

事業譲渡を選んだだけで、消費税が1,000万円単位で余分にかかることがあります。
吸収分割とは、自社が保有する特定の事業の権利義務を、他の既存企業(承継会社)に包括的に引き継がせるM&Aの手法です。会社法第2条第29号に定められており、分割元となる「分割会社」は解散せずに存続したまま、事業の一部または全部だけを移転できます。グループ内の事業再編から、外部企業への事業売却まで、幅広い場面で活用されます。
事業譲渡は、会社が保有する事業の全部または一部を、他社に売却する取引です。対象となるのは不動産・設備・債権・債務・顧客情報・ブランド・人材・ノウハウなど、有形・無形を問いません。売り手と買い手が交渉によって譲渡範囲を決定し、契約を締結します。
つまり「事業の移転」という目的は同じです。しかし、その手段と法的性格がまったく異なります。吸収分割は「組織再編行為」として法律上扱われ、権利義務が包括的に移転する「包括承継」です。一方、事業譲渡は「売買取引」として扱われ、移転する権利義務を一件ずつ選んで移す「個別承継」になります。
この根本的な違いが、税金・手続き・リスク・従業員の扱いまで、あらゆる面での差を生み出しています。それが基本です。
以下の比較表で、主な違いを一覧で確認してみましょう。
| 項目 | 吸収分割 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 法的性格 | 組織再編行為(包括承継) | 売買取引(個別承継) |
| 対価の種類 | 株式・金銭どちらも可 | 原則として現金 |
| 消費税 | 原則として非課税 | 課税資産に10%課税 |
| 法人税 | 適格要件を満たせば繰り延べ | 原則、譲渡益に課税 |
| 簿外債務の引き継ぎ | リスクあり(包括承継のため) | リスクなし(個別選択可) |
| 雇用の承継 | 労働契約承継法に基づき自動承継 | 従業員の個別同意が必要 |
| 許認可の引き継ぎ | 一定条件で承継可能 | 原則として再取得が必要 |
| 競業避止義務 | 原則として発生しない | 会社法上20年間発生 |
| 債権者保護手続き | 必要 | 不要 |
| 手続きにかかる期間 | 最短3ヶ月程度 | 比較的短期間で可能 |
参考:吸収分割と事業譲渡の詳細な比較表(会社法の根拠条文も掲載)
吸収分割と事業譲渡の違いとは?メリット・デメリットを一覧表で解説 – ジョブカンM&A
吸収分割と事業譲渡の違いを語る上で、税務面の差は最も重要な判断軸のひとつです。見落とすと、数百万〜数千万円単位の税負担の差につながります。
吸収分割は「組織再編行為」として扱われ、売買取引ではないため、原則として消費税は課税されません。さらに、一定の適格要件(グループ会社間で金銭交付がないこと、従業員の80%以上が移転見込みであること等)を満たす「適格分割」として認定されれば、資産・負債を帳簿価額(簿価)のまま引き継げるため、譲渡損益が発生せず、法人税の課税も繰り延べることができます。登録免許税は一律3万円(資本金が増加する場合は総資本額×0.7%)、不動産取得税も軽減措置の対象となります。
対して事業譲渡は「売買取引」として扱われ、建物・機械装置・器具備品・棚卸資産・特許権・商標権・のれんなどの課税資産に対して、消費税率10%が課されます。課税資産の合計額が1億円の案件であれば、消費税だけで1,000万円の負担が発生します。コンビニ3〜4店舗分の売上に匹敵する金額です。痛いですね。
また、事業譲渡では売り手側に譲渡益が生じた場合、法人税の課税対象にもなります。登録免許税・不動産取得税の軽減措置も対象外です。
ただし、事業譲渡にも税務上のメリットがあります。買い手はのれんを計上でき、のれんを15年間で償却することで節税効果を長期的に享受できる点です。売り手側から見れば税負担が重く、買い手側から見れば長期的な節税効果が得られるという、双方の立場で異なる税務上の特徴があります。
適格分割かどうかは条件が複雑です。税務の違いが財務諸表に与える影響は大きいため、スキームを選択する前に必ず顧問税理士・会計士に確認することが必要です。
参考:事業譲渡における消費税の計算方法と課税資産の具体的な分類
事業譲渡における消費税とは?計算方法や課税資産を解説 – M&A CP
M&Aの実務において、従業員と許認可の扱いは手続きコストと時間に直結するため、スキーム選択の大きな判断材料になります。
従業員の雇用という点では、両者の扱いは根本的に異なります。吸収分割は包括承継であるため、労働契約は原則として自動的に承継会社に引き継がれます。労働契約承継法に基づく手続きとして、従業員への個別通知・説明は必要ですが、移転のために各従業員から個別の同意を取得する必要はありません。数十人・数百人規模の従業員を抱える事業を移転する場合でも、手続き負担が格段に少なくて済みます。
一方、事業譲渡では従業員一人ひとりから個別同意を取得することが必要です。もし同意を得られなかった場合、その従業員の雇用は移転されません。キーパーソンが同意しないケースは、実務上のリスクとして決して小さくありません。
許認可についても差があります。吸収分割では、多くの許認可は所定の期間内に届出を提出すれば承継手続きが完了します。ただし、一部の業種(例:建設業、医療、金融・保険分野など)では許認可の再申請・再取得が必要なケースがあり、注意が必要です。これは要確認です。
事業譲渡の場合は原則として許認可を引き継げないため、許認可の再取得を新たに行う必要があります。監督官庁への申請から取得までに一定の期間がかかるため、事業開始予定日から逆算して早めに動くことが鉄則です。業種によっては取得に数ヶ月を要する場合もあり、M&Aのクロージングスケジュール全体に影響を与えることもあります。
従業員規模が大きく、許認可を多数保有する事業ほど、吸収分割の手続き優位性が際立ちます。逆に、少人数で許認可がシンプルな事業であれば、事業譲渡でも手続き上の負担はそれほど大きくなりません。
参考:労働契約承継法に基づく従業員への通知義務と手続きの詳細
会社分割と事業譲渡の違いは?メリットやデメリットから選び方も解説 – M&A総合研究所
吸収分割と事業譲渡にはそれぞれ、見落とされがちながら実務上のインパクトが大きいリスクが存在します。事前に理解しておかないと、取引完了後に深刻な問題に発展する可能性があります。
吸収分割の最大のリスクは「簿外債務・偶発債務の包括承継」です。吸収分割は包括承継であるため、対象事業に関連するすべての資産と負債が自動的に移転します。これには、帳簿に記載されていない「簿外債務」(例:未払いの残業代、退職給付債務)や、将来発生しうる「偶発債務」(例:係争中の訴訟リスク)も含まれます。デューデリジェンス(買収監査)では発見しきれなかった負債が、承継後に発覚するケースは珍しくありません。
対策として有効なのは、吸収分割契約書への「表明保証条項」と「補償条項」の盛り込みです。これにより、売り手に対して対象事業に隠れた債務がないことを法的に保証させ、もし後日判明した場合には損害賠償を請求できる根拠とします。買い手保護として不可欠です。
一方、事業譲渡では「競業避止義務」という見落とされやすいリスクがあります。会社法第21条の規定により、事業譲渡を行った売り手企業は、特段の意思表示がない限り、譲渡した事業と同一の市町村およびその隣接市町村内において、20年間にわたって同一の事業を行うことが原則として禁止されます。これは法律上の強制です。
実務上は特約によって期間を5〜10年に短縮するケースが多いですが、もし交渉で取り決めがなかった場合、20年という長期間にわたって事業展開の自由を制約されることになります。売却した事業のノウハウを活かして新たなビジネスを立ち上げようとした場合に、この制約がボトルネックになる可能性があります。ここは注意が必要です。
吸収分割には競業避止義務規定は適用されない点も、知っておくと得する情報です。グループ内再編や、売却後も関連事業を続ける予定がある場合には、この差が大きな意味を持ちます。
参考:競業避止義務の法的根拠(会社法第21条)と実務上の期間・範囲の詳細
M&Aにおける競業避止義務とは?法的規定と実務上のポイント – M&A CP
吸収分割か事業譲渡かという選択は、「どちらが優れているか」ではなく、「自社の目的・状況に何が合うか」で決まります。一般的な解説ではあまり触れられない視点も含め、判断の実践的なポイントを整理します。
まず「現金があるかどうか」です。事業譲渡の対価は原則として現金です。一方、吸収分割では対価として株式を交付できます。まとまった現金を用意できない買い手企業にとっては、株式対価の吸収分割の方が現実的な選択肢になります。キャッシュフローを温存しながら事業を取得できる点は大きなメリットです。
次に「売り手の税負担を重視するなら吸収分割」という視点です。消費税が非課税で、適格要件を満たせば法人税も繰り延べられる吸収分割は、特に大規模な事業移転においてトータルの税負担を大幅に圧縮できます。課税資産が数億円規模になるケースでは、選択するスキームによって税負担の差が数千万円に及ぶこともあります。
一方、「不明確なリスクを排除したい買い手」には事業譲渡が向きます。個別承継であるため、引き継ぐ資産・負債を選択でき、簿外債務を引き継ぐリスクを構造的に回避できます。対象事業の財務状況に不透明な部分が多い場合には、事業譲渡の方が安全策といえます。これが原則です。
「グループ内再編や組織整理」が目的であれば、吸収分割一択に近いです。そもそも対価の授受を省略できるケースもあり、手続きもシンプルに進められます。また、吸収分割には競業避止義務が発生しないため、売却後も隣接する事業を継続したい場合に有利です。
「売却後も同分野でビジネスを続けたい売り手」は、事業譲渡を選ぶ際に競業避止義務の特約交渉を必ず行いましょう。法定の20年間は、現実のビジネス環境では非常に長い制約です。M&Aアドバイザーや弁護士と事前にすり合わせることで、期間の短縮や対象範囲の限定が可能です。専門家への相談が条件です。
どちらのスキームを選ぶにしても、税務・法務の専門家による事前のデューデリジェンスと契約書への適切な条項設定が、リスク管理の要になります。M&A仲介会社や税理士法人への相談を、検討の早い段階で行うことを強くおすすめします。
参考:吸収分割・事業譲渡それぞれの選択基準と実務上の使い分け方
事業譲渡と会社分割の違いを比較!メリット・デメリットや税務 – fundbook

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