

知らないと提案機会を逃すかもしれません。
「株主提案権を使うには、最低でも発行済株式の1%を持っていないとダメ」と思っているあなた、実は300単元(約30,000株)あれば1%未満でも提案できます。
株主提案権とは、一定の要件を満たす株主が、会社が招集する株主総会において議題または議案を提案できる権利のことです。会社法第303条・第304条・第305条によって定められており、経営に参加する権利である「共益権」の一つとして位置づけられています。
この権利が生まれた背景には、株主総会の活性化という目的がありました。昭和56(1981)年に会社法(当時の商法)に導入されて以来、株主が経営に対して声を上げるための重要な手段として機能してきました。しかし2000年代以降、一部の株主による濫用的な行使が問題視されるようになり、2019年(令和元年)の会社法改正で制約が加えられました。
株主提案権は、大きく3つの権利で構成されています。
| 権利の種類 | 概要 | 行使タイミング |
|---|---|---|
| ①議題提案権(会社法303条) | 株主総会の目的事項(議題)の追加を請求する権利 | 総会日の8週間前まで |
| ②議案の要領通知請求権(会社法305条) | 提出議案の要旨を招集通知に掲載するよう求める権利 | 総会日の8週間前まで |
| ③議案提案権(会社法304条) | 総会の会場で直接議案(修正動議)を提出する権利 | 総会当日 |
特に注目したいのが③の議案提案権(修正動議)です。この権利は、議決権を持つすべての株主に認められており、特別な持株要件も保有期間の要件もありません。株主総会の会場でその場で発動できるという点で、①②とは性質が異なります。
つまり原則です。持株要件が厳しく適用されるのは①と②のみ、という点を押さえておきましょう。
公開会社(取締役会設置会社)において、議題提案権と議案の要領通知請求権を行使するための要件は明確に定まっています。会社法第303条第2項・第305条第1項により、次の2つの条件を同時に満たす必要があります。
- 持株要件:総株主の議決権の100分の1(1%)以上、または300個以上の議決権を保有していること
- 保有継続要件:上記の株式を、提案日の6か月前から引き続き保有していること
この「1%以上または300個以上」という要件はOR条件です。たとえば議決権総数が1,000万個ある大企業であれば、1%を満たすには議決権10万個が必要になります。一方で300個という条件は1単元=1議決権の場合、300単元(通常は1単元100株なので3万株)で達成できます。
大企業株主にとって300個要件は有利に働くということです。
ただし定款で要件を引き下げることも認められており(会社法303条2項ただし書)、たとえば0.5%以上や200個以上といった緩やかな条件を会社が自主的に設定することも可能です。また複数の株主が議決権を合算して要件を充足する場合には、共同提案として行使することも認められています。
持株要件と保有継続要件を両方満たしてはじめて提案できます。
非公開会社(取締役会設置・株式譲渡制限会社)の場合は、6か月継続保有の要件が不要になります。保有継続要件がない分、タイムラグなく提案が可能です。さらに取締役会を設置していない会社では、持株要件そのものが課されず、1株保有の株主でも議題・議案を提案できます。
持株要件を満たしていても、手続きの流れを誤ると提案が無効になります。議題提案権と議案の要領通知請求権を行使するためには、株主総会の日の8週間前までに会社(代表取締役)に対して書面等で請求を行う必要があります(会社法303条2項・305条1項)。
8週間という期間のカウント方法にも注意が必要です。行使日と総会当日はともに算入せず、その間に丸8週間が確保されていなければなりません。たとえば総会が6月27日(金)に開催される場合、8週間前は5月2日(金)ですが、行使日は5月1日(木)以前でなければならない計算になります。
期限が条件です。
提出先については、会社の株式取扱規則等で書面提出が義務づけられているケースがあります。電子メールや口頭での通知だけでは不十分な場合もあるため、提案前に自社の株式取扱規則を必ず確認することが実務上の重要なステップです。
また書面投票制度または電子投票制度を採用している会社に対しては、議題の追加だけでなく具体的な議案の内容も同時に提出しなければなりません。議題だけを提案しても、議案が伴わなければ招集通知への記載が認められないケースがあります。
提案の際は議題と議案をセットで準備することをおすすめします。
2021年3月1日に施行された改正会社法(令和元年会社法改正)において、株主提案権に関する重要な変更が加えられました。一株主が同一の株主総会に提出できる議案の数が、最大10個に制限されました(会社法第305条第4項)。
この改正の背景には、2012年から2019年にかけて相次いだ濫用的な提案事例があります。特に某企業では、1人の株主から100件を超える議案が提出され、招集通知が膨大なボリュームとなって他の株主への情報提供が形骸化するという問題が起きました。そうした実態を受け、1株主あたり10個という上限が設けられました。
10個が上限、という点を忘れると対応が遅れます。
また10個を超える議案が提出された場合、どの議案を総会に上程するかの優先順位は、株主が自ら設定することが認められています。優先順位を定めていない場合には、取締役(会)側が議案を選択することができるとされており(会社法305条5項)、提案株主の意図しない議案が外される可能性があります。
さらに複数の株主が共同で議案要領通知請求権を行使した場合でも、共同提案全体の議案の合計が10個を超えることはできません。株主A・B・Cが共同で権利行使した場合も、3人合わせて最大10個という制限が課されます。
会社は適法な株主提案を原則として拒否できませんが、一定の事由に該当する場合には、会社側で提案を取り上げない、すなわち拒絶することが認められています(会社法305条6項)。
① 法令・定款違反の場合
提案された議案の内容が会社法その他の法令や、定款の規定に反する場合は、取り上げ不要とされます。たとえば会社法上認められていない内容の定款変更案や、役員の任期を法定上限を超えて設定する議案などが該当します。
② 実質的に同一の議案が否決されてから3年未満の場合
過去3年以内の株主総会において、実質的に同一の議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られずに否決されていた場合、再度同様の提案があっても会社は取り上げを拒否できます(泡沫提案制限)。
10分の1という数字が条件です。
③ 権利濫用に該当する場合
一般原則として、権利行使が自己もしくは第三者の不正な利益を図ることを目的とするもの、または会社に損害を加えることだけを目的とするものは権利濫用として許されません。ただしこの判断基準の明確化については、現在も改正議論が続いています。
これらの拒絶事由に該当しない提案を会社が無視した場合には、会社および取締役に対して100万円以下の過料や損害賠償請求のリスクが生じます。
慎重な判断が求められるところです。
株主提案を拒否した場合のリスク詳細(BusinessLawyers)
株主提案権を理解するうえで混同されがちなのが、「議題」と「議案」の違いです。この2つは法律上明確に区別されており、どちらを提案するかによって行使する権利の種類も変わります。
議題とは株主総会の「お題目」に相当するものです。「取締役の選任の件」「定款一部変更の件」「剰余金の処分の件」のように、何について話し合うかを示す目的事項を指します。
議案とは議題に対する具体的な提案内容です。「定款第〇条を次のように変更する」「A氏を取締役に選任する」のように、実際に決議を求める内容を指します。
簡単に言うと「議題=話し合うテーマ」「議案=具体的な答え」です。
書面投票制度や電子投票制度を採用している会社では、招集通知に記載するためには「議題」と「議案」が両方セットで提案されていることが求められます。議題のみを提案して議案を示さなかった場合、招集通知への記載義務が発生しないケースがあります。
また議案を総会当日に動議として提出する「議案提案権」(修正動議)については、事前通知は不要です。ただし突然の提案は他の株主への情報提供が行われていないため、賛成を得にくい現実があります。影響力を高めるためには事前の議案通知請求権を活用するほうが実効的です。
「株主提案権を得るためにどれだけ株を保有すれば良いのか」という点は、金融に興味がある個人投資家にとって最もリアルな疑問のひとつです。ここでは実際に必要な株数と金額の目安を整理します。
まず「300個の議決権」というのは、1単元=1議決権の場合、300単元を意味します。日本の上場企業の多くは1単元を100株としているため、300単元=30,000株(3万株)が必要になる計算です。
これはなかなかの規模です。
たとえば株価500円の銘柄であれば、30,000株×500円=1,500万円の投資が必要になります。株価が2,000円の銘柄であれば6,000万円が必要です。一方、1%要件の場合は企業規模によって大きく変わります。時価総額10億円規模の中小型上場企業なら、1%は1,000万円分程度で達成できることもあります。
近年は投資単位の引き下げ(1株単位など)が進む企業も出てきており、こうした企業では300株保有で議決権300個を達成できるケースも増えています。経済産業省・関西経済連合会・経団連は、この「300個要件」が実質的に低コスト化しており濫用的な提案の温床になっているとして、300個要件の廃止または引き上げを提言しています(2025年12月時点)。
大和総研「株主提案権制度の改正提言相次ぐ」(2025年3月)
株主提案権の活用件数は、日本でも急増しています。2025年6月の株主総会シーズンでは、三井住友信託銀行のまとめによると、株主提案が出された会社は114社・399議案にのぼり、過去最多を更新しました。10年前の2015年と比べると提案数は2倍以上に増加しています。
増え続けています。
増加の背景には複数の要因があります。まずアクティビスト投資家(物言う株主)の台頭です。国内外の機関投資家が、増配・自己株取得・取締役人事・ESG対応などをテーマとした提案を積極的に行うようになりました。2025年6月総会では、全提案のうち機関投資家等による提案が137件(52社分)を占めています。
次に個人投資家による提案も増加しています。2021年時点では個人提案は4社・6議案にすぎませんでしたが、2025年6月総会では25社・61議案と、4年で約10倍に増えました。SNSや株主コミュニティの普及により、提案手続きの情報が個人にも行き渡るようになった影響が大きいといえます。
これは注目の動きです。
一方で可決率は依然として低水準にあります。会社側・主要機関投資家の反対票により、大多数の株主提案は否決されます。2025年6月総会では398件の提案のうち可決されたのは7社程度にとどまります。提案が可決されるためには、他の株主(特に議決権行使に影響力のある機関投資家)の賛同を得る必要があります。
日本経済新聞「株主提案とは 114社・399議案で過去最多に」(2025年)
現行の株主提案権の要件については、2025年に経団連・経済産業省・関西経済連合会など複数の組織が相次いで改正提言を行っています。議論の焦点は「300個要件の廃止または引き上げ」です。
現在の300個要件(=300単元の株式保有)は、過去と比べて実質的なハードルが大幅に下がっています。過去10年間で株式投資単位の引き下げが進んだことに加え、株価の上昇局面でも300単元という「個数」は変わらないため、相対的に取得コストが下がっているのです。
厳しくなる可能性があります。
経団連は2025年12月の提言において、300個要件を廃止し、議決権比率(1%)のみに統一すべきとの立場を示しました。一方、経済産業省の検討会では、投資金額ベースの要件(例:100万円以上の株式保有)や、複数株主の連名による合算要件の見直しなども選択肢として俎上に上がっています。
将来的に要件が厳格化されれば、現在の300個要件で提案を検討している個人投資家やアクティビスト投資家には影響が出る可能性があります。制度変更の動向を追うためには、法務省・経済産業省のパブリックコメントや会社法研究会の議事録を定期的にチェックしておくことが有効です。
企業法務ナビ「要件の厳格化を経団連が提言、株主提案について」(2025年12月)
適法な株主提案権の行使を会社側が無視した場合、法的に深刻なリスクが会社と取締役に生じます。まず会社法上の過料(行政罰)として、取締役に100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法976条各号)。
100万円は重い出費です。
それだけではありません。提案株主から株主総会決議取消訴訟(会社法831条)を提起される可能性もあります。取消しが認められると、その総会で行われたすべての決議が無効となりかねません。すでに選任された取締役の地位や可決した定款変更の効力も問われる事態になります。
さらに適法な株主提案を拒絶したことで提案株主に損害が生じた場合、会社および取締役に対する損害賠償請求(民法709条・会社法429条)も理論上は可能です。実務上は、拒絶の判断を慎重に取締役会で議論し、記録として残すことが重要です。
逆に会社が適法性に疑義のある提案をそのまま取り上げてしまった場合も、他の株主から「なぜ違法な提案を掲載したのか」と批判されるリスクがあります。適法性の判断が難しいケースでは弁護士等の専門家に相談することが条件です。
ここまで述べてきたのは、主に提案する側(株主)の視点でした。しかし金融に興味がある個人投資家にとっては、「株主提案権が行使された企業」を投資の目線で分析するという視点も非常に重要です。
株主提案が出ている企業はシグナルを発しています。
アクティビスト投資家が特定の企業に株主提案を行う背景には、多くの場合「株価が割安に放置されている」「内部留保が過剰」「経営陣の規律が問われる」といった評価が存在します。つまり株主提案の提出先企業リストは、アクティビストが注目している割安・課題企業の候補リストと読み替えることができます。
2025年6月総会では、日本製鉄・フジ・メディアHDなどで株主提案が相次ぎました。株主提案の内容(増配・取締役選任・定款変更など)を確認することで、企業の財務体質や経営方針を深掘りするきっかけになります。
会社の適時開示情報(TDnet)では株主提案の内容と会社側の意見が開示されます。これを定期的にモニタリングするだけでも、銘柄選定の参考となる情報が手に入ります。東京証券取引所のTDnet(適時開示情報閲覧サービス)は無料で利用でき、キーワード検索で株主提案関連の開示を一覧で確認できます。
ここまでの内容を整理すると、株主提案権の要件は会社の種類によって大きく異なります。
| 会社の種類 | 持株要件 | 保有継続要件 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 公開会社(取締役会設置) | 議決権1%以上 または 300個以上 | 6か月以上継続 | 総会日の8週間前まで |
| 非公開会社(取締役会設置) | 議決権1%以上 または 300個以上 | 不要 | 総会日の8週間前まで |
| 取締役会非設置会社 | 1株でもOK | 不要 | 総会日の8週間前まで |
さらに議案の上限についても再確認しておきましょう。いずれの会社形態でも、1株主が議案要領通知請求権を行使して提案できる議案数は最大10個です。複数株主の共同行使でも合計10個が上限です。
上限10個が原則です。
また定款による要件緩和も認められています。定款で持株要件を「0.5%以上または200個以上」のように引き下げた場合には、その緩和された要件が適用されます。自分が提案を考えている企業の定款を確認するひと手間が、実際の手続きでつまずかないためのポイントになります。定款は会社の公式ウェブサイトや法務局の登記情報から確認可能です。