のれん償却の勘定科目と仕訳・税務上の処理を徹底解説

のれん償却の勘定科目と仕訳・税務上の処理を徹底解説

のれん償却の勘定科目と仕訳・税務処理の基本

のれん償却費が「販管費」に計上されると、あなたの会社の営業利益が直撃で減少します。


この記事でわかること
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のれんの勘定科目と計上区分

のれんは「無形固定資産」に分類され、償却時の費用科目は「のれん償却費(販売費及び一般管理費)」として処理します。

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会計と税務で異なる償却ルール

会計上は最長20年以内で自社設定できますが、税務上の「資産調整勘定」は5年(60ヶ月)強制均等償却と決められており、処理が全く異なります。

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IFRS・日本基準・税務の3本立て

適用する会計基準(日本基準・IFRS)やM&Aのスキーム(株式譲渡・事業譲渡)によって、のれんの会計処理は大きく変わります。


のれん償却の勘定科目とは?無形固定資産への計上の基本

「のれん」という言葉は、もともと店の入り口に下げる暖簾が由来です。お店の信用・格式・屋号を象徴するあの布が、転じて「企業のブランド力や信用力」を表す会計用語として使われるようになりました。


会計の世界では、のれんはM&A(合併・買収)の場面で登場します。買収価額が買収先企業の時価純資産を上回る場合、その差額が「のれん」として計上されます。たとえばA社が純資産1億円のB社を1億5,000万円で買収した場合、差額の5,000万円がのれんです。この5,000万円は、B社のブランド力・顧客基盤・技術ノウハウといった「帳簿に表れない価値」に対して支払われたものと考えます。


のれんの勘定科目は、貸借対照表上では「無形固定資産」の区分に表示されます。特許権やソフトウェアと同じグループに属する資産です。ただし、のれんは特許権などとは異なり単独で売買することはできず、常に事業と一体で取引される点に特徴があります。


M&Aの買収時の仕訳は以下のようになります。純資産1億円のB社を1億5,000万円で現金買収した場合の例です。






借方科目 金額 貸方科目 金額
諸資産(時価) 1億円 当座預金 1億5,000万円
のれん 5,000万円 諸負債(時価)


このように計上した「のれん」は、その後毎決算期に償却処理を行います。これが「のれん償却」です。


のれん償却時の費用科目は「のれん償却費」(または「のれん償却」)を用います。これが原則です。損益計算書上では「販売費及び一般管理費(販管費)」の区分に表示されます。直接法で処理するため、仕訳の貸方は「のれん」そのものを直接減額します。


償却額の計算は「のれん代 ÷ 償却年数」で求めます。5,000万円を10年で償却する場合、1年あたりの償却額は500万円です。これを毎期継続して計上します。


結論は「のれん(資産)→のれん償却費(販管費)」が基本の流れです。


参考:企業結合に関する会計基準(ASB)の原文でのれんの計上・償却方法を確認できます。


改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準委員会)


のれん償却の仕訳と償却期間の決め方・計算例

日本の会計基準(J-GAAP)では、のれんは「20年以内のその効果の及ぶ期間」にわたって、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却することが定められています。20年が上限なので、3年や5年などの短期償却も認められます。


しかし短期償却を選ぶと、1年あたりの「のれん償却費」が増え、販管費が膨らみます。これがそのまま営業利益を直撃します。営業利益とは企業の本業の稼ぎを示す数字ですから、銀行投資家に「本業が不振なのでは」と誤解される可能性があります。これは痛いですね。


一方、長期(たとえば20年)で償却すると、毎期の償却額は小さくなります。ただし、のれんの効果が本当に20年間継続するとは言い切れません。実務上は監査法人とも協議しながら、事業や業界の特性、M&Aの目的に照らした合理的な期間を設定するのが一般的です。


具体的な仕訳の例を見てみましょう。5,000万円ののれんを10年の定額法で償却する場合、決算時の仕訳は次の通りです。





借方科目 金額 貸方科目 金額 摘要
のれん償却費(販管費) 500万円 のれん 500万円 5,000万円を10年定額、1年目


この仕訳を10年間繰り返します。10年後には「のれん」の帳簿価額はゼロになります。


重要な点をもう一つ押さえておきましょう。のれんの償却期間は一度設定したら変更できません。最初の設定が後の財務諸表に長期にわたって影響を与え続けるため、期間の決定は慎重に行う必要があります。


なお、のれん償却費はキャッシュの実際の支出を伴わない「非資金費用」です。損益計算書では費用として計上されますが、現金が減るわけではありません。そのため、EBITDAやキャッシュフロー計算書との関係を理解しておくことが、財務分析の精度を高めるうえで重要になります。


のれんの金額が大きくなりがちな大規模M&Aでは、償却年数の設定が株価・資金調達力にまで波及します。これだけ覚えておけばOKです。


参考:のれん償却期間の決め方と実務上の注意点が詳しく解説されています。


のれんの償却期間は?5年・10年・20年などの決め方や変更方法も解説(マネーフォワード クラウド会計)


のれん償却の税務処理:「資産調整勘定」との違いと損金算入の条件

会計と税務では、のれんの扱い方が根本的に異なります。これを知らずにいると、法人税申告で誤りが生じる恐れがあります。


税務の世界では「のれん」という勘定科目は存在しません。税務上は「資産調整勘定」という科目が使われます。この資産調整勘定は、会計上のB/S(貸借対照表)には表示されないため、決算書だけを見ていると気づきにくい点に注意が必要です。


資産調整勘定が使われます、というのは原則です。ただし、これが認識されるのは事業譲渡や非適格分社型分割など、特定のM&Aスキームに限られます。最も注意すべき点は、株式譲渡では税務上ののれん(資産調整勘定)は発生しないという事実です。



さらに大きな違いが償却期間です。会計上は「20年以内」で自社が設定できるのに対し、資産調整勘定は60ヶ月(5年間)の月割均等償却が強制されます。自社で期間を設定する裁量はありません。


たとえば会計上は10年でのれんを償却していた場合、税務上は5年均等償却となります。この「ずれ」が生じる期間中は、毎期の申告書で調整作業(加減算)が必要になります。会計と税務の期間差異に気をつけることが条件です。


また、会計上ののれんの減損損失も、原則として税務上の損金に算入できません。減損損失は税務上は認められず、あくまで5年均等の資産調整勘定の償却分のみが損金扱いとなります。この点は多くの方が見落としやすい部分です。


参考:株式譲渡・事業譲渡でのれんの税務処理がどう変わるか、詳細に解説されています。


のれん&営業権償却が損金になる全パターン(古畑公認会計士事務所)


負ののれんの勘定科目と会計・税務処理の注意点

「負ののれん」は、M&Aで頻出するもう一つの重要概念です。意外ですね。通常ののれんと逆の動きをするため、混乱しやすいポイントです。


負ののれんとは、買収価額が買収先企業の時価純資産を下回る場合に発生する差額のことです。たとえば純資産2億円の会社を1億5,000万円で買収できた場合、5,000万円が「負ののれん」になります。割安で企業を取得できた場合に生じる「お得な差額」と考えることができます。


しかし、なぜそんなに安く買えるのかには理由があります。決算書に表れない多額の債務(簿外債務)を抱えていたり、訴訟リスク・業績の著しい悪化などが原因となることが多いです。見た目の安さに飛びつかず、デューデリジェンス(買収前調査)を徹底することが重要です。


負ののれんの勘定科目と処理を整理すると、次のようになります。



  • 📋 会計上(日本基準):貸借対照表には計上されない。発生した時点で「負ののれん発生益」として損益計算書の特別利益に一括計上する

  • 📋 税務上:「差額負債調整勘定」として処理。資産調整勘定と同様に60ヶ月(5年間)の均等償却で益金算入される

  • 📋 IFRS:特別利益・営業利益の区分がなく、発生時に純損益として計上


日本基準では特別利益への一括計上のため、発生した年度だけ純利益が大きく見えることがあります。この点は財務諸表を読む側が注意すべきポイントでもあります。銀行や投資家が決算書を見る際、この「一時的な利益の膨らみ」を正常な収益力と混同しないよう確認する必要があります。


また税務上、差額負債調整勘定は会計上の負ののれんの金額とイコールになるわけではなく、税務基準での時価評価をもとに計算されるため、両者に差が生じるケースがあります。申告書の作成時には税理士などの専門家との確認が不可欠です。


参考:負ののれんの発生原因から仕訳・税務処理まで体系的に解説されています。


負ののれんの発生原因から仕訳、会計処理など解説(マネーフォワード クラウド会計)


IFRSと日本基準の「のれん」の違い:非償却とその影響

日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)では、のれんの処理方法が根本的に異なります。この違いを理解することは、グローバル企業の財務諸表を読み解く上で非常に重要です。


日本基準は「のれんの価値は時間とともに減少する」という考え方をとり、最長20年での定期償却を義務付けています。一方、IFRSは「企業のブランド力や技術力は維持・向上する努力によって価値が増すこともある」という立場から、のれんを償却しない(非償却)と定めています。米国会計基準も同じくIFRSと同様に非償却です。


ただしIFRSでは、のれんを償却しない代わりに毎年1回の「減損テスト」が義務付けられています。日本基準が「減損の兆候があれば実施」するのとは異なり、兆候の有無に関わらず毎期実施が必須です。のれんの帳簿価額と将来の回収可能額を比較し、回収額が下回れば、その差額を減損損失(特別損失)として一括計上しなければなりません。


この違いは企業の財務数値に大きな差を生み出します。








項目 日本基準(J-GAAP) IFRS・米国基準
のれんの償却 最長20年以内で定期償却(必須) 非償却
減損テスト 兆候がある場合のみ実施 毎期1回義務(兆候なしでも)
利益への影響 毎期・定期的に営業利益を圧迫 通常時は影響なし、減損時に特別損失が突発的に発生
財務諸表の透明性 規則的・予測しやすい 減損の判断に恣意性が入りやすい


IFRSを採用する海外企業は償却費の負担がない分、同じ買収を行っても営業利益が日本基準採用企業より高く見えることがあります。これが国際的なM&A競争において、日本企業が不利になるのではないかという議論を生んでいます。


なお、2025年以降、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)でも「のれんの非償却化」についての議論が進んでいます。将来的に日本基準がIFRSに近づく可能性もあるため、今後の動向に注目が必要です。


参考:IFRSでのれんが非償却とされる理由と日本基準との詳細な差異を解説しています。


のれんの償却におけるIFRSと日本基準の差異(アビタス)


のれん減損との違いと財務分析での活用:投資家・金融担当者が押さえるべき視点

のれん償却と混同されやすい概念が「のれん減損」です。両者の違いを正確に理解することは、企業分析や投資判断において大きな差を生みます。


のれん償却は「計画的・規則的にのれんの価値を減らしていく」処理です。毎期定額の費用が計上されるため、将来の利益計画に組み込みやすく、予測可能性が高いという特徴があります。


一方、のれん減損は「M&Aで期待していた収益が見込めなくなり、のれんの価値が著しく低下した際に、帳簿価額を一度に大幅に引き下げる」処理です。買収した事業の業績が想定を大きく下回った場合や、期待していたシナジー効果が生まれなかった場合に発生します。減損損失は特別損失として計上されるため、純利益を突発的・大幅に押し下げます。株価への影響が大きいのはこちらです。


投資家や金融担当者が財務諸表でのれんを確認する際は、以下の視点が重要です。



  • 🔍 のれんの残高が総資産に占める割合:のれん残高が大きい企業ほど、将来の減損リスクが高い。残高が総資産の30〜40%を超えるような企業は注意信号です

  • 🔍 M&Aの規模とのれんの収益性:のれんに見合った売上・キャッシュフローが生み出されているかをチェック。損益計算書と合わせた多角的な分析が必要です

  • 🔍 IFRS採用企業の減損テスト結果:IFRSではのれんが簿価に滞留しやすいため、減損テストの前提(割引率・将来収益の見込み)を注視する必要があります


日本では中小企業を中心にM&Aによる業界再編が加速しています。のれんの規模が大きくなるにつれ、償却費の重さも増します。M&Aを検討する段階から「のれん償却が営業利益に何年間、いくら影響するか」を事業計画に組み込んでおくことが、財務的な失敗を防ぐ第一歩です。


以上を整理すると、のれん償却は「定期・規則的な費用計上」、のれん減損は「突発的・大幅な一括損失計上」という本質的な違いがあります。財務分析の現場では、この2つを分けて捉える習慣が精度を高めます。


参考:のれん減損の仕組みや株価への影響について詳しく解説されています。


M&Aの「のれん」とは?減損の意味や償却との違い、会計・税務上の扱い(M&A総合研究所)