少数株主保護と会社法で守る投資家の権利と戦略

少数株主保護と会社法で守る投資家の権利と戦略

少数株主保護と会社法:知らないと損する権利と戦略

非上場株式を1株しか持っていなくても、取締役を訴えて損害賠償を取れます。


この記事の3つのポイント
⚖️
少数株主権は「比率」で決まる

会社法では保有議決権の割合に応じて、1%・3%・10%などの段階で使える権利が変わります。自分の持株比率がどの段階にあるか確認することが、権利活用の第一歩です。

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1株でも「株主代表訴訟」は起こせる

取締役の不正行為・法令違反に対し、たった1株の保有でも株主代表訴訟(会社法847条)を提起できます。6か月以上継続保有が条件ですが、経営の監視手段として非常に強力です。

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非上場株式の「相続リスク」は見落とされがち

非上場株式の少数株主持分は、相続時に思わぬ高額評価となり相続税負担が発生しやすい落とし穴があります。売却市場がないため現金化も困難で、長期保有には戦略的な対応が必要です。


少数株主保護の基本:会社法が定める「少数株主権」とは


株主総会では多数決で物事が決まるため、大株主が有利な立場に置かれやすい構造になっています。しかし会社法は、たとえ議決権の過半数を持たない少数勢力であっても、会社の業務執行を監視・監督できるよう、さまざまな権利を認めています。これが「少数株主権」です。


少数株主権とは、総株主の議決権または発行済株式の一定割合以上を保有する株主が行使できる権利の総称です。つまり「株を何株持っているか」ではなく、「全体の何パーセントを保有しているか」が判断基準になります。これが基本です。


この少数株主権に対して、1株でも保有していれば行使できる権利を「単独株主権」と呼びます。剰余金配当請求権(会社法105条)や残余財産分配請求権、議決権などが代表例です。少数株主権と単独株主権は、どちらも会社法が少数派株主の利益を守るために用意した制度として、セットで理解しておくことが重要です。


少数株主権の要件を整理すると、以下のような段階構造になっています。


持株比率の要件 行使できる主な権利 継続保有の要件(公開会社)
議決権の1%以上または300個以上 株主総会の議題提案権・議案通知請求権(会社法303条・305条) 6か月前から必要
議決権の1%以上 総会検査役選任請求権(会社法306条) 6か月前から必要
議決権の3%以上または発行済株式の3%以上 会計帳簿閲覧請求権(会社法433条)、業務執行検査役選任請求権(会社法358条) 不要
議決権の3%以上 株主総会招集請求権(会社法297条)、役員責任軽減への異議権(会社法426条7項) 6か月前から必要(招集請求)
議決権の10%以上または発行済株式の10%以上 会社解散の訴え提起権(会社法833条) 必要


ここで一つ注目すべき点があります。会社法の定義では「公開会社」とは必ずしも「上場会社」を意味しません。発行している株式の一部でも譲渡制限のないものがあれば「公開会社」として扱われます(会社法2条5号)。非上場会社であっても一部の株式が自由に譲渡できる状態であれば公開会社に分類されるため、「上場していない=非公開会社」と思い込むと権利行使の判断を誤る可能性があります。


なお、非公開会社(発行済全株式に譲渡制限がある会社)では、継続保有要件は一切適用されません。株式を取得した直後でも、各種の少数株主権を行使できる点は覚えておいてください。


参考:少数株主が知っておくべき権利と保有リスクについての詳細解説(弁護士監修)
少数株主とは?少数株主が知っておくべき権利と保有リスク – 弁護士 河合弘之


少数株主保護の核心:株主代表訴訟と会計帳簿閲覧権の活用法

会社法が少数株主に与えた最も強力な武器の一つが、「株主代表訴訟」(会社法847条)です。取締役や役員が不正行為・法令違反・善管注意義務違反などで会社に損害を与えたにもかかわらず、会社が責任追及に動かない場合、株主が会社に代わって訴訟を起こすことができます。


注目すべき点は、公開会社では「6か月以上継続保有している株主であれば1株でも」この権利が行使できることです。金額的な持株要件はありません。1株だけ保有している少数株主であっても、取締役に対して数億円単位の損害賠償を会社のために請求できる可能性があります。これは使えそうです。


株主代表訴訟を提起する手順は以下のとおりです。


  • 📝 まず会社に対して書面で「取締役の責任を追及する訴訟を提起するよう請求」する(提訴請求)
  • ⏳ 会社がその請求から60日以内に訴訟を提起しない場合、株主が代わって訴訟を提起できる
  • ⚖️ 訴訟は会社のために行うものであり、損害賠償金は会社に帰属する


この手続きは、経営の不透明さや横領・背任が疑われる場面で非常に有効です。一方で、訴訟リスクを嫌う大株主や経営者が、株主代表訴訟を回避するためにスクイーズアウト(少数株主排除)に動くケースも実務上は少なくありません。


もう一つ重要なのが「会計帳簿閲覧謄写請求権」(会社法433条)です。総株主の議決権の3%以上または発行済株式の3%以上を保有する株主は、営業時間内であれば会社に対して会計帳簿や関連資料の閲覧・謄写を請求できます。継続保有要件は不要です。


この権利は、経費の不正計上・利益の隠蔽・役員報酬の過大支払いなどを調査する際に極めて有力な手段となります。ただし会社法は、一定の場合に会社が閲覧請求を拒否できる法定拒絶事由も規定しており(会社法433条2項)、無制限に認められるわけではありません。最高裁平成16年7月1日判決では、閉鎖会社における株式売却のための時価算定を目的とした閲覧請求も認められており、実務での活用範囲は比較的広く解釈されています。


3%以上が条件です。


参考:会計帳簿閲覧請求権の要件・手続きと実務対応(弁護士解説)
会社の業務・財務状況を知る手段としての会計帳簿等閲覧謄写請求権 – 中江武志法律事務所


少数株主保護と会社法上のスクイーズアウト:強制排除への対抗手段

金融に関心のある投資家にとって重要な知識の一つが、「スクイーズアウト(Squeeze Out)」です。大株主が少数株主の同意なしに、強制的にその株式を買い取り株主から排除できる制度で、会社法改正(平成26年)以降に整備されました。


主な手法は2つです。一つは「特別支配株主の株式等売渡請求」(会社法179条)で、議決権の90%以上を持つ特別支配株主が、株主総会決議なしに少数株主全員に対して株式の売渡しを請求できます。もう一つは「株式の併合」(会社法180条)で、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て、少数株主の持分を1株未満の端株にして実質的に排除する方法です。


つまり、大株主が3分の2以上の議決権を持てば、少数株主を合法的に会社から追い出すことが可能です。厳しいところですね。


ただし、会社法はスクイーズアウトを受けた少数株主にも対抗手段を用意しています。


  • 💰 株式買取価格の申立て:少数株主は提示された買取価格に不服がある場合、裁判所に対して「公正な価格」の決定を申し立てられます(会社法182条の4、179条の8)
  • 🚫 差止請求権:法令・定款違反のスクイーズアウトに対し、効力発生前に差止請求を起こすことができます(会社法182条の3、179条の7)
  • 📢 無効の訴え:手続きに重大な瑕疵があった場合、株式併合の無効確認訴訟が可能です(会社法828条1項9号)


実際にLINE株式会社とZホールディングスの経営統合(2020年)では、TOBで全株式を取得しきれなかった残余の少数株主に対し、約2,900万株を1株に併合する株式併合によるスクイーズアウトが行われました。このように著名なM&A案件でも実際に用いられている制度です。


スクイーズアウトの際に買取価格が不当に低いと感じた場合は、弁護士に相談した上で裁判所への申立てを検討することが有効です。価格決定の申立てには効力発生日から20日以内という期限があるため、早めの判断が求められます。期限は必須です。


参考:スクイーズアウトの手法・メリット・デメリット・少数株主の保護手段の詳細
スクイーズアウトとは?手法やメリット・デメリット、手続きの流れをわかりやすく解説 – fundbook


少数株主保護の盲点:非上場株式が生む相続税リスクと株式評価の罠

非上場株式の少数株主が見落としやすい最大のリスクは、「相続時の税務評価」にあります。一般的に少数株主は会社経営に関与しないため、相続税評価では「配当還元方式」という特例的評価方式が適用されることが多く、評価額が原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)よりも大幅に低くなる場合があります。


これだけ聞くと「評価額が低い=相続税が少なくて済む」と思えますが、問題はそう単純ではありません。配当還元方式が適用されるかどうかは「株主の態様」によって厳格に判断されます。同族株主グループに該当すると判断された場合には原則的評価方式が適用され、会社の純資産や収益をもとにした高額な評価額が課される可能性があります。


さらに厄介なのが、非上場株式には市場がないため、相続税を支払うための現金を捻出するのに株式を売却しようとしても、買い手が簡単には見つからないという点です。評価額が高額でも換金が難しいという二重の問題が発生します。


以下の状況が重なると、相続税の納税が特に困難になります。


  • 🏢 会社の内部留保が長年にわたって積み上がっており、純資産が膨らんでいる
  • 🔒 株式に譲渡制限がかかっており、会社の承認なしには売却できない
  • 💸 役員報酬・退職金へ利益が集中し、配当がほとんど支払われていない
  • 👤 相続人が会社の経営に関与しておらず、交渉の窓口すら持てない


このような状況を事前に回避するには、生前のうちに株式の整理や売却交渉を進めることが有効です。ただし、非公開会社では会社の承認なしに譲渡できないため(譲渡制限株式)、まず「株式買取請求権」の行使や弁護士を通じた交渉を検討することが現実的な道筋となります。


非上場株式の相続・売却の問題に直面した場合、株式評価の専門家(税理士・公認会計士)と少数株主保護に精通した弁護士の両方に相談することをお勧めします。両面からのアドバイスが重要です。


参考:非上場株式の相続税評価と少数株主持分のリスクについての専門家解説


少数株主保護の独自視点:株主提案権の「10個上限ルール」と制度の限界

金融や法律に詳しい投資家でも意外と知られていないのが、2021年3月施行の会社法改正で導入された「株主提案権の議案数制限」です。改正前は株主が提案できる議案数に制限はありませんでしたが、改正後は1人の株主が1回の株主総会で提案できる議案数が最大10個に制限されました(会社法305条4項)。


この制限が設けられた背景には、一部の株主が大量の議案を提案することで株主総会の運営を意図的に混乱させるケースが増加したことがあります。つまり、少数株主保護のために設けられた株主提案権が、逆に濫用されるリスクが現実化したのです。


ただし、注意が必要な点があります。10個という上限は「議案の数」ではなく「議題の数」ではないため、同一議題の中に複数の議案が含まれる場合(例:取締役複数名の選任)は、それぞれが1カウントになります。つまり10名の取締役選任議案を提案すると、それだけで10枠を消費します。


株主提案権を行使できる要件は以下のとおりです。


  • 📊 取締役会設置会社の場合:総株主の議決権の1%以上、または議決権300個以上を6か月前から継続して保有していること(会社法303条・305条)
  • 📋 取締役会非設置会社の場合:1株でも保有していれば行使可能(単独株主権として扱われる)
  • 🗓️ 請求のタイミング:株主総会日の8週間前までに、書面または電磁的方法で会社に請求する必要がある


また、2025年12月に公表された議論では、定款の定めにより株主提案権の行使要件(議決権数の要件)を引き上げることを認める規律の導入が検討されています。今後の会社法改正の動向によっては、少数株主による株主提案のハードルがさらに高まる可能性があります。


株主提案権は、会計不正の追及・経営刷新・反対議案の提出など、少数株主が会社に対してメッセージを届ける正規の手段です。10議案という上限を意識しながら、優先度の高い議案に絞って提案内容を設計することが、実効性を高めるコツです。これが条件です。


参考:株主提案権の改正内容と議案数制限の詳細解説(ニッセイ基礎研究所)


少数株主保護を会社法で徹底活用するための実践的ステップ

ここまで解説してきた少数株主の権利は、知っているだけで終わらせず、実際に活用できる形に落とし込むことが重要です。保有比率ごとに使える権利が異なるため、まず自分の現在の持株比率を正確に把握することが出発点となります。


持株比率に応じた行動の目安は次のとおりです。


  • 🔍 1株以上:株主代表訴訟(公開会社は6か月以上継続保有が必要)、株主総会決議の無効・取消訴訟、差止請求権など「単独株主権」を行使できる段階
  • 📌 1%以上(または議決権300個以上):取締役会設置会社での株主提案権が使える段階。経営方針に異議を唱える議題・議案を株主総会に提出できる
  • 🔬 3%以上:会計帳簿閲覧請求・業務執行に関する検査役選任請求・株主総会招集請求など、実務的に最も強力な監視ツールが揃う段階
  • 🚨 10%以上:「やむを得ない事由」があるときに会社解散の訴えを提起できる段階(会社法833条)。支配株主による不正が著しい場合の最終手段


少数株主として権利行使を検討する際には、単に法律上の権利を知るだけでなく、その行使が与える影響や手続きの流れを事前に弁護士に確認しておくことが現実的です。


特に会計帳簿閲覧請求や株主総会招集請求は、会社側が拒否したり、法定の拒絶事由を主張してきたりするケースがあるため、内容証明郵便で請求を行い、記録を残すことが重要です。司法書士への依頼の場合、内容証明郵便作成の費用は11〜22万円(税込)程度が目安とされています。


また、非上場株式の売却・相続に備えるためには、日頃から株式の時価評価を把握しておくことが有効です。特に内部留保が大きく積み上がっている非上場会社の株式は、相続時に思わぬ高額評価になりやすいため、定期的に税理士による評価シミュレーションを行っておくことをお勧めします。


結論は「比率を知り・権利を使い・専門家と連携する」の3点です。


少数株主という立場は、経営支配とは程遠い一方で、会社法が丁寧に整備した監視・保護の制度が手の届く範囲にある立場でもあります。一方的な不利益を被らないためにも、自分が持つ権利を正確に理解し、必要なタイミングで適切に行使することが、金融リテラシーの高い投資家として取るべき姿勢といえるでしょう。


参考:少数株主権の種類・要件を一覧で確認できる権威ある参考資料(司法書士監修)
単独株主権・少数株主権まとめ一覧 – あなたのまちの司法書士事務所グループ




支配株主の責任と少数者株主の保護