株式保有特定会社の評価方法と株特外しの注意点

株式保有特定会社の評価方法と株特外しの注意点

株式保有特定会社の評価方法と株特外しを正しく理解する

ホールディングスを作れば自社株の評価が必ず下がると思っていると、数千万円の追徴税が来ます。


📋 この記事の3つのポイント
💡
株式等保有特定会社とは?

総資産に占める株式等の割合が50%以上の会社。持株会社・資産管理会社が該当しやすく、相続税評価で原則「純資産価額方式」が適用されます。

⚖️
評価方法は3種類

①純資産価額方式(原則)、②S1+S2方式(特例・有利な場合あり)、③配当還元方式(少数株主のみ適用可)。方式の選択が相続税額を大きく左右します。

⚠️
株特外しは税務否認リスクあり

課税直前の不自然な資産移動は「合理的な理由なし」と判断され、税務否認されたケースが増加中。令和7年9月の審判所裁決でも否認事例が確認されています。


株式保有特定会社の定義と判定基準:50%ルールの正しい理解

株式等保有特定会社とは、その会社が保有する総資産のうち、株式等の金額が占める割合が50%以上である会社を指します。判定式は以下のとおりです。







項目 内容
📌 判定式 株式等の相続税評価額の合計 ÷ 総資産の相続税評価額 ≧ 50%
✅ 株式等に含まれるもの 上場株式・非上場株式・外国株式・株式制ゴルフ会員権・出資金・新株予約権付社債
❌ 株式等に含まれないもの 匿名組合の出資証・証券投資信託の受益証券(投資信託は対象外)
🚫 適用除外 開業後3年未満・休業中・清算中・土地保有特定会社に該当する会社


ここで意外に多くの人が誤解しているのが「投資信託は含まない」という点です。投資信託の受益証券は株式等に該当しないため、判定割合を計算するときに株式等側に算入しません。これを知らずに過剰に株特外し対策をしてしまうケースもあります。


判定の時点は「課税時期(相続・贈与の発生時点)の現況」です。重要なのは決算書の期末残高ではなく、課税が発生したその日の状態で判定されます。


典型的に該当しやすい会社は、グループ全体の管理を担う持株会社(ホールディングス会社)や、資産の所有・管理を目的に設立された資産管理会社です。たとえば、純資産10億円のうち株式が6億円(60%)を占める資産管理会社は、明確に株式等保有特定会社と判定されます。


これが重要な理由は、判定を受けると相続税・贈与税における株価の計算ルールが、一般の会社とは全く異なるものになるからです。つまり評価方法が課税額に直結します。


株式保有特定会社の評価方法①純資産価額方式:収益力は反映されない

純資産価額方式は、株式等保有特定会社の原則的な評価方法です。計算の考え方はシンプルで「今この会社を解散したら株主に1株あたりいくら戻るか」を算出します。


計算ステップは以下のとおりです。



  • 💹 ステップ1:保有するすべての資産を相続税評価額(時価)に換算する

  • 💹 ステップ2:借入金などの負債を差し引く

  • 💹 ステップ3:含み益(時価と帳簿価額の差額)に対する法人税等相当額37%を控除する

  • 💹 ステップ4:残った金額を発行済株式総数で割る


計算式で表すと次のようになります。


(総資産の時価 − 負債価額 − 法人税等相当額)÷ 発行済株式総数 = 純資産価額(1株あたり)


この方式の大きな特徴は、会社の収益力や将来性が評価額に反映されない点です。業績が赤字続きであっても、資産の時価が高ければ評価額は上がります。逆に収益性の高い会社でも、含み益のある資産が少なければ評価額は低くなります。


これは一般の事業会社に使える「類似業種比準方式」とは全く異なる論理で動いています。類似業種比準方式では、同業種の上場企業の株価・配当・利益・純資産を参考に株価を算定するため、事業の実力が反映されます。


一方、純資産価額方式は「資産の時価の総和」で評価するため、株式等を大量に保有する会社ほど評価額が膨らみやすい構造になっています。純資産価額方式が原則です。


なお、少数株主であっても同族株主に該当する場合は純資産価額方式が適用されます。ただし、取得者およびその同族関係者の議決権割合の合計が50%以下の場合に限り、純資産価額の80%で評価することが認められています。これは見落としがちですね。


株式保有特定会社の評価方法②S1+S2方式:有利選択が可能な特例的手法

S1+S2方式は、株式等保有特定会社の株主が選択できる特例的な評価方法です。純資産価額方式と比較して、場合によっては評価額を大幅に下げられる可能性があります。これは使えそうです。


この方式の核心は、会社の資産を2つに分けて別々に評価する点にあります。





区分 対象資産 評価方法
S1(株式等以外の部分) 不動産・設備・売掛金・現預金など本業に関わる資産 会社規模に応じた原則的評価方式(類似業種比準方式を使える場合あり)
S2(株式等の部分) 上場株式・非上場株式・ゴルフ会員権など 純資産価額方式のみ


S1の部分で会社規模が大・中・小会社のいずれかに応じた類似業種比準方式が使えると、その部分は上場企業の株価水準を参考にした評価になります。類似業種比準方式は一般的に純資産価額方式よりも低い評価額が出やすいため、全体を純資産価額方式で計算するよりも最終的な評価額を引き下げる効果が期待できます。


ただし、重要な制約があります。S1+S2方式による計算結果は、「会社全体を純資産価額方式で計算した金額」を上回ることはできません。S1+S2の合計が純資産価額方式より高くなった場合は、純資産価額方式の金額が採用されます。


つまり「どちらか低い方を選べる」ということですね。


また、S2の株式等の評価には法人税等相当額の控除が認められません。この点が純資産価額方式との大きな違いのひとつです。実務では計算が複雑になるため、税理士への依頼が不可欠です。


参考:評価通達の具体的な内容は国税庁の公式サイトで確認できます。


国税庁「特定の評価会社の株式」財産評価基本通達189-3


株式保有特定会社の評価方法③配当還元方式:少数株主だけが使える低評価の出口

配当還元方式は、株式等保有特定会社に該当する場合でも、特定の条件を満たす株主が取得した株式に適用できる評価方法です。知ってると得する情報ですね。


この方式が使えるのは「同族株主以外の株主等がその株式を取得した場合」という条件がある場合に限られます。言い換えると、会社を実質的に支配していない少数株主が該当します。


計算式は次のとおりです。


(直前期・直前々期の年平均配当金額 ÷ 50円)× 10% = 配当還元価額(1株あたり)


なお、1株あたりの資本金等の額を50円とした場合の年配当金額が2円50銭未満の場合や、無配の場合は2円50銭として計算します。


純資産価額方式やS1+S2方式では、資産の時価をベースにするため株価が高くなりがちです。一方、配当還元方式は「株式が生み出す収益(配当)」からの逆算なので、評価額が大幅に低くなります。実際に、同じ会社の株式であっても、同族株主が取得するケースと少数株主が取得するケースでは評価額が10倍以上違うこともあります。


ただし、例外があります。配当還元価額が純資産価額方式やS1+S2方式による評価額を上回るような場合には、低い方(純資産価額またはS1+S2方式の金額)が採用されます。一方向的に低い評価になるわけではない点は注意が必要です。


少数株主への生前贈与や株式移転を行う際は、この点を前提に税理士と事前に計算シミュレーションをしておくことが重要です。相続発生後に気づいても遅い場面が多いため、早期の対策が損失回避につながります。


株特外しの手法と税務否認リスク:令和7年9月の否認事例が示す教訓

株特外しとは、総資産に占める株式等の割合を50%未満に引き下げることで、株式等保有特定会社の判定から外れることを指します。株特外しができると、評価方法の選択肢が広がり相続税・贈与税の節税効果が期待できます。


主な手法は以下の4つです。



  • 🏢 不動産の取得:収益物件などを購入して非株式等資産を増やす。相続税評価額が取得価額より低くなる効果も期待できる。

  • 💴 現金・預金の積み増し:増資や借入れで資金を増やし、総資産に占める株式等の比率を下げる。

  • 🏭 事業用資産の購入:機械・設備・車両など本業に使う資産を増やして構成比を変える。

  • 📉 株式等の一部売却:保有株式の一部を売却し分母(株式等)を直接減らす。


ただし、これらの手法には重大なリスクが伴います。財産評価基本通達189の「なお書き」は次のように定めています。


「課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定を行う」


つまり、節税目的の恣意的な資産操作は「なかったこと」として扱われます。税務否認が条件です。


実際に令和7年9月5日の国税不服審判所の裁決では、贈与の2日前に約15億円の賃貸不動産を購入した事案で、株特外しが税務否認されています。その会社は借入金13億円・2億8千万円を調達して総資産を膨らませる操作を行いましたが、「合理的な理由なし」と判断されました。審判所はこの一連の行為を「株式等保有特定会社と判定されることを回避するための総資産価額の操作」と認定しています。


株特外しは「決算直前の単発の資産移動」ではなく、事業の実態に基づいた継続的な資産構成の調整である必要があります。対策の必要性と合理性を客観的に説明できる状態を整えることが大前提です。


事業承継を検討している経営者の方にとって、こうした税務否認リスクは見落としてはなりません。事前に税理士や事業承継の専門家を交えた計画づくりが、最終的なコスト削減につながります。


税理士法人タクトコンサルティング「資産管理会社の株特外しを無効化する評価通達189なお書きが適用された事例」(2026年3月)
※上記は令和7年9月5日裁決の詳細を解説した実務向け情報です。株特外しの否認リスクを確認する際の参考になります。


【独自視点】株式保有特定会社の評価と事業承継スキームの最適化:税負担を抑える長期設計の考え方

多くの解説記事では「株特外しをするかどうか」という二択の論点で語られがちです。しかし、実務上は株式等保有特定会社の評価をどう活用するかという長期的な設計の視点も重要です。


たとえば、S1+S2方式を選択することで、S1部分について類似業種比準方式が適用できる場合、本業の収益力が低い局面では純資産価額方式より低い評価が出るケースもあります。業績が好調な時期に相続が発生するより、業績が低迷している時期にS1+S2方式を用いた方が税負担を抑えられることもあります。これは意外ですね。


また、少数株主への生前贈与スキームを活用する場合、配当還元方式の適用を意図的に設計することで課税額を大幅に引き下げられる場合があります。議決権割合の調整や株式の種類設計(議決権制限株式の活用など)と組み合わせると効果が高まります。


さらに注目されているのが「類似業種比準価額と純資産価額の関係」を利用したタイミング戦略です。類似業種比準価額は、国税庁が毎年公表する「類似業種株価等通達」の業種別株価データに連動します。株式市場全体が低迷している局面では類似業種株価も低下するため、結果としてS1+S2方式が有利になりやすくなります。


重要なのは、株式等保有特定会社に「なってしまった」と慌てて対処するのではなく、中長期的な事業計画と資産構成の変化を予測しながら、早い段階から対策を練ることです。相続・贈与の発生タイミングはコントロールできないため、常に複数シナリオで準備しておく姿勢が求められます。






戦略 ポイント 注意点
S1+S2方式の有利選択 業績低迷期・株価低迷期に類似業種比準が低くなりやすい S2部分は常に純資産価額方式のみ適用
少数株主への贈与設計 配当還元方式で評価額が大幅低下する場合あり 同族株主と非同族株主の区分を事前に確認
株特外し(中長期) 事業実態に基づく合理的な資産構成の調整 直前の突発的操作は税務否認リスク大


税理士法人に相談する際は、相続専門かつ非上場株式の評価実績が豊富な事務所を選ぶのが原則です。評価方法の選択を誤ると、数百万から数千万円単位の税負担差が生じることがあります。事業承継の局面に入ったら、少なくとも3〜5年前から専門家と連携して計画を立てることをおすすめします。


国税庁「判定の基礎となる『株式等』の範囲」
※株式等に何が含まれるか・含まれないかの判定基準が公式に示されています。株特外しを検討する際の前提確認として活用できます。