

招集通知を1日でも遅らせると、あなたの会社の決議がまるごと取り消されます。
株主総会は、株式会社が必ず設置しなければならない最高意思決定機関です(会社法第295条)。年に1回の定時株主総会は、事業年度終了後3か月以内に開催することが義務付けられています(会社法第296条第1項)。日本では3月決算の企業が多いため、毎年6月が総会の集中シーズンとなり、2025年6月の集中日(6月27日)には東証全体の約25.3%の企業が同日開催しました。
総会の種類は大きく2つに分かれます。毎事業年度終了後に開く「定時株主総会」と、緊急の意思決定が必要な場合にいつでも開ける「臨時株主総会」です。定時総会はスケジュールが予め決まっているため計画的な準備ができますが、臨時総会はタイトなスケジュールでの対応が求められます。
株主総会で決議できる事項は、会社の組織・運営・管理に関するほぼあらゆる事項です。特に重要なのが「普通決議」と「特別決議」の違いです。役員選任などの普通決議は議決権の過半数の賛成で可決されますが、定款変更・合併・会社分割などの特別決議は議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。この違いを把握しておくことが原則です。
また、株主総会の招集権限は原則として取締役会(取締役会非設置会社では取締役)にあります。ただし、3%以上の議決権を保有する株主が一定の条件のもとで取締役に招集請求を行える権利も会社法は認めています(会社法第297条)。この仕組みを知っておくことは、株主・企業の双方にとって重要です。
| 決議の種類 | 主な決議事項 | 可決要件 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 役員の選任・解任、剰余金の配当など | 議決権の過半数(出席株主ベース) |
| 特別決議 | 定款変更、合併・会社分割、事業譲渡など | 議決権の3分の2以上 |
| 特殊決議 | 全株式譲渡制限の設定など | 議決権の4分の3以上など |
決議の種類と要件は、総会前に必ず確認しておきましょう。なお、全株主が書面または電磁的方法で同意すれば、実際に会議を開かずに「書面決議(みなし決議)」で株主総会の決議があったとみなすことも可能です(会社法第319条)。つまり全員同意なら省略できます。
参考:会社法の基本的な株主総会決議事項と要件について詳しく解説した法律事務所の解説ページです。
株主総会とは?目的・種類・流れをわかりやすく解説 | 顧問弁護士JP
招集通知は、株主総会運営の中でも最も重大なリスクをはらむ手続きです。会社法第299条は、公開会社(上場企業など)では「総会日の2週間前まで」、非公開会社(書面・電子投票なし)では「1週間前まで」に通知を発送することを義務付けています。この期限を1日でも破れば、決議取消訴訟(会社法第831条)を起こされる根拠になります。
招集通知には必ず記載すべき事項があります。具体的には、総会の日時・場所、目的事項(議題)、書面・電磁的方法による議決権行使を認める場合はその旨などが含まれます。記載漏れや誤記も、招集手続の瑕疵(かし)として決議取消事由になりえます。厳しいところですね。
さらに2023年3月以降、上場会社には「株主総会資料の電子提供制度」が義務化されました(改正会社法)。自社ウェブサイト等に株主総会参考書類・事業報告・計算書類などを掲載し、株主にそのURLを書面で通知する制度です。電子提供措置は、総会日の3週間前または招集通知発送日のいずれか早い日から開始する必要があります。
紙の招集通知に慣れていた企業担当者は特に注意が必要です。電子化された世界では、ウェブ掲載のタイミングと書面送付のタイミングの両方を管理しなければなりません。一方で、株主からの請求があった場合には、電子提供事項を記載した書面を交付する義務もあります。つまり「完全ペーパーレス」にはならないということが条件です。
招集通知の発送漏れが多数に及ぶ場合は「決議の不存在」とみなされるリスクもあります。最高裁判例では、株主の数として3分の2、株式の数として約4割に対して招集通知を欠いた事例で、決議の不存在が認定されています。これは非常に大きな法的リスクです。
参考:招集手続の違反事例と決議取消リスクを詳しく解説した弁護士解説コラムです。
コラム「株主総会の招集手続と欠缺がある場合の争い方」| 結の杜総合法律事務所
当日の議事進行は、事前に作り込んだシナリオに沿って動かすのが鉄則です。一般的な進行の流れは「議長就任 → 開会宣言 → 出席株主数・議決権数の報告 → 総会成立の確認 → 監査報告 → 事業報告と質疑応答 → 各議案の上程・採決・決議 → 閉会宣言」という順序になります。議長は通常、定款の定めや取締役会の決議によって社長や会長が務めます。
質疑応答の場面は、総会運営で最も緊張感の高い場面です。株主から鋭い質問が飛んできた場合に、取締役が言葉に詰まったり、役員間で食い違う回答をしてしまうと、会社の信頼を大きく損ないます。これを防ぐのが「想定問答集」です。
想定問答集の作成では、前年の質問内容・SNSやメディアの報道・業績の増減・役員報酬・ESG関連など、株主が関心を持ちそうなテーマを幅広く洗い出します。2025年の総会シーズンでは、株主提案のあった企業が過去最多の111社に上り、アクティビスト(物言う株主)への対応が急務となっています。これは使えそうです。
想定問答集は、回答者(取締役・監査役など)ごとに担当を割り振り、齟齬のない一貫した説明ができるよう事前に共有・確認します。リハーサルは最低でも1回、できれば本番の1週間前と前日の2回実施するのがベストです。
質疑応答で注意すべき点が1つあります。会社法第314条は、株主から特定事項についての説明を求められた場合に取締役等が回答する「説明義務」を定めています。この義務に違反した場合も、決議取消事由になりえます。ただし、「株主の共同の利益を著しく害する場合」などは拒絶が認められます。説明拒否には法的根拠が条件です。
参考:株主総会の議事進行・想定問答・議事録作成の総合的な実務解説ページです。
株主総会とは?目的と種類、進行方法、成功のポイントを解説 | 万葉
株主総会が終わったあと、担当者が最初にすべきことは「議事録の作成」です。会社法第318条第1項は、株主総会の議事について「法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない」と明記しています。これは義務であり、作成しない・備え置かないと100万円以下の過料が取締役等個人に科される可能性があります(会社法第976条)。
議事録の主な記載事項は次の通りです。①開催日時・場所、②議事の経過の要領とその結果、③述べられた意見・発言の概要、④出席した取締役・監査役等の氏名、⑤議長の氏名、⑥議事録作成者の氏名などが含まれます。採決方法(挙手・起立・投票)や賛否の数についても、後日の紛争予防のため記録しておくことが実務では強く推奨されています。
保存期間にも厳しいルールがあります。株主総会議事録は「本店に10年間」、支店には「写しを5年間」備え置く義務があります(会社法第318条第2・3項)。この議事録は株主・会社債権者からの閲覧・謄写請求にも対応しなければならず、正当な理由なく拒否すると法的責任を負います。10年間の保存が基本です。
議事録の電子化については、電子データで作成し支店においてデータを閲覧できる状態にあれば、支店における紙の写しの備え置きは不要とされています。クラウド上での保管も法令上は認められますが、改ざん防止の仕組みを整えておく必要があります。
実務上でよくある落とし穴は「役員の重任登記忘れ」です。株主総会で役員の再任(重任)を決議したら、決議日から2週間以内に変更登記を行う義務があります。これを怠ると「登記懈怠(とうきけたい)」として、代表者個人に100万円以下の過料が科されます。過料の実績は放置期間にもよりますが、数万円〜10万円超のケースも報告されています。過料は会社の経費にできないため、代表者個人の痛い出費になります。
| 書類の種類 | 保存場所 | 保存期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 株主総会議事録(原本) | 本店 | 10年間 | 株主・債権者の閲覧請求対応必須 |
| 株主総会議事録(写し) | 支店 | 5年間 | 電子データ閲覧可能なら不要 |
| 議決権行使書・委任状 | 本店 | 3か月 | 閲覧・謄写対応必須 |
参考:株主総会議事録の作成義務・備置義務・閲覧請求について詳しく解説したページです。
株主総会議事録作成義務違反リスク | 小林裕彦法律事務所コラム
株主総会のデジタル化は、ここ数年で急速に進んでいます。2025年の集計では、上場企業のうちバーチャル株主総会(ライブ配信含む)を実施した企業は340社(23.5%)に達しました(全株懇調査)。特にプライム上場企業での実施率は市場全体より7〜8ポイント高く、ガバナンス改革の観点からも採用が広がっています。
バーチャル総会には2つの形態があります。「ハイブリッド参加型」は実際の会場に加えてオンラインからも視聴・質問ができる形式で、導入しやすく最も普及しています。「バーチャルオンリー型」は完全オンラインで会場を設けない形式で、経済産業省の大臣確認と定款変更が必要なため手続きは煩雑ですが、2025年には65社が実施しています。
バーチャル総会の最大のメリットは、遠隔地に住む株主や海外投資家の参加を促進できる点です。会場費・運営スタッフの人件費削減にもつながります。一方で通信障害が発生した場合、決議取消リスクが生じる可能性もあるため、万全のバックアップ体制が求められます。対策なしでのオンリー型導入は危険です。
議決権行使の電子化も急速に進んでいます。信託協会の調査(2025年11月)では、議決権が行使された株主のうち65.3%が電子(インターネット・スマートフォン等)での行使を選んでいます。一方、個人株主全体の議決権行使率(株主数ベース)は38.7%にとどまっており(2024年7月〜2025年6月)、行使しない個人株主が6割以上いるのが現状です。
個人株主の行使率を高めるには、招集通知のデザインをわかりやすくする、QRコードで投票サイトに即座にアクセスできるようにする、議決権行使にポイントを付与する施策(ブルームバーグ2025年報道)など、各社が工夫を競っています。株主エンゲージメントの向上は、長期安定株主の育成にも直結します。これは大きなメリットです。
参考:バーチャル総会・電子議決権行使の最新動向と導入事例を詳しくまとめたJPXのレポートです。
2025年3月期決算会社の定時株主総会の動向について | 日本取引所グループ(JPX)