続税専門の税理士法人では、これまでの還付診断で6〜7割の地主に納めすぎが見つかったというデータもあります。相続税の申告期限(被相続人が亡くなってから10か月以内)は短く、判断に迷うケースが多いため、専門家への相談を検討してください。
税理士法人トゥモローズ|相続税の土地評価単位を徹底解説(パターン別)
すでに相続税を申告・納付しているが、評価単位の判定が正しかったかどうか不安、という方もいるでしょう。そのような方に知ってほしいのが「更正の請求」という手続きです。
更正の請求とは、過去に申告した税額が本来より多かった場合に、払いすぎた分を返してもらうための手続きです。相続税の場合、申告期限(相続発生から10か月以内)から5年以内であれば更正の請求が可能です。つまり、相続発生から数えると5年10か月以内なら、申告済みの相続税を見直すことができます。
5年以内なら間に合います。
一体利用の評価単位を誤って申告した結果、相続税を多く払いすぎていたケースは、土地を複数持つ地主ほど発生しやすい傾向にあります。前述の通り、三重県の還付事例では740万円、愛知県の事例では460万円もの相続税が還付されました。
更正の請求を行う場合、単に「評価を変えてほしい」と申し出るだけでは不十分です。変更後の評価が正当である根拠を示す「評価意見書」の添付が効果的です。評価意見書は不動産鑑定士や相続税専門の税理士が作成します。
なお、更正の請求を行うと税務調査を誘発する可能性もゼロではありません。そのため、申告内容全体の整合性を確認した上で手続きを進めることが大切です。相続税の還付手続きを検討している場合は、相続税専門の税理士に無料診断を依頼するのが最初のステップとして現実的です。
フジ総合グループ|相続税還付とは:納め過ぎる理由・手続きの流れ・20個の事例
ここでは、あまり触れられることのない視点をお伝えします。それは「金融資産を持つ方が土地を相続する際に一体利用の評価単位ミスが見落とされやすい」という問題です。
金融資産(株式・投資信託・預貯金など)を多く持つ相続人ほど、申告時に土地評価に割ける時間とコストを節約しがちです。金融資産は価格が明確で評価が比較的シンプルなのに対し、土地は評価の前提となる評価単位の判定だけで複雑な判断が必要です。
このため、「土地評価は路線価×面積で簡単に出せる」という誤解のもと、評価単位を精査せずに申告してしまうケースが発生しやすくなります。特に「相続財産の大半が金融資産で、土地は少ない」という状況だと、土地評価の精度が軽視されがちです。
しかし、土地が少しでも含まれていれば、一体利用の評価単位を誤ることで相続税が数百万円単位で変わる可能性があります。金融資産だけでなく土地も持つ資産家ほど、土地評価の精度は高めるべきです。
もう1点、見落とされやすいのが「評価単位を分けたほうが得な場合と、まとめたほうが得な場合が共存している」ケースです。同じ相続案件の中でも、ある土地は一体評価によって地積規模の大きな宅地の面積要件をクリアして節税になり、別の土地は一体評価すると路線価が高い道路に引きずられて不利になるという、正反対の判断が必要になることがあります。
この複合的な判断は、土地評価の実務に精通した専門家でなければ対応が難しいのが実情です。金融に詳しく不動産にも資産を持つ方こそ、相続税専門の税理士への相談を積極的に検討してください。
Q1. 2筆の土地に1つの家が建っている場合、評価単位はどうなりますか?
この場合は一体評価が基本です。2筆の土地にまたがって1つの建物が建ち、一体として利用されているため、2筆まとめて1画地の宅地として評価します。
登記上の筆数は関係ありません。
Q2. 借地権が設定された土地と自己所有の土地を一体で使っている場合は?
この場合も一体利用として評価することが認められています。ただし、借地権と自用地は権利の性質が異なるため、全体を一体評価したうえで、自用地部分と借地権部分をそれぞれの面積で按分して計算します。
Q3. 家庭菜園は自宅の敷地と一体評価になりますか?
状況次第です。位置(公衆道路で区切られていないか)・規模(小さい家庭菜園か)・農地台帳への登録有無・出荷実績の有無・固定資産税上の地目などを総合判断します。小規模で建物の維持に附随するものであれば宅地の一部として一体評価されることがあります。
Q4. 相続した後に土地を分筆(登記上の分割)すれば評価を変えられますか?
できません。相続税評価は「相続開始時点の利用状況」で判断します。相続後に分筆しても、相続発生時の評価には影響しません。
Q5. 評価単位を誤って申告した可能性がある場合、どうすればよいですか?
申告期限から5年以内であれば「更正の請求」によって申告内容の訂正が可能です。まずは相続税専門の税理士に土地評価の無料診断を依頼することをお勧めします。
国税庁|宅地の評価単位-地目の異なる土地が一体として利用されている場合(質疑応答事例)