株式移転と株式交換の違いを基礎から徹底比較

株式移転と株式交換の違いを基礎から徹底比較

株式移転と株式交換の違いを基礎から徹底比較

株式移転と株式交換は、どちらも「完全親子会社関係」を作るM&Aの手法です。しかし2つは似て非なるもので、間違えると税務上の課税リスクや多額の費用が発生することもあります。


株式移転と株式交換:3つの核心的な違い
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親会社の形態が違う

株式移転は新設会社が親会社になる。株式交換は既存の会社がそのまま親会社となる。この1点が最大の分岐点。

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税務上の扱いに差がある

適格要件を満たせばどちらも課税繰り延べが可能。ただし対価が現金になった瞬間に課税が発生する点に注意が必要。

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手続きとコストが異なる

株式移転は新会社設立登記が必要で登録免許税が15万円以上かかる。株式交換は登記不要なケースもあり、コストを抑えやすい。


株式移転と株式交換の基本的な仕組みと定義の違い


まず「株式移転」とは何かを確認しましょう。会社法第2条によれば、株式移転とは「1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させること」を指します。わかりやすく言えば、いまある会社の上に新しい「箱(親会社)」を作り、そこへ全株式を移す手法です。ソフトバンクグループや多くの「〇〇ホールディングス」と名の付く企業は、この株式移転を使って持株会社体制へ移行しています。代表的な事例が2014年のKADOKAWAとドワンゴの経営統合で、両社は共同株式移転によって「株式会社KADOKAWA・DWANGO」(後にカドカワ株式会社へ改名)という完全親会社を新設しました。


一方「株式交換」は、会社法第2条の定義によれば「ある会社がその発行済株式の全部を別の既存の会社に取得させること」です。ここが重要なポイントです。新しい会社を作らず、すでに存在する会社に全株式を渡して、完全子会社化します。2012年に日産自動車が愛知機械工業を株式交換で完全子会社化した事例が典型的で、日産が保有していた41.4%の株式を100%に引き上げるために使われました。


つまり両者の最大の違いはシンプルです。「完全親会社を新設するか、しないか」という1点に集約されます。これが基本です。


以下の表で違いを整理しておきます。






































比較項目 株式移転 株式交換
完全親会社 新設する 既存の会社
主な目的 持株会社設立・経営統合 完全子会社化・グループ再編
効力発生のタイミング 親会社の設立登記日 契約で定めた効力発生日
設立登記 必須(親会社の新設登記) 原則不要(増資がある場合は必要)
子会社の法人格 維持される
現金対価の可否 原則不可 可能(三角株式交換含む)


子会社の法人格はどちらでも消えない点は覚えておけばOKです。合併とは根本的に異なります。


株式移転と株式交換それぞれのメリット・デメリット比較

株式移転と株式交換には共通のメリットがあります。最大のものは「買収資金が不要」であることです。対価として自社株を交付するため、何億円もの現金を用意しなくてよい点は、M&A実務で非常に重要な意味を持ちます。株式譲渡や事業譲渡では現金を準備できずに買収断念というケースもある中で、株式を対価とするこの2つの手法は、手元資金が少ない企業でも活用できます。これは使えそうです。


また、株主総会の特別決議(議決権の過半数を持つ株主の出席+出席者の3分の2以上の賛成)さえ取れれば、反対する少数株主の株式も強制的に取得して100%子会社化できる点も大きなメリットです。株式譲渡では株主全員の同意が原則必要ですが、株式移転・株式交換ではその必要がありません。


株式移転独自のメリットとしては、複数社が対等な形で経営統合できる点があります。共同株式移転では、どちらの会社も「新設した親会社の子会社」という平等な立場になるため、合併のように一方が消えることへの経営陣・従業員の心理的抵抗が生じにくい傾向があります。また、テクニカル上場制度という制度があり、上場会社が株式移転で持株会社を設立した場合、その新設持株会社は審査なしで元の上場会社と同じ証券取引所に上場できます。意外ですね。


一方でデメリットも明確にあります。株式移転では新設会社の設立登記が必ず必要で、登録免許税として最低15万円以上のコストが発生します。さらに司法書士への報酬として、単独株式移転でも22万円(税込)程度からが相場で、共同株式移転なら33万円(税込)以上になるケースが多いです。株式交換は登記が不要なケースもあり、この点では費用を抑えやすいです。


株式交換特有のメリットとしては、三角株式交換という手法があることです。通常の株式交換では完全親会社の株式が対価ですが、三角株式交換では完全親会社の親会社(孫会社レベルの企業も含む)の株式を対価にできます。これにより、例えば外国企業の日本子会社が、日本企業を買収する際に外国の親会社株式を対価として使えるため、クロスボーダーM&Aで活用されています。



















株式移転のみのメリット 株式交換のみのメリット
特徴 複数社が対等に経営統合できる/テクニカル上場が可能 三角株式交換が使える/登記不要で低コスト化できる
主なデメリット 新設登記費用が必ず発生する 親会社の株主構成が大きく変わるリスクがある


株式移転・株式交換の税務上の違いと適格要件の重要ポイント

税務面は、金融に興味を持つ人が最も注意すべき部分です。適格要件を満たすかどうかで、課税の有無が180度変わります。


適格株式交換・適格株式移転(以下、適格再編)として認められれば、完全親会社・完全子会社・それぞれの株主のいずれにも課税は発生しません。これが原則です。しかし「対価が株式以外の現金などである場合」は、非適格となり子会社とその株主に課税が生じます。


📌 適格要件の主な判定基準(株式交換・株式移転共通)



  • 完全支配関係の継続:再編後も同一の者(株主)が100%支配を継続する見込みがあること

  • 対価が株式のみ:交付する対価が完全親会社の株式のみであること(現金等が混じると原則非適格)

  • 事業継続性:完全子会社の主要事業が再編後も継続する見込みがあること


ここで金融に興味のある個人投資家が見落としがちな点を押さえておきます。適格株式交換・適格株式移転が行われた場合、個人株主は「旧株の譲渡はなかったもの」とみなされ、課税が発生しません(国税庁タックスアンサーNo.1526)。つまり手元の株が親会社株に切り替わっても、その時点では税金を払わなくていいのです。


ただし端数株式が発生して現金で支払われた部分については、その端数分だけ譲渡があったものとして課税対象になります。また、対価の一部でも現金が含まれると適格要件から外れる可能性があります。端数が出た場合は注意が必要です。


なお、株式交換・株式移転ではみなし配当は原則発生しません。これはM&Aスキームの中では珍しい特徴で、組織再編税制上の特別扱いです。ただし非適格となった場合の課税リスクは別途生じるため、実際に再編を検討する際は必ず税理士・会計士への相談が条件です。


税務上のリスクを正確に把握したい場合は、国税庁が公開しているタックスアンサーが一次情報として有用です。


株式交換により株式を譲渡した場合の課税特例について(国税庁 タックスアンサーNo.1526)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1526.htm


株式移転・株式交換の手続きの流れとスケジュール比較

実務的な手続きの流れを把握しておくと、実際にM&Aの場面に立ち会ったときや、自社株が交換対象になったときに冷静に対処できます。基本的な流れは共通していますが、細部でいくつか異なります。


📋 基本的な手続きの流れ(両手法共通)



  1. 株式交換契約の締結 または 株式移転計画の作成

  2. 事前開示書類の備置(株主総会2週間前・通知日・公告日のいずれか早い日から6ヶ月間)

  3. 株主総会による特別決議(出席者の3分の2以上の賛成が必要)

  4. 債権者保護手続き・株券提供公告(該当する場合)

  5. 反対株主からの株式買取請求への対応

  6. 公正取引委員会への届出(一定規模以上の場合)

  7. 効力発生・登記申請

  8. 事後開示書類の備置(6ヶ月間)


ここで株式移転と株式交換で明確に異なるポイントを押さえましょう。効力発生タイミングが違います。株式交換は「契約で定めた効力発生日」に完了しますが、株式移転は「新設した完全親会社の設立登記が完了した日」が効力発生日になります。登記が済まないと法的に有効な再編にならないということです。


反対株主の買取請求についても注意点があります。株式移転では「株主総会決議後2週間以内の通知・公告日」が買取請求期間のスタート日になります。一方、株式交換では「効力発生日の20日前までの通知・公告日」が起算点です。この差を知らずに対応を誤ると、60日間の買取対応期間の計算がずれ、法的トラブルにつながる可能性があります。


一般的に、株式移転・株式交換の全手続きには3〜6ヶ月程度かかることが多いです。急ぎのスキームでも最低2ヶ月程度は必要と考えておきましょう。登記申請は効力発生日から2週間以内に行う必要があり、この期限は厳守が原則です。


手続きの全体像を把握したい方には、M&A専門サイトの詳細解説が参考になります。


株式移転・株式交換の手続きスケジュール詳細(fundbook)。
https://fundbook.co.jp/column/understanding-ma/share-transfer-flow/


株式移転・株式交換を投資家目線で読み解く独自の視点

ここでは検索上位記事ではあまり語られない、投資家目線からの視点を掘り下げます。株式交換・株式移転のニュースが出たとき、株主である個人投資家はどう行動すべきか、という観点です。


まず、株式交換・株式移転の発表後に株価がどう動くかを理解しましょう。完全親会社が新株を発行して子会社株と交換する場合、親会社の発行済株式数が増えます。1株当たりの利益(EPS)が希薄化するため、シナジー効果への期待が乏しければ親会社の株価が一時的に下落することがあります。一方、完全子会社化される側の株価はプレミアム(割増分)が乗るケースが多く、交換比率が有利な場合は株価が上昇します。


株式交換では「交換比率」が非常に重要です。この交換比率が不公正だと感じた反対株主は、株式買取請求権を行使できます。会社法上、買取価格は「公正な価格」と定められており、当事者間で協議が整わない場合は裁判所に価格決定を申し立てることができます(会社法785条・806条)。過去の判例では、株式移転計画の合理性を含めてシナジー効果を加味した評価額が認められたケースもあり、交渉によって当初提示価格より高い買取額が実現した事例もあります。


次に「完全子会社化される会社の株を持っていたらどうなるか」というリアルな話をします。株式交換が発表された場合、所定の交換比率で保有株が完全親会社の株式に自動的に切り替わります。これを「強制交換」と呼ぶこともあります。端数が出た分は現金で支払われますが、交換された株そのものは課税繰り延べの対象になるため、即時の税負担は発生しません。この点は株式譲渡と大きく異なります。


また、株式移転の場合は既存の上場子会社の株が新設持株会社の株に切り替わります。テクニカル上場制度によって持株会社は審査を経ずに同じ市場に上場できますが、上場初日の株価は市場が形成します。上場初日に流動性の低下や価格調整が起きるリスクも念頭に置いておくと、慌てずに対応できます。


株式交換・株式移転の発表をトリガーに株価の動きを予測するには、交換比率・対価の種類・適格要件の充足状況の3点を素早くチェックする習慣が実戦では効果的です。これだけ覚えておけばOKです。


株式交換のプレミアムや交換比率の読み方については、野村証券の証券用語解説が簡潔にまとまっています。


株式交換の用語解説(野村証券)。
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ka/kabusikikokan.html




株式交換移転・事業譲渡 3訂版: 法務・税務・会計のすべて (実践企業組織改革 2)