スクイーズアウトの確定申告と20万円以下の落とし穴

スクイーズアウトの確定申告と20万円以下の落とし穴

スクイーズアウトの確定申告で20万円以下でも注意が必要な理由

20万円以下の利益なら確定申告しなくても税務署に怒られないと思っていると、住民税の追徴課税で損をします。


この記事の3つのポイント
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スクイーズアウトは「非上場株式の譲渡」扱い

NISA・特定口座で保有していた株でも、上場廃止後のスクイーズアウト時点で口座から払い出されるため、特定口座・NISA口座内の取引として扱われず、原則として確定申告が必要になります。

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20万円以下でも住民税の申告義務は残る

所得税の「20万円以下申告不要ルール」は住民税には適用されません。譲渡益がたとえ1万円でも、住民税(税率5%)の申告義務が別途発生するケースがあります。

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損益通算・繰越控除が使えない

スクイーズアウトによる譲渡損失は、上場株式の売却益や配当と損益通算できず、翌年以降3年間の繰越控除も認められていません。他の株式損益と相殺できないので注意が必要です。


スクイーズアウトとは何か・確定申告が絡む仕組み


スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、TOB(公開買付け)などを通じて大株主となった企業が、残った少数株主を強制的に会社から排除する手続きのことです。別名「キャッシュアウト」とも呼ばれ、少数株主には現金が交付されます。主な実施方法として、株式併合・株式等売渡請求全部取得条項付種類株式の3種類があり、近年のMBO(マネジメント・バイアウト)や大型M&Aではほぼ必ず使われる手続きです。


ここで重要なのは、スクイーズアウトが行われる時点では株式がすでに上場廃止になっているという点です。つまり税務上は「非上場株式の譲渡」として扱われます。


上場株式の売却と混同しがちですね。しかし扱いはまったく別物です。


上場株式の売買であれば、特定口座(源泉徴収あり)を利用していれば自動的に税金が引かれ、確定申告は原則不要です。しかしスクイーズアウトの場合、特定口座やNISA口座で株を保有していても、上場廃止と同時にその口座から「払い出し」が行われるため、特定口座・NISA口座内の取引としてはカウントされません。


これが基本です。


具体的な流れを整理すると以下のとおりです。
























フェーズ 状況 税務上の扱い
TOB期間中に応じる 上場中の取引 上場株式の譲渡(特定口座対応可)
上場廃止前に市場で売却 上場中の取引 上場株式の譲渡(特定口座対応可)
スクイーズアウトで金銭交付 上場廃止後の取引 非上場株式の譲渡(原則:確定申告必要)


TOBに応じた場合と、スクイーズアウトまで待った場合では税務処理がまったく違います。スクイーズアウトまで保有し続けた投資家は、自分で確定申告の手続きを行う必要があることを覚えておけばOKです。


参考:野村證券が公開するTOB後の比較表(確定申告の要否・損益通算の可否がわかりやすく整理されています)
TOB(公開買付け)発生後の流れ・お手続き比較表 - 野村證券


スクイーズアウトの確定申告で20万円以下が「不要」になる条件

結論から言うと、20万円ルールが適用されるには、かなり限定的な条件を満たす必要があります。


給与所得者(給与収入が2,000万円以下)」で、かつ「1か所からのみ給与を受け取っており、年末調整が済んでいる」方が対象です。そのうえで、スクイーズアウトによる譲渡益を含む「給与・退職所得以外の所得の合計」が年間20万円以下であることが条件となります。


条件が揃って初めて20万円以下は不要です。


重要な補足が2つあります。まず、医療費控除ふるさと納税(寄附金控除)などで確定申告をする予定がある場合は、たとえ20万円以下であっても、スクイーズアウトの譲渡益もまとめて申告に含める必要があります。申告書に記載する以上、20万円以下だからといって省略できません。


もう一つは、給与所得者でない方(専業主婦・フリーランス年金受給者など)の扱いです。給与所得のない方には「20万円以下申告不要ルール」はそもそも適用されません。こうした方は、48万円の基礎控除枠と比較する別のルールが適用されます。


厳しいところですね。


以下に、「20万円以下でも申告が必要なケース」を整理します。



  • ✅ ふるさと納税や医療費控除など、別の理由で確定申告を行う場合

  • ✅ 給与収入が2,000万円を超えている場合

  • ✅ 2か所以上から給与を受け取っている場合

  • ✅ 給与所得者ではない(専業主婦・フリーランス・年金受給者)場合

  • ✅ 住民税の申告義務(所得税とは別)が残る場合


逆に言えば、1か所勤務・年末調整済み・給与収入2,000万円以下・他に別途確定申告の理由がない、という方のみが「20万円以下は所得税の確定申告不要」となります。これが原則です。


参考:国税庁の「確定申告が必要な方」のページ(給与所得者の申告不要条件が公式に解説されています)
確定申告が必要な方 - 国税庁


スクイーズアウトの確定申告で見落とされがちな住民税の申告義務

「利益が20万円以下だから何もしなくていい」と安心している投資家が見落としやすいのが、住民税の申告義務です。


所得税の「20万円以下申告不要ルール」は、あくまでも所得税(国税)に限った話です。市区町村に納める住民税(地方税)には、このような特例措置は存在しません。


住民税は別ルールです。


つまり、スクイーズアウトで得た利益が10万円や5万円といった少額であっても、住民税については原則として申告が必要になります。住民税の税率は一律5%ですので、たとえば10万円の利益であれば5,000円の住民税が発生します。これを申告しないと、後から自治体の調査が入るリスクがあります。


ただし、所得税の確定申告書を提出した場合はその情報が税務署から自動的に市区町村へ共有されるため、別途住民税の申告書を出す必要はありません。問題になるのは「所得税の確定申告は不要だったが、住民税の申告は必要だった」というパターンです。


意外ですね。


このケースで申告を怠ると、税務調査や追徴課税のリスクが生じます。実際に「20万円以下ルールで確定申告しなかったが、後から住民税の未申告を指摘された」という事例は少なくありません。特定口座(源泉徴収あり)の場合は自動で処理されますが、スクイーズアウトはその対象外なのでご注意ください。


住民税の申告は、通常3月15日(確定申告の期限と同じ)までに居住地の市区町村窓口または各自治体のオンライン窓口で行います。確認する先は、お住まいの市区町村役場の税務担当窓口が一般的です。


参考:「株は確定申告が必要?20万円未満なら納税不要になるって本当?」(住民税の申告義務について分かりやすく解説されています)
株は確定申告が必要?20万円未満なら納税不要になるって本当? - 三菱UFJ eスマート証券


スクイーズアウトの確定申告で損益通算・繰越控除ができない落とし穴

スクイーズアウトで生じた損失を、他の株式の利益と相殺しようとしている方には、大きな落とし穴があります。


非上場株式の譲渡として扱われるスクイーズアウトの損益は、上場株式等・公社債等の譲渡損益や配当所得とは損益通算できません。また、損失が出た場合でも、翌年以降3年間にわたって損失を繰り越す「繰越控除」も認められていません。これは痛いですね。


例を挙げてみましょう。ある投資家が特定口座(源泉徴収あり)でA社株を50万円の利益で売却し、一方でB社株はTOBに応じず上場廃止→スクイーズアウトで20万円の損失が出たとします。この場合、A社の利益50万円とB社の損失20万円は相殺できず、A社の利益50万円に対して20.315%の税金(約10万円)が通常通りかかります。スクイーズアウトによる20万円の損失は「なかったこと」になってしまうわけです。


これは知らないと損する情報です。


なぜこのような扱いになるかというと、上場廃止後の株式は「非上場株式」として分類され、上場株式等とは別のグループで課税されるためです。上場株式等のグループには、上場株式・公募投資信託・公社債など多数が含まれ、これらの間では損益通算が可能です。しかし非上場株式グループとの間では、原則として損益通算は認められていません。


なお、NISA口座から払い出された場合はさらに注意が必要です。NISA口座から払い出された時点での終値(最終売買日の終値)が取得価額とみなされ、その価格とスクイーズアウトの交付金額との差額が譲渡損益として計算されます。そのため、NISA口座での運用益がどれだけ出ていても、払い出し後の差額のみで損益が計算されます。


つまり損益通算と繰越控除は最初から諦める必要があります。


この点は業界内でも問題視されており、日本証券業協会は「スクイーズアウト前まで上場株式だったのに、手続き後に非上場株式扱いとなり損益通算できないのは不利益が大きい」として、税制の適正化を要望した経緯があります。現時点では制度改正には至っていないため、投資家自身が知識として把握しておく必要があります。


参考:SMBC日興証券のスクイーズアウトに関するFAQ(損益通算・繰越控除不可の根拠が明記されています)
スクイーズアウトにより上場廃止後に金銭交付を受けた場合の確定申告 - SMBC日興証券


スクイーズアウトの確定申告の書き方・申告書の作成手順

実際にスクイーズアウトが発生した場合、どのように確定申告すればよいか、手順を確認しておきましょう。


まず申告書の種類ですが、「確定申告書(第三表:分離課税用)」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」が必要です。所得の種類としては「一般株式等に係る譲渡所得等」に該当します。これが基本です。



  • 📄 譲渡収入金額:スクイーズアウトで受け取った金銭交付額(株数 × 交付単価)

  • 📄 取得費:元々その株式を購入したときの取得単価 × 株数(証券会社の取引報告書等で確認)

  • 📄 譲渡費用:売却時にかかった手数料等(スクイーズアウトでは通常0円)

  • 📄 譲渡所得:譲渡収入金額 - 取得費 - 譲渡費用


取得価額が不明な場合は概算取得費(売却代金の5%相当額)を使うことが認められています。ただし、大半のケースでは納税者にとって不利になるため、できる限り実際の購入価格を確認することをお勧めします。証券会社の年間取引報告書や、証券会社のマイページに残っている取引履歴から確認できることがほとんどです。


計算自体はシンプルです。


税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の申告分離課税です。国税庁の「確定申告書等作成コーナー(e-Tax)」を使えばオンラインで申告書の作成と送信が完結します。スクイーズアウトの金銭交付通知書(対象会社または信託銀行から郵送されます)を手元に用意してから作業を始めましょう。


一般的に上場廃止から金銭交付まで数か月かかります。交付が年度をまたぐ場合は、交付を受けた年(実際に金銭が交付された年)の所得として申告する点にも注意が必要です。たとえば上場廃止が2024年12月でも、金銭交付が2025年3月であれば、2025年分(翌年の確定申告)での申告になります。


申告が必要かどうか迷った場合は、所轄の税務署(電話相談センター:0570-00-5901)や、税理士への単発相談を活用するのが確実です。確定申告ソフトのfreeeやマネーフォワードクラウド確定申告でも、非上場株式の譲渡所得を入力する機能があります。メモするだけで済むので、まず交付通知書を保管しておくことが最初の一歩です。


参考:弥生税理士相談でのスクイーズアウト確定申告方法の解説(申告書の入力項目や計算方法が具体的に説明されています)
確定申告時の申告方法について(スクイーズアウト)- 弥生のかんたん税理士相談


参考:国税庁「令和6年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた」(公式の記載例付きで手続きを確認できます)
令和6年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた - 国税庁




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