

「小会社だから土地保有特定会社には絶対に関係ない」と思っているあなた、総資産5,000万円超でも判定対象になります。
非上場の同族会社を持つ事業オーナーや、相続・事業承継を考えている方にとって、自社の株式がどのように評価されるかは非常に重要なテーマです。その中でも「土地保有特定会社」という概念は、知っているかどうかで相続税額に数千万円単位の差が出ることがある、見逃せないポイントです。
土地保有特定会社とは、会社が保有する総資産のうち、土地などの価額が占める割合が一定以上に達した法人のことです。この割合を「土地保有割合」と呼び、相続税評価額ベースで計算します。帳簿上の取得原価ではなく、路線価などを使った相続税評価額で計算する点が大きな特徴であり、地価が上昇している地域に土地を持つ会社ほど、知らないうちにこの基準をオーバーしてしまうリスクがあります。
この判定が問題になるのは、主に相続や贈与のタイミングです。課税時期(相続や贈与が起きた時点)において土地保有特定会社に該当していると判断された場合、株式の評価方法が大きく制限されます。具体的には、節税効果が高いとされる「類似業種比準価額方式」が使えなくなり、「純資産価額方式」のみで評価することになります。これが株価を大幅に押し上げる原因になります。
重要なのは、土地保有割合の判定に含まれる資産の範囲が意外なほど広いという点です。
| 含まれる資産 | 具体例 |
|---|---|
| 自社所有の土地 | 工場用地・倉庫敷地・社屋敷地など |
| 借地権・地上権 | 他人の土地を借りて建物を建てている場合など |
| 貸宅地・貸家建付地 | 第三者に貸している土地 |
| 棚卸資産としての土地 | 不動産業者が販売目的で保有している土地 |
これらはすべて、所有目的や所有期間を問わず判定対象です。つまり「販売用に仕入れただけの土地」や「借地権として保有している土地」も計算に含まれます。一方で、建物や構築物は含まれない点も覚えておきましょう。これが原則です。
(特定の評価会社の株式)|国税庁 財産評価基本通達189条:土地保有特定会社の具体的な判定規定が確認できます
土地保有特定会社の判定で押さえておくべき核心は、会社規模によって基準となる割合が異なるという点です。ここを誤解していると、見落としが生じます。
会社規模は「大会社」「中会社」「小会社」の3区分に分けられ、業種・総資産規模・従業員数・年間取引金額をもとに判定します。それぞれの土地保有割合の基準は以下のとおりです。
| 会社区分 | 土地保有割合(相続税評価ベース) |
|---|---|
| 大会社 | 70%以上 |
| 中会社 | 90%以上 |
| 小会社(大会社規模の総資産あり) | 70%以上 |
| 小会社(中会社規模の総資産あり) | 90%以上 |
| 小会社(それ以外) | 対象外 |
中会社が大会社より基準が厳しい(90%以上)のは、中会社のほうが元々土地の保有割合が高い業種・規模が多いという実態を反映しているためです。
ここで見落とされやすいのが小会社の扱いです。「小会社だから関係ない」という思い込みは危険です。小会社の中でも、総資産の規模が大会社レベル・中会社レベルに達している会社は判定対象になります。具体的には、卸売業であれば総資産(簿価ベース)が7,000万円以上、その他業種では5,000万円以上になると中会社規模とみなされ、土地保有割合90%以上で土地保有特定会社に該当します。
厳しいところですね。不動産賃貸業で従業員が2〜3名しかいなくても、保有する土地の評価額が膨らめば、あっさりと判定対象になり得るのです。
また、もう一つの重要な注意点があります。会社規模の判定は帳簿価額ベースで行いますが、土地保有割合の計算は相続税評価額ベースで行います。この二段構えの計算が、実務上の混乱を招きやすい部分です。帳簿上は問題ないと思っていたのに、路線価で計算し直したら基準超過だった、というケースは少なくありません。
第1表の1 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書|国税庁:実際の会社規模判定に使用する様式が確認できます
土地保有特定会社に該当すると、株式の評価方法は純資産価額方式のみに限定されます。これが税負担に与える影響は、数字で見ると一目瞭然です。
通常の非上場会社の株式評価には、大きく分けて2つの方法があります。類似業種比準価額方式は、上場企業の株価データを参照しながら、評価会社の配当・利益・純資産の3要素を比較して算出する方法です。一方の純資産価額方式は、会社の全保有資産を相続税評価額で再評価し、負債を差し引いた純資産をもとに株価を算出します。
問題は、含み益がそのまま株価に反映される点にあります。たとえば、30年前に2,000万円で取得した土地が、現在の路線価で1億円に評価されていたとします。帳簿には2,000万円と記載されていますが、純資産価額方式では1億円で評価されます。この差額8,000万円の含み益が、まるごと株価に加算される形になります。
実務上の比較データを見ると、純資産価額方式での評価額は類似業種比準価額方式と比べて2倍以上高くなるケースが頻出します(参考:日弁連フロンティア)。規模が大きければ3倍以上になることもあります。これは株価が高ければ高いほど、相続税・贈与税の課税対象金額が増えることを意味します。
ただし、一つの例外があります。株式を取得した人物とその同族関係者が持つ議決権割合の合計が50%以下である場合、純資産価額の80%に減額して評価することができます。少数株主として受け取るケースでは、この20%ディスカウントが適用されます。また、同族株主以外の株主であれば、さらに評価が低い「配当還元方式」を使えます。これは覚えておくと得する知識です。
なお、純資産価額方式の計算では、含み益(相続税評価額と帳簿価額の差)に対して法人税等相当額(37%)を控除することができます。すべての含み益がそのまま株価になるわけではなく、この37%控除後の金額が株価に反映されます。
No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁:類似業種比準価額方式・純資産価額方式の計算方法と適用区分を解説
土地保有特定会社に該当することがわかると、次に考えるのは「どうすれば外れるか」という問題です。土地保有割合を下げる施策は「土地特外し(とちとくはずし)」と呼ばれ、いくつかの合法的な方法が存在します。
代表的な土地特外しの手法
- 🏗️ 借入金を使った建物の建て替え・新築:新しい建物は取得後3年間は時価(帳簿価額)で評価されるため、総資産に占める建物の割合が高まり、相対的に土地の割合が下がります。ただし、3年を過ぎると固定資産税評価額(低い評価額)に戻るため、一時的な効果にとどまる点に注意が必要です。
- 💴 土地以外の資産(設備・投資信託・現金等)の取得:総資産を増やすことで土地保有割合を分母から押し下げる方法です。事業実態に根ざした投資であれば有効です。
- 🏠 一部土地の売却と現金化・建物への組み替え:保有土地を売却して現金や建物などに変えることで、土地の絶対額を減らします。
一方、これらの対策には「税務否認」という重大なリスクが伴います。課税時期の前に合理的な理由なく資産構成を変動させ、土地保有特定会社の判定を逃れようとしたと認定された場合、「その変動はなかったものとして判定を行う」と財産評価基本通達189条に明記されています。
実際の事例では、金融機関から大口の借入れを行い、そのまま定期預金に預けて土地保有割合を下げようとしたケースが否認された事例が報告されています。借入金と定期預金が相殺され、実質的な資産の増加がないと判断されたからです。これはやってはいけない典型例です。
否認されないための条件として、以下の点が重要になります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 経済的合理性 | 第三者との間で市場価格での取引が成立している |
| 事業上の必要性 | 事業計画・稟議書・決裁記録などの書類が存在する |
| 継続的運用の実態 | 売却・取得後も実際に運用・使用している |
| 時間的余裕 | 相続・贈与の直前ではなく、十分な期間をおいて実施している |
税務否認リスクが怖いですね。対策を実行するなら、少なくとも2〜3年の余裕を持って、事業計画と連動した形で進めることが現実的な姿勢です。
土地保有特定会社と株価の評価方法を徹底解説|税理士法人トゥモローズ:否認リスクや実務上の注意点を含む専門的な解説が確認できます
ここ数年、特に都市圏での路線価上昇が続いており、以前は基準をクリアしていた会社が、知らないうちに土地保有特定会社に該当してしまうケースが増加しています。これは「無自覚な土地保有特定会社化」とも言える現象で、金融に関心のある方にこそ意識してほしいリスクです。
具体的なメカニズムを考えてみましょう。ある不動産賃貸会社が10年前に自社株評価を行ったとき、土地の割合は65%で大会社基準の70%をわずかに下回っていたとします。しかし路線価が毎年2〜3%ずつ上昇した結果、10年後の現在では同じ土地でも相続税評価額が20〜30%上がっています。帳簿上は何も変わっていないのに、路線価ベースの評価では土地保有割合が70%を超えてしまうという事態が起こります。
これがいわゆる「気づかないうちに該当」というパターンです。意外ですね。自分では何もしていないのに、外部環境(地価)の変動だけで判定区分が変わるのです。
さらに注意が必要なのは、長期保有の同族会社です。創業から数十年が経過した会社では、土地の帳簿価額(取得時のコスト)が非常に低く抑えられている一方で、実際の路線価ベースの評価額は数倍〜数十倍に膨らんでいるケースがあります。帳簿を見るだけでは、現実の土地保有割合がどのくらいなのかがわかりません。
対処法として有効なのは、年に一度、路線価をもとにした相続税評価額ベースの土地保有割合を試算するシミュレーションを行うことです。決算書の数字とは別に、現在の路線価で土地を再評価し、総資産に対する割合を計算します。国税庁の路線価図(財産評価基本通達の路線価マップ)を使えば、おおよその試算は自分でも可能です。
年に1回のチェックが基本です。ただし、判定に使う土地等の範囲(借地権・貸宅地なども含む)の把握や、会社規模の正確な判定は複雑な計算を伴うため、税理士への定期的な確認依頼が現実的な対策です。事業承継を5〜10年先に見据えているなら、早め早めの状況把握が重要になります。
土地保有特定会社から外れるには?|実践!事業承継・自社株対策:実際の相談事例をもとに「外れ方」の注意点が詳しく解説されています
土地保有特定会社の問題が最も深刻に影響するのは、事業承継の場面です。後継者に自社株式を移転する際、評価額が純資産価額方式でしか計算できないとなれば、相続税・贈与税の負担が想定外に膨らみ、スムーズな引き継ぎを妨げる大きな障壁になります。
通常の会社では、自社株評価を下げるために「役員退職金の支給」「高収益部門の分社化」「利益の圧縮」など多様な手段が使えます。しかし、土地保有特定会社では土地の時価がそのまま株価に反映されるため、こうした業績調整による評価引下げ策がほとんど機能しません。事業承継対策のコアとも言える「類似業種比準価額の引き下げ」ができないのです。これは痛いですね。
また、法人版事業承継税制(非上場株式の贈与税・相続税を猶予・免除する制度)を活用する場合にも、土地保有特定会社が「資産管理会社」に該当するケースでは、従業員5名以上・事務所の賃借または所有・3年以上の商品販売等の継続という「事業実態3要件」をすべて満たさないと適用できない場合があります。判定が複雑になるため、専門家との連携が必須です。
具体的な数字で影響を見てみましょう。ある中会社の自社株を例にとると、類似業種比準価額方式なら1株あたり3,400円で評価される株式が、純資産価額方式では7,400円以上になるケースがあります(実際の試算例:stgy-souzoku.com)。株式総数が10,000株であれば、評価額の差は4,000万円にのぼります。この差が相続税・贈与税の計算基礎になるため、税額換算では数百万〜数千万円規模の差が生じます。
結論は対策の早期着手です。土地保有特定会社に該当しているかどうかの確認、そして該当する場合の対策実行は、相続・贈与の少なくとも3〜5年前には始めておくことが理想的です。なぜなら、土地特外しの対策を急いで実行しても、課税直前の資産変動は否認されるリスクが高く、十分な準備期間がないと有効な手が打てなくなるからです。
事業承継の全体スケジュールを設計する際に活用できるサービスとして、税理士法人や事業承継専門のコンサルタントが提供する「事前シミュレーション」があります。土地の路線価評価・会社規模の判定・現在の株価試算・将来の承継コストのシミュレーションを一括して行うものです。まず現状の土地保有割合を計算することからスタートしましょう。
法人版事業承継税制|国税庁:猶予制度の適用要件と対象会社の条件が確認できます