借家権割合の調べ方と相続税評価額を下げる計算の全手順

借家権割合の調べ方と相続税評価額を下げる計算の全手順

借家権割合の調べ方と相続税評価額を正しく下げる全手順

空室が1部屋あるだけで、相続税が数十万円単位で高くなる場合があります。


📋 この記事でわかること
🔍
借家権割合の基本と調べ方

全国一律30%の意味と、国税庁の財産評価基準書を使った具体的な確認手順を解説します。

🧮
相続税評価額の計算方法

建物・土地(貸家建付地)それぞれの計算式と、数字を使った具体例でわかりやすく解説します。

⚠️
空室・注意点・節税の活かし方

空室があると賃貸割合が下がって節税効果が薄れる仕組みと、小規模宅地等の特例まで踏み込んで解説します。


借家権割合とは何か——相続税評価額との基本的な関係


借家権割合とは、賃貸物件(アパート・マンションなど)を相続する際に、その物件の相続税評価額を減額するために使う割合のことです。現在(令和6年分)は、全国すべての都道府県で一律30%と定められています。東京・大阪・地方都市など、どこでも同じ数字が適用されるのが特徴です。


借家権(しゃくやけん)は、入居者がその建物を借りる法的な権利のことを指します。借家借地法によって保護されているため、オーナーが相続したとしても、在住している入居者を一方的に追い出すことはできません。つまり相続時点で入居者がいる賃貸物件は、自分で自由に使えない分だけ財産としての価値が低いと見なされます。


その「使い勝手の悪さ」を数値で表したものが借家権割合であり、相続税評価額の計算に組み込むことで課税対象額を圧縮できる仕組みになっています。これが基本です。


たとえば5,000万円の現金を相続すると、5,000万円まるまる課税対象になります。一方で固定資産税評価額が5,000万円の賃貸アパート(満室・借家権割合30%)を相続した場合、評価額は5,000万円 × (1 − 0.30 × 1.0) = 3,500万円まで圧縮されます。差額は1,500万円。相続税の税率によっては、この差だけで数百万円の節税効果が生まれます。


なお、似た言葉に「借地権割合」があるので混同しないよう注意が必要です。借地権割合は「土地を借りて建物を建てる権利」に関する割合で、地域ごとに30〜90%と異なります(路線価図のアルファベット表記で確認)。一方の借家権割合は「建物を借りる権利」の割合で、全国一律30%。この2つは計算式でセットで使うことも多いため、それぞれの役割をしっかり区別しておきましょう。





























項目 借家権割合 借地権割合
対象 建物(賃貸物件) 土地(借りて使っている)
割合 全国一律30% 地域により30〜90%
確認方法 国税庁・財産評価基準書 路線価図のアルファベット
使う場面 貸家・貸家建付地の評価 借地権・貸家建付地の評価


借家権割合の調べ方——国税庁の財産評価基準書を使う手順

借家権割合が「30%」と一律に決まっているとはいえ、今後変更になる可能性はゼロではありません。相続発生時には必ず最新の数字を確認するのが原則です。


確認場所は国税庁が公開している「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(https://www.rosenka.nta.go.jp/)です。誰でも無料でアクセスできます。


以下の手順で確認できます。



  • ① 国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」ページ(https://www.rosenka.nta.go.jp/)を開く

  • ② 対象となる不動産の都道府県をクリック

  • ③ 表示されたページで「借家権割合」の項目を選択する

  • ④ 割合(現在は全国30%)が確認できる


借地権割合を同時に調べる場合は、同じページの「路線価図」から対象エリアの路線価図を開き、道路上に表示された「数字+アルファベット」を確認します。たとえば「300C」であれば、路線価が1㎡あたり30万円、借地権割合はC=70%を意味します。


参考リンク(国税庁が運営する財産評価基準書。借家権割合・借地権割合・路線価がすべて確認できます)。
財産評価基準書 路線価図・評価倍率表|国税庁


借家権割合の調べ方そのものは非常にシンプルです。一方で、実際の相続税計算には「賃貸割合」という別の数字も必要になります。ここが見落とされやすいポイントで、次の節から詳しく解説します。賃貸割合が条件次第で数字が変わり、最終的な税額に直結することを先に頭に入れておきましょう。


なお、路線価が設定されていない「倍率地域」では、評価倍率表を使って借地権割合を確認します。国税庁の同ページから「評価倍率表(一般の土地等用)」を選んで該当の市区町村・地域を選択してください。借家権割合の調べ方は路線価地域と変わりません。倍率地域でも30%が基本です。


借家権割合を使った相続税評価額の計算方法——建物と貸家建付地の具体例

借家権割合の計算式は、建物と土地(貸家建付地)でそれぞれ異なります。つまり2段階で計算するのが基本です。


建物(貸家)の相続税評価額:


固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合 × 賃貸割合) = 相続税評価額


土地(貸家建付地)の相続税評価額:


自用地の評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) = 相続税評価額


「固定資産税評価額」は毎年4〜6月に届く「固定資産税 課税明細書」に記載されています。一般的に建物の時価の60〜70%程度が目安です。「自用地の評価額」は路線価×土地面積で計算します(路線価は1㎡あたりの価格を千円単位で表記)。


具体例で確認しましょう。


条件:固定資産税評価額7,000万円のアパート(10部屋・うち8部屋入居中)、土地の自用地評価額8,000万円、借地権割合60%(路線価図でD)


賃貸割合:8部屋分の面積 ÷ 10部屋分の面積 = 80%(部屋の広さが同じ場合)



  • 🏠 建物の評価額:7,000万円 × (1 − 0.30 × 0.80) = 7,000万円 × 0.76 = 5,320万円

  • 🌏 土地の評価額:8,000万円 × (1 − 0.60 × 0.30 × 0.80) = 8,000万円 × 0.856 = 6,848万円

  • 💡 合計:5,320万円 + 6,848万円 = 1億2,168万円


もし自用地(更地・自宅)として相続した場合は建物7,000万円+土地8,000万円=1億5,000万円が評価額です。借家権割合を適用することで、約2,832万円の圧縮が実現できました。これが相続税対策として有効と言われる理由です。


「賃貸割合が条件です。」賃貸割合は部屋数ではなく床面積で計算する点に注意してください。仮に広さが違う部屋が混在している場合、単純に入居数を数えると誤った計算になってしまいます。


参考リンク(国税庁タックスアンサー。貸家建付地の評価方法と計算式の公式解説)。
No.4614 貸家建付地の評価|国税庁


借家権割合の計算で見落としがちな「賃貸割合」の落とし穴——空室対策との関係

賃貸割合は、相続時点で「実際に貸し出されている部屋の床面積 ÷ 全部屋の床面積」で算出されます。空室が多いほど賃貸割合が低くなり、借家権割合の節税効果が薄まります。


たとえば固定資産税評価額5,000万円のアパートで比較してみます。



  • ✅ 満室(賃貸割合100%):5,000万円 × (1 − 0.30 × 1.00) = 3,500万円

  • ⚠️ 2割空室(賃貸割合80%):5,000万円 × (1 − 0.30 × 0.80) = 3,800万円

  • ❌ 半分空室(賃貸割合50%):5,000万円 × (1 − 0.30 × 0.50) = 4,250万円


満室と半空室では、評価額の差は750万円にのぼります。相続税の税率が仮に20%なら、税額の差は150万円です。痛いですね。


ただし、「一時的な空室」であれば、条件次第で賃貸中とみなされる場合があります。具体的には次の4つの条件を満たすことが求められます。



  • 相続発生時まで継続的に賃貸されていた実績がある

  • 退去後すぐに新しい入居者を募集している

  • 空室期間中、その部屋を別の用途(物置・自己使用など)に転用していない

  • 空室期間が短期間(相続前後1ヶ月程度が目安)である


これは意外と知られていないポイントです。空室期間に荷物を入れていたり、募集をしばらく停止していたりすると、賃貸とみなされず評価が上がってしまいます。


もし相続発生時に空室がある場合、上記の条件を証明できる書類(入居者募集の広告、賃貸管理会社との契約記録など)を手元に残しておくことが大切です。これが条件です。


また、タイミングを見据えてリフォームや設備更新を行い、入居率を維持・向上させることも節税対策の一環になります。賃貸管理の質が直接、相続税評価額に影響するとも言えるわけです。


借家権割合と小規模宅地等の特例——「貸付事業用宅地」で50%減額になる条件

借家権割合による評価減に加え、さらに強力な節税手段として「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」があります。これを組み合わせると、相続税評価額をかなり低く抑えられます。


貸付事業用宅地等に該当すると、上限200㎡まで評価額を50%減額できます。ざっくり言えば「東京23区の1Rアパートの敷地ならほぼカバーできる」くらいのイメージです。


ただし、この特例を適用するためにはいくつか条件があります。



  • 相続開始前3年以上継続して貸付事業に使われていた宅地であること

  • 相続人が相続税の申告期限(通常は相続開始から10ヶ月以内)まで引き続き貸付事業を継続していること

  • 駆け込みで相続直前に始めた不動産業は原則対象外(ただし事業的規模での運用は例外あり)


「3年以上前から」が条件です。相続税対策として急いでアパートを建てたとしても、3年以内に相続が発生すると特例が使えません。


具体的な計算例を見てみましょう。借家権割合30%・借地権割合60%・賃貸割合100%で自用地評価額が1億円のケースでは、まず貸家建付地の評価額が「1億円 × (1 − 0.60 × 0.30 × 1.00) = 8,200万円」に下がります。そこからさらに小規模宅地等の特例(50%減額・200㎡以内)を適用すると、「8,200万円 × 0.5 = 4,100万円」になります。1億円が4,100万円まで圧縮されたわけで、差額5,900万円という大きな評価減です。これは使えそうです。


相続税評価を実際に申告する際には、相続専門の税理士に計算内容を確認してもらうことが安全策です。評価方法の誤りや特例適用漏れが起きると、過大申告(払いすぎ)や過少申告(追徴課税)のリスクが生じます。特に貸家建付地と小規模宅地等の特例の組み合わせは判断が複雑なため、専門家への相談を検討する価値があります。


参考リンク(税理士法人チェスターによる貸家建付地の詳細な評価方法と特例の解説)。
貸家建付地の相続税評価とは?計算方法と併用できる特例を解説|税理士法人チェスター


借家権割合を活かした相続税対策——「金融資産を不動産に変える」戦略の現実的な見方

金融に関心のある方が借家権割合を調べる背景には、「現金より不動産で相続した方が得なのか」という疑問があることも多いと思います。この点について、現実的な視点で整理しておきます。


まず数字の比較です。現金2億円を相続した場合、評価額はそのまま2億円です。一方、1億円の土地(路線価換算後の自用地評価額8,000万円)に1億円の賃貸アパート(固定資産税評価額7,000万円・満室)を建てた場合、計算は次のようになります。



  • 建物評価額:7,000万円 × (1 − 0.30 × 1.00) = 4,900万円

  • 土地評価額(借地権割合60%):8,000万円 × (1 − 0.60 × 0.30 × 1.00) = 6,560万円

  • 合計:4,900万円 + 6,560万円 = 1億1,460万円


現金2億円と比べると、評価額の差は8,540万円。相続税率が30%の場合、約2,562万円の節税です。これが「借家権割合を使った不動産相続の節税効果」の実態です。


ただし、賃貸経営には現実的なリスクもあります。空室リスク(入居者が集まらないと賃貸割合が下がり節税効果も薄まる)、修繕費などのランニングコスト(築古物件では年間数百万円以上かかることも)、売却の難しさ(すぐに現金化できない流動性の低さ)などです。


つまり「借家権割合で節税になる」という事実は正しいですが、それだけを理由に不動産取得を判断するのは危険です。将来の収益性・管理コスト・立地条件を総合的に考えたうえで戦略を立てることが大切です。


なお、借家権割合が適用される「貸家建付地」として認められるためには、「相場並みの賃料を受け取っていること」が前提です。家族に無償または格安で貸している場合は「使用貸借(しようたいしゃく)」とみなされ、借家権割合の計算に組み込めません。この場合は更地(自用地)として評価され、節税効果がゼロになります。知らないと損する典型例です。


相続税の申告を控えている、または相続対策を将来的に検討しているなら、まずは国税庁の財産評価基準書(https://www.rosenka.nta.go.jp/)で借家権割合・路線価・借地権割合を確認し、自分の物件の大まかな評価額を試算してみることをお勧めします。その後、具体的な対策については相続に強い税理士に相談する、という2ステップが現実的です。


参考リンク(アパート経営を軸にした相続税対策の成功・失敗ポイントをわかりやすく解説)。
【アパート経営で相続税対策】失敗しないためのポイントを徹底解説|明日への相続税




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