剰余金の配当の勘定科目と連結修正仕訳の全手順

剰余金の配当の勘定科目と連結修正仕訳の全手順

剰余金の配当の勘定科目と連結修正仕訳の完全ガイド

連結貸借対照表には「剰余金の配当」という勘定科目は存在せず、間違えると連結財務諸表が丸ごと狂います。


この記事の3つのポイント
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勘定科目の使い分け

個別財務諸表では「繰越利益剰余金」、連結修正では「利益剰余金」または「受取配当金」を使う。科目選びを誤ると連結精算表がずれる。

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親会社 vs 非支配株主への配当処理

親会社への配当は「相殺消去」、非支配株主への配当は「非支配株主持分への振替」という2段階の処理が必要になる。

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開始仕訳と翌期処理の注意点

連結修正仕訳は翌期に自動引き継ぎされないため、開始仕訳として毎期書き直す必要がある。「剰余金の配当」分の開始仕訳は不要というルールも重要。


剰余金の配当とは何か:連結会計の基礎と勘定科目の定義


剰余金の配当とは、株式会社が株主に対して剰余金を金銭で分配することです。会社法上で分配可能とされているのは「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の2種類に限られ、資本金や資本準備金、利益準備金は分配できません。これが原則です。


個別財務諸表の世界では、配当の決議が行われた時点で次のような仕訳を行います。






















借方科目 金額(例) 貸方科目 金額(例)
繰越利益剰余金 1,000,000円 未払配当金 1,000,000円
未払配当金 1,000,000円 現金預金 1,000,000円


ところが連結会計では、この仕訳がそのまま使えません。連結財務諸表の世界では、「剰余金の配当」という勘定科目は連結BS(貸借対照表)には存在せず、連結SS(株主資本等変動計算書)でのみ使われます。つまり連結BSで「剰余金の配当」を見たとすれば、それは処理ミスのサインです。


連結会計の視点は「親会社グループを1つの会社と見なす」ことに集約されます。グループ内のやり取りは「なかったこと」として消す必要があり、この作業が連結修正仕訳です。子会社が配当を行うと、親会社側では「受取配当金(収益増加)」が、子会社側では「利益剰余金(純資産減少)」が計上されます。グループ全体で見れば、外部に資金が出ていないケース(親会社への配当)があるため、これを消去しなければなりません。


利益剰余金が原資の場合と、その他資本剰余金が原資の場合でも処理が変わります。その他資本剰余金から配当する場合は借方に「その他資本剰余金」を使い、連結修正では「資本剰余金」が相手となります。実務ではこの科目の使い分けを誤るケースが少なくないので、確認が必要です。


参考:剰余金の種類・配当の仕訳方法を公認会計士が解説(マネーフォワード クラウド会計)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/45572/


剰余金の配当における連結修正仕訳の具体例:親会社への配当消去

実際の連結修正仕訳を数字で見ていきましょう。ここでは、P社(親会社)がS社(子会社)の株式を60%保有しているケースを例にします。



  • 📌 P社はS社を連結子会社として保有(持分比率60%)

  • 📌 S社が利益剰余金から配当300万円を実施

  • 📌 P社は配当の60%、つまり180万円を受取配当金として計上済み


この場合、個別財務諸表には以下の内容がすでに計上されています。



















会社 計上内容 金額
P社(親会社) 受取配当金(P/L)増加 +180万円
S社(子会社) 利益剰余金(S/S)減少 △300万円


グループ全体で見ると、P社への配当はグループ内の資金移動にすぎません。外部に出ていないお金を「収益計上」したままでは連結財務諸表が歪みます。そこで次の連結修正仕訳でこれを相殺します。
















借方科目 金額 貸方科目 金額
受取配当金 180万円 利益剰余金 180万円


貸方の「利益剰余金」について注意が必要です。これはS社の利益剰余金を増やしているように見えますが、実際には「個別FSで計上されたマイナスをゼロに戻す」操作です。相殺消去が目的なので、科目は「利益剰余金」を使います。連結BSに「剰余金の配当」という科目は使わない点が重要です。


連結修正仕訳を誤ると、連結P/Lの受取配当金が残ったままになり、連結利益が過大に見えてしまいます。これが「内部取引の消去漏れ」として指摘される典型ケースです。


参考:日商簿記2級向けに連結修正仕訳の流れを図解で解説(パブロフ簿記)
https://pboki.com/nisho2/ren/ren3.html


剰余金の配当における連結修正仕訳の具体例:非支配株主持分への振替

もう一方の処理、非支配株主(S社株式の40%を保有する外部の株主)への配当を見てみましょう。先ほどの例では、残り40%分の120万円が非支配株主への配当になります。


非支配株主への配当は、グループ外部への資金流出です。外部取引なので消去はできません。しかし、そのままでは科目が合わない問題が起きます。これが振替が必要な理由です。


個別FSでS社が計上しているのは「利益剰余金△120万円」です。しかし連結の考え方では、非支配株主への配当による減少は「利益剰余金のマイナス」ではなく「非支配株主持分のマイナス」で表すべきものです。非支配株主は連結グループの「外の株主」ではなく、連結SS上では持分という形で管理されているためです。


この処理を仕訳で示すと次のとおりになります。
















借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 120万円 利益剰余金 120万円


この仕訳の意味を整理すると、「S社の個別FSで減少した利益剰余金120万円を、連結SS上で非支配株主持分のマイナスに振り替える」処理です。利益剰余金から非支配株主持分への振替と覚えておけばOKです。


2つの修正仕訳を合体させると、最終的な連結修正仕訳はこうなります。





















借方科目 金額 貸方科目 金額
受取配当金 180万円 利益剰余金 300万円
非支配株主持分 120万円


なお、仮にP社がS社を100%保有している(完全子会社)場合、非支配株主持分は存在しないため、修正仕訳は「受取配当金 / 利益剰余金」の1本だけで完結します。持分比率によって仕訳の構造が変わる点は要注意です。


参考:子会社の配当金と連結修正仕訳を図解で徹底解説(会計ノーツ)
https://cpa-noborikawa.net/renketsu-8110/


開始仕訳と翌期の取扱い:剰余金の配当は開始仕訳に含めなくていい理由

連結修正仕訳には重要な特性があります。個別財務諸表と違い、連結修正仕訳は毎期ゼロからスタートするため、前期に書いた仕訳は翌期に自動では引き継がれません。これを補うのが「開始仕訳」です。


開始仕訳とは、前期までに行った連結修正仕訳を当期首に再度書く作業のことです。投資と資本の相殺消去や、のれん償却、非支配株主への利益帰属などはすべて開始仕訳として引き継ぐ必要があります。


ただし、剰余金の配当に関する連結修正仕訳は例外です。開始仕訳への組み込みは不要とされています。


その理由はシンプルです。親会社への配当の連結修正仕訳(受取配当金 / 利益剰余金)のうち、「受取配当金」は損益項目であり、翌期には「利益剰余金(期首残高)」として引き継がれます。一方で「利益剰余金」も同様に期首残高へ変換されます。つまり、借方・貸方ともに「利益剰余金(期首)」となって左右が相殺され、仕訳として意味をなさなくなります。結果として記載不要になるわけです。


非支配株主への配当の連結修正仕訳(非支配株主持分 / 利益剰余金)については、これが翌期の非支配株主持分(期首)と利益剰余金(期首)の残高に組み込まれ、最終的に一つにまとめられます。よって独立した開始仕訳の記載は不要となります。



  • ✅ 投資と資本の相殺消去:開始仕訳に含める(必要)

  • ✅ のれん償却:開始仕訳に含める(必要)

  • ✅ 非支配株主への利益帰属:開始仕訳に含める(必要)

  • ❌ 剰余金の配当の修正:開始仕訳には含めない(不要)


この「配当の修正仕訳だけは開始仕訳不要」というルールは、簿記2級の試験でも頻出かつ誤答率が高い箇所です。「なぜ不要なのか」を理解しておけば機械的な暗記に頼らずに済みます。


参考:連結決算の開始仕訳と翌期処理の詳細解説(マネーフォワード クラウド会計)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/81641/


資本剰余金を原資とする配当:連結処理と税務で見落としがちな注意点

剰余金の配当の原資が「利益剰余金」ではなく「その他資本剰余金」の場合、連結処理と税務処理の両面で別途注意が必要です。これは実務で見落とされやすいポイントの一つです。


会計基準上、資本剰余金と利益剰余金は混同して処理してはいけないと定められています。この原則は連結修正仕訳でも同様で、その他資本剰余金を原資とした配当の場合は、修正仕訳の科目も「資本剰余金」を使うことが求められます。


税務上のリスクはさらに深刻です。その他資本剰余金を原資とする配当は、税務上「みなし配当」と「みなし譲渡収入」の2つに区分されます。
























区分 税務上の扱い 源泉徴収
利益剰余金を原資とする配当 配当所得 20.315%(源泉徴収あり)
資本剰余金を原資とする配当(みなし配当部分) 配当所得(みなし配当) 20.315%(源泉徴収あり)
資本剰余金を原資とする配当(みなし譲渡部分) 譲渡所得(取得価額の調整が必要) 原則として源泉徴収なし


株式投資家の立場から言えば、資本剰余金を原資とする配当を受け取った場合は、その株式の「取得価額の修正」が税務上義務付けられています。取得価額が下がる処理が必要になるため、後の売却時に想定外の譲渡益課税が発生するリスクがあります。


また、連結ベースで利益剰余金が十分あっても、個別ベースでは利益剰余金が少ないために資本剰余金から配当を出さざるを得ないケースがあります。これは「連結配当」と「個別配当」の乖離として知られており、連結財務諸表の読み方では意識しておくべき視点です。


参考:その他資本剰余金の配当と会計・税務処理の詳細(マネーフォワード クラウド会計)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/59464/


投資家・経理担当が連結の配当処理を誤解しやすい独自視点:「利益剰余金が増える」謎を解く

連結修正仕訳を初めて学ぶ人が混乱するポイントがあります。「なぜ子会社が配当を出したのに、連結上の利益剰余金が増えるのか?」という疑問です。意外な謎ですね。


個別FSを見ると、S社で「利益剰余金△300万円」が計上されています。ところが連結修正仕訳を切ると、貸方に「利益剰余金 300万円」が来ます。一見すると、配当を出したのに利益剰余金が増えているように映ります。


これは誤解です。連結修正仕訳における「利益剰余金(貸方)」は「個別で減らしたマイナスをゼロに戻す操作」であり、利益剰余金を本当に増加させているわけではありません。合算後のS社の利益剰余金が「△300万円」になっているところへ、「+300万円」の修正を入れているだけです。差し引きゼロ、つまり「なかったことにする」処理です。


この構造を理解しないと、連結財務諸表の分析でも誤読が生じます。たとえば、連結BS上の利益剰余金が想定より大きかった場合、「配当消去による利益剰余金の見かけ上の回復」が影響している可能性を考慮する必要があります。財務分析の精度を上げるためには、こうした連結修正の影響を織り込んで数字を読む目が求められます。


もう一つ重要な視点として、連結利益剰余金の計算構造があります。連結BSの利益剰余金は「親会社の利益剰余金+(子会社の取得後増加利益剰余金×親会社持分比率)±連結調整項目」の形で決まります。子会社が支配獲得時に持っていた利益剰余金は投資と資本の相殺消去で消えるため、連結BSには反映されません。これも「連結上の利益剰余金が思ったより少ない」と感じる人が多い原因の一つです。



  • 💡 連結BS利益剰余金 ≠ 親会社利益剰余金+子会社利益剰余金の単純合算

  • 💡 支配獲得時の子会社利益剰余金は相殺消去で消える

  • 💡 取得後の子会社利益増加分のみ、持分比率に応じて連結に取り込まれる


この構造を頭に入れておくだけで、M&A後の連結財務諸表の読み方が大幅に変わります。投資対象の企業を分析する際、連結ベースの利益剰余金の推移を見るなら、のれんの償却や持分比率の変化も合わせて確認することをお勧めします。


参考:連結貸借対照表における利益剰余金の求め方(マネーフォワード クラウド会計)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/78044/




剰余金の資本組入―株式配当の本質について (1962年) (東大社会科学研究叢書〈第7〉)