非上場株式の評価と純資産価額の正しい計算と活用法

非上場株式の評価と純資産価額の正しい計算と活用法

非上場株式の評価で使う純資産価額の仕組みと計算のポイント

純資産価額がプラスでも、相続税評価額はゼロになる場合があります。


この記事でわかること
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純資産価額方式の基本的な考え方

「もし今会社を解散したら株主にいくら戻るか」という清算価値をベースに株価を算出する方式です。相続税・贈与税の申告で広く使われています。

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37%控除の仕組みと使えないケース

含み益に対する法人税相当額(37%)を控除できますが、子会社評価の際に二重適用はできません。見落とすと大きな損失につながります。

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会社規模による評価方式の違い

従業員70人以上なら自動的に「大会社」として類似業種比準方式が優先されます。会社規模の判定ミスは評価額の大きなズレを生む原因になります。


非上場株式の評価において純資産価額方式が使われる理由

株式市場に上場している会社であれば、その株価は毎日リアルタイムで公表されています。しかし非上場株式には市場価格がないため、相続や贈与が発生した際に「いくらで評価するか」という問題が必ず生じます。これを解決するために国税庁が定めているのが、財産評価基本通達に基づく評価ルールです。


純資産価額方式は、その中でも特に代表的な評価手法です。一言で言えば、「課税時期(相続や贈与が発生した日)に会社を仮に解散させた場合、株主に分配される正味の財産はいくらか」という視点で株価を算定します。会社の清算価値に着目した、非常にシンプルかつ実態に近い考え方です。


この方式が使われる主な場面は、事業規模の小さい会社の株式を相続・贈与する場合です。つまり原則です。大会社・中会社・小会社という3区分のうち、小会社と判定された会社では原則として純資産価額方式が採用されます。


一方、非上場株式を持つすべての会社が純資産価額方式を使うわけではありません。それが原則です。大会社は類似業種比準方式が主体となり、中会社はその中間的な扱い(併用方式)になります。どの評価方式が適用されるかによって、最終的な評価額は大きく変わることがあります。


会社区分 主な評価方式 判定の目安
大会社 類似業種比準方式(純資産価額方式も選択可) 従業員70人以上、または総資産・取引金額の基準を満たす場合
中会社(大・中・小) 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 Lの値(0.90・0.75・0.60)で割合が変動
小会社 純資産価額方式(L=0.50の併用方式も選択可) 従業員数・総資産・取引金額がいずれも一定未満


会社規模の判定は、従業員数・直前期末の総資産帳簿価額・直前期末以前1年間の取引金額(売上高)の3要素を使って行います。従業員数が70人以上であれば、総資産や取引金額を確認するまでもなく、自動的に大会社と判定されます。この基準を知っておくだけで、評価の方向性が大きく変わります。


参考として、国税庁が公開している財産評価基本通達の該当箇所は以下で確認できます。


取引相場のない株式の評価ルールの根拠となる通達(第8節 株式及び出資)。
国税庁 財産評価基本通達 第8節 株式及び出資(評通178〜)


非上場株式の評価で使う純資産価額の計算式と流れ

純資産価額方式の計算は、大きく3つのステップで進みます。それぞれのステップで使う数字を正確に把握することが重要です。


まず最初のステップは、「会社の総資産を相続税評価額に置き換える」作業です。帳簿に載っている資産の金額ではなく、財産評価基本通達の定めに従って算定した評価額を使います。土地なら路線価方式または倍率方式、建物なら固定資産税評価額、上場株式は課税時期の終値など、資産の種類ごとに評価方法が異なります。


つまり計算に使う「資産の価格」は、帳簿価額とは別物です。


次のステップは「負債の金額を差し引く」です。負債は帳簿価額をそのまま使います。資産と違い、負債は原則として相続税評価額への置き換えは行いません。ここでよく誤解が生まれます。


3つ目のステップが、評価差額に対する法人税等相当額の控除です。この控除率が「37%」で、いわゆる「37%控除」と呼ばれるものです。計算式を整理すると、以下のようになります。


計算ステップ 計算式
① 相続税評価額による純資産(A) 相続税評価額による総資産 ー 負債合計
② 帳簿価額による純資産(B) 帳簿価額による総資産 ー 負債合計
③ 評価差額(含み益) A ー B
④ 法人税等相当額 (A ー B)× 37%
⑤ 1株あたりの純資産価額 (A ー ④)÷ 発行済株式数


具体的にイメージしやすい例を挙げます。帳簿価額の純資産が5,000万円の会社があるとします。保有している土地が値上がりし、相続税評価額ベースの純資産は9,000万円に膨らんでいたとします。このとき含み益は4,000万円です。この含み益に37%を掛けると1,480万円が法人税等相当額となり、控除後の純資産は7,520万円(9,000万円 ー 1,480万円)になります。発行済み株式数が100株であれば、1株あたり75万2,000円が評価額です。


この計算から、含み益が大きい会社ほど37%控除の恩恵も大きくなることがわかります。いいことですね。


37%という税率は平成28年4月1日以降から適用されているもので、それ以前は38%でした。法人税率の変化に合わせて見直されており、今後も改定される可能性があります。計算する際は課税時期の税率を必ず確認することが条件です。


非上場株式の評価における37%控除が使えない3つのケース

37%控除は万能ではありません。適用できないケースをきちんと把握しておかないと、計算ミスや税務調査でのリスクにつながります。


1つ目は「含み益がない(含み損がある)場合」です。37%控除は資産の含み益に対してのみ適用されます。もし相続税評価額の純資産が帳簿価額の純資産より低い、つまり含み損が生じている場合、控除額はゼロとなり、37%の計算式は適用されません。バブル期に取得した不動産などが値下がりしているケースでは、このパターンに該当することがあります。


2つ目は「子会社・関連会社の株式を評価する際の二重控除」です。親会社の株価を純資産価額方式で計算するとき、親会社が保有する子会社株式の評価も行う必要があります。この子会社株式を純資産価額方式で評価する場合、子会社の含み益に対して37%控除を適用することはできません。親会社の段階で一度控除を受けているので、子会社・孫会社の段階で重ねて使うことは認められていないのです。意外ですね。


3つ目は「特定の評価会社に該当する場合」です。総資産に占める株式の割合が高い「株式保有特定会社」や、土地の割合が高い「土地保有特定会社」などに分類された場合、評価方法が通常と異なります。株式保有特定会社はS1+S2方式という特殊な評価が用いられ、S2部分(株式等に対応する部分)の純資産価額計算では37%控除が使えません。


また、個人や法人が非上場株式を売買(譲渡)する際の所得税法・法人税法上の時価計算においても、37%控除は適用できないことが通達で明確にされています。これはあくまで相続税・贈与税の申告における評価に限られたルールです。


  • 含み損がある場合 → 控除額はゼロになる
  • 子会社株式の評価 → 二重控除は認められない
  • 株式保有特定会社のS2部分 → 37%控除の適用外
  • 所得税・法人税の時価計算 → 相続税評価のルールは使えない


これら4つのパターンは実務でも混乱しやすい点です。事前に確認しておけば、税務調査で指摘を受けるリスクを大幅に減らせます。


37%控除の詳細や実務上の適用範囲については、以下のページで体系的に解説されています。


純資産価額方式による非上場株式評価|実務完全ガイド(税理士30年の実務経験に基づく解説)


非上場株式の評価で見落としがちな議決権50%ルールと80%評価

純資産価額方式を使う場面で、実務家でも意外と見落としやすいのが「議決権割合による20%減額」のルールです。知っているかどうかで税負担がまったく変わります。


原則として、純資産価額方式で計算した評価額はそのまま申告に使います。しかし「株式を取得した人(取得者)とその同族関係者が保有する議決権の合計が評価会社の議決権総数の50%以下である場合」には、計算した純資産価額に80%を乗じた金額が評価額となります。


つまり20%分が自動的に減額される、ということです。


「同族関係者」の範囲には、取得者の配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族、取得者と事実上の婚姻関係にある人、取得者の使用人、そして同族関係者が議決権の50%超を保有する法人も含まれます。この範囲は想像以上に広く設定されています。


具体例で確認しましょう。ある会社の議決権総数が1,000個あるとします。株式取得者が200個、その配偶者が150個の議決権を保有している場合、合計350個となり、議決権割合は35%です。この場合は50%以下に該当するため、純資産価額に0.8を掛けた金額が評価額になります。評価額が仮に7,500万円なら、6,000万円に引き下げられます。これは使えそうです。


ただし注意点があります。この80%評価を適用するには「株式取得者とその同族関係者」の合計議決権が50%以下という条件が必要で、単独の取得者だけで計算してはいけません。同族関係者のすべての持ち株を合算して判定します。「50%以下」という条件なので、ちょうど50%の場合も80%評価の対象になる点も見逃しがちです。


なお、株式保有特定会社のS1部分(株式等以外の部分)を評価する際には、この80%評価の適用はないことが明確にされています。したがって、会社が株式保有特定会社に該当するかどうかを先に確認することが重要です。


  • 📌 取得者+同族関係者の議決権合計が50%以下 → 純資産価額 × 80%
  • 📌 50%「以下」なので、ちょうど50%でも適用対象
  • 📌 同族関係者の範囲は6親等内の血族・3親等内の姻族など広い
  • 📌 株式保有特定会社のS1部分には適用なし


非上場株式の評価と純資産価額の独自視点:評価通達が「否認」されるリスク

財産評価基本通達(評価通達)に従って株価を算定して申告すれば、それで完全に安全かというと、実はそうではありません。この点は多くの方が見落としがちです。


評価通達の総則6項には「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合、国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定があります。通称「総則6項」と呼ばれるこの条項が適用されると、通達通りに算定した評価額が税務署によって否認され、より高い評価額で課税されることがあります。


近年、この総則6項を巡る裁判が増えています。2022年(令和4年)の最高裁判決では、「相続税の負担が著しく軽減されることを知りながら行った相続税対策」について、評価通達によらない評価が認められた例があります。一方で、令和7年1月には東京地裁で「国側(税務署側)が敗訴」した判決も出ており、適用の可否は個別事情によって異なります。


どういうことでしょうか? 要するに、評価通達通りの計算をしても「明らかに租税回避を狙った操作」と判断されれば、税務調査で覆されるリスクがある、ということです。


実際に問題になりやすいのは以下のような場面です。


  • 🔎 相続直前に多額の借入で不動産を購入し、純資産価額を人為的に引き下げたケース
  • 🔎 持株会社を設立して株式を間接保有に切り替え、評価差額を大幅に圧縮したケース
  • 🔎 課税時期の直前に現物出資や合併を行い、含み益を消したケース


こうした操作が「租税回避目的である」と認定されると、通達評価額ではなく実態に基づく時価で課税される可能性があります。特に「課税時期の3年以内に取得した土地・建物は路線価ではなく通常の取引価格(実勢価格)で評価する」というルールがあり、相続直前の不動産購入による節税対策は以前ほど有効ではなくなっています。


評価通達による申告は適法な手続きである一方、その枠組みを意図的に悪用することはリスクが伴います。節税対策を検討する際は、適法性と税務リスクの両面を専門家と十分に検討することが必須です。


最新の裁判例と総則6項の適用基準については、以下のページが詳しいです。


財産評価基本通達の「総則6項」とは?最近の裁判例をもとに適用基準を解説(AGS税理士法人)


非上場株式の評価で純資産価額方式を活かした相続税対策の基本

純資産価額方式の仕組みを正しく理解すると、合法的な相続税対策のヒントが見えてきます。評価額を適正に下げる手段は複数ありますが、いずれも正確な知識と専門家のサポートが欠かせません。


まず覚えておきたいのは「含み益の大きさが評価額に直結する」という点です。含み益が大きいほど37%控除の恩恵も大きくなりますが、同時に評価額そのものも高くなる構造です。土地や有価証券などの値上がり資産を多く保有している会社ほど、純資産価額方式での評価額は高くなりがちです。


対策の代表的な方向性の一つが持株会社(ホールディングス会社)の活用です。事業会社の株式をオーナーが直接保有するのではなく、持株会社を通じて間接保有する形にすると、オーナーの相続財産は「持株会社の株式」になります。この持株会社株式を純資産価額方式で評価する際、持株会社が保有する事業会社株式の含み益に37%控除が適用されます。結果として、事業会社の成長による株価上昇が直接相続財産に反映されにくくなる効果が期待できます。


ただし、持株会社化後に株式の保有比率が高まりすぎると「株式保有特定会社」に該当するリスクがあります。この場合、S1+S2方式が適用され、S2部分では37%控除が使えなくなります。設計段階でのシミュレーションが重要です。


もう一つの視点として、会社の利益水準や財産構成を調整することで評価額をコントロールするアプローチがあります。例えば役員退職金の支払いによって会社の純資産を引き下げる方法や、含み損資産の売却によって評価差額をリセットする方法などがあります。ただし、これらは事業の実態と乖離した無理のある操作は税務上のリスクを伴います。あくまで事業上の合理的な意思決定の結果として評価額が変化することが前提です。


合法的な相続税対策の検討には、非上場株式の評価に精通した税理士への相談が有効です。国税庁が公開している「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等」も実務の参考になります。


国税庁 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等(PDF)


純資産価額方式の計算そのものは、計算式を覚えればシンプルに見えます。しかし、資産ごとの相続税評価額の算定・37%控除の適用可否・議決権割合による減額・会社規模の判定など、細かな論点が重なるため、専門家のチェックなしに申告するのはリスクが大きいと言えます。会社の規模が大きくなるほど計算は複雑化し、ミスがあれば税務署からの指摘対象になりやすい財産の一つです。正確な知識を持つことが、最大の対策の基本です。