

利益を圧縮するだけでは、あなたの自社株評価が逆に上がってしまうケースがあります。
非上場会社の株式には、証券取引所で形成されるような客観的な市場株価がありません。それでも相続や贈与、事業承継などの場面では「この株はいくらか」という評価が不可欠です。そこで国税庁が財産評価基本通達に定めたのが、類似業種比準方式という評価手法です。
仕組みはシンプルに言えば「似た業種の上場企業の株価をものさしにして、自社の状況に合わせて調整する」というものです。具体的には、評価対象の非上場会社と事業内容が類似している上場会社(これを「類似業種」と呼びます)の株価をベースに、配当・利益・純資産という3つの財務指標を比較して株価を割り出します。
つまり計算の基本は比較です。
この方式が使われる主な場面は、非上場会社の相続税・贈与税の申告です。また、事業承継において自社株を親族や後継者に移転するケースでも、この評価額が課税の基準になります。さらに、個人や法人間で非上場株式を売買する場面でも、財産評価基本通達の評価額が参照されることがあります。
| 評価場面 | 主な税目 |
|---|---|
| 相続・遺贈 | 相続税 |
| 生前贈与・事業承継 | 贈与税 |
| 株式の売買(個人→法人) | 所得税・法人税 |
なお、類似業種比準方式が適用されるのは、株主が「同族株主」である場合の「原則的評価方式」においてです。少数株主が持つ株式には「配当還元方式」という別の特例的な評価方式が使われます。この区分を誤ると評価額そのものが大きく変わるため、最初の確認として必ず押さえておきたいポイントです。
会社の規模(大会社・中会社・小会社)によっても適用される評価方法の組み合わせが変わります。大会社は原則として類似業種比準方式100%、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用、小会社は純資産価額方式が原則です。規模の判定は従業員数・総資産額・取引金額の3つで決まり、70名以上の従業員がいれば一律「大会社」になります。
国税庁の評価方式の基本ルールについては、以下のページで確認できます。
国税庁:取引相場のない株式の評価(財産評価基本通達)の解説ページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
計算の最初のステップは、評価会社の「業種目」を正しく特定することです。これが間違っていると、比較対象となる上場企業の株価データが変わり、最終的な株価評価額に大きなズレが生じます。ここは意外に見落とされがちなポイントです。
業種目の特定には、総務省が公表している「日本標準産業分類」を使います。評価会社の事業内容がどの分類コードに該当するかを確認し、それを国税庁が公表している「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」に当てはめます。例えば、木造住宅の建設を手がける会社は「065 木造建築工事業」→「その他の総合工事業」という流れで業種目が決まります。
実は、ここには「選択の余地」があります。
小分類の業種目に該当する場合は、中分類の業種目も選択できます。同様に、中分類なら大分類も選べます。複数の選択肢がある場合、評価額が低くなるほうを選ぶことが認められているため、両方で計算して比較することが重要です。特に複数の事業を営む会社では、この選択が評価額に数百万円単位の差をもたらすこともあります。
業種目が確定したら、次は「業種目別株価等一覧表」で類似業種の数値(A・B・C・D)を取得します。
A(株価)については最大5通りの選択肢があり、最も低い金額を使うことが認められています。これは知っておくだけで数万〜数百万円単位で評価額が変わるポイントです。国税庁は定期的に「業種目別株価等一覧表」を通達として公表していますので、課税時期に対応した最新データを必ず使いましょう。
類似業種の株価データ(業種目別株価等一覧表)の入手先はこちらです。
国税庁:類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(法令解釈通達)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/r05/2306/index.htm
類似業種のデータが揃ったら、次は評価会社自身の比準要素(Ⓑ・Ⓒ・Ⓓ)を算出します。ここで重要なのは、「すべての数値を1株50円換算で統一する」という点です。
計算の基礎となる「発行済み株式数」は、実際の発行株式数ではなく、「資本金額÷50円」で求めた数値を使います。2001年の商法改正で額面金額の制度が廃止されたため、現在の発行株式数と50円換算の株式数が一致しない会社も増えています。この点を見落として実際の発行株式数を使ってしまうと、計算が根本から狂います。これは実務上よくある誤りです。
① 1株当たり配当金額(Ⓑ)の算出
直前期と直前々期の配当金額の合計を2で割り、50円換算の株式数で割ります。ただし、特別配当や記念配当など「毎期継続しない臨時の配当」は除外します。将来も続く経常的な配当だけを対象とするのが原則です。無配の場合は0円となります。
② 1株当たり利益金額(Ⓒ)の算出
企業会計上の利益ではなく、法人税の「課税所得金額」をベースにします。ここから固定資産売却益などの非経常的な利益を差し引き、受取配当の益金不算入額を加算するなど、複数の調整が必要です。また、直前期1期の利益と直前々期を含む2年平均とを比較して、いずれか低い金額を選択することができます。利益金額は評価額に最も大きく影響する要素のため、この選択は慎重に行いましょう。
③ 1株当たり純資産価額(Ⓓ)の算出
資本金等の額と利益積立金額の合計を、50円換算の株式数で割ります。ここで使う純資産は「帳簿価額」ベースです。時価評価ではない点に注意が必要です。
比較的わかりやすい例で確認してみましょう。資本金1,000万円の会社では、50円換算の株式数は「1,000万円÷50円=20万株」です。東京ドームのグラウンド面積が約13,000㎡、1冊の法律書の厚さが約3cmとすると、複数の調整項目を含む利益計算は、それくらい「複数の層が積み重なっている」イメージです。一つひとつ確実に積み上げていくことが大切ですね。
比準3要素(Ⓑ・Ⓒ・Ⓓ)と類似業種の数値(B・C・D)が揃ったら、いよいよ計算式に当てはめます。類似業種比準価額の算定式(1株50円ベース)は次のとおりです。
$$類似業種比準価額 = A \times \frac{\frac{Ⓑ}{B} + \frac{Ⓒ}{C} + \frac{Ⓓ}{D}}{3} \times 斟酌率$$
この算式の最後にかけるのが「斟酌率(しんしゃくりつ)」です。非上場株式は上場株式と比べて流動性が低く(売りたくてもすぐ売れない)、社会的信用度も一般に低いとされます。その差を反映して評価額を一定割合で引き下げる調整が斟酌率です。
| 会社規模 | 斟酌率 |
|---|---|
| 大会社 | 0.7(30%引き) |
| 中会社 | 0.6(40%引き) |
| 小会社 | 0.5(50%引き) |
つまり小会社の場合、類似業種の上場株価から計算した比準価額をそのまま使うのではなく、50%分を差し引いた金額が評価額になるということです。これは大きな調整です。
この算式で求めたのは「1株50円ベースの類似業種比準価額」です。最後に、実際の評価会社の1株当たりの株価に換算する修正が必要になります。
$$1株当たりの類似業種比準価額 = 1株50円ベースの比準価額 \times \frac{1株当たりの資本金等の額}{50円}$$
具体的な数値で確認しましょう。中会社の小(斟酌率0.6)に区分される会社で、1株50円ベースの計算結果が157.59円だったとします。この会社の1株当たりの資本金が50円であれば、そのまま157.59円が評価額です。しかし資本金等の額が1,000万円・実際の発行株式数が1万株の場合、1株当たり資本金等の額は「1,000万円÷1万株=1,000円」となるため、最終的な1株当たり評価額は「157.59円×1,000円÷50円=3,151.8円」になります。
計算が条件です。
小分類と中分類の2つの業種目で計算したときは、両方の結果を比べて低いほうを採用します。これが原則ですが、合わせて「純資産価額方式」でも計算して、低いほうを選ぶことも認められています(大会社の場合)。税理士が両方の計算を必ず行うのはこのためです。
2017年(平成29年)1月1日以後に発生した相続・贈与から、類似業種比準方式の計算式が大きく変わりました。金融に関心のある人なら知っておくべき重要な改正点です。
改正前の比準要素の比率は「配当:利益:純資産=1:3:1」でした。利益が3倍のウエイトを持っていたため、役員退職金の支給や設備投資で利益を圧縮すると、株価評価額を大きく下げることができました。これを活用した節税スキームが広く普及していた時代があります。
しかし平成29年改正後の比率は「1:1:1」です。
利益のウエイトが3分の1に圧縮されました。これにより、利益を意図的に下げても評価額への影響が以前より小さくなっています。一方で純資産(内部留保)のウエイトが相対的に高まったため、内部留保を積み上げている会社ほど評価額が上がりやすい構造に変わっています。これが冒頭に述べた「利益を下げても評価が上がるケース」の正体です。
2017年の改正ではこの他にも、以下の点が変わりました。
平成29年税制改正の詳細については、国税庁の公式解説を参照してください。
国税庁:平成29年改正に関する評価基本通達の改正内容(公式情報)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/170613/pdf/01.pdf
改正を踏まえた現在の節税対策として有効なのは、利益だけでなく純資産のコントロールも含めた総合的なアプローチです。具体的には、適切な役員報酬の設定や配当政策の見直し、さらに業種目の選択による評価額の最小化などが挙げられます。こうした対策は相続が発生してから慌てて行うのではなく、3〜5年程度の中長期スパンで計画的に取り組むことが前提となります。
早めの準備が条件です。
類似業種比準方式の計算において、多くの解説記事では触れられていない重要な論点があります。それは「比準要素がゼロになったとき」の問題です。
比準要素(配当・利益・純資産)のうち、一つでもゼロになる状況は中小企業では珍しくありません。無配の会社はB(配当)がゼロ、赤字が続けばC(利益)がゼロ、債務超過であればD(純資産)がゼロになります。これ自体は計算上許容されており、ゼロのまま計算に進めます。
問題は、ゼロが2つ以上になったときです。
3要素のうち2つがゼロになる会社は「比準要素数1の会社」と定義され、特定の評価会社として分類されます。この場合、類似業種比準方式は原則として使えなくなり、純資産価額方式で評価されます。純資産価額方式は一般的に評価額が高くなる傾向があるため、相続税の負担が重くなるリスクがあります。
さらに直前期末の3要素がすべてゼロの場合は「比準要素数0の会社」となり、これも純資産価額方式のみの評価となります。
ここで注目すべきなのは「判定のタイミングと選択のルールが、評価と異なる」という点です。比準要素数1の判定では「直前期と直前々期の2期で判断」しますが、類似業種比準価額の計算上の利益金額は「直前期1期または2期平均のうち低い方」を選べます。つまり、比準要素数の判定では「直前期に利益がある(ゼロでない)」とされていても、実際の計算では「2年平均のほうが低いからそちらを選ぶ」という場面があります。
これは使えそうです。
この判定ルールと計算ルールの違いを活かすことで、場合によっては「特定の評価会社」の分類を回避しながら、同時に評価額を抑えることも可能です。ただし、これは専門的な判断が必要な領域であり、税理士への相談が必須と言えます。事業承継や相続を2〜3年後に控えた経営者や後継者にとって、比準要素の状態を毎期確認しておくことは、数百万円規模の相続税額の差につながる重要な管理指標です。
比準要素数の判定・評価の実務的な解説については、専門サイトの詳細な整理が役立ちます。
比準要素数1の会社の判定と評価の詳細(戦略相続サイト)
http://www.stgy-souzoku.com/ratio-element-1
こうした判定ロジックと選択の余地を理解したうえで、自社の比準要素の水準を定期的にチェックしておくことが、金融・経営の知識として実際に「使える」理解につながります。計算を外注していても、仕組みを知っているかどうかが、提案を受けたときの判断力に直結します。知識が武器です。