株式交換と株式移転の違いと手続き・税務の完全ガイド

株式交換と株式移転の違いと手続き・税務の完全ガイド

株式交換と株式移転の違いを手続き・税務・事例で徹底比較

適格要件を満たせば、株式交換で億単位の譲渡益が出ても税金ゼロになる場合があります。


この記事でわかること
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株式交換と株式移転の核心的な違い

「親会社を新設するかどうか」という1点が、両者を決定的に分ける最大のポイント。既存会社が親会社になるのが株式交換、新設会社が親会社になるのが株式移転です。

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手続きの流れと税務上の注意点

株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)、反対株主への対応、適格要件の判定など、見落とすと損する実務上のポイントを解説します。

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日産自動車・KADOKAWAの実際の活用事例

日産自動車による愛知機械工業の株式交換完全子会社化(2012年)や、KADOKAWAとドワンゴによる共同株式移転(2014年)など、有名企業の事例から実践的なイメージをつかめます。


株式交換と株式移転の基本的な仕組みと定義


株式交換と株式移転は、どちらも完全親子会社関係を構築するM&A手法という点で共通しています。しかし、その仕組みには明確な違いがあります。


株式交換とは、子会社になる会社の全発行済株式を、すでに存在する別の会社に取得させることで、完全親子会社の関係を作る手法です。親会社はあくまで「既存の会社」です。具体的には、親会社1株に対して子会社1.5株という比率(株式交換比率)を当事会社間で決め、子会社の株主は保有株式を親会社株式と交換します。つまり、お金ではなく株式がそのまま対価になるわけです。


株式移転とは、1社または複数の会社が発行済株式のすべてを、新たに設立する会社に取得させる手法です。新設会社が完全親会社となり、既存会社が完全子会社になります。結論は「親会社を新しく作るのが株式移転」です。


会社名に「ホールディングス」と付いている企業の多くが、この株式移転によって組織再編を行っています。ソフトバンクグループ、パナソニックホールディングスなど、日本を代表する大企業の多くがこの手法でグループ経営体制を構築してきました。


🔸両者の最大の違いを一覧表で確認


| 比較項目 | 株式交換 | 株式移転 |
|---|---|---|
| 親会社 | 既存の会社 | 新設会社 |
| 主な目的 | 完全子会社化・グループ再編 | 持株会社設立・経営統合 |
| 効力発生日 | 契約で定めた日 | 新設会社の設立登記日 |
| 企業譲受への活用 | 可能 | 原則不可(※共同株式移転は例外あり) |
| 株式移転計画書の義務 | なし | あり |
| 親会社の形態 | 株式会社または合同会社 | 株式会社のみ |


つまり、完全子会社化が目的なら株式交換、持株会社の設立が目的なら株式移転、と覚えておけばOKです。


どちらの手法でも、反対株主は「株式買取請求権」を行使できます。会社側は公正な価額で株式を買い取らなければなりません。これは少数株主保護の観点から、会社法で定められたルールです。


参考:株式交換・株式移転の基本的な違いや手続きの詳細については、下記のfundbookの解説記事が参考になります。


株式交換と株式移転の違いとは?メリット・デメリットや事例 | fundbook


株式交換と株式移転のメリット・デメリットの違い

両手法に共通するメリットの最大のポイントは、「現金を使わずにM&Aができる」ことです。株式譲渡や事業譲渡では億単位の現金が必要になることがありますが、株式交換・株式移転では自社の新株を対価として使えるため、資金繰りの心配が大幅に軽減されます。


また、株主総会の特別決議で3分の2以上の承認を得れば、反対した少数株主の株式まで含めて全株式を取得できる点も重要です。通常の株式譲渡では全株主から個別に承認を得る必要がありますが、株式交換・株式移転なら多数決で少数株主を排除できます。これは「スクイーズアウト」とも呼ばれ、経営上の大きな武器になります。


さらに、買収後も子会社は別の法人格を保ちます。合併では法人格が消滅するため人事制度や社内ルールを統一する大規模な作業が必要ですが、株式交換・株式移転では法人格が維持されるため統合コストが格段に低くなります。いいことですね。


一方で、デメリットも無視できません。株式交換で新株を発行すると、既存株主の持株比率が低下する「株式の希薄化」が発生します。 例えば、発行済み株式数が1,000万株の会社が株式交換で200万株の新株を発行すると、希薄化率は約16.7%に達します。この希薄化懸念が投資家に伝わると株価下落につながる可能性があります。


🔸メリット・デメリット比較


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ✅ メリット① | 買収資金が不要(新株・自己株式を対価に使える) |
| ✅ メリット② | 少数株主を3分の2の賛成で排除できる |
| ✅ メリット③ | TOB規制を受けずに完全子会社化できる |
| ✅ メリット④ | 合併と違い、PMIの負担が軽減される |
| ❌ デメリット① | 新株発行による株式の希薄化リスク |
| ❌ デメリット② | 株主構成の変化により経営に影響が出る場合がある |
| ❌ デメリット③ | 債権者保護手続きや公告など、複雑な手続きが必要 |


株式移転固有のデメリットとして、新設会社の登記申請が必要になる点が挙げられます。登記申請の際には登録免許税もかかります。また、新設会社の定款作成や取締役選任なども必要になるため、株式交換と比べると手続きが若干多くなります。


新株発行による株価下落リスクが特に心配なケースでは、M&Aアドバイザーや証券会社に事前の株価影響シミュレーションを依頼することが有効です。株式交換比率の設定一つで株主へのインパクトが大きく変わるため、専門家への相談が不可欠です。


株式交換と株式移転の手続きの流れと期間の目安

株式交換・株式移転の手続きは、大まかに「計画の作成→開示→株主総会→反対株主対応→効力発生→事後開示」という流れで進みます。最短で約2ヶ月が目安ですが、内容の複雑さや当事会社の規模によっては3〜6ヶ月以上かかることもあります。


🔸手続きの主な流れ


1. 株式交換契約・株式移転計画の作成(内容は会社法で定められた事項を記載)
2. 事前開示書類の備置・開示(株主総会の2週間前・通知日・公告日のいずれか早い日から6ヶ月間)
3. 株主総会による承認決議(特別決議:議決権の過半数を持つ株主が出席し、3分の2以上が賛成)
4. 債権者保護手続き・株券提供公告(対価に株式以外が含まれる場合は必須、1ヶ月間の公告期間)
5. 反対株主の株式買取請求への対応(効力発生日から60日以内に適正な価額で支払い)
6. 効力発生(株式交換は契約で定めた日、株式移転は新設会社の設立登記日)
7. 事後開示書類の備置・開示(効力発生日・設立登記日から6ヶ月間)


株式交換と株式移転で手続きが異なる重要な点があります。反対株主への通知・公告のタイミングがずれています。株式交換では効力発生日の20日前までに通知・公告が必要ですが、株式移転では株主総会決議から2週間以内の通知・公告が起点となります。


また、株式移転では設立登記申請が別途必要で、効力発生日(=設立登記日)は法務局が開いている日に設定しなければなりません。この点は実務上見落としがちなので注意が必要です。


手続きを効率化する制度として、簡易株式交換と略式株式交換があります。これは知っていると大きな時間・コスト節約になる制度です。


- 簡易株式交換:完全親会社が交付する対価が純資産額の5分の1以下の場合、完全親会社側の株主総会を省略できます
- 略式株式交換:完全親会社が完全子会社の議決権の90%以上を保有している場合、完全子会社側の株主総会を省略できます


この2つの制度をうまく活用すると、株主総会開催コストや時間を大幅に削減できます。これは使えそうです。


公告や登記に関する実務の詳細は、司法書士や弁護士への相談が確実です。手続きのスケジューリングミスがあると、効力発生日の延期につながるリスクがあります。


参考:株式移転の手続きスケジュールの実務詳細については、以下のM&A総合研究所の解説ページが参考になります。


株式移転の手続きとスケジュール詳細 | M&A総合研究所


株式交換と株式移転の税務上の取り扱い:適格・非適格で結果が大きく変わる

株式交換・株式移転の税務は、「適格か非適格か」によって課税関係が180度変わります。 これが最も重要な実務ポイントです。


適格要件を満たした場合(適格株式交換・適格株式移転)、完全子会社の株式に含み益があっても課税は繰り延べられます。つまり、実際に売却するまで税金はかかりません。完全親会社にも課税は発生しません。会社の規模によっては数億円規模の課税を先送りできることになります。これが冒頭の「億単位の譲渡益が出ても税金ゼロ」につながる仕組みです。


一方、非適格株式交換・非適格株式移転では、完全子会社が保有する資産が時価評価され、含み益に課税されます。 例えば不動産など評価額の高い資産を持つ会社を子会社化する場合、非適格になると膨大な税負担が一度に発生するリスクがあります。


🔸適格要件の主な条件(支配関係の程度によって異なる)


| 支配関係 | 主な適格要件 |
|---|---|
| 完全支配関係(100%子会社化) | 対価が株式のみ、支配関係が継続 |
| 支配関係(50%超〜100%未満) | 対価が株式のみ、支配継続、従業員の80%以上が継続、事業継続 |
| それ以外 | 上記+事業規模が5倍以内などの要件が加わる |


子会社の個人株主への税務上の影響も見落とせません。適格株式交換・適格株式移転の場合でも、対価として株式以外の金銭等を受け取った場合は、その分に対して譲渡所得税(所得税15.315%+住民税5%=合計約20.315%)が課されます。逆に言えば、対価が完全に株式のみであれば個人株主も原則として課税が繰り延べられます。


税務上の取り扱いは複雑です。最終的な判断は税理士・公認会計士への相談が原則です。特に、当事会社間の支配関係の程度や、交付する対価の種類・割合によって適格判定が変わるため、スキーム設計の段階から専門家を交えた検討が欠かせません。


参考:株式交換の適格要件と税務の詳細は、国税庁の質疑応答事例も参照できます。


いわゆる「三角株式交換」に係る適格要件について | 国税庁


株式交換と株式移転の実際の活用事例と選択基準

実際の企業がどのように株式交換と株式移転を使い分けているか、代表的な事例を見ていきましょう。


📌 株式交換の事例:日産自動車 × 愛知機械工業(2012年)


日産自動車は2012年3月、愛知機械工業を株式交換によって完全子会社化しました。株式交換前、日産自動車は愛知機械工業の株式の約41.4%を保有していましたが、グループ連携をさらに強化するため100%子会社化を選択しました。


このケースでは日産自動車は簡易株式交換の手続きを利用し、愛知機械工業は臨時株主総会の承認を経て手続きが完了しています。既存の親子関係をより緊密にするために株式交換が活用された典型例です。


📌 共同株式移転の事例:KADOKAWA × ドワンゴ(2014年)


株式会社KADOKAWAと株式会社ドワンゴは2014年、共同株式移転により「株式会社KADOKAWA・DWANGO」を設立しました(翌年にカドカワ株式会社へ社名変更)。出版・映像・ゲームを手がけるKADOKAWAと、ニコニコ動画で知られるドワンゴが共通の持株会社を設立することで、新規サービスの迅速な提供を目指した統合です。


このケースは2社が対等に新設会社の下でグループ化する典型的な共同株式移転の事例です。どちらかが相手を子会社化するのではなく、両社が同じ立場で新しい親会社を作ったという点が特徴的です。意外ですね。


🔸どちらの手法を選ぶべきか:判断基準の整理


| 状況 | 推奨される手法 |
|---|---|
| 既存のグループ会社を完全子会社化したい | 株式交換 |
| 複数の企業が対等に経営統合したい | 共同株式移転 |
| 自社をホールディングス体制に移行したい | 単独株式移転 |
| 上場企業が非上場企業を買収したい | 株式交換 |
| 非上場会社が持株会社経由でテクニカル上場を狙いたい | 株式移転 |


株式移転にはテクニカル上場という独自の活用法があります。非上場のA社と上場のB社が株式移転で新設の持株会社Cを作った場合、持株会社Cは証券取引所の審査を経て、B社の上場を引き継ぐ形での新規上場(テクニカル上場)が認められるケースがあります。これは株式交換では使えない、株式移転ならではのメリットです。


手法の選択は企業戦略の根幹に関わります。「どちらが自社の状況に合っているか」を判断するためには、M&Aの専門アドバイザーや弁護士と早期に相談することが、後のトラブルを避ける最短ルートです。


参考:株式交換の具体的な事例解説は、以下のfundbookのページが詳しくまとめられています。


株式交換の4つの事例-株式移転との違いも解説 | fundbook




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