三角合併の適格要件を正しく理解して税負担を抑える方法

三角合併の適格要件を正しく理解して税負担を抑える方法

三角合併の適格要件と税制上の優遇措置を正しく理解する

適格要件を満たしていると思い込んでいたのに、実は非適格で数千万円の課税が発生した事例があります。


🔑 この記事の3つのポイント
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三角合併の適格要件は通常の合併と原則同じ

国税庁の解釈では、三角合併の適格要件は対価が親会社株式になる点を除けば、通常の吸収合併と原則同じ。完全支配関係・支配関係・共同事業の3区分で要件が変わります。

2019年税制改正で「孫会社の三角合併」も適格に

改正前は直接の100%親会社の株式のみが対象でした。2019年(平成31年)の改正により、間接完全親法人=祖父会社の株式を使った三角合併も適格組織再編の対象に拡大されました。

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適格要件を満たせば含み益課税を繰り延べられる

適格合併に該当すると、消滅会社の資産・負債を簿価で引き継ぎ、含み益への課税が繰り延べられます。さらに一定の条件下では繰越欠損金の引き継ぎも可能です。


三角合併の適格要件の基本:通常の合併と何が違うのか


三角合併とは、合併により消滅する会社の株主に対して、存続会社の株式ではなく存続会社の親会社の株式を交付して行われる吸収合併です。親会社・存続会社・消滅会社という3者が関与する構造から「三角」合併と呼ばれます。2007年5月に解禁された比較的新しいM&A手法です。


「三角合併の適格要件は、通常の合併とは別の特別なルールがある」と思っている方は少なくありません。これが正確ではありません。


国税庁の質疑応答事例(法人税)によれば、三角合併の適格要件は対価が合併親法人株式に限られる点を除き、通常の吸収合併と原則として異なる点はないとされています。つまり、適格合併の判定フローは基本的に共通です。


具体的には、合併法人と被合併法人の関係によって次の3つの区分に分かれます。


関係の種類 主な要件
完全支配関係 対価要件(株式のみ)+継続保有要件
支配関係(50%超) 対価要件+従業者引継要件(80%以上)+事業継続要件+継続保有要件
それ以外(共同事業) 対価要件+事業関連性・規模・従業者引継・事業継続・株式継続保有 の各要件


ポイントは対価要件です。通常の合併では「合併法人の株式のみ」が交付されることが要件ですが、三角合併では「合併法人または合併親法人のうちいずれか一の法人の株式のみ」が交付されることが要件とされています(法人税法第2条第12号の8柱書き)。


つまり対価さえ正しく設定されていれば、後の判定は通常の合併と同じ手順で行えます。これが基本です。


国税庁「いわゆる『三角合併』に係る適格要件について」(法人税の質疑応答事例)


三角合併の適格要件で見落としやすい「完全支配関係」の範囲

完全支配関係下での三角合併は、要件がシンプルです。対価として合併親法人株式のみが交付される場合、合併後も完全支配関係が継続することが見込まれていれば、原則として適格合併に該当します。従業者引継要件や事業継続要件は問われません。


実務で頻繁に問われるのが「合併親法人」の範囲です。


法人税法第2条第12号の8の柱書きでは、合併親法人とは「合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係がある法人」と定義されています。


直接保有だけでなく「間接保有」も含まれる点が重要です。これが2019年税制改正(平成31年)で大きく整備されました。


改正前は、適格三角合併の対価に使える株式は「直接の100%親会社」の株式のみでした。例えば親会社→子会社→孫会社という3階層構造の場合、孫会社が合併法人となる三角合併では、直接の親会社(子会社)が非上場であれば事実上スキームが使えませんでした。


改正後は、発行済株式の全部を「間接に」保有する関係の法人、つまり祖父会社(持株会社など)の株式を対価とする三角合併も適格組織再編の対象となりました。上場持株会社が頂点にあるグループでは、グループ全体の再編柔軟性が大幅に向上した改正と言えます。


この改正は平成31年(2019年)4月1日以後に行われる合併から適用されています。


平成31年税制改正における三角合併の適格要件見直し(間接保有の親法人株式の追加)を詳しく解説したコラム


三角合併の適格要件・共同事業要件における「株式継続保有要件」の判定方法

完全支配関係でも支配関係でもない、いわゆる「共同で事業を行うための合併」として適格合併を目指すケースが、実務上もっとも要件が複雑です。


共同事業要件を満たすためには、次の要件をすべて満たす必要があります。


  • 事業関連性要件:両社の事業に関連性があること
  • 事業規模要件または特定役員引継要件
  • 従業者引継要件:被合併法人の従業者の概ね80%以上が合併後も業務に従事することが見込まれること
  • 事業継続要件:主要な事業が合併後も継続されることが見込まれること
  • 株式継続保有要件:支配株主に交付された株式の全部が継続保有されることが見込まれること


このうち三角合併特有の解釈が必要になるのが「株式継続保有要件」です。


国税庁の質疑応答事例では、三角合併における株式継続保有要件の判定は通常の合併と同様であるとされています。具体的には、合併により交付された「合併親法人株式(A社株式)」のうち、支配株主(被合併法人の発行済株式の50%超を保有する株主)に交付された分の全部が継続保有される見込みがあるかどうか、で判定します。


実例で確認します。A社(親会社)、B社(合併法人・A社の100%子会社)、C社(被合併法人)、D社(C社の78%株主=支配株主)という関係の場合、D社が交付を受けたA社株式の全部を継続保有することが見込まれていれば、株式継続保有要件を満たします。


「支配株主以外の小口株主も保有継続しなければならないのでは?」と誤解しやすい点ですが、要件を課されるのは支配株主分のみです。支配株主以外の少数株主に交付された株式は対象外となります。


国税庁「いわゆる『三角合併』に係る具体的な適格判定について」(株式継続保有要件の判定を解説)


三角合併が適格要件を満たした場合の税制上のメリット

三角合併が適格合併に該当すると、税務上の大きな優遇措置を受けることができます。知っていると得するメリットが複数あります。


まず最大のメリットが含み益への課税繰延です。非適格合併の場合、消滅会社は保有する資産・負債を時価で譲渡したものとして扱われ、含み益があれば課税が発生します。一方、適格合併では資産・負債が帳簿価額(簿価)のまま引き継がれるため、含み益への課税が将来に繰り延べられます。


例えば、帳簿価額1億円・時価3億円の不動産を持つ会社が消滅会社となる場合、非適格合併では差額2億円に対し法人税(実効税率約30%)が発生し、約6,000万円の税負担が生じます。東京ドームのグラウンド面積(約13,000㎡)を持つ土地一枚で億単位の税コストになり得るのが実感値です。適格合併ならこの課税が繰り延べられます。


次に繰越欠損金の引き継ぎが可能になる点も重要なメリットです。ただし、制限なく引き継げるわけではありません。引き継げる繰越欠損金の範囲は、合併法人と被合併法人の支配関係の継続期間によって変わります。


  • 合併前から5年超の支配関係がある場合:繰越欠損金を全額引き継ぎ可能
  • 5年未満の支配関係の場合:引き継げる欠損金に使用制限がかかる(みなし共同事業要件を満たさない限り)


繰越欠損金の引き継ぎを目当てにした租税回避を防ぐための制限です。これが原則です。


さらに、消滅会社の株主(個人・法人とも)についても、適格合併の要件を満たす場合、受け取った親会社株式について旧株の譲渡損益が繰り延べられる措置があります。2019年税制改正によって、直接の親会社だけでなく間接の完全親法人の株式を受け取った場合にもこの繰延が適用されるようになった点は、特に知っておきたい改正です。


三角合併と通常の合併における適格要件の独自比較:実務上の落とし穴

一般的な解説記事があまり触れない視点として、三角合併の適格要件には「通常の合併と同じ」という原則の裏に、実務上の見落としポイントがいくつか存在します。


①端数株式と「対価要件」の関係


三角合併の対価要件は「合併親法人株式以外の資産が交付されないこと」です。ところが合併比率の計算上、端数が出ることがあります。通常の合併では端数分を現金で支払うことができますが、三角合併でも合併比率の端数部分については現金と株式を組み合わせた支払いが実務上行われます。


ただし、端数相当の現金が「対価要件違反」にあたるかどうかが実務上の論点になることがあります。法人税法第2条第12号の8の柱書きでは、合併に反対する株主への買取対価として交付される現金などは「除く」と明記されていますが、端数処理に関する現金は別途慎重な検討が必要です。スキームを設計する段階で税理士・弁護士と連携して確認することが必須です。


②100%未満保有の外国親会社が使う場合の注意点


三角合併では存続会社が合併親法人の株式を対価として使います。合併親法人、つまり存続会社の親会社が存続会社を「発行済株式の全部」(直接・間接問わず)保有していることが要件です。99%しか保有していないケースでは合併親法人の要件を満たせず、適格判定に影響します。


外国企業がグループ内に少数株主(他のグループ会社)を残したままで三角合併を行う場合、このラインを下回らないよう事前に株式整理しておくことが、適格要件確保の前提となります。厳しいところですね。


③特定グループ内合併の除外規定


税務研究会の情報によると、企業グループ内の内国法人どうしで行われる三角合併のうち「特定グループ内合併」に該当するものは、適格合併とされる合併の範囲から除外される特例があります(クロスボーダーの組織再編に係る課税の特例)。


これは租税回避防止の観点から設けられたルールです。海外親会社を含む複雑な多国籍グループ再編では、この除外規定に当たらないかを必ずチェックする必要があります。意外なところで非適格になるケースです。


税務研究会「適格合併等の範囲等に関する特例」(特定グループ内合併の除外規定を解説)


三角合併の適格要件確認に必要な実務フローと専門家活用

三角合併で適格要件を満たすかどうかを確認するためには、段階的な確認フローが必要です。実務上よく使われる判定の手順を整理します。


ステップ1:対価要件の確認

まず交付する対価が「合併法人株式または合併親法人株式のいずれか一の法人の株式のみ」であることを確認します。現金が混在していないか、端数処理で現金支払いが生じる場合はその取り扱いを事前に整理します。


ステップ2:合併法人と被合併法人の関係区分の確認

次に、合併法人(存続会社)と被合併法人(消滅会社)の間に「完全支配関係」「支配関係(50%超)」「それ以外」のどの関係があるかを確認します。出資比率だけでなく、直接・間接保有のどちらも含めて判定します。


ステップ3:関係区分ごとの追加要件の充足確認

完全支配関係なら継続保有要件のみ。支配関係なら従業者引継(80%以上)と事業継続の両要件が加わります。共同事業目的の場合はさらに事業関連性・規模・役員引継・株式継続保有の各要件を個別に検討します。


ステップ4:2019年改正による間接保有の確認

合併親法人株式を使う場合、その親法人が存続会社を「直接・間接を問わず100%保有」しているかを確認します。持株会社グループのように3階層以上ある場合には特に重要です。


ステップ5:特定グループ内合併の除外規定の確認

クロスボーダー要素がある場合は、特定グループ内合併の除外規定に当たらないかを追加で確認します。


この確認フローを実際のM&Aスキーム設計に当てはめる際には、税理士・公認会計士・弁護士が連携して対応するのが標準的な実務です。特に繰越欠損金の引き継ぎ可否や、支配関係の継続期間(5年基準)など、判定結果が数千万円単位の税コスト差に直結する要素については、早い段階から専門家を交えてシミュレーションすることが合理的な対応です。これが条件です。


M&Aの税務全体を体系的に把握したい場合は、国税庁が公開している「法人税の質疑応答事例」や、税務研究会・TKCなどの実務解説コンテンツが参考になります。


国税庁「法人税の質疑応答事例」一覧(三角合併の適格要件を含む組織再編の実例を収録)




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