

新設分割を選んでも、吸収分割を選んでも、分割会社側の登録免許税は一律3万円しかかかりません。
会社分割とは、ある会社が営んでいる事業の権利義務の全部または一部を、別の会社に包括的に承継させるM&Aスキームです。事業を動かすために必要な資産・負債・契約・従業員との雇用関係が、まとめて移転先に引き継がれます。これを「包括承継」と呼び、契約ごとに個別の同意が必要な事業譲渡とは根本的に異なります。
会社分割は大きく2種類に分かれます。ひとつが「新設分割」、もうひとつが「吸収分割」です。この2つの最大の違いは、事業の受け皿となる会社が「新しく設立する会社か」、それとも「すでに存在する既存の会社か」という一点にあります。
新設分割は、会社法第2条30号に定義された手法で、1社または複数社が、事業に関する権利義務の全部または一部を「分割により設立する新たな会社」に承継させます。分割後は分割会社(元の会社)と新設会社の2社が並存する形になります。
吸収分割は、同法第2条29号に定義され、事業の権利義務を「既存の他の法人」に承継させます。承継先はすでに経営実態・株主・取引先を持つ会社であるため、スピード感が異なります。
どちらも「包括承継」である点は共通です。つまり、個々の資産を売買するわけではなく、事業に関連する権利・義務が一括して移転します。
実務上、吸収分割が選ばれるケースが圧倒的に多いとされています。既存会社のインフラや信用力をそのまま活用できるため、事業継続性が確保しやすいからです。一方、新設分割は持株会社化やグループ内の分社化を目的とした場面でよく活用されます。
| 項目 | 新設分割 | 吸収分割 |
|---|---|---|
| 承継先 | 新たに設立する会社 | 既存の会社 |
| 手続きの根拠書類 | 新設分割計画書 | 吸収分割契約書 |
| 効力発生日 | 登記申請日(設立日) | 契約で定めた日 |
| 承継先の株主 | 分割後に初めて発生 | 既存株主がいる |
対価の受取先によって、さらに「分社型」と「分割型」に分類できます。分社型は分割会社自身が対価(新設・承継会社の株式)を受け取る形で、完全子会社化を目的とした持株会社スキームでよく使われます。分割型は分割会社の株主が対価を受け取る形です。ただし、分割型は2006年の会社法改正で直接規定がなくなり、現在は「分社型分割+剰余金の配当(現物配当)」の2段階手続きで同等の効果を得るのが実務上の標準です。
これが基本です。
参考:会社分割の種類・スキームを詳しく解説(日本M&Aセンター)
https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2022/x20220330/
2つの手法の違いは、承継先の新旧だけにとどまりません。対価の種類・手続きの複雑さ・効力発生のタイミングなど、実務に直結する点で大きな差があります。
まず対価の種類についてです。吸収分割では、承継会社の株式・社債・新株予約権のほか、金銭を対価として交付することも可能です。これは実務上、M&Aで第三者に対して吸収分割を用いる際に重要な選択肢となります。一方、新設分割では原則として対価は「新設会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債」に限られており、金銭のみを対価にすることはできません。金銭対価が使えるかどうかは、スキーム設計に大きく影響します。
次に手続きの根拠書類の違いです。新設分割では承継先の会社がまだ存在しないため、分割会社が単独で「新設分割計画書」を作成します。吸収分割は分割会社と承継会社の2社間で「吸収分割契約書」を締結します。そのため吸収分割では双方の合意形成に時間がかかる半面、承継先の経営実態が確認できるという安心感があります。
スケジュールにも違いがあります。新設分割は承継先会社との契約締結が事実上不要なぶん、全体の手続きが短縮されるケースもあります。対して吸収分割は、承継会社と分割会社の双方が各種手続き(株主総会・債権者保護手続き・事前・事後開示書類の備置など)を並行して進める必要があり、少なくとも1か月半〜2か月はかかるのが一般的です。
効力発生日も異なります。新設分割の効力は「新設会社の設立登記申請日」に発生します。一方、吸収分割の効力は「吸収分割契約で定めた日」に発生するため、当事者間で日程調整が柔軟にできます。この差は、許認可の取得タイミングや従業員の処遇を決める際にも影響します。
| 比較項目 | 新設分割 | 吸収分割 |
|---|---|---|
| 対価の種類 | 株式・社債・新株予約権のみ | 株式・社債・新株予約権+金銭も可 |
| 根拠書類 | 新設分割計画書(単独) | 吸収分割契約書(2社間) |
| 効力発生日 | 設立登記申請日 | 契約で定めた日(柔軟) |
| 手続き期間の目安 | 比較的短い(数週間〜) | 1.5〜2か月以上 |
| 株主総会 | 分割会社のみ | 分割会社・承継会社の双方 |
費用面では、登録免許税を確認しておく必要があります。分割会社が支払う登録免許税は、新設分割でも吸収分割でも一律3万円です。承継側(新設会社・承継会社)については、資本金が増加した場合に「増加した資本金の額×0.7%」が課され、最低額は3万円となります。たとえば承継会社の資本金が1億円増加した場合、承継会社側の登録免許税は70万円になります。
費用は想定外に膨らむこともあります。
官報公告費(約3,600円〜37,000円程度)や、弁護士・司法書士・M&Aアドバイザーへの依頼費も発生します。特に中規模以上の会社分割では専門家費用が数十万円以上になるケースも多く、事前の費用試算が欠かせません。
参考:会社分割の登記方法と費用(ファンドブック)
https://fundbook.co.jp/column/understanding-ma/company-split-register/
会社分割を検討する上で、税務は最も重要な論点のひとつです。適格か非適格かによって、法人税の負担が天と地ほど変わります。
会社分割には「適格分割」と「非適格分割」の2つの区分があります。適格分割に該当すると、移転する資産・負債を簿価のまま引き継ぐことができます。含み益があっても課税が発生しないため、グループ内の組織再編では税負担を大幅に圧縮できます。
非適格分割になると、移転する資産・負債を時価で評価し直す必要があります。含み益がある資産には法人税が課されるため、たとえば含み益が5,000万円ある不動産を移転すると、法人税等(実効税率約30%)として約1,500万円の税負担が発生する計算になります。つまり適格か非適格かの違いは、直接的な出費に換算されるリスクがあります。
適格分割の判定は複雑です。ポイントは主に「支配関係の有無」です。
- 100%支配関係がある場合(完全支配関係):完全支配グループ内であれば、共同事業性の要件なしに適格分割と認められます。
- 50%超100%未満の支配関係がある場合:移転する事業の継続性・従業者の80%以上の引継ぎ・事業規模の比率(5倍以内)などの要件を満たす必要があります。
- 支配関係がない場合(共同事業再編):事業関連性・規模比・従業者の80%引継ぎ・主要資産の移転・特定役員の引継ぎなど、多くの要件をすべて満たす必要があります。
適格要件が条件です。
新設分割と吸収分割で適格要件の構造に本質的な違いはありませんが、実務では承継先が新設会社か既存会社かによって、特定の要件の確認先が変わります。新設会社の場合は設立後の事業継続性を事前に計画書に明示する必要があるのに対し、吸収分割では既存会社の事業実態・財務状況を精査した上で要件充足を判断できます。
なお、分割型分割(株主が対価を受け取る形)の場合は、適格判定がさらに複雑になります。2006年の会社法改正後は「分社型分割+剰余金の現物配当」の2段階処理になるため、税務上の適格判定も2つの取引を通じて行われます。この点は、税理士・公認会計士への事前相談が必須といえます。
参考:国税庁「分割対価資産がない分割型分割に係る適格判定について」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/29.htm
どちらの手法を選ぶかは、目的と状況によって判断が変わります。それぞれのメリット・デメリットを整理した上で、選択基準を理解しておきましょう。
🔷 新設分割のメリット
新設分割の最大のメリットは、事業を完全に切り出して独立した子会社を一から作れる点です。分割会社が新設会社の全株式を保有する「分社型新設分割」を活用することで、持株会社(ホールディングス)体制への移行が可能になります。複数の事業を抱える企業が各事業を子会社化して経営をスリム化したい場合、または倒産リスクを分散したい場合に有効です。
また、包括承継である点も大きな強みです。事業に関連する資産・負債・契約・雇用関係がまとめて移転するため、個別の取引先に対して再契約の同意を取る必要がありません。事業規模が大きいほど、このメリットは際立ちます。
さらに消費税の観点では、会社分割は「資産の売買」ではなく「組織再編行為」と扱われるため、原則として消費税が課税されない点も魅力です。
🔷 新設分割のデメリット
一方で、新設会社は設立直後は市場での認知度がゼロです。既存の取引先や顧客基盤を一部失うリスクもあります。特に個人との取引が多いBtoC業種では、ブランド認知の再構築に時間とコストがかかります。
また、許認可の問題も無視できません。会社分割では原則として許認可も承継されますが、業種によっては自動承継されないものがあります。宅地建物取引業の場合、新設分割後に新会社で許認可を再取得する必要があります。建設業については令和2年10月の建設業法改正により、事前認可を受けることで空白期間なく承継できるようになりましたが、手続きが煩雑です。
🔷 吸収分割のメリット
吸収分割は、承継会社がすでに存在するため、許認可・取引先信用・インフラがそのまま使えます。第三者への事業売却スキームとしても使いやすく、金銭を対価に設定できる点も実務上の大きな差です。
手続き面でも、新設分割に比べて「承継先の信用力・財務状況」を事前に確認できるため、当事者間のリスク管理がしやすいという利点もあります。
🔷 吸収分割のデメリット
承継会社が上場企業で株式を対価として発行する場合、1株あたりの利益(EPS)が希薄化し、株価下落リスクがあります。また、承継会社には既存株主がいるため、分割後の株主構成が変化します。分割会社の株主が承継会社の株主にもなる場合(分割型吸収分割)は、ガバナンス上の課題が生じる可能性もあります。
手続きの負担は2社分です。
これらを踏まえた選択の基準は以下のとおりです。
- グループ内の分社化・持株会社化が目的 → 新設分割が適している
- 第三者への事業売却で現金対価を希望 → 吸収分割が適している
- スピード重視・既存インフラを活用したい → 吸収分割が向いている
- 将来の上場を見据えた子会社育成 → 新設分割が選ばれやすい
どちらの手法でも、会社法に基づいた一連の手続きが必要です。違いを理解することで、スケジュール管理のミスを防げます。
新設分割の主な手続きの流れ
①新設分割計画書の作成(取締役会承認を得る)
②事前開示書類の本店備置(効力発生後6か月まで)
③従業員への事前通知(労働契約承継法に基づく)
④反対株主への株式買取請求通知
⑤債権者保護手続き(官報公告・個別催告)
⑥株主総会での特別決議(3分の2以上の賛成が必要)
⑦登記申請(効力発生日=設立登記申請日)
⑧事後開示書類の備置
承継する資産が会社の総資産の5分の1以下であれば「簡易分割」として株主総会を省略できます。これは費用と時間の節約につながります。
吸収分割の主な手続きの流れ
①吸収分割契約書の作成・取締役会承認
②吸収分割契約の締結(分割会社・承継会社の2社間)
③事前開示書類の備置(双方の本店で)
④従業員への事前通知(分割会社のみ)
⑤反対株主への株式買取請求通知
⑥債権者保護手続き(双方で実施)
⑦株主総会での特別決議(双方で実施)
⑧登記申請(効力発生日から2週間以内)
⑨事後開示書類の備置(双方で6か月間)
新設分割と吸収分割の最大の手続き上の違いは、承継会社側の手続きが加わるかどうかです。吸収分割では分割会社・承継会社の双方が株主総会を開催し、事前・事後の開示書類も双方で備置する必要があります。そのため手続き全体のボリュームが増し、少なくとも1か月半〜2か月は見込む必要があります。
なお、新設分割では「計画書」という書類で手続きが進む一方、吸収分割では「契約書」を締結するという構造上の違いがあります。契約書には承継される資産・負債の詳細・対価の内容・効力発生日などを詳細に記載しなければならず、交渉と作成に相応の時間がかかります。
手続きに不備があると分割が無効になるリスクもあります。弁護士や司法書士など専門家のサポートを早期から確保しておくことが、スケジュール遅延の防止策として有効です。
参考:厚生労働省「労働契約承継法のポイント(簡略版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000477349.pdf
テキスト系の解説記事では「承継先が新設か既存か」という説明で終わることが多いですが、実際の案件では「許認可の空白リスク」「従業員の異議申し立て」「債権者保護手続きの範囲」という3点が、スキーム選択のキャスティングボートを握ります。
🔍 許認可の空白リスク
会社分割では原則として許認可が承継されると思われがちですが、業種によってはそうではありません。これは意外ですね。
宅地建物取引業(宅建業)については、新設分割の場合に自動承継が認められておらず、新設会社で改めて知事または大臣の許可を取り直す必要があります。建設業については令和2年10月の改正で事前認可制度が新設され、空白期間なく承継できるようになりましたが、事前認可申請のための準備期間が別途必要になります。
吸収分割の場合、承継会社が既存会社であるため、分割手続きと並行して許認可の申請が進められます。新設分割では新会社が存在しないため、設立後に申請することになり、許認可取得までの事業空白期間が生じる可能性があります。事業継続性を重視する業種では、この点だけで吸収分割を選択する合理的な理由になります。
🔍 従業員への対応:労働契約承継法の義務
会社分割では従業員への個別同意は不要ですが、代わりに労働契約承継法に基づく手続きが義務づけられています。分割計画・契約の内容や、どの従業員がどの会社に移るかを、労働組合または従業員代表に対して事前に協議・通知する義務があります。
従業員は異議を申し立てる権利を持っており、承継対象とされた従業員が異議を申し立てると、その従業員は分割会社に残留できる可能性があります。逆に、承継対象外とされた従業員が承継を希望する場合も異議申し立てができます。この手続きを怠ると、後に雇用トラブルや訴訟リスクに発展する可能性があります。
🔍 債権者保護手続きの範囲の違い
会社分割では、すべての債権者が債権者保護手続きの対象となるわけではありません。対象となるのは「分割によって不利益を被る可能性がある債権者」に限られます。
たとえば、分割会社が承継会社に対して連帯責任を負い続ける場合は、分割後も元の会社に請求できるため、その債権者は保護手続きの対象外です。逆に、債務が承継会社に完全移転する場合は、その債務の債権者が保護手続きの対象になります。
債権者保護手続きを怠ると、分割自体が無効になるリスクがあります。また、異議を申し立てた債権者には、弁済・担保の提供・弁済のための信託設定などの対応が求められます。手続きの範囲を事前に弁護士と確認してから進めることが不可欠です。
参考:国土交通省「建設業者の会社分割に係る建設業法上の事務取扱い」
https://www.mlit.go.jp/common/000005451.pdf