適格合併の要件を国税庁基準で正しく理解する方法

適格合併の要件を国税庁基準で正しく理解する方法

適格合併の要件を国税庁の基準で正しく理解する

適格合併の要件をすべて満たしても、繰越欠損金を全額引き継げないことがあります。


この記事でわかること
📋
適格合併の3パターンと7つの要件

完全支配関係・支配関係・共同事業の3分類ごとに、充足すべき要件の組み合わせが異なります。どのパターンに該当するかで必要な準備が大きく変わります。

💰
繰越欠損金の引継ぎ制限と回避策

支配関係が5年未満だと繰越欠損金に引継ぎ制限がかかります。「みなし共同事業要件」を満たすことで制限を回避できる場合があります。

⚠️
追徴課税リスクと実際の判例

ヤフー・IDCF事件では約180億円の追徴課税が確定。要件を形式上満たしていても「租税回避目的」と判断されると否認されるリスクがあります。


適格合併とは何か:国税庁の定義と非適格合併との違い


適格合併とは、法人税法第2条第12号の8に基づき、一定の要件を満たすと認められた合併のことです。国税庁の解釈では、「経済的実態の継続性」と「事業の同一性」を核心的な判断基準としています。


通常の合併(非適格合併)では、被合併法人の資産・負債が時価評価によって引き継がれるため、含み益がある不動産や有価証券などに対して課税が即時発生します。一方、適格合併に該当すると、資産・負債を帳簿価額のまま引き継ぐことができます。これが原則です。


非適格合併との差は、含み益の大きな資産を持つ会社ほど顕著になります。たとえば、簿価1億円・時価3億円の不動産を保有する被合併法人を非適格合併で吸収した場合、差額の2億円が課税対象となりうる一方、適格合併であれば課税は繰り延べられます。税務上の違いは非常に大きいですね。


比較項目 適格合併 非適格合併
資産・負債の引継ぎ 帳簿価額で引き継ぐ 時価評価で引き継ぐ
合併時の課税 繰り延べ(原則非課税) 含み益に課税が発生
繰越欠損金 一定要件で引継ぎ可能 引継ぎ不可・消滅
手続きの難易度 要件充足の確認が必要 要件なし(税務上の優遇もなし)


ただし、一点見落とされがちなのが「非適格合併にもメリットがある場合がある」という点です。被合併法人に含み損がある資産が多い場合、非適格合併であれば損失を即時計上できるため、合併前の事業年度で利益が出ているケースではかえって有利になることもあります。意外ですね。


つまり、適格合併が常に最善ではないということです。会社の財務状況に合わせた判断が必要です。


以下の国税庁ページでは、適格合併に係る具体的な質疑応答事例が掲載されています。


国税庁 法人税法の組織再編・適格合併に関する質疑応答(合併法人と被合併法人の支配関係判定など)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/09.htm


適格合併の3つのパターンと国税庁が示す7つの要件一覧

適格合併は、合併する2法人の関係性に応じて3つのパターンに分類され、それぞれに必要な要件の数が異なります。国税庁の通達および法人税法施行令第4条の3に基づくと、以下のように整理されます。


要件 完全支配関係(100%) 支配関係(50%超) 共同事業
①金銭等不交付要件
②継続保有要件
③従業者引継要件
④事業継続要件
⑤事業関連性要件
⑥規模要件 or 経営参画要件 ✅(いずれか)


7つの要件それぞれの内容を把握しておくことが、適格合併への第一歩です。


①金銭等不交付要件は、合併対価として合併法人の株式以外の現金等が交付されないことを求めます。ただし例外があり、反対株主への買取代金や、端株の支払い、合併直前に合併法人が被合併法人株式の3分の2以上を保有する場合の少数株主への支払いは、この要件に抵触しません。これは例外です。


②継続保有要件は、合併前後で支配関係が継続することを求めます。完全支配関係のある合併では100%、支配関係のある合併では50%超の株式保有が継続して見込まれることが条件です。


③従業者引継要件は、被合併法人の合併直前の従業者のうち80%以上が、合併後も合併法人の業務に従事することが見込まれることを求めます。注意点として、日雇い形態の従業者は人数に含めないことができる一方、出向受入者は従業者に含まれます。


④事業継続要件は、被合併法人の合併前の主要な事業が、合併後も合併法人において引き続き営まれることを求めます。主要な事業が実態として継続されることが重要です。


⑤事業関連性要件は、被合併法人と合併法人の事業が相互に関連していることを求めます。同種事業はもちろん、商品・資産・役務・経営資源が同一または類似している場合や、合併後に一体活用が見込まれる場合も該当します。


⑥規模要件または経営参画要件は、いずれかを満たせば足ります。規模要件は、売上高・従業者数・資本金のうちいずれかの差が概ね5倍を超えないことです。経営参画要件は、合併法人と被合併法人それぞれの特定役員(社長・代表取締役・専務取締役・常務取締役等)が各1名以上、合併後の法人の特定役員となることが見込まれることです。


共同事業型が条件です。つまり支配関係のない企業同士の合併には、最大6つの要件をすべて充足する必要があります。


適格合併における繰越欠損金の引継ぎ制限と5年ルールの落とし穴

適格合併の要件を満たしていても、繰越欠損金の全額を引き継げるとは限りません。ここが最も誤解されやすいポイントです。


国税庁の規定(法人税法第57条第3項)によると、合併法人と被合併法人の間に「5年を超える支配関係がない場合」は、繰越欠損金の引継ぎに制限がかかります。5年の起算日は、適格合併が行われた事業年度の開始日です。


繰越欠損金を全額引き継げる条件は、以下の3つのいずれかを満たす場合です。


  • 📅 5年超の支配関係がある:合併事業年度の開始日時点で、支配関係が5年を超えていれば制限なしに全額引継ぎ可能。
  • 🔗 みなし共同事業要件を満たす:事業関連性・事業規模・規模継続・経営参画の各要件を満たすことで、制限なしとなる。
  • 💹 時価純資産超過額が繰越欠損金額以上:資産と負債の差から計算される含み益が、欠損金額以上であれば全額引継ぎ可。


みなし共同事業要件の中で特に注目すべきなのが「規模継続要件」です。支配関係が発生した時点と合併直前で、事業規模の割合が概ね2倍を超えていないことが求められます。たとえば、支配関係発生時に売上高10億円だった被合併法人が、合併直前に売上高22億円に急成長していた場合、この要件を満たせなくなる可能性があります。痛いですね。


支配関係取得後に意図的に欠損金目的で合併を進めると、国税当局から租税回避と指摘されるリスクがあります。ヤフー・IDCF事件(2016年2月29日最高裁判決)では、形式上の要件を満たしていたにもかかわらず、約540億円の繰越欠損金を引き継いだ行為が「租税回避目的」と判断され、最終的に約180億円の追徴課税が確定しました。


繰越欠損金の引継ぎ制限に関する具体的な国税庁の判断事例は以下で確認できます。


国税庁 みなし共同事業要件により引継制限の有無を判定する場合(個別相談事例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/kobetsu/saikenshien/05.htm


適格合併の要件を満たすための事前準備と国税庁への事前照会

適格合併を確実に成立させるには、合併計画の段階から要件充足の「実態」を作り込む必要があります。書類を整えるだけでは不十分です。


国税庁の実務では、形式的な書類上の整備だけでなく、役員の実際の経営関与・従業員の雇用継続の実態・事業の実質的な継続性が厳格に確認されます。たとえば、共同事業型の合併で「役員引継ぎ要件」を満たすために名義だけの役員就任をした場合、経営参画の実態がなければ否認されるリスクがあります。


事前準備として押さえておくべきポイントを整理します。


  • 📝 役員・従業員の引継ぎ計画の文書化:合併後の役員就任予定・雇用継続計画を書面で整備し、実態と整合性を取ること。
  • 🏢 事業継続の証拠資料の整備:主要事業の継続を示す営業契約・設備台帳・顧客リストなど、客観的な資料を用意すること。
  • 📊 支配関係の取得時期と期間の確認:5年超の支配関係があるかどうかを、株主名簿・登記情報等で正確に確認すること。
  • 🔍 事前照会の活用:判断が難しいケースでは、国税庁の「文書回答手続き」や税務署への事前照会を活用することで、不確実性を大幅に減らせる。


特に注目に値するのが「文書回答手続き」です。これは、企業が実際に行う予定の取引について、事前に税務署や国税局に文書で照会し、公式な回答を得られる制度です。適格合併の適格性に疑問がある場合、この制度を使って事前確認することで、後から追徴課税を受けるリスクを大幅に軽減できます。これは使えそうです。


手続きの流れとしては、照会書を税務署に提出→担当部署が内容を審査→文書で回答という流れで進みます。回答内容は国税庁のウェブサイトで公開されるケースも多く、同様の状況にある他の企業の参考事例としても活用できます。


なお、合併比率の決定には、合併する双方の法人価値を算定する必要があります。法人価値の算定には、DCF法・類似会社比較法・純資産法などが使われますが、適格合併における帳簿価額の引継ぎと混同しないよう注意が必要です。合併比率の算定根拠が租税回避目的だと疑われる不自然なものである場合も、国税当局の調査対象となりえます。


国税庁 共同で事業を営むための適格合併等の判定に関する通達
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/020404-2/01/12_2_2_2.htm


金融実務で知っておくべき適格合併の独自視点:無対価合併と三角合併の税務ポジション

金融・M&A実務に携わる人なら、「無対価合併」と「三角合併」という2つの特殊なケースについても知っておく必要があります。検索上位の記事では詳しく取り上げられていない論点ですが、実際のM&A案件では頻繁に登場します。


無対価合併とは、被合併法人の株主に対して合併の対価を一切交付しない合併のことです。典型的なケースは、親会社が100%子会社を吸収合併する場合で、対価を自社に支払う形になるため実質的に交付が不要となります。


国税庁の質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/27.htm)によると、無対価合併であっても、合併法人と被合併法人の間に「同一の者」による完全支配関係がある場合は、金銭等不交付要件を形式上満たしたものとして適格合併と認められます。無対価でも適格合併OKということです。


ただし、「同一の者」が個人である場合には注意が必要です。国税庁は「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」という質疑応答で、個人株主が支配する場合の完全支配関係の判定方法を別途示しています。親族関係の範囲や持株割合の計算が法人のケースとは異なるため、同族会社の再編ではこの点が見落とされやすいです。


合併の種類 対価の形式 適格判定のポイント
通常の合併 合併法人の株式 3パターン×各要件の充足
無対価合併(100%子会社) なし 同一者による完全支配関係の確認
三角合併 合併法人の完全親法人の株式 親法人株式のみの交付が条件


三角合併は、2007年の会社法改正によって解禁された手法で、合併の対価として合併法人の親会社株式を交付する合併です。外国企業が日本企業を買収する際に活用されることで注目を集めました。三角合併では、合併法人の「完全親法人の株式」のみが交付されることが金銭等不交付要件の充足条件となります。合併法人の親法人の株式以外が混じると要件を満たせません。


国税庁の「いわゆる三角合併に係る適格要件について」という質疑応答では、三角合併において合併法人と被合併法人の関係(完全支配関係・支配関係・その他)に応じた判定フローが示されています。三角合併の適格性を検討する際には、この通達を必ず参照することが求められます。


三角合併・無対価合併に関する国税庁の公式見解は以下で確認できます。


国税庁 いわゆる「三角合併」に係る適格要件について
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/21.htm


国税庁 無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/20.htm




サクサクわかる! 超入門 合併の税務