家内労働者等の必要経費の特例と節税・申告の全知識

家内労働者等の必要経費の特例と節税・申告の全知識

家内労働者等の必要経費の特例で知らないと損する節税の全知識

給与をもらいながら内職や在宅ワークをしているあなた、給与収入が年65万円を超えた瞬間に特例が丸ごと消えて税額が数万円跳ね上がります。


この記事の3つのポイント
💡
特例の基本

実際の経費が少なくても、最大65万円(令和7年分以降)を必要経費として認めてもらえる制度。所得税・住民税を大幅に軽減できる。

⚠️
使えない条件に要注意

給与収入が年65万円以上あると特例は一切適用できない。会社員が副業で内職をしている場合は原則対象外。

📋
令和7年改正の大きな変化

令和7年分から確定申告不要ラインが従来の103万円から160万円へ大幅引き上げ。扶養控除との関係も変わった。


家内労働者等の必要経費の特例とは何か・対象者と制度の概要

「家内労働者等の必要経費の特例」とは、租税特別措置法第27条に定められた制度です。事業所得または雑所得の計算では、通常は総収入金額から実際にかかった必要経費を引いて所得を計算します。しかし家内労働者等に該当する人は、実際の経費が少なくても最大65万円(令和7年分以降、令和2年分〜令和6年分は55万円)を必要経費として認めてもらえます。


これは何のための制度でしょうか? 会社員やパートタイム労働者には「給与所得控除」という概算控除が最低55万円(令和7年以降は65万円)保証されています。内職者や外交員など「家内労働者等」はこの恩恵を受けられないため、不公平にならないよう同等の控除が設けられた救済措置です。


つまり、給与所得控除との均衡が原則です。


対象者の範囲は意外と広く、以下が該当します。


種別 具体的な職種の例
家内労働法上の家内労働者 内職(縫製・組立など)
外交員 生命保険会社の営業職員、保険外交員
集金人 NHK・新聞・公共料金の集金担当者
電力量計の検針人 電気メーターの検針担当者
その他(継続的人的役務提供者) ヤクルトレディ、シルバー人材センター配分金受給者、ヤマハ音楽教室講師など


重要なのは「特定の者に対して継続的に人的役務を提供する人」という要件です。「特定の者」というのがキーワードで、不特定多数を相手にする自前の学習塾やフリーランスのウェブデザイナーなどは原則対象外になります。


一方で「特定の委託元1社から継続的に仕事を受けているクラウドワーカー」は認められる可能性があります。実際に厚生労働省のハンドブックでも、クラウドソーシングを通じた在宅ワーカーがこの特例の対象になり得るとの記載があります。ただし、複数の発注元から仕事を受けている場合や、不特定多数の顧客を対象とする場合は適用外になるケースが多いため注意が必要です。


なお、家族を雇用している場合や、物品販売を主目的とするセールスマンも「家内労働者等」には該当しません。


参考:家内労働者等の必要経費の特例(国税庁 タックスアンサー No.1810)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1810.htm


家内労働者等の必要経費の特例の計算方法・所得への具体的な影響

実際にどれだけ節税できるのか、数字で確認してみましょう。


所得の計算は「収入 ー 必要経費 = 所得金額」という流れで行われます。家内労働者等の特例を使えば、実際の経費が数万円しかない場合でも65万円が経費として認められます。


💡 具体的な計算例(令和7年分・特例65万円の場合)


条件 通常の計算 特例適用時の計算
年間収入:120万円、実際の経費:5万円 120万円 ー 5万円 = 115万円 120万円 ー 65万円 = 55万円
年間収入:200万円、実際の経費:20万円 200万円 ー 20万円 = 180万円 200万円 ー 65万円 = 135万円


上の例(年収120万円・経費5万円)の場合、所得が115万円から55万円へと60万円圧縮されます。所得税率5%・住民税率10%で計算すると、税負担の差は最大で9万円にもなります。所得が55万円まで下がれば、さらに基礎控除95万円(令和7年分・合計所得132万円以下の場合)を差し引いた結果、課税所得がゼロになるため、所得税が一切かからないケースもあります。


これは使えそうです。


ただし、ひとつ見落としがちな注意点があります。特例で認められる経費の上限は「収入金額が限度」です。たとえば年収が40万円しかない場合、最大65万円の特例があっても使えるのは40万円までです。収入を超えた経費計上はできません。収入金額が上限という点が条件です。


また、事業所得と雑所得の両方がある場合、特例の65万円はそれぞれ別々ではなく「合計で65万円まで」という扱いになります。差額はまず雑所得の経費に上乗せする計算方法が取られます。


参考:収支の考え方と計算書(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/1557_2.htm#a39


家内労働者等の必要経費の特例と給与収入がある場合の注意点・計算

ここが最も見落とされがちなポイントです。


家内労働者等の必要経費の特例には、給与収入との兼ね合いによる適用制限があります。ルールをひとことで言うと以下のとおりです。


  • ✅ 給与収入が年間65万円未満 → 特例が(部分的に)使える
  • ❌ 給与収入が年間65万円以上 → 特例は一切使えない(完全に適用外)


パートで月5万円強もらっているだけで特例はゼロになります。


なぜこうなるかというと、この特例は「給与所得控除(最低65万円)との均衡のために設けられた」ものだからです。給与収入が65万円以上であれば、給与所得控除の恩恵を十分受けていると見なされ、重複して特例を使う必要はないという考え方です。


給与収入が65万円未満の場合は、次の計算によって特例経費の額が決まります。


特例で認められる経費 =(65万円 ー 給与所得控除額)と実際の経費のうち高い方


たとえば給与収入が40万円の場合、給与所得控除は40万円(給与収入額がそのまま控除額になる)です。65万円 ー 40万円 = 25万円が特例で認められる経費の枠になります。実際の経費が10万円しかなければ「25万円」が適用されます。


会社員で副業として内職をしている人はほぼ使えない、と覚えておきましょう。


年収200万円・300万円の会社員は、当然ながら給与収入が65万円を大幅に超えているため、家内労働者等の必要経費の特例は受けられません。副業の内職収入に対しては、通常の確定申告で実際の経費を計上するだけになります。


参考:内職・在宅ワークの確定申告と必要経費の特例(マネーフォワード クラウド)
https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/53834/


家内労働者等の必要経費の特例と令和7年改正・160万円の壁・扶養控除への影響

令和7年度(2025年)の税制改正で、家内労働者等の特例をめぐる状況が大きく変わりました。この改正は「年収の壁」問題への対応として実施されたもので、影響範囲が非常に広い内容です。


改正の核心は以下の2点です。


  • 🔵 家内労働者等の特例の最低保障額:55万円 → 65万円に引き上げ
  • 🔵 基礎控除額:48万円 → 95万円に引き上げ(合計所得金額132万円以下の人)


この2つが合わさった結果、家内労働者等の特例のみで所得を得ている人の「確定申告不要ライン」が103万円から160万円へ一気に57万円も引き上げられました。


年度 必要経費の特例 基礎控除 申告不要ライン(合計)
令和6年分まで 55万円 48万円 103万円
令和7年分以降 65万円 95万円 160万円


令和7年分から、収入が160万円以下であれば所得税がかからず、確定申告も不要になります。


ただし、扶養控除配偶者控除との関係は複雑に変わっています。扶養される側の収入が一定額を超えると、扶養する側(夫など)が受けられる控除が減額・消滅するからです。


  • 📌 年間収入123万円以下:配偶者控除・扶養控除の対象(従来の103万円から引き上げ)
  • 📌 年間収入123万円超〜160万円以下配偶者特別控除(最大38万円)の対象。配偶者控除・扶養控除は対象外
  • 📌 年間収入160万円超:配偶者特別控除の控除額が段階的に縮小し、最終的に0円に


「160万円以下なら全部OK」とは言い切れません。123万円を超えた時点で扶養控除が外れ、扶養者側の税負担が増える可能性があります。扶養者の所得規模によって家族全体のトータル税負担が変わるため、123万円・160万円という2つのボーダーをしっかり把握しておくことが大切です。厳しいところですね。


なお、扶養者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除・配偶者特別控除はどちらも適用できません。これも見落とされやすいルールのひとつです。


参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し(国税庁)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm


家内労働者等の必要経費の特例と青色申告特別控除の併用で最大の節税効果を狙う独自視点

多くの解説記事が見落としているポイントがあります。それは、家内労働者等の必要経費の特例と青色申告特別控除は「同時に使える」という事実です。


この2つは全く別の制度です。


  • 家内労働者等の必要経費の特例(租税特別措置法第27条):経費の計算方法に関する特例
  • 青色申告特別控除(所得税法第57条の2):青色申告者に認められる所得控除


両者は根拠法が別々のため、双方の要件を満たせば重複して適用できます。これが原則です。


具体的には以下のような控除のスタックが可能です(令和7年分の数値・e-Tax申告の場合)。


控除の種類 控除額
家内労働者等の必要経費の特例 最大65万円
青色申告特別控除(e-Tax) 最大65万円
基礎控除(合計所得132万円以下) 95万円
合計の控除 最大225万円相当


青色申告特別控除と家内労働者等の特例を合わせると130万円を収入から差し引くことができ、そこに基礎控除95万円も加えると、理論上は年収225万円程度まで課税所得をゼロにできる計算になります。


ただし、青色申告特別控除の65万円控除には条件があります。正規の簿記(複式簿記)で記帳し、確定申告書に貸借対照表損益計算書を添付し、かつ「e-Tax(電子申告)または電子帳簿保存」で提出することが必要です。これらを満たさない場合、特別控除額は65万円ではなく10万円に下がります。


青色申告への切り替えを検討する場合は、事前に管轄税務署へ「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。提出期限は、新規開業の場合は業務開始日から2カ月以内、それ以外は適用を受けたい年の3月15日までです。この期限は必須です。


e-Taxを使った申告手続きには「マイナンバーカード+スマートフォン」または「ICカードリーダー」があれば無料で始められます。確定申告書等作成コーナー(国税庁のウェブサービス)から画面の案内に従って入力するだけで手続きが完了します。「e-Tax 確定申告 作成コーナー」で検索して、自分の環境に合った方法をひとつ選んで準備しておくと便利です。


参考:家内労働者等の特例と青色申告の併用について(inastella税務会計)
https://inastella-tax.com/column/tax-accounting/kanai-aoiro-heiyou/


家内労働者等の必要経費の特例の確定申告の手続き・書き方・注意すべき申告ミス

制度を知っていても、申告手続きを正しく行わなければ特例は適用されません。ここでは実務的な手続きと、よくある申告ミスを整理します。


まず、特例を受けるために必要な書類は「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」です。この計算書は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。給与収入との按分計算が必要な場合は、この計算書を使って正確な特例経費額を算出してから申告書に転記します。


手続きの流れを整理すると以下のとおりです。


  • ① 計算書をダウンロード・記入して特例経費の額を確定させる
  • ② 事業所得の場合:青色申告決算書または収支内訳書の「任意科目」に「家内労働者等の特例」と入力し、特例適用後の金額を記入する
  • ③ 雑所得の場合:雑所得(業務・その他)の必要経費欄に特例後の額を記入し、支払者の氏名・名称欄の末尾に「(措法27)」と追記する
  • ④ 計算書を申告書に添付して提出(e-Taxの場合はデータ添付)


過去に特例を使わずに申告してしまった場合も安心してください。法定申告期限から5年以内であれば「更正の請求」によって申告内容を修正し、過払いした税金を取り戻すことができます。当初申告要件がないためです。これは使えそうです。


よくある申告ミスとしては以下が挙げられます。


  • ❌ 給与収入65万円以上なのに特例を適用してしまう(否認される)
  • ❌ 収入金額を超えた金額を特例経費として計上してしまう(収入額が上限)
  • ❌ 事業所得と雑所得で別々に65万円を計上してしまう(合計で65万円が上限)
  • ❌ 計算書を添付せずに申告する(手続き不備で特例が認められないことがある)


申告に不安がある場合は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用するか、税務署の申告相談窓口(確定申告期間中に開設)を活用するのがおすすめです。窓口での相談は無料で受けられます。確認する行動をひとつ取るだけで大きなミスを防げます。


参考:確定申告書等作成コーナーでの入力方法(国税庁)
https://www.keisan.nta.go.jp/r3yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/kanairodosha/kanairodoshatsuzuki.html