

納付期限を1日でも過ぎると、あなたの会社は税額の10%を余分に支払うことになります。
みなし配当とは、会社法上は「配当」に分類されないものの、税法上は配当金と同じとみなして課税される仕組みのことです。株主が実質的に会社の利益分配を受け取っているという実態に合わせて、税務上は「配当所得」として扱われます。つまり、表向きは配当ではないのに、所得税の源泉徴収義務が発生するという点が実務の落とし穴です。
では、具体的にどのような場面でみなし配当が生じるのでしょうか。主な発生ケースは以下のとおりです。
| 発生ケース | 内容のポイント |
|---|---|
| 自己株式の取得(相対取引・TOBなど) | 会社が株主から自社株を取得する際、対価が「資本金等の額」を超える部分がみなし配当となる |
| 合併(非適格合併) | 消滅会社の株主が合併対価として金銭等を受け取る場合 |
| 会社分割(非適格分割型分割) | 分割会社の株主に金銭等が交付される場合 |
| 資本剰余金を原資とする配当(資本の払戻し) | 利益剰余金ではなく資本剰余金から配当する場合 |
| 会社解散による残余財産の分配 | 株主への分配金が出資額(資本金等の額)を超える部分 |
ここで意外と見落とされるのが「市場取引の自己株式取得はみなし配当が発生しない」という点です。証券取引所の市場での通常売買であれば、みなし配当課税の対象外となり、株主には譲渡所得として処理されます。一方、TOB(公開買付)での取得は市場取引ではないため、みなし配当課税の対象になります。これは混同しやすいので要注意です。
また、適格合併・適格分割型分割に該当する場合も、みなし配当は発生しません。再編の形式によって課税の要否が変わるため、M&Aや組織再編の際は税理士へ事前確認することが不可欠です。
みなし配当が発生するケースに当てはまるかどうかの判断が正確でなければ、源泉徴収そのものを見落とすリスクがあります。それが原因です。
EY Japan「みなし配当に係る株式の発行法人の実務対応」|具体例を交えた発生ケースの詳細解説
みなし配当に対する源泉徴収税率は、株式が上場されているかどうかによって異なります。上場株式等の場合は合計20.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%)、非上場株式の場合は20.42%(所得税・復興特別所得税のみ、住民税なし)です。非上場の場合は住民税の源泉徴収がない代わりに、株主が個人であれば確定申告で住民税を別途納めることになります。
大切なのは、源泉徴収の対象は「交付金額全体」ではなく「みなし配当部分のみ」という点です。
たとえば、株主に対して1株あたり1万円を交付し、そのうち1株あたりの資本金等の額が3,000円だとします。この場合のみなし配当は7,000円/株であり、源泉徴収の計算式は次のようになります(非上場の場合)。
| 項目 | 金額(1株あたり) |
|---|---|
| 交付金額 | 10,000円 |
| 資本金等の額に対応する部分(元本払戻分) | 3,000円 |
| みなし配当(課税対象) | 7,000円 |
| 源泉徴収税額(7,000円 × 20.42%) | 1,429.4円 → 1,429円(1円未満切り捨て) |
つまり、資本金等の額に対応する部分は課税されません。この計算を誤って交付額全体に税率をかけてしまうと、過大源泉徴収となり後で精算が必要になります。
💡 源泉徴収した所得税の納付期限は「配当等を支払い又は交付した月の翌月10日まで」です。これは土日祝日関係なく適用されるため、10日が休日であれば翌営業日に繰り延べられます。この期限を守ることが原則です。
また、支払が確定しているのに1年以上未払いの状態が続いた場合は、「支払が確定した日から1年を経過した日の属する月の翌月10日」が納付期限となります。このルールを知らずに放置すると、思わぬ加算税が発生することがあります。
マネーフォワード「みなし配当の課税関係」|源泉徴収税率と翌月10日の納付義務の解説
みなし配当に対する源泉所得税を納付するときに使う納付書は、「配当等の所得税徴収高計算書」という専用書式です。給与所得に使う「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」とは別物なので、書類を間違えないように注意が必要です。
この納付書の入手方法には次の3つがあります。
- 税務署の窓口で直接受け取る
- 金融機関(銀行・郵便局)で受け取る(置いていない場合もあるため事前確認が必要)
- 国税庁ホームページからPDFをダウンロードして印刷する
各欄の記載についての主なポイントを整理します。
| 記載欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 年度・税務署名・整理番号 | 記載漏れが最も多い欄。必ず記入する |
| 納期等の区分 | 配当等を支払い・交付した年月を記載する |
| 配当等の種類(コード) | 「1:剰余金・利益の配当」など国税庁のコード表から選ぶ |
| 支払確定年月日・支払うべき金額 | 配当支払が確定した日と、その日に確定した金額 |
| 支払年月日 | 実際に支払・交付した年月日(同月2回以上なら最終日) |
| 総合課税等適用分(合計) | 源泉徴収すべき配当等の合計額 |
| 本税 | 実際に源泉徴収した所得税額と復興特別所得税の合計 |
なお、1年以上未払いのまま経過した配当を納付する際は、同じ書式内に記載するのではなく、別の納付書を作成して「摘要」欄に「1年経過配当分」と明記することが国税庁ルールで定められています。これは実務でよく見落とされる点です。
また、「非課税適用分及び上場株式等の配当等の支払の取扱者への支払分」欄は、源泉徴収が不要な金額(非課税分)を記載する欄であり、「本税」の計算には含めません。この欄の取り扱いを誤ると金額ミスにつながります。
内国法人に支払った配当等がある場合は「うち内国法人に対する支払分」欄を記載しますが、この欄は総合課税等適用分の「内書」扱いであり、合計額の計算には重複カウントしない仕組みです。細かいルールですが、記載方法が独特なので確認が必要です。
国税庁「納付書の記載のしかた(配当等の所得税徴収高計算書)」|公式の記載要領ページ
みなし配当の源泉徴収を行った後、翌月10日の納付期限を1日でも過ぎると、「不納付加算税」が自動的に発生します。これは多くの担当者が見落としているリスクです。
不納付加算税の税率は原則として納付すべき税額の10%です。ただし、税務署から指摘される前に自主的に気づいて納付した場合は5%に軽減されます。たとえば、みなし配当の源泉徴収税額が50万円だった場合、自主納付で2万5,000円、税務調査で発覚すると5万円の上乗せとなります。痛いですね。
さらに、延滞税も別途かかります。
| 遅延期間 | 延滞税の年率(2026年現在の目安) |
|---|---|
| 法定納期限の翌日から2か月以内 | 年約2.4%(特例基準割合+1%) |
| 2か月を超えた部分 | 年約8.7%(特例基準割合+7.3%) |
不納付加算税と延滞税は同時に課される可能性があるため、1回のミスで2種類のペナルティを負うことになります。
ただし、以下の2つの条件を両方満たす場合は、不納付加算税が免除される特例があります。
- その月以前1年間に、源泉徴収税の不納付の事実がないこと
- 納付期限から1か月以内に自主的に納付していること
この特例を知っているかどうかで、うっかりミスのダメージが大きく変わります。これは使えそうです。
万が一期限を過ぎてしまった場合は、税務署から連絡が来る前にできるだけ早く自主納付することが最善の対処です。放置するほど延滞税が膨らむ構造になっています。
国税庁「No.9205 延滞税について」|延滞税の計算方法と適用期間の公式解説
みなし配当の源泉所得税はe-Taxを活用することで、紙の納付書なしで納付手続きを完結できます。これは実務効率を大きく上げる方法です。
e-Taxによる電子納付には主に2つのルートがあります。
① ダイレクト納付(口座振替方式)
事前に税務署に「ダイレクト納付利用届出書」を紙で提出し、指定口座を登録しておく方法です。e-Tax上で「所得税徴収高計算書」データを作成・送信し、指定日時に登録口座から自動引き落としされます。インターネットバンキング契約が不要という点が使いやすいポイントです。
② インターネットバンキング等による納付
e-Taxに送信後に発行される「納付区分番号」を使って、自分のネットバンキングから納付する方法です。こちらは金融機関のインターネットバンキング契約が必要になります。
どちらの方法でも、e-Taxで徴収高計算書データを送信すれば「所得税徴収高計算書用紙の送付の要否」欄で「送付不要」を選択でき、以降は紙の納付書が郵送されなくなります。月に一度の送付作業がなくなるため、経理担当者の負担が減ります。
⚠️ 注意点として、e-Taxの利用を始めるには事前に「利用開始手続き」が必要です。法人の場合は電子証明書の取得も必要になります。ただし、源泉所得税の徴収高計算書データの送信については電子証明書が不要なケースもあるため、国税庁のe-Taxサイトで確認することをおすすめします。
なお、キャッシュレス納付への移行を検討している法人向けには、国税庁がダイレクト納付の手順を動画でも公開しています。はじめて導入する場合は動画も参考になります。
国税庁e-Tax「電子納税」ページ|ダイレクト納付・インターネットバンキング納付の手続き説明
源泉徴収はあくまで「仮払い」であり、株主が個人の場合、確定申告による精算で税負担を減らせるケースがあります。非上場会社からのみなし配当は原則として「総合課税」の配当所得として申告し、「配当控除」を受けることが可能です。
配当控除の適用条件は次の3点です。
- 株式発行法人が内国法人であること
- みなし配当が資本剰余金を源泉としないこと(資本の払戻し部分には配当控除は適用されない)
- 確定申告で配当所得として申告すること
配当控除率は課税所得金額によって変わります。
| 課税される所得金額 | 配当控除率 |
|---|---|
| 1,000万円以下の部分 | 10% |
| 1,000万円超の部分 | 5% |
たとえば、課税所得が600万円でみなし配当が100万円だった場合、配当控除額は10万円(100万円×10%)になります。これが所得税額から直接差し引かれるため、実際の税負担は源泉徴収分より少なくなります。総合課税を選んだ上で確定申告することが条件です。
ここで多くの投資家が見落としているのが「分離課税との選択肢」です。上場株式等のみなし配当については、申告分離課税を選択することもでき、譲渡損失との損益通算が可能になります。どちらが有利かは、他の所得水準・譲渡損失の有無によって異なります。課税方式の選択次第で数万円単位の差が出ることもあるため、確定申告前に試算することが重要です。
また、法人株主がみなし配当を受け取った場合は話が変わります。法人の場合、受け取ったみなし配当は「受取配当金」として益金に算入されますが、「受取配当等の益金不算入」制度により持株比率に応じて一定割合が非課税となります。これは個人と異なる有利な扱いであり、M&Aや株主構成の設計において税務メリットの観点から重要な知識です。
さらに実務の独自視点として、「みなし配当の金額通知義務」にも注意が必要です。みなし配当が発生する支払をする法人(または上場株式等の場合は支払取扱者)は、受取人に対して「交付金銭の額・みなし配当の額・源泉徴収税額」を通知しなければなりません(所得税法225条)。この通知が遅れたり内容が誤っていたりすると、支払取扱者(証券会社等)が誤った源泉徴収を行ってしまう事例が実際に起きています。2018年・2019年には上場会社でこのミスによる過大源泉徴収の事例が報告されており、通知の精度は最終的に株主への支払額に直結します。通知義務が原則です。
パラダイムシフト「みなし配当に源泉徴収が必要な場合とは?確定申告・税務処理も解説」|配当控除の計算と確定申告の手順
国税庁「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」|配当控除の公式計算方法と適用条件