

要件を全部クリアしても、分割後に株式を1株でも売ると非適格になります。
適格分割とは、法人税法の定める一定の要件を満たした会社分割のことです。要件を満たすと、分割する事業の資産・負債を簿価(帳簿価額)のまま承継会社へ引き継ぐことができます。
その最大のメリットは課税の繰り延べです。通常、会社が資産を移転すると時価評価され、簿価との差額(含み益)に法人税が課税されます。しかし適格分割では、その課税が将来に繰り延べられます。要件を満たさない非適格分割であれば、たとえ同じグループ内での再編であっても容赦なく課税されます。
これが原則です。
| 区分 | 資産の移転評価 | 課税の有無 |
|---|---|---|
| ✅ 適格分割 | 簿価(帳簿価額) | 課税繰り延べ(当時は非課税) |
| ❌ 非適格分割 | 時価 | 含み益に法人税が課税 |
ここで注意したいのは「課税が免除されるわけではない」という点です。あくまで将来へ繰り延べられるだけで、資産を売却するタイミングで最終的な課税は発生します。それでも事業再編のタイミングで多額のキャッシュアウトを避けられるメリットは非常に大きく、実務上は適格分割を目指すのが基本となります。
会社分割には大きく分けて4つのパターンがあります。
どのパターンを選ぶかによって要件の内容が細かく変わるため、フローチャートで整理して判断することが実務上の基本的なアプローチとなります。
以下に紹介するリンクでは、国税庁が公表している無対価分割の適格判定の考え方が整理されており、実務の参考になります。
国税庁による無対価分割の適格要件の考え方(官庁の一次資料として参照)。
分割対価資産がない分割型分割に係る適格判定 – 国税庁
フローチャートの出発点は「分割法人と分割承継法人の支配関係はどれか?」という問いです。この答えによって必要な要件の数がまったく変わります。
【STEP1】支配関係の確認
まず両社の資本関係を確認します。
完全支配関係の場合が最もシンプルです。つまり要件が2つだけです。
【STEP2-A】完全支配関係(100%)の場合の要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①金銭等不交付要件 | 分割対価は分割承継法人の株式のみ(現金・資産等は不可) |
| ②継続保有要件 | 分割前後を通じて完全支配関係の継続が見込まれること |
2要件で足ります。シンプルに見えますが、継続保有に落とし穴があります。たとえばM&Aの直前に事業を切り出し、新設した子会社株式を第三者に売却する場合、「継続保有が見込まれていない」として非適格になります。
【STEP2-B】支配関係あり(50%超)の場合の要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①金銭等不交付要件 | 対価は株式のみ |
| ②継続保有要件 | 分割前後を通じて支配関係が継続する見込み |
| ③従業者引継要件 | 分割事業の従業者の概ね80%以上が承継法人に従事する見込み |
| ④事業継続要件 | 分割事業が承継法人において引き続き営まれる見込み |
| ⑤主要資産負債引継要件 | 分割事業に係る主要な資産・負債が承継法人に移転すること |
従業者引継要件の「80%以上」は「概ね」という表現が含まれており、日雇い形態の従業員は数に含めないことが認められています。従業者の定義を正確に押さえる必要があります。
【STEP2-C】共同事業(支配関係なし)の場合の要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①金銭等不交付要件 | 対価は株式のみ |
| ②継続保有要件 | 交付される株式を分割法人が継続保有する見込み |
| ③従業者引継要件 | 概ね80%以上の従業者が承継法人に従事する見込み |
| ④事業継続要件 | 分割事業が承継法人において継続される見込み |
| ⑤主要資産負債引継要件 | 主要な資産・負債が移転すること |
| ⑥事業関連性要件 | 分割事業と承継法人の事業が相互に関連していること |
| ⑦選択要件(いずれか一方) | 同等規模要件(5倍以内)または双方経営参画要件 |
共同事業パターンは要件が最も多く、1つでも欠けると即非適格です。厳しいところですね。
特に⑦の選択要件について補足します。「同等規模要件」は分割事業と承継法人の関連事業の売上高または従業者数の差が概ね5倍を超えないことです。「双方経営参画要件」は分割法人・承継法人双方の役員がそれぞれ1名以上、分割後の承継法人の特定役員(社長・副社長・常務取締役等)になることが見込まれることです。どちらかを満たせばOKです。
以下は実務上の参考になる要件解説ページです。
各要件の詳細と具体的な当てはめ例が整理されたサイト。
適格分割の要件(分社型吸収分割)詳細解説 – masterz.jp
継続保有要件は要件の中でも特に見落としが多い項目です。一見シンプルな要件に見えて、実務ではトラブルが頻発します。
まず、継続保有要件の内容を支配関係のパターン別に整理すると以下のようになります。
注目すべきは「見込まれていること」という表現です。実務上の解釈では、分割実行後に株式を売却した場合であっても、分割時点で「継続保有が見込まれていた」かどうかによって遡及的に判断されます。
これは重要なポイントです。
たとえば、グループ内で分割を行い、その後にM&Aによって株式を第三者へ売却したとします。このとき、分割時点ですでにM&Aの交渉が進んでいた場合は「継続保有が見込まれていなかった」と判断され、適格要件を満たさないとされるリスクが生じます。
一方、単独新設分割(新設分割型で既存の支配株主がいないパターン)では、分割前の要件は充足しているとみなされる特例があります。分割後の継続保有が見込まれることだけを確認すればよい、というのは意外な点かもしれません。
また分割型分割の場合、支配株主に交付される株式の全部が継続保有される見込みが必要ですが、支配株主がいない場合はそもそもこの要件が不要になります。
実務上の落とし穴として次のケースが挙げられます。
継続保有要件は後から遡及的に問題になるケースがあるため、分割実施前に専門家に確認することが合理的です。
要件の落とし穴についての解説(実務で頻発するリスクのポイント)。
組織再編税制の適格要件とは:判断のポイントをわかりやすく解説 – 辻・本郷税理士法人
「従業者の概ね80%以上を引き継ぐ」という要件は、一見明確に見えますが、実務では「誰を従業者と数えるか」という判断が難しいケースがあります。
まず「従業者」の定義を確認します。国税庁の解釈では、分割の直前に分割事業に「現に従事する」役員・使用人その他の者が対象です。
以下の点が特にポイントになります。
80%の計算例を示すと、分割直前に対象事業に従事する従業者が100名であれば、80名以上が分割後も承継法人の業務に従事することが見込まれれば要件を充足します。90名が引き継がれれば90%で問題なし、70名では70%で要件未達です。
ここで「見込まれること」という条件が重要です。実際に分割後に何名が従事したかではなく、分割時点でどの程度が従事することが見込まれていたかで判断されます。
「概ね80%」の「概ね」についても一定の弾力的解釈があります。たとえば79%や78%のケースが常に非適格とはならず、分割の経緯や従業員の移動理由なども勘案されることがあります。とはいえ、安全を見るなら80%ちょうどではなく85〜90%程度を確保しておくのが実務上の安全策です。
また、分割の直前に人員を整理するケースも注意が必要です。分割の直前に大量退職や解雇があった場合、意図的に分母(従業者数)を操作しているとみなされるリスクがあります。
つまり従業者引継要件は単なる数字の確認ではなく、実態の確認が必要です。
2017年(平成29年)の税制改正で、それまでは非適格とされていた「スピンオフ型」の会社分割に対して、新たな適格要件が設けられました。この改正は企業の選択と集中を税制面から後押しするためのものです。
スピンオフ分割とは、自社の事業を切り離して独立した新会社に移行させる手法で、分割後の新設会社株式が分割会社の株主に直接交付されます(分割型・新設分割)。典型的には上場企業が中核事業に集中するために非中核事業を切り離す場面で使われます。
スピンオフ適格要件を整理すると以下のようになります。
| 要件名 | 内容 |
|---|---|
| ①新設要件 | 分割法人の事業を新たに設立する法人が独立して行うための分割であること |
| ②金銭等不交付要件 | 対価は分割承継法人(新設法人)の株式のみ |
| ③案分型要件 | 対価が分割法人の株主の株式数割合に応じて交付されること |
| ④継続非支配要件 | 分割前に分割法人が他の者に支配されておらず、分割後も承継法人が継続支配されないことが見込まれること |
| ⑤事業移転要件 | 主要な資産・負債が移転し、従業者の概ね80%以上が承継法人に従事する見込み |
| ⑥事業継続要件 | 分割事業が承継法人において引き続き営まれる見込み |
| ⑦中枢継続要件 | 分割法人の役員または重要な使用人が承継法人の特定役員になる見込み(1名でもOK) |
スピンオフの特徴は④「継続非支配要件」です。通常の適格分割では「支配関係の継続」が求められますが、スピンオフでは逆に「特定の者に支配されないこと」が求められます。
そのため、スピンオフ適格要件は上場企業のような支配株主が存在しない会社を想定しています。分割後に誰かが新設会社の株式を50%超取得するなど支配関係が生まれてしまうと、この要件を満たさなくなります。
もう一つ注目すべき点は⑦「中枢継続要件」です。共同事業の「双方経営参画要件」とは異なり、スピンオフでは分割法人側の役員または重要な使用人が1名でも特定役員として就任すれば足ります。
平成30年度の改正では、株式分配型の吸収分割でもスピンオフの適格要件が認められるよう範囲が拡大されています。これによって、事前に完全子会社に事業や許認可を移しておいてから切り離すという実務的なスキームも適格と認められることになりました。
スピンオフ分割の適格要件の詳細(税制改正の経緯も含めた詳細解説)。
適格分割の範囲等の見直し(スピンオフ)– 山田&パートナーズ
要件を1つでも満たせなかった場合、分割は非適格分割として扱われます。非適格分割になると何が起きるかを具体的に確認しておくことが重要です。
非適格分割の課税影響
非適格分割では移転資産が時価評価されます。簿価1億円の不動産の含み益が3億円あれば、その差額2億円に対して法人税(実効税率約30%として約6,000万円)が課税されます。
痛いですね。
分割型分割で非適格となった場合はさらに問題が重なります。分割法人の株主に対して「みなし配当」課税が生じる可能性があるためです。承継法人から交付される株式の額が、分割法人が譲渡した資本金等の額を超える部分はみなし配当として課税されます。法人株主であれば受取配当の益金不算入が適用される場合もありますが、個人株主であれば所得税(最高税率55%)の対象になるケースもあります。
実務でよくある失敗パターン
実務上で非適格になってしまう代表的なケースは次の通りです。
実務的な対処法
これらのリスクを回避するには設計段階での専門家の関与が最も効果的です。特に以下のタイミングでの確認が重要になります。
また、国税庁に対して「事前照会」を行う方法もあります。特定の取引が適格要件を満たすかどうかを事前に確認できる制度で、実務上の安全弁として活用されています。公表裁決事例を確認すると、判断が分かれやすい「事業関連性要件」や「経済合理性要件」についての解釈が参考になります。
以下は組織再編税制に関する国税庁の通達・情報整理ページで、一次資料として参照価値が高いです。
国税庁による法人税・組織再編成の取扱いに関する質疑応答。
会社分割に係る事業関連性の判断事例 – 国税庁