
連結貸借対照表における利益剰余金は、親会社と子会社が蓄積してきた利益の合計額を表し、企業グループ全体の財務健全性を示す重要な指標となります。個別財務諸表とは異なり、連結会計では複数の会社を一つの経済的実体として捉えるため、特殊な計算処理が必要となります。
基本的な計算式は「前期の利益剰余金+当期利益−配当金」で求められますが、連結会計では支配獲得日の処理や非支配株主持分の区分など、より複雑な要素を考慮する必要があります。利益剰余金は純資産として貸借対照表に計上され、企業の内部留保を示すため、将来の投資や事業拡大の資金源として重要な意味を持ちます。
連結貸借対照表で利益剰余金を求めるには、まず親会社と子会社それぞれの利益剰余金を個別に算出する必要があります。親会社の利益剰余金は「繰越利益剰余金+当期の利益」で計算し、繰越利益剰余金は「(当期純利益+繰越利益)-配当額-利益準備金積立額+別途積立金」の計算式で求めます。
子会社の利益剰余金についても同様の方法で計算しますが、連結上重要なのは支配獲得日以降に増加した部分のみです。支配獲得日までの子会社利益剰余金は投資と資本の相殺消去により全額消去されるため、連結貸借対照表には計上されません。
参考)支配獲得時の子会社の利益剰余金が、連結B/Sに計上されない理…
実際の計算では、支配獲得後に子会社で増えた利益剰余金の額に子会社の保有割合を乗じた金額を、親会社の利益剰余金に合算することで連結利益剰余金を算出します。
支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金は、親会社の持分比率に応じて処理が分かれます。親会社に帰属する部分は連結利益剰余金として処理され、非支配株主に帰属する部分は非支配株主持分として区分されます。
参考)https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/2020/jp-consolidated-financial-statement-20141001.pdf
例えば、親会社が子会社の60%の株式を所有している場合、子会社が500の利益を計上すると、300が親会社に、200が非支配株主にそれぞれ帰属することになります。この処理により、連結財務諸表では親会社株主の視点から企業グループの財政状態が表示されます。
子会社が損失を計上した場合の処理も重要で、非支配株主持分がゼロになった後は、超過する損失を親会社の持分に負担させる特殊な処理が必要となります。
のれん償却は連結利益剰余金に直接的な影響を与える重要な要素です。子会社買収時に発生するのれん(企業価値の超過部分)は、一定期間で償却する必要があり、その償却額は連結貸借対照表の利益剰余金を減少させます。
会計上、のれんは20年以内の効果の及ぶ期間で定額法その他の合理的な方法により償却しますが、税務上は5年で償却する点に注意が必要です。過年度ののれん償却分については開始仕訳で利益剰余金当期首残高の調整として処理され、当期分は当期の費用として連結損益計算書に計上されます。
参考)支配獲得後2年目の開始仕訳~タイムテーブルから仕訳を導く方法…
のれん償却の計算ミスは連結利益剰余金の正確性に大きく影響するため、償却期間や金額を正確に管理し、継続的に確認することが重要です。
連結貸借対照表作成において、親会社と子会社間の内部取引は相殺消去が必要となります。売上・仕入の相殺、債権・債務の相殺、未実現利益の消去など、様々な内部取引が利益剰余金に影響を与えます。
特に子会社からの配当金については、親会社分は「自分から自分への配当」となるため完全に相殺消去し、非支配株主分は非支配株主持分からの減少として処理します。具体的には、親会社の受取配当金(収益)と子会社の剰余金の配当を相殺し、非支配株主分は非支配株主持分当期変動額として調整します。
参考)連結会計~子会社の配当
過年度の配当については開始仕訳で処理し、受取配当金は利益剰余金当期首残高に、剰余金の配当も利益剰余金当期首残高にまとめて調整することで、正確な連結利益剰余金を算出できます。