

修正申告にサインした瞬間、あなたは二度と税務署に異議を言えなくなります。
税務調査の終盤、調査官から「申告に誤りがあります」と指摘を受けたとき、その後の流れは大きく2つに分かれます。納税者が指摘を受け入れて「修正申告」を行う場合と、納得できないとして修正申告を拒否し、税務署が職権で「更正処分」を行う場合です。
更正処分とは、所得税・法人税・消費税・相続税などの申告に誤りがあると税務署(課税庁)が判断したとき、税務署長が職権で税額を変更する行政処分です。国税通則法第24条に根拠があり、課税当局が一方的に課税額を確定させる強制力を持つ点が特徴です。更正には税額を増やす「増額更正処分」と、税額を減らす「減額更正処分」の2種類があります。
つまり「処分」という位置づけです。
修正申告は納税者が自発的に提出する書類であるのに対して、更正処分は行政庁が納税者に対して行う強制的な処分。この違いは、後述する「不服申立て」の権利に直結するため、金融関連の取引や投資を行う方にとって非常に重要な知識です。
更正処分が確定すると、不足税額に加えて以下のペナルティが課される可能性があります。
| ペナルティの種類 | 税率・概要 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 追加税額の10%(50万円超の部分は15%) |
| 重加算税(過少申告の場合) | 追加税額の35%(隠蔽・仮装があった場合) |
| 重加算税(無申告の場合) | 追加税額の40% |
| 延滞税 | 法定納期限翌日から2ヶ月:年2.4%、2ヶ月超:年8.7%(令和6年現在の特例基準割合に基づく) |
重加算税が適用されると、本税の35〜40%が上乗せになります。仮に100万円の申告漏れがあった場合、重加算税だけで35〜40万円が追加される計算になりますね。これは見過ごせない金額です。
国税庁:確定申告を間違えたときの修正申告・更正処分・加算税の仕組みについて(公式)
税務調査が実際に「更正処分」まで進む流れを知っておくと、いざというときに慌てずに対応できます。調査は大きく「事前通知」から始まり「調査終了」まで、おおよそ以下の段階を踏みます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①事前通知 | 税務署から調査日程・対象税目などの連絡が来る(原則として事前通知あり) |
| ②実地調査 | 調査官が帳簿・領収書・通帳などを確認(通常1〜2日) |
| ③調査結果の説明 | 誤りがあれば「この点が否認されます」と口頭で説明される |
| ④修正申告の勧奨 | 調査官から自主的な修正申告を促される(行政指導) |
| ⑤修正申告 or 更正処分 | 納得すれば修正申告、納得できなければ更正処分へ |
| ⑥更正処分通知書の送付 | 修正申告を拒否した場合、数ヶ月後に更正通知書が届く |
調査結果の説明を受けた段階では、まだ正式な処分は出ていません。これが重要なポイントです。
④の「修正申告の勧奨」は法律上あくまで行政指導であり、強制力はありません。行政手続法第32条第2項では「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と明記されています。つまり、修正申告を拒否したからといって、更正処分で不利な扱いをすることは法律上許されません。
これは使えそうです。
調査の対象期間は通常「直近3年分」ですが、申告漏れが発見された場合は5年分に拡大されます。さらに、隠蔽や仮装(意図的な不正)と認定されると、7年分まで遡及される可能性があります。5年と7年では追加徴税の総額が大きく変わるため、帳簿の管理状況は常に重要です。
金融や投資に関わる納税者が最も押さえておくべき違いは、「不服を言える権利があるかどうか」です。
修正申告と更正処分の最大の違いは次の一点に尽きます。修正申告は納税者が「自分の間違いを認めた」手続きであるため、提出後は原則として不服申立てができません。一方で更正処分は税務署からの処分であるため、納税者には処分の取り消しや変更を求める不服申立ての権利が法律上保障されます。
不服申立ては権利です。
| 比較項目 | 修正申告 | 更正処分 |
|---|---|---|
| 主体 | 納税者自身が提出 | 税務署長が職権で行う |
| 不服申立て | 原則として不可 | 可能(通知翌日から3ヶ月以内) |
| 法的性質 | 行政指導への対応(自発的) | 行政処分(強制) |
| 加算税の差 | 条件により軽減の可能性あり | 原則として加算税が課される |
「修正申告をするほうが加算税が軽くなる」という話を耳にした方もいるかもしれません。実際、調査前の自主的な修正申告には過少申告加算税が課されないケースがあります。しかし調査介入後の修正申告と更正処分では、加算税の税率に大きな差はなく、実質的に同水準です。
重要なのは「その指摘内容に本当に納得できるかどうか」です。納得できないまま修正申告に応じてしまうと、その後の異議申立てルートが閉ざされます。実際に調査官から強く勧められて「仕方なく」修正申告に応じた事例でも、後から「納得していなかった」と主張しても審査請求が認められないことがあります。慎重に判断することが条件です。
また見落とされがちなのが、修正申告をすると調査官が「苦労して作った更正処分の書類を書かなくて済む」という内情があることです。更正処分には税務署内の副署長・署長の決裁に加え、国税局国税訟務官の決裁まで必要になるため、調査官にとって非常に手間のかかる作業になります。指摘の内容に納得できない点がある場合、修正申告を急いで出す必要はありません。
税務調査対策の専門家・KACHIELによる修正申告と更正の相違点の詳細解説
更正処分の通知書が届いた後、納得できない場合に取れる手段は3段階あります。期限を逃すと権利が消えてしまうため、受け取った日から逆算してスケジュールを把握しておくことが不可欠です。
💡 不服申立ての3段階フロー
🗓️ 期限を絶対に忘れないための目安
注意が必要なのは、不服申立て中でも原則として税金は納め続けなければならないことです。「まだ争っているから払わない」は通用しません。差し押さえに発展するリスクもあるため、まず納税し、後から争うのが基本の流れです。
厳しいですね。
ただし、一度納付した税金については、不服申立てで認められた場合に還付されます。審査請求を通じて一部でも認められれば、過払い分が戻ってくる可能性があるため、明らかな不当処分の場合は費用対効果を税理士に確認した上で申立てを検討する価値があります。
更正処分は「調査のあとに受けるもの」というイメージがありますが、実は日常の記帳・申告管理の質によって、そのリスクを大きく下げることができます。投資収益や副業収入がある個人投資家・フリーランス・中小企業経営者には特に関係する内容です。
まず最も重要なのが「証拠能力のある帳簿の維持」です。税務調査で調査官が重点的に確認するのは、申告内容の裏付けとなる書類の存在です。領収書・通帳・契約書・請求書が5年分(不正が疑われると7年分)揃っているかどうかが、更正処分リスクの大小を左右します。
書類保存は最低5年が基本です。
次に見落とされがちなポイントが「調査前の自主点検」です。税務調査の事前通知を受けたら、1〜2週間の余裕を使って自己申告の内容と証拠書類の整合性を確認することが重要です。この段階で軽微な誤りを発見した場合、事前通知後かつ調査官による具体的指摘の前に修正申告を行うことで、過少申告加算税が原則10%から5%に軽減される場合があります。
また投資収益(株式・FX・不動産など)を申告している方には、調査官が特に着目しやすい項目があります。
更正処分リスクが高いと感じる場合の具体的な一歩は、税務調査対応の実績がある税理士へのセカンドオピニオン相談です。顧問税理士がすでにいる場合でも、税務調査専門の税理士に相談することは法律上まったく問題ありません。調査の初日から同席してもらうことで、不用意な発言による否認リスクを大きく下げることができます。